PEGレシオの計算式|成長率の選び方と日本株での実践ステップ

PEGレシオの計算式は「PER ÷ EPS成長率(%)」です。式自体はシンプルですが、分母の「成長率」に何を使うかで結果が大きく変わります。予想EPS成長率なのか、過去実績のCAGR(年平均成長率)なのか、経常利益ベースなのか——計算式の裏にあるこの選択が、PEGレシオを使いこなすうえで最も重要なポイントです。
この記事では、PEGレシオの計算式を数式で確認したうえで、成長率の取り方による違い、日本株を例にした具体的な計算ステップ、そして計算できない(してはいけない)ケースまでを解説します。
この記事の内容(目次)
PEGレシオの計算式
PEGレシオ(Price Earnings Growth Ratio)の計算式は以下のとおりです。
ここで注意すべきは、分母の成長率は「%」の数値をそのまま入れるということです。成長率20%なら分母は「20」であり、0.2ではありません。PERが25倍・EPS成長率が20%の企業であれば:
PEGレシオが1倍を下回ると「成長力に対して株価が割安」、2倍を上回ると「割高」と判断するのが一般的な目安です(大和証券「PEGレシオ」)。この「1倍」基準は、著名投資家ピーター・リンチが著書『One Up on Wall Street』(邦題『ピーター・リンチの株で勝つ』)で「適正な株価の企業のPERは、その利益成長率に等しい」と述べたことに由来します。リンチは同書で「PERが成長率の半分なら非常に良く、2倍なら非常に悪い」とも書いています(英語原文の引用はCFA Institute「Is It Overvalued? Look at the PEG Ratio」)。
PEGレシオの構成要素を分解する
PEGレシオは、PERとEPS成長率という2つの要素で成り立っています。それぞれの意味を整理します。
構成要素 | 意味 | 求め方 |
|---|---|---|
PER(株価収益率) | 株価が1株当たり利益(EPS)の何倍かを示す | 株価 ÷ EPS |
EPS成長率 | 1株当たり利益が前期比で何%伸びたか(または伸びる見込みか) | (今期EPS − 前期EPS)÷ 前期EPS × 100 |
PERの詳しい解説は以下の記事で確認できます。

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成長率に何を使うかで値が変わる
PEGレシオの計算式で最も議論が分かれるのが、分母の「成長率」に何を使うかです。成長率の取り方には主に3つの選択肢があり、同じ企業でもどれを使うかでPEGレシオの値は大きく変わります。
① 今期予想EPS成長率(前期比)
最もよく使われる方法です。大和証券の用語集も「一般的に予想EPSなどが用いられる」としています。会社が開示している今期の予想EPSと、前期の実績EPSとの変化率を成長率として使います。
② 過去実績のCAGR(年平均成長率)
過去3〜5年のEPSの年平均成長率(CAGR: Compound Annual Growth Rate)を使う方法です。予想ではなく実績ベースなので客観性が高い反面、過去の成長が将来も続く保証はない点に注意が必要です。
たとえば3年前のEPSが100円、直近期が150円であれば:
単純に「50%増 ÷ 3年 = 年16.7%」と計算すると過大評価になります。複利の効果を考慮するCAGRが正確です。
③ 営業利益・経常利益の成長率
ファイナンシャルアカデミーの株式投資スクール講師は、分母にEPS成長率ではなく経常利益の成長率(四季報の今期・来期予想経常利益の伸び率の平均)を推奨しています。理由は「経常利益が企業の利益の実態に最も近い」ため。純利益は特別損益で振れやすく、営業利益には本業以外の損益が反映されないからです(ファイナンシャルアカデミー「PEGレシオの『成長率』はなんの数字?」)。
ただしPERの分母(EPS)は純利益ベースなので、成長率だけ経常利益を使うと計算の整合性にやや疑問が残ります。また、ソニーグループやトヨタ自動車などIFRS(国際会計基準)適用企業には「経常利益」の区分がなく、比較対象から外れます。
一方、マネックス証券チーフ・マーケット・アナリストの吉野貴晶氏は、成長率に「来期予想の営業利益増益率」を用い、「遠い将来までの成長を示す指標が良いので、来期予想の増益率が妥当」としています(マネクリ「野村不動産、第一三共ほか13銘柄 PEGレシオで選ぶ『成長調整』の視点」2025年11月12日)。このように利益ベースの選択は実務者によって異なり、どれが正解とも言い切れません。統一的に比較するなら、PERと同じ純利益ベースのEPS成長率が無難です。
3つの方法の比較
方法 | メリット | デメリット | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
今期予想EPS成長率 | 将来の成長を反映。最もポピュラー | 予想が外れる可能性。楽観的な会社予想に注意 | 安定成長企業のスクリーニング |
過去CAGR(3〜5年) | 客観的で検証可能 | 過去の延長が続く保証はない。コロナ期を含むと歪む | 長期安定成長株の評価 |
経常利益成長率 | 特別損益の影響を除ける | PERと利益ベースが不一致。IFRS企業に経常利益はない | 特殊要因が多い企業の補完分析 |
日本株で計算してみる——3ステップ
ここでは、予想EPS成長率を使ったPEGレシオの計算を、架空の企業Xで具体的にステップを追って解説します。
ステップ1:PERを確認する
まず、対象銘柄のPER(株価収益率)を確認します。PERは証券会社のサイトやKabuGraphの銘柄ページで確認できます。
たとえば株価が3,000円、前期の実績EPSが120円であれば:
ステップ2:EPS成長率を計算する
次に、EPS成長率を求めます。会社の今期予想EPSが150円、前期実績EPSが120円なら:
ステップ3:PEGレシオを算出する
PEGレシオは1.0倍。ピーター・リンチの基準では「成長力に対してちょうど適正な株価水準」と判断されます。
成長率の取り方で結果はこう変わる
同じ企業Xについて、成長率の取り方を変えるとPEGレシオがどう変わるかを見てみましょう。
成長率の取り方 | 成長率 | PER | PEGレシオ | 判定 |
|---|---|---|---|---|
今期予想EPS成長率 | 25.0% | 25.0倍 | 1.0 | 適正 |
過去3年CAGR | 18.2% | 25.0倍 | 1.37 | やや割高 |
経常利益成長率(前期比) | 30.5% | 25.0倍 | 0.82 | 割安 |
このように、同じ企業・同じ株価でも、成長率の定義が違えばPEGレシオは1.0にも1.37にも0.82にもなります。複数の銘柄を比較する際は、全銘柄で同じ定義の成長率を使うことが不可欠です。
PEGレシオの判断基準と業種別の目安
PEGレシオの基本的な判断基準は以下のとおりです。
PEGレシオ | 判定 | 解釈 |
|---|---|---|
1倍未満 | 割安 | 成長率に対してPERが低い。リンチは「成長率の半分(0.5倍)なら非常に良い」 |
1倍 | 適正 | PERと利益成長率が釣り合っている(リンチの「フェアバリュー」) |
1〜2倍 | やや割高 | 成長期待がすでに株価に織り込まれている |
2倍超 | 割高 | 将来の成長に対して株価が先走っている可能性。リンチは「成長率の2倍なら非常に悪い」 |
業種によって水準が異なる
PEGレシオの水準は業種によって大きく異なり、同じ業種でも年ごとに動きます。ザイマニの集計では、全業種のPEGレシオ中央値は約0.6倍(2025年掲載値)で、大半の銘柄が「1倍未満」に収まります(ザイマニ「PEGレシオの計算式・業種別の目安」)。
業種 | 2025 | 2024 | 2023 |
|---|---|---|---|
全業種 | 0.6 | 0.7 | 0.8 |
情報・通信業 | 0.8 | 1.1 | 1.2 |
サービス業 | 0.8 | 0.8 | 1.1 |
医薬品 | 0.5 | 0.7 | 0.8 |
建設業 | 0.3 | 0.4 | 0.4 |
輸送用機器 | 0.3 | 0.3 | 0.3 |
電気・ガス業 | 0.2 | 0.3 | 0.3 |
成長率が高そうなIT・サービス業ほどPEGが低い、という単純な関係にはなっていません。輸送用機器・建設業・電気・ガス業は0.2〜0.3倍と低く、情報・通信業・サービス業は0.8倍と全業種より高めです。
一因はPERの水準差です(KabuGraph算出のPER中央値は輸送用機器11.0倍・建設業11.6倍・電気・ガス業10.2倍に対し、情報・通信業17.0倍。上場3,711社、直近通期の決算短信、2026年9月11日時点)。加えて、情報・通信業が3年で1.2倍→0.8倍、医薬品が0.8倍→0.5倍と動いているように、業種の中央値は「その年の利益変動」の影響を強く受けます。
PEGレシオで銘柄を比較する際は、同業種内で比べることが重要です。建設業(中央値0.3倍)のPEG 0.5と医薬品(中央値0.5倍)のPEG 0.5では、意味合いがまったく異なります。
PEGレシオを計算できないケース
PEGレシオは万能ではありません。以下のケースでは計算結果が無意味になる、または計算自体ができないため、使用を避けるべきです。
赤字企業(PERがマイナスまたは算出不能)
EPSがマイナスの企業はPER自体が算出できないため、PEGレシオも計算できません。赤字のスタートアップやバイオ企業の評価には、PEGレシオではなくPSR(株価売上高倍率)など別の指標を使います。
減益企業(成長率がマイナス)
EPS成長率がマイナスの場合、PEGレシオもマイナスになります。マイナスのPEGレシオには「割安」「割高」の判断基準がないため、数値としての意味を持ちません。たとえばPER 15倍で成長率が−10%ならPEGレシオは−1.5ですが、この「−1.5」から投資判断はできません。
成長率がゼロに近い企業
EPS成長率が1%や2%のような非常に低い値の場合、PEGレシオは異常に大きくなります。PER 15倍で成長率1%ならPEGレシオは15倍。これを「割高」と判断するのは的外れで、そもそもPEGレシオが想定している「成長株の割安度を測る」という用途から外れています。成長率が低い成熟企業の評価にはPERやPBR、配当利回りが適しています。
一時的な利益変動がある企業
大型の特別利益(資産売却益など)や特別損失があった年を基準にすると、EPS成長率が実態を反映しなくなります。たとえば前期に大きな特別損失があってEPSが一時的に低かった企業は、今期の成長率が見かけ上100%超になり、PEGレシオが極端に低く出ます。このような場合は過去3〜5年のCAGRを使うことで、一時要因を平準化できます。
まとめ——PEGレシオ計算のチェックリスト
PEGレシオの計算を実践する際のポイントを整理します。
計算式は「PER ÷ EPS成長率(%)」。分母は%の数値をそのまま入れる(20%なら20)
成長率の定義を統一する。予想EPS成長率が最もポピュラー。過去CAGRも客観性が高い。複数銘柄の比較時は全銘柄で同じ定義を使う
1倍未満で割安、2倍超で割高が基本だが、業種によって水準が異なる(全業種の中央値は約0.6倍)。同業種内で比べるのが原則
赤字・減益・低成長企業には使わない。PEGレシオは成長株の割安度を測る指標であり、成熟企業の評価にはPERやPBRを使う
一時的な利益変動に注意。特別損益で歪んだ年を基準にすると見かけ上の成長率が実態から乖離する。その場合は3〜5年のCAGRを使う
PEGレシオの基本的な考え方やPERとの違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。

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