PERがマイナスとは|赤字の上場企業422社とソニー・ホンダ・日産で見る読み方

PERがマイナスになるのは、最終損益が赤字で、EPS(1株当たり利益)がマイナスになったときです。マイナスのPERは「割安」を意味しません。「株価が利益の何年分か」という読み方が成り立たないため、有価証券報告書でもPERの欄は「−」とされ、KabuGraphの銘柄ページも「— 赤字」と表示します。
PERが出ない銘柄で見るべきは、数字そのものではなく次の3点です。
実績と予想のどちらが赤字か:今期の会社予想が黒字なら、予想PERで評価できる
赤字の中身:特別損失などの一時的な損失か、先行投資か、本業の不振か
PER以外の物差し:PSR・EV/EBITDA・PBR・手元資金
2026年9月28日時点で、プライム・スタンダード・グロースの上場企業3,680社のうち422社(11.5%)が直近の通期決算で最終赤字でした。ソニーグループ・本田技研工業・日産自動車・楽天グループといった大型株も含まれます。本記事ではこれらの実例を使って、PERがマイナスのときの読み方と評価のしかたを解説します。PERの計算式や目安の基本はPER(株価収益率)とはをご覧ください。
この記事の内容(目次)
PERがマイナスになる仕組み
PERは株価をEPSで割って求めます。EPSは最終的な利益(親会社株主に帰属する当期純利益)を株式数で割った値なので、最終損益が赤字ならEPSがマイナスになり、PERもマイナスになります。

PER(株価収益率)とは|計算式・15倍の目安と東証プライム業種別データで読む割安判断
PER(Price Earnings Ratio・株価収益率)の計算式・15倍の目安・業種別の水準差を解説。JPXの東証プライムPER・PBR推移データと業種別比較チャートで、割安・割高の判断方法がわかります。
たとえば株価1,000円、EPSが−50円の会社なら、PERは1,000÷(−50)=−20倍です。
ポイントは、PERを決めるのが最終利益だということです。本業の儲けを示す営業利益が黒字でも、特別損失や税金の負担で最終赤字になればPERはマイナスになります。EPSの中身はEPS(1株当たり利益)とはで解説しています。

EPS(1株あたり利益)とは|計算式と変動要因4パターン、PER・配当性向への読み替え方
EPS(Earnings Per Share・1株あたり利益)の計算式・変動要因(増益・自社株買い・増資・株式分割)を解説。PER・配当性向・PEGレシオなど他の投資指標との関係と、投資判断への活用法がわかります。
マイナスのPERは割安?
割安ではありません。PERは「株価が1年分の利益の何倍か」、言い換えると「今の利益が続けば何年で株価分を稼げるか」を示す指標で、低いほど割安と読みます。利益がマイナスだと「−20年で回収」となり、この読み方自体が成り立ちません。
そのため公式の書類でも、赤字の期はPERを載せません。本田技研工業の2026年3月期の有価証券報告書は、主要な経営指標の「株価収益率」の欄を「−」とし、「基本的1株当たり当期損失であるため記載していません」と注記しています(本田技研工業 第102期 有価証券報告書 p.2)。
KabuGraphの銘柄ページも同じ考え方で、PERの欄を「— 赤字」と表示し、説明に直近通期のEPSを出しています(例:本田技研工業の銘柄ページ)。
赤字の会社のPERは、証券会社のアプリやサイトによって「—」「N/A」「赤字」と出たり、「−20.0倍」のようにマイナスの数値で出たりします。表示は違っても意味は同じで、計算に使った最終利益(実績か予想か)が赤字だということです。ただ「—」「N/A」は決算の実績がまだ無いなど赤字以外の理由でも出るので、EPSがマイナスかどうかで確かめます。
マイナスの数値がそのまま表示される画面で、特に誤解しやすいのが次の点です。
−5倍と−50倍、赤字が大きいのはどっち?
マイナスのPERは、0に近いほど赤字が大きいという逆転が起きます。株価1,000円で比べると、EPSが−200円の会社はPER−5倍、EPSが−20円の会社はPER−50倍です。株価に対する赤字の大きさは前者が20%、後者が2%で、−5倍の会社の方が10倍大きな赤字を出しています。
このため、PERの小さい順に並べると大赤字の会社が黒字の低PER株と隣り合い、順番が意味をなしません。スクリーニングで「PER10倍以下」のように上限だけを決めると、マイナスのPERを持つ赤字企業が混ざることがあるので、下限(0倍超)も指定しておくと安全です。
逆に、黒字でも利益が0に近いと、PERは100倍・1,000倍と跳ね上がります。赤字から黒字に戻った直後の会社が極端な高PERに見えるのはこのためです(PERが異常に高くなる理由)。
実績PERと予想PER:どちらが赤字かで意味が変わる
PERには、直近の本決算で確定したEPSを使う実績PERと、会社が決算短信で示す今期の予想EPSを使う予想PERがあります。実績が赤字でも、今期の会社予想が黒字なら予想PERは計算できます。予想は決算短信1ページ目の「業績予想」の欄に載っています(決算短信の読み方)。なお、KabuGraphの銘柄ページのPERは実績PERです。
上場企業3,680社を、直近通期の実績と今期の会社予想(純利益)がそれぞれ黒字か赤字かで分けると、次のようになります(2026年9月28日時点)。
黒字に転換する予想(239社):実績PERは「−」でも、予想PERで評価できます。赤字企業422社の57%がここに入ります。ただし回復1年目は利益が薄く、予想PERは高めに出がちです
赤字が続く予想(90社):うち55社がグロース市場の会社です。予想PERも使えないので、売上や資産、手元資金で評価します
赤字に転落する予想(25社):実績PERは普通に出るので、低PERの割安株に見えることがあります。実績PERだけで銘柄を選ぶと、この落とし穴に気づけません
予想の数値が無い:楽天グループのように「黒字化を目指す」と文章で示すだけの会社や、予想を開示しない会社は、予想PERを計算できません
大型株の例で、実績と予想の違いを見てみます。
同じ「PERが赤字」の3社でも、ホンダは予想PER16.7倍と普通の水準に戻る見通しなのに対し、日産は黒字化しても利益が小さく予想PERは52.8倍です。楽天グループは数値の予想が無く、PERでは測れません。会社予想は業績の変化で修正されるので、予想PERを使うときは直近の修正の有無も確かめます。

PERが異常に高い理由|100倍超85社の8割は利益の急減・黒字化直後で分母が小さい
PERが100倍・1,000倍と異常に高くなる理由を、PER100倍超の85社(2026年9月28日時点)の決算から分類。8割は利益の急減や黒字化直後で、分母の利益が一時的に小さいことが主因でした。日本製鉄(実績208倍→予想12倍)などの実例と、見分ける4つのチェックを解説。
赤字の上場企業はどれくらいある?
直近通期で最終赤字の会社は、上場企業3,680社のうち422社(11.5%)です。市場別に見ると差が大きく、グロース市場では3割近くが赤字です(2026年9月28日時点)。
直近通期が最終赤字の会社の割合(市場別)
グロース市場が突出しているのは、上場の条件に利益の基準が無いからです。プライム市場には利益か、売上高と時価総額の基準がありますが(日本取引所グループ「上場審査基準概要(プライム市場)」)、グロース市場の形式要件に利益の項目は無く、事業計画の合理性などが審査されます(同「上場審査基準概要(グロース市場)」)。先行投資で赤字のまま上場する会社が多いのはこのためです。
プライム市場でも60社が赤字で、ソニーグループ・武田薬品工業・本田技研工業・ルネサスエレクトロニクス・楽天グループ・日産自動車のような時価総額の大きい会社も含まれます。
赤字の中身を3つの型に分ける
PERが「−」の会社を評価するときは、まずなぜ赤字なのかを決算短信で確かめます。見るのは、営業利益(本業で稼げているか)、特別損益(一時的な損失か)、会社予想(今期に黒字へ戻る見込みか)の3つです。
一時的な赤字:一度きりの損失が利益を押し下げた
特別損失や減損、会計上の振り替えなど、一度きりの損失で利益が赤字になる型です。その損失を除けば黒字で、今期予想も黒字に戻るなら、一時要因を除いた利益でPERを計算し直すのが基本です。なおIFRS(国際会計基準)の会社には特別損益の区分が無く、減損なども営業損益に入るため、営業損益まで赤字になることがあります。
ソニーグループの2026年3月期は、最終損益が3,269億円の赤字(EPS −54.70円)でした。2025年10月に金融事業をパーシャル・スピンオフ(株式の一部を残して金融子会社を株主に分配し、切り離すこと)した際、1兆3,778億円の損失を計上したためです。
この損失は、金融事業が持っていた債券の含み損など、それまで損益に入れず純資産の中に積み上げていた評価の変動(累積その他の包括利益)を、切り離した時点でまとめて損益に振り替えたものです。現金が出ていったわけではない、一度きりの会計上の損失です。
一方、金融事業を除く継続事業では、ソニーグループの株主に帰属する当期純利益が1兆309億円、EPSは172.51円の黒字でした。このEPSで計算したPERは21.3倍です(株価3,680円、2026年9月28日終値。ソニーグループ 2025年度 有価証券報告書 p.34–35・p.253)。
本田技研工業の2026年3月期は、EV関連損失や関税の影響で営業損益も4,143億円の赤字でした(本田技研工業 第102期 有価証券報告書)。2027年3月期は第1四半期の営業利益が5,308億円と前年同期の2.2倍になり、会社は通期の純利益4,000億円を見込みます。予想PERは16.7倍です(同 2027年3月期第1四半期決算短信)。一時的な損失と言えるかは、翌期以降に同じ種類の損失が続かないかで確かめます。
先行投資の赤字:売上は伸びている
新規事業や研究開発の費用が先に出て、利益が売上の成長に追いついていない型です。製品化前の創薬ベンチャーや、上場直後の成長企業に多い形です。PERの代わりに、売上の伸び・PSR(時価総額÷売上高)・EV/EBITDA・手元資金で評価します。
楽天グループは2019年12月期から7期連続の最終赤字で、2025年12月期は1,779億円の赤字でした。重いのはモバイル事業で、モバイルセグメントの損失は1,618億円です。
一方で売上収益は前期比9.5%増の2兆4,966億円、会社が示すEBITDA(Non-GAAP営業利益+減価償却費等)は4,359億円の黒字です(楽天グループ 2025年12月期決算短信)。売上が伸び、減価償却前では稼げている点が、本業の不振とは違うところです。
2026年12月期は「当期利益の黒字化を目指す」としています。ただしこの当期利益は、非支配持分(子会社の株式のうち楽天グループ以外の株主が持つ分)を含む利益で、中間期はこのベースですでに254億円の黒字でした(同 2026年12月期第2四半期決算短信)。
PERの計算に使う親会社の所有者に帰属する中間損益は109億円の赤字(前年同期は1,244億円の赤字)で、EPSはまだマイナスです。目標どおりになってもPERが出るとは限らないので、この型では親会社に帰属する損益が縮んでいく道筋を四半期ごとに追います。
本業の不振:稼ぐ力そのものが落ちている
販売の減少や採算の悪化で、本業の利益がほとんど出なくなっている型です。日産自動車は2026年3月期に5,331億円の最終赤字で、前期(6,709億円の赤字)に続く2期連続の赤字でした。営業利益は580億円で、売上高営業利益率は0.5%にとどまります(日産自動車 第127期 有価証券報告書)。
会社予想は2027年3月期に純利益200億円の黒字ですが、予想EPSは5.72円で予想PERは52.8倍です(日産自動車 2026年度第1四半期決算参考資料)。PBRは0.22倍で、株価は1株当たり純資産の2割強しか付いていません(2026年9月28日終値時点)。
この型では、PERよりも純資産がどれだけ残るか(PBR・自己資本比率)と、資金が続くか(手元資金・借入)、再建計画の進み具合が焦点になります。日産の自己資本比率は2024年3月期末の30.1%から2026年3月期末は24.2%と、赤字の2期で約6ポイント下がりました(日産自動車 第127期 有価証券報告書 p.2)。
PERの代わりに使う指標
赤字の3つの型の図で挙げた指標について、計算式と使うときの注意点をまとめます。
予想PER:株価÷会社予想EPS。黒字転換の予想がある会社に。回復1年目は利益が薄く、高めに出る
一時要因を除いたPER:株価÷特別損益や非継続事業を除いたEPS。ソニーグループのように本業が黒字の会社に
PSR:時価総額÷売上高。利益がまだ出ていない成長企業に。利益率の違いは映らない(PSRとは)
EV/EBITDA:(時価総額+有利子負債−現金)÷EBITDA。減価償却の重い先行投資型に(EBITDAとは)。銀行やカードなどの金融事業を連結する会社(楽天グループなど)は、預金や金融事業の借入が負債・現金に混ざってEVが事業の実態からずれるので、PSRやセグメントごとの損益で見る
PBR:株価÷1株当たり純資産。本業不振の会社や資産の厚い会社に(PBRとは)
なお、赤字が続いて純資産までマイナスになると、PBRも計算できません。直近通期のBPS(1株当たり純資産)がマイナスの上場企業は17社あり、うち13社は最終赤字です(2026年9月28日時点)。

PSR(株価売上高倍率)とは|赤字企業でも使えるバリュエーション指標
PSR(Price to Sales Ratio)の計算式・業種別の目安・PERやPBRとの違いを解説。赤字のスタートアップや成長企業の割安性を判断する方法がわかります。
PERがマイナスの株は買っていい?確かめる7つのポイント
PERがマイナスというだけでは、買いとも売りとも決まりません。回復の道筋(黒字の会社予想や赤字の縮小)と資金の余裕を確かめられる会社だけを候補にし、赤字が何期も続いて資金が細っている会社は避けるのが基本です。
PERが使えない会社を検討するときは、次の順に確かめると判断を誤りにくくなります。
何期連続の赤字か:1期だけか、数年続いているか
営業損益は黒字か:本業で稼げているか、特別損失による赤字か
会社予想は黒字か:予想を数値で出しているか、下方修正を繰り返していないか
手元資金は何年もつか:現金と有利子負債、営業キャッシュフローの赤字の大きさ
純資産はプラスか:東証の上場維持基準は「純資産の額が正であること」で、満たさない状態が1年以内に解消しないと上場廃止基準に該当します(一定の例外あり。日本取引所グループ「上場維持基準の詳細(純資産の額)」)
継続企業の前提に関する注記が無いか:決算短信や有価証券報告書に、事業を続けることに重要な疑義がある旨の注記が付いていないか
増資の可能性:資金が足りない会社は新株を発行して資金を集めることがあり、1株当たりの価値が薄まる(希薄化)
まとめ:PERがマイナスなら、赤字の中身と予想を見る
PERがマイナス=最終赤字でEPSがマイナス。割安という意味ではない。有価証券報告書では「−」、KabuGraphの銘柄ページでは「— 赤字」と表示され、「N/A」やマイナスの数値で出す画面もあるが意味は同じ
マイナスのPERは0に近いほど赤字が大きい。赤字の会社も並べて比べるなら益回り(EPS÷株価)を使う
実績が赤字でも今期予想が黒字なら予想PERが使える(赤字422社のうち239社)。実績は黒字で予想が赤字の25社は、実績PERの低さに注意
赤字の型で物差しを変える:一時的な赤字は一時要因を除いたPER・予想PER、先行投資はPSR・EV/EBITDA、本業の不振はPBRと財務の安全性
上場企業の11.5%が最終赤字で、グロース市場では3割近い(2026年9月28日時点)
PERがマイナスだけでは買いとも売りとも決まらない。回復の道筋と資金の余裕を確かめられる会社だけを候補にする










