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PERが当てにならない7つの場面|三菱倉庫10倍→本業36倍・日本郵船1.5倍の実例と補い方

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PERが当てにならないのは、PERの分母である1株利益(EPS)が、その会社のふだんの稼ぐ力とずれている時です。持ち合い株の売却益で純利益が膨らんだ年、景気の山で利益が一時的に大きい年、会社予想が大きく修正された年には、同じ株価でもPERが2倍、3倍と違う数字になります。

もう一つは、利益の伸び、現金や借金、保有資産、業種の違いといったPERの式に入っていないものが株価を左右している時です。PERそのものが壊れているわけではありません。「どの利益で割ったPERか」と「PERに映らないものは何か」を確かめれば、PERは今でも使える物差しです。

この記事では、三菱倉庫・日本郵船・トヨタ自動車・アドバンテスト・TBSホールディングスの決算短信などの数字で、PERが外れる7つの場面と補い方を示します。株価指標は2026年9月28日終値時点です。PERの計算式や目安はPER(株価収益率)とはで解説しています。

PERが外れるのは「分母の利益」がずれる時

PERは株価を1株利益(EPS)で割った数字です。PER10倍は「今の利益が続けば、10年分の利益で株価と同じ額になる」という意味で、この読み方は分母の利益が来年以降も続くことを前提にしています。

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PERが当てにならない場面は、次の2つの型に分かれます。

  • 分母の利益がずれる(場面1〜4):売却益・特別損失、景気の山と谷、会社予想の修正、赤字や利益がごくわずかな年。利益が「ふだんの実力」を表していないので、PERの数字そのものが実態から離れます

  • PERの式に入っていない(場面5〜7):利益の伸び、現金・借金・保有資産、業種や利益の基準の違い。PERの数字は正しくても、それだけでは割安か割高かを決められません

KabuGraph作成

場面1:売却益・特別損失で純利益が一時的に動く

純利益には、本業と関係のない一度きりの損益が入ります。土地や株式を売った利益(特別利益)が大きい年は純利益が膨らんでPERが低く見え、工場の減損などの特別損失が大きい年は純利益が縮んでPERが高く見えます。

実例:三菱倉庫は実績PER10.0倍、会社予想では22.9倍

三菱倉庫の2026年3月期は、経常利益215.6億円に対して純利益(親会社株主に帰属する当期純利益)が547.7億円と、経常利益の2.5倍になりました。特別利益に投資有価証券売却益672.8億円が入ったためです(三菱倉庫 2026年3月期 決算短信)。

この純利益で計算した実績PERは10.0倍(EPS 155.84円)で、東証プライム全体の19.3倍(単純平均、2026年8月末)の半分ほどに見えます。しかし会社自身は2027年3月期の純利益を、政策保有株式の縮減に伴う売却益の減少を見込んで230億円(前期比58.0%減)と予想しています。この予想EPS 67.91円で割ると22.9倍です。

出典:三菱倉庫 2026年3月期決算短信・東証株価よりKabuGraph算出(2026年9月28日終値時点)。試算EPSは経常利益に(1−30%)をかけ、実績EPSと同じ株数で割ったもの

経常利益から税金分(法人実効税率はおよそ30%)を引いた利益で試算し直すと、PERは約36倍になります。売却益を除いた本業の利益で見れば、三菱倉庫の株価は低PERの水準ではありません。

プライム市場では86社で純利益が経常利益を上回る

政策保有株式(取引先などとの持ち合い株)の売却益で純利益が膨らむのは、三菱倉庫だけではありません(TBSホールディングスの例は場面6)。東証プライムで日本基準の決算を出し、直近の通期で経常利益・純利益とも黒字の1,235社のうち、86社(約7%)は純利益が経常利益を上回っています(2026年9月28日時点、KabuGraph調べ)。

ふだんの純利益は経常利益から税金(約3割)を引いた水準です。純利益が経常利益を上回っていたら、特別利益が大きく乗っているか、税金費用が一時的に小さい(繰延税金資産の計上など)サインと読めます。決算短信の損益計算書で特別利益と法人税等の内訳を確かめてから、PERを使います。

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場面2:景気敏感株は利益の山でPERが最も低くなる

海運・鉄鋼・化学のように景気や市況で利益が大きく振れる業種(景気敏感株)では、利益が過去最高の年にPERが最も低く、利益が落ち込んだ年にPERが高く出ます。株価は先の利益の減少を見込んで上がりにくいのに、分母には過去最高の利益が入るためです。

実例:日本郵船の実績PERは1.5倍から10.6倍へ

日本郵船の純利益は、2022年3月期・2023年3月期の2年続けて1兆円を超えました。前の期(2021年3月期)の1,392億円から7倍以上に増えた利益で割るので、2023年5月末の実績PERは1.5倍まで下がっています。

日本郵船の純利益と実績PER(各期の本決算発表後、5月末)

出典:日本郵船 各期決算短信・東証株価よりKabuGraph算出。実績PERは各期の決算発表後の5月末終値÷その期のEPS。株価とEPSは同じ株数基準どうし(2022年10月1日に1株→3株の株式分割)

PER1.5倍は東証プライム全体の10分の1以下の水準ですが、分母の利益は続きませんでした。2024年3月期の純利益は2,286億円と77.4%減り(日本郵船 2024年3月期 決算短信)、2024年5月末の実績PERは10.6倍に戻っています。この1年で株価は2,972.5円から4,985円へ68%上がったのに、PERは7倍になりました。

株価が上がってもPERが跳ね上がったのは、分母の利益が4分の1以下になったからです。景気敏感株のPERは、株価の割安度よりも、利益が景気の循環のどこにあるかを映します。

PERが低い理由には、景気の山のほかに、利益が伸びない・減益が見込まれるといった型もあります。低PERが割安なのかどうかの見分け方はPERは低い方がいい?高い方がいい?で解説しています。

場面3:会社予想は期中に何度も変わる

予想PERは、会社が決算短信で出す今期の業績予想(予想EPS)で割った数字です。会社予想は四半期ごとの決算で修正されることがあり、そのたびに予想PERも変わります。

実例:トヨタの予想EPSは期中に204円から274円まで動いた

トヨタ自動車は2026年3月期の予想を、第1四半期に米国の関税政策の通期の影響(営業利益で1兆4,000億円の減益)を織り込んで引き下げ、その後2回引き上げました(トヨタ自動車 2026年3月期 第1四半期決算要旨)。実績は最後の予想も上回っています(同 2026年3月期決算要旨)。

時点

発表

予想EPS
(円)

予想PER
(倍)

期初予想

2025年5月

237.57

12.6

第1四半期

2025年8月

204.09

14.6

第2四半期

2025年11月

224.81

13.3

第3四半期

2026年2月

273.91

10.9

実績

2026年5月

295.25

10.1

出典:トヨタ自動車 2025年3月期決算短信・2026年3月期の各四半期決算短信・2026年3月期決算短信よりKabuGraph算出。予想PERは株価を2026年9月28日終値の2,986.5円に固定して計算。最終行は実績EPSと実績PER

株価が同じでも、どの時点の予想で割るかで予想PERは10.9倍から14.6倍まで3割以上動き、実績EPSで割ると10.1倍です。予想PERで割安・割高を判断する時は、その予想がいつ出たもので、次の決算で動きそうかを確かめます。

実績PERと予想PERで2倍以上違うこともある

同じ日の株価でも、実績EPSと予想EPSのどちらで割るかで結果が大きく違う銘柄があります(2026年9月28日終値時点、予想は同日時点の最新の会社予想)。

  • 三菱倉庫:実績10.0倍 → 予想22.9倍(売却益の反動で減益予想)

  • アドバンテスト:実績65.5倍 → 予想37.0倍(2026年7月に予想EPSを641.61円から911.64円へ上方修正。業績予想の修正に関するお知らせ)

  • 日本郵船:実績14.5倍 → 予想12.3倍

  • トヨタ自動車:実績10.1倍 → 予想11.0倍

増益が見込まれる会社は予想PERが低く、減益が見込まれる会社は予想PERが高く出ます。PERを比べる時は実績どうし・予想どうしで揃えます。会社予想は会社ごとに控えめ・強気の癖があり、業績予想を出さない会社もあります。

場面4:赤字や利益がわずかだとPERはマイナスか桁外れになる

純利益が赤字ならPERはマイナスになり、倍率として意味を持ちません(KabuGraphの銘柄ページでは表示しません)。黒字でも利益がごくわずかなら、分母が小さすぎてPERは数百倍、数千倍になります。

2026年9月28日時点で、東証プライム・スタンダード・グロースの上場企業のうち、直近の通期が赤字(1株利益がマイナス)の会社は422社、PERが100倍を超える会社は85社あります(KabuGraph調べ)。

どちらも、その年の実績PERでは割安・割高を判断できません。利益が一時的に落ち込んだ会社は今期の会社予想で割った予想PERを、赤字が続く会社はPBRなど利益以外の物差しを見ます。赤字の会社の見方はPERがマイナスの時、100倍を超える理由の見分け方はPERが異常に高い理由で解説しています。

場面5:PERは利益の伸びを映さない

PERは今の利益に対する倍率で、来年以降に利益がどれだけ伸びるかは式に入っていません。利益が毎年大きく伸びる会社は、今のPERが高くても、数年後の利益で見れば割安だったということが起こります。

実例:アドバンテストのPER約80倍は、2年後の利益で約13倍

半導体の試験装置を手がけるアドバンテストは、2024年9月末の株価6,741円に対し、直前の通期(2024年3月期)のEPSが84.45円で、実績PERは約80倍でした(アドバンテスト 2024年3月期 決算短信)。

その後EPSは2025年3月期に218.67円、2026年3月期に515.15円と6.1倍に増えました(同 2026年3月期 決算短信)。2024年9月末の株価を2026年3月期のEPSで割ると約13倍です。株価は2026年9月28日に33,730円と、2024年9月末の5.0倍になっています。

ただし2024年3月期は純利益が前期比52.2%減った年で、約80倍には利益の谷の影響も入っています。逆に、成長を見込まれて高PERがついた会社の利益が伸びなければ、株価は期待ごと下がります。高いPERを正当化するのは、実際に実現する利益の伸びだけです。PERが高い銘柄で起こりやすいことはPERが高いとどうなるで解説しています。

成長率を加味してPERを比べる指標が、PERを利益成長率で割るPEGレシオです。

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場面6:PERは現金・借金・保有資産を映さない

PERは損益計算書の利益だけを使うので、貸借対照表にある現金や借金、有価証券や不動産の価値は入っていません。同じPER15倍でも、時価総額と同じくらいの現金を持つ会社と、同じくらいの借金を抱える会社では、株主にとっての価値が大きく違います。

実例:TBSホールディングスは実績PER17.4倍でもPBR0.80倍

TBSホールディングスの実績PERは17.4倍で、東証プライム全体の19.3倍(単純平均、2026年8月末)に近い水準です。しかしPBRは0.80倍で、時価総額9,292億円は2026年3月末の自己資本1兆1,277億円を下回っています(株価指標は2026年9月28日終値時点)。

TBSは政策保有株式の売却を進めており、2024〜2025年度の2年間で934億円分を売却し、売却計画を1,350億円に引き上げました(TBSホールディングス 2025年度決算説明資料)。しかも実績PERの分母の純利益522.3億円は経常利益373.7億円を上回っていて、場面1の売却益も入っています。会社が持つ資産の価値は、利益だけを見るPERには出てきません。

借金と現金を加味するには、時価総額に有利子負債を足して現金を引いたEV(企業価値)を使います。

  • 現金が借金より多い会社:EVが時価総額より小さくなり、PERで見るより割安なことがある

  • 借金が多い会社:EVが時価総額より大きくなり、PERで見るより割高なことがある

保有資産の厚みはPBR、借金を含めた事業の値段はEV/EBITDA(EBITDAとは)で見ます。

場面7:業種や「どの利益か」が違うPERは比べられない

PERの水準は業種によって大きく違います。東証プライムの業種別PER(単純平均、2026年8月末)は、電気機器29.8倍に対し空運業9.2倍です(日本取引所グループ「規模別・業種別PER・PBR」)。業種の違うPERを並べても、割安・割高は判断できません。

同じ業種の中でも、比べるPERの基準が揃っているかを確かめます。

  • 実績か予想か:場面3のとおり、同じ銘柄で2倍以上違うことがある

  • 単純平均か加重平均か:東証プライム全体は単純平均19.3倍・加重平均20.8倍(2026年8月末)。情報・通信業は単純平均19.3倍・加重平均12.5倍と大きく開く

  • 会計基準:日本基準はのれんを毎期償却し、IFRSは償却しないため、買収の多い会社では同じ稼ぐ力でもPERが違って出る

日経平均のような指数のPERにも、加重平均と指数ベースの2通りの計算があり、同じ日でも値が違います。2つの違いは日経平均PERの推移で解説しています。

業種ごとのPERの目安と、PERだけで判断できないケースは次の記事で、33業種の最新値と推移は業種別PER・PBRのページで確認できます。

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当てにならないPERを使える数字に直す5つの方法

PERが外れる場面が分かれば、補い方も決まります。

1. 特別損益を除いた利益で割り直す(場面1)

決算短信の損益計算書で特別利益・特別損失の内訳を見て、一度きりの損益を除いた利益でPERを計算し直します。簡易的には、日本基準の会社なら経常利益×0.7を純利益の代わりに使えます。IFRSの会社は経常利益の区分がないので、税引前利益で同じ計算をし、営業利益に入っている減損や売却益を短信の注記で確かめます。

2. 数年分の平均利益で割る(場面2)

景気敏感株は、1年の利益ではなく過去5〜10年の平均利益で割ると、利益の山と谷がならされます。市場全体でこれを行うのが、過去10年の平均利益(インフレ調整後)で割るシラーPER(CAPE)です。

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3. 利益の伸び率で割る(場面5)

PEGレシオ(PER÷EPS成長率)で、成長の速さを加味して比べます。成長率は会社予想や中期経営計画から置くので、見込みが外れればPEGも外れます。計算の手順はPEGレシオの計算方法で解説しています。

4. 現金と借金を足し引きする(場面6)

EV/EBITDA(EV÷EBITDA)で、借金の多さや手元資金の厚さが違う会社を同じ土俵で比べます。減価償却の大きい設備産業どうしの比較にも向きます。

5. PBR・ROEと並べる(場面4・6)

PBR(株価÷1株純資産)は資産から株価を見る指標、ROE(純利益÷自己資本)は自己資本でどれだけ利益を上げたかを見る指標で、PBR=PER×ROEの関係があります。赤字でPERが使えない会社や資産の多い会社では、PBRのほうが手がかりになります。どちらを重視するかはPERとPBRはどちらが重要かで解説しています。

まとめ:PERを信じる前の7つのチェック

KabuGraph作成
  • PERが当てにならないのは、分母の利益がふだんの実力とずれる時と、PERの式に入っていないものが株価を動かす時

  • 純利益が経常利益を上回っていたら売却益などの一時的な利益を疑う。三菱倉庫は実績10.0倍、会社予想22.9倍、経常利益からの試算で約36倍

  • 景気敏感株は利益の山でPERが最も低い。日本郵船は2023年5月末の1.5倍から、翌年は株価が上がったのに10.6倍へ

  • 予想PERは修正のたびに動く。トヨタの2026年3月期の予想EPSは期中に204円から274円まで動き、実績は295円

  • 成長・資産・負債・業種はPERの外にある。PEG、PBR、EV/EBITDA、同業平均で補う

PERは「どの利益で割ったか」を確かめてから使えば、今でも最も手軽な割安・割高の物差しです。KabuGraphの銘柄ページでは、実績PERと過去の決算を並べて確認できます(例:三菱倉庫・日本郵船)。

コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

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