PERは低い方がいい?高い方がいい?|日本株51年の実績と丸紅・エムスリーで見る見分け方

PERは「同じ利益をいくらで買うか」を表す倍率なので、ほかの条件が同じなら低い方が有利です。実際、日本株を益回り(PERの逆数)で並べ、上位30%(PERが低い群)と下位30%(PERが高い群)に分けると、1975〜2025年の年率リターンは低PER群10.7%、高PER群2.9%でした(Kenneth R. French Data Library、円建て・配当込み)。
ただし、これは1群あたり数十〜1,000社ほどをまとめて持った平均の話です。1銘柄ずつ見ると、PERが低い・高い「理由」しだいで結果が逆になることもあります。PERが高いこと自体が買い手に有利に働くことはなく、高PER株は利益の伸びがPERの縮小を上回ったときだけ報われます。逆にPERが低くても、利益が減っていけば株価は上がりません。
この記事では、51年分のデータと実在企業の7年間で「低い方がいいのか・高い方がいいのか」に答え、PERの高低の理由を見分ける4つの手順を解説します。PERの計算式や基本はPER(株価収益率)とはで解説しています。
この記事の内容(目次)
結論:平均では「低い方」、個別では「理由しだい」
株価はEPS(1株当たり利益)とPERの掛け算です。PER=株価÷EPSなので、式を入れ替えると次のようになります。

PER(株価収益率)とは|計算式・15倍の目安と東証プライム業種別データで読む割安判断
PER(Price Earnings Ratio・株価収益率)の計算式・15倍の目安・業種別の水準差を解説。JPXの東証プライムPER・PBR推移データと業種別比較チャートで、割安・割高の判断方法がわかります。
したがって、買ってから売るまでの株価の伸びは「利益の伸び」と「PERの変化」の掛け算で決まります。PERが低い株が有利なのは、利益が減らない限り、低いPERが市場並みに戻る余地があり、利益の伸びとPERの上昇の両方が株価を押し上げるからです。
丸紅は2019年9月末に実績PER5.5倍でした。その後7年でEPSが2.5倍になり、PERも14.6倍まで上がったため、株価は6.7倍になりました。同じ時点でPER86.1倍だったエムスリーは、EPSが2.4倍に伸びたのにPERが24.6倍まで縮み、株価は0.68倍に下がっています。
「PERは高い方がいい」は成り立つ?
買う側にとって、PERが高いこと自体が有利に働くことはありません。高いPERは、将来の利益成長がすでに株価に織り込まれている状態です。期待どおりに利益が伸びても、期待が薄れてPERが縮めば、エムスリーのように株価は上がりません。
高PER株が報われるのは、利益の伸びがPERの縮小を上回ったときだけです。「PERが高い=人気がある=いい株」ではなく、「高い期待に応え続けられるか」を見る必要があります。高PER株を持つと値動きや下落局面でどうなるかはPERが高いとどうなる?で解説しています。
データで見る:低PER群と高PER群、報われたのはどちらか
「平均的に見て低PERは報われるのか」は、多くの銘柄を長い期間並べると確かめられます。米ダートマス大学のケネス・R・フレンチ教授が公開しているKenneth R. French Data Libraryには、日本株を毎年12月末に益回り(EPS÷株価)で並べ、上位30%と下位30%に分けた翌年のリターンが1975年から載っています。益回りが高いほどPERは低いので、上位30%が「低PER群」、下位30%が「高PER群」です。
1975〜2025年の年率:低PER群10.7%、高PER群2.9%(市場全体7.0%)
低PER群が上回った年:51年中37年
高PER群が上回った5年間:2016〜2020年(高PER群 年11.2%、低PER群 年3.3%)
低PER群と高PER群の年率リターン(日本株、5年ごと)
51年で見れば、低PER群が大きく勝っています。10個の5年間のうち9つで低PER群が上回りました。ただし2016〜2020年のように、成長株が買われる局面では高PER群が上回る時期もあります(この5年間は5年中4年で高PER群が上回りました)。直近の2021〜2025年は、逆に低PER群が年25.6%と大きく勝ちました。
実例:PERの高低と7年後の株価
個別銘柄では、何が結果を分けたのでしょうか。2019年9月末に実績PERが低かった会社と高かった会社の、その後7年の株価を並べました(2026年9月28日終値時点)。
PERがほぼ変わらなければ、株価は利益とほぼ同じだけ動く(トヨタ:EPS2.3倍に対し株価2.1倍)
低PER株は、利益が伸びてPERも見直されると大きく上がる(丸紅:株価6.7倍)。ただし途中の2020年3月期は、石油・ガス開発や穀物事業の減損で1,975億円の最終赤字でした(丸紅 2020年3月期決算短信)。翌期には2,253億円の黒字に戻っており、一時の損失のあとで利益が戻るかが分かれ目です
高PER株は、利益が大きく伸びてもPERが縮みやすい。中外製薬はEPSが4.7倍になり、PERが半分になっても株価は2.3倍。エムスリーはEPSが2.4倍でもPERが3分の1以下になり、株価は3割安
この7年の後半(2021〜2025年)は、前章のデータでも低PER株への追い風が強かった時期で、2016〜2020年は反対に高PER群が上回っていました。どちらの時期でも変わらないのは、株価の伸び=利益の伸び×PERの変化という関係です。個別株では、この2つがこの先どう動くかを見きわめることになります。
PERが低い4つの理由と見分けるサイン
PERが低いときは、まず「市場がなぜ安い値段しかつけていないのか」を考えます。理由は大きく4つあり、「割安」と言えるのは1つ目だけです。図の右側(PERが高い理由)は次章で扱います。
1. 割安で放置されている
利益が安定または増えているのに、業種平均や自社の過去より低いPERにとどまっている状態です。増配・自社株買い・業績の上方修正などをきっかけに評価が見直されると、丸紅のように「利益の伸び×PERの上昇」の両方が効きます。
2. 成長しない・縮んでいる(バリュートラップ)
売上や利益が何年も横ばい、または減っている会社は、PERが低いまま放置されがちです。PERが低い状態が何年も続き、見直すきっかけも見当たらないなら、「安いのには理由がある」と考えます。割安に見えて株価が上がらないこの状態を「バリュートラップ」と呼びます。
売上高・営業利益の5〜10年の推移と、ROE(株主のお金でどれだけ効率よく利益を出しているか)を確かめると見分けやすくなります。PBRも低い株での見分け方はPERとPBRはどちらが重要?で扱っています。
3. 減益が見込まれている
直近の決算の利益で計算する実績PERが低くても、会社が今期の減益を予想していれば、予想PERは高くなります。実績PERと予想PERを並べて、予想PERの方が大きく高ければ「見かけだけ低い」と判断します。
4. 利益がピーク・一時的に膨らんでいる
海運・鉄鋼など市況で利益が大きく動く業種は、好況の年に利益が膨らみ、PERが極端に下がります。資産の売却益などの特別利益で純利益が一時的に増えた年も同じです。「過去最高益」や「特別利益」の年の低PERは、利益がふだんの水準に戻ったときのPERで見直す必要があります。
海運大手の実績PERが1倍台まで下がった例や、有価証券の売却益で実績PERが下がった例は、PERが当てにならない場面で数字つきで紹介しています。

PERが当てにならない7つの場面|三菱倉庫10倍→本業36倍・日本郵船1.5倍の実例と補い方
PERが当てにならないのは、分母の利益がふだんの稼ぐ力とずれる時です。売却益で実績PERが10.0倍、会社予想では22.9倍になる三菱倉庫、利益の山でPER1.5倍だった日本郵船など実例で、PERが外れる7つの場面と補い方を解説します。
PERが高い理由と見分けるサイン
PERが高いのは、市場が「今の利益」より「この先の利益」に値段をつけているからです。理由は主に2つで、これに利益の安定性への上乗せが加わります。
1. 成長が期待されている
利益が毎年2桁のペースで伸びると見込まれる会社には、今の利益に対して高い値段がつきます。高PERが正当化されるかは、その成長が何年続くかで決まります。
実例の表で中外製薬(EPS4.7倍)とエムスリー(同2.4倍)の明暗を分けたのは、利益の伸びが続いたかどうかです。成長率とPERを1つの数字で比べるのがPEGレシオ(PER÷EPS成長率)で、後述の判断手順で使います。
2. 利益が一時的に落ち込んでいる
利益が一時的に減った年は、分母が小さくなって実績PERが跳ね上がります。この場合の高PERは割高ではなく、「利益の谷」を映しています。
例えば三菱商事は、豪州原料炭の市況下落やローソン関連の減損などで、2021年3月期の純利益が前期比68%減の1,725億円になりました(三菱商事 2021年3月期決算短信)。2021年9月末の株価3,536円(2024年1月の株式分割前)で計算すると実績PERは30.3倍ですが、会社が当時見込んでいた2022年3月期のEPS 257.43円(2022年3月期 第1四半期決算短信)で計算した予想PERは13.7倍でした。実際の2022年3月期の純利益は9,375億円と、この予想を大きく上回っています。
PERが100倍・1,000倍と極端に高くなる理由は、PERが異常に高い理由で詳しく扱っています。

PERが異常に高い理由|100倍超85社の8割は利益の急減・黒字化直後で分母が小さい
PERが100倍・1,000倍と異常に高くなる理由を、PER100倍超の85社(2026年9月28日時点)の決算から分類。8割は利益の急減や黒字化直後で、分母の利益が一時的に小さいことが主因でした。日本製鉄(実績208倍→予想12倍)などの実例と、見分ける4つのチェックを解説。
判断手順:PERの高低を「理由」から確かめる4ステップ
PERが低い・高いと気づいたら、次の4つの順に確かめると、その理由をおおむね特定できます。
ステップ1:実績PERと予想PERを並べる
実績PERは直近の決算の利益、予想PERは会社や証券会社が見込む今期の利益で計算します。両者が大きく違えば、利益が大きく動いている途中です。三菱商事のように実績PERが高く予想PERが低ければ利益の回復局面、逆なら減益局面と読みます。会社予想のEPSは決算短信の1ページ目の業績予想欄に載っています。なお、KabuGraphの銘柄ページに表示しているPERは実績PERです。
ステップ2:業種平均と比べる
PERの水準は業種で大きく違います。東証プライム市場の業種別PER(2026年8月末、単純平均)は、サービス業21.2倍、医薬品19.3倍、卸売業15.1倍、輸送用機器15.1倍、市場全体19.3倍です(日本取引所グループ「規模別・業種別PER・PBR」)。先ほどの4社を当てはめると次のとおりです(実績PERは2026年9月28日終値時点)。
丸紅 14.6倍:卸売業15.1倍とほぼ同じ(3%低い)
トヨタ自動車 10.1倍:輸送用機器15.1倍より33%低い
中外製薬 24.1倍:医薬品19.3倍より25%高い
エムスリー 24.6倍:サービス業21.2倍より16%高い
業種平均から大きく離れているときほど、成長率・利益の安定性・一時的な損益のどれが理由かを確かめます。33業種の最新値と推移は業種別PER・PBRのページ、業種平均との比べ方はPERの目安にまとめています。

PERの目安|16倍は割高?業種平均9〜30倍のデータで読む適正ライン
PER16倍は高いのか低いのか。日経平均・東証プライムの予想PER(約16〜17倍)と、JPX公表の業種別PER(2026年8月末、空運業9.2倍〜電気機器29.8倍)を使い、業種ごとの適正水準と割安・割高の判断基準を解説します。
ステップ3:その会社の過去のPERと比べる
同じ会社の過去3〜5年のPERの範囲と比べると、「この会社としては」高いか低いかがわかります。ただし、成長率が変わった会社では、過去の範囲は当てになりません。
エムスリーの実績PERは、2020年9月末の203.8倍から2024年9月末には21.6倍まで下がりました(各年9月末、KabuGraph算出)。過去と比べれば大幅に「割安」ですが、EPSは2022年3月期の94.06円をピークに減り、2025年3月期は59.62円でした(2026年3月期は72.53円。エムスリー 2026年3月期決算短信)。PERの低下は、成長への期待が小さくなったことを映していたわけです。
その後、株価は2024年9月末の1,438円から2026年9月28日の1,781円まで24%上がりましたが、PERは24.6倍で、200倍台には程遠い水準です。過去の範囲に戻るかではなく、今の成長率に見合うPERかで判断します。
ステップ4:利益の伸びで割り引く(PEG)
高いPERが成長で正当化されるかは、PERをEPSの年間成長率(%)で割ったPEGレシオで比べます。1倍以下なら成長に対して割安とされます。
PER30倍・EPSが年20%成長 → PEG 1.5倍
PER12倍・EPSが年3%成長 → PEG 4.0倍
PERだけなら12倍の方が「安い」のに、成長を加味すると30倍の方が割安とも読めます。ただし成長率は予想なので、その成長が何年続くか、予想が現実的かを確かめることが前提です。計算の手順はPEGレシオの計算方法で解説しています。

PEGレシオとは|PERの弱点を補う「成長率調整」の投資指標
PEGレシオ(Price Earnings Growth Ratio)の計算式・目安・活用法を初心者向けに解説。PERだけでは見えない成長株の割安性を測る方法がわかります。
よくある質問
PERは何倍なら「低い」「高い」?15倍より低ければいい?
業種で大きく違うので一律の線はありませんが、上場企業全体の実績PERの分布は次のとおりです(2026年9月28日終値時点、赤字などでPERを算出できない銘柄を除く、KabuGraph集計)。
プライム:中央値16.0倍(半数が12.2〜22.2倍に収まる)
スタンダード:中央値12.8倍(同9.1〜20.2倍)
グロース:中央値19.2倍(同12.2〜33.1倍)
「15倍」という線は、プライム市場の中央値16.0倍に近い水準です。ただし業種平均は空運業9.2倍から電気機器29.8倍まで開いているので(2026年8月末、単純平均、JPX)、15倍を下回るだけでは割安とは言えません。業種ごとの目安はPERの目安にまとめています。
プライム市場なら、12.2倍を下回れば全体の下位4分の1、22.2倍を上回れば上位4分の1に入ります。そのうえで業種平均・自社の過去と比べてください。市場全体の水準を金利と比べて見る方法は益回りで解説しています。
なお、ステップ2で使ったJPXの業種別PER(単純平均)は株価の合計を1株当たり利益の合計で割った値で、銘柄を並べた真ん中の値(中央値)とは計算が違います。プライム全体では19.3倍(2026年8月末)で、中央値の16.0倍より高く出ています。
PERが低いのに株価が上がらないのはなぜ?
多くは「成長しない」か「減益が見込まれている」のどちらかです。低いPERは、利益が伸びるか、評価が変わるきっかけが来ない限り続きます。売上・利益の推移と予想PERを確かめてください。
PERが高い株は買ってはいけない?
いけないわけではありません。中外製薬のように、利益が大きく伸びれば高PERから出発しても株価は上がります。ただし期待が崩れたときの下落は大きく、配当利回りも低くなりがちです。詳しくはPERが高いとどうなる?で解説しています。
PERがマイナス・「—」と表示されるのは?
赤字でEPSがマイナスの会社は、PERを計算しても意味を持たないため、KabuGraphの銘柄ページではPERを「—」とし、「赤字」と添えています。赤字企業の見方はPERがマイナスのときで解説しています。
まとめ:PERは「低いか高いか」より「なぜその水準か」
ほかの条件が同じなら、PERは低い方が有利。日本株51年(1975〜2025年)では低PER群が年10.7%、高PER群が年2.9%
ただし個別株では理由しだい。株価の伸び=利益の伸び×PERの変化
低い理由:割安で放置/成長しない/減益の見込み/ピーク・一時的な利益。「割安」と言えるのは1つ目だけ
高い理由:成長への期待/一時的な利益減(+利益の安定性への上乗せ)。高PERは利益の伸びがPERの縮小を上回るときだけ報われる
判断は4ステップ:実績と予想を並べる→業種平均→自社の過去→PEG










