株式の持ち合い・政策保有株とは|都銀・地銀の保有比率は15.7%→1.7%、トヨタ3.66兆円の解消事例と株価への影響

株式の持ち合いとは、2つの会社が互いに相手の株を持ち、互いの「安定株主」になる慣行です。取引関係などのために他社の株を持つこと全般(一方向の保有を含む)は「政策保有株式」と呼ばれ、持ち合いはその一部にあたります。
日本取引所グループ(JPX)の株式分布状況調査によると、上場株の保有比率(金額ベース)は、都銀・地銀等が1990年度の15.7%から2025年度は1.7%へ、事業法人等も30.1%から過去最低の17.7%へ下がりました。代わりに外国法人等が34.7%と過去最高になっています。
解消の売りが株価をどれだけ押し下げるかは、売られた株を誰が買い取るかで決まります。発行会社が自社株買いで引き取れば株は市場に出ず、売出しで一度に放出されれば需給が悪化します。個別銘柄が持ち合っているかどうかは、有価証券報告書の「当社の株式の保有の有無」欄で分かります。この記事では、持ち合いの仕組みと歴史、解消を促した制度、トヨタグループと損保3グループの実例、ROE・PBRへの効き方、有報での調べ方を解説します。
この記事の内容(目次)
株式の持ち合いとは——互いに「物言わぬ安定株主」になる仕組み
株式の持ち合いは、A社がB社の株を持ち、B社もA社の株を持つ状態です。取引先同士や、銀行と融資先の事業会社の間で広く行われてきました。主な目的は次の3つです。
取引関係の維持:株を持ち合うことで、長く取引を続ける意思を示し合う
買収への備え:互いに友好的な株主として株を持ち続け、買収を狙う相手に株が渡りにくくする
経営の安定:株主総会で会社提案に賛成票を入れ合う
裏を返すと、持ち合う株主は互いの経営に口を出さない「物言わぬ株主」になりがちです。金融庁と東証が事務局を務めるフォローアップ会議も2018年の提言で、安定株主の存在が経営の規律の緩みを生んでいるとの指摘や、活用されていないリスク資産で資本管理上非効率との指摘を挙げています(東証「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」参考資料)。持ち合いのデメリットは次の4つに整理できます。
一般株主の声が届きにくい:安定株主が会社提案に賛成するため、少数株主の反対や株主提案が通りにくい
経営への監視が緩む:業績が振るわなくても、経営陣の選任に反対票が集まりにくい
資本効率が下がる:配当利回りの低い他社株に資本を寝かせるため、ROEが上がりにくい(後述の「ROE・PBR」の章)
相手の株価下落が自社の純資産を削る:保有株が値下がりすると、持つ側の純資産や自己資本が目減りする。多くの株を持つ銀行ではこの影響が大きく、2001年の銀行等株式保有制限法は「銀行等が抱える株価変動リスクを限定するため」に保有額を制限した(金融庁「銀行等の株式保有制限及び株式取得機構について」2001年8月29日)
持ち合いと政策保有株式の関係
政策保有株式は、純投資以外の目的で持つ他社株の総称で、相手が自社の株を持っていない一方向の保有(片持ち)も含みます。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)原則1-4がこの言葉を使い、有価証券報告書では「保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式」として開示されます。
保有の向き
持ち合い:互いに相手の株を持つ
政策保有株式:一方向だけの保有も含む
使われる場面
持ち合い:昔からの通称。ニュースでは政策保有株式とほぼ同じ意味で使われることも多い
政策保有株式:コーポレートガバナンス・コードや有価証券報告書の開示で使う言葉
統計
野村資本市場研究所の推計は「株式持ち合い比率」に片持ちも含めており、政策保有株式とほぼ同じ意味で集計している
資本業務提携との関係
有報では、資本業務提携のための出資も「純投資目的以外」の株に入る。東京海上HD・SOMPOは、取引関係のための保有と提携のための保有を分けて示し、売ってゼロにする対象から提携の株を外している(後述)
相手の議決権を4分の1以上持つと、相手が持つ自社株の議決権は消える
A社がB社の総株主の議決権の4分の1以上を持っている場合、B社が持つA社株には、A社の株主総会での議決権がありません(会社法 第308条第1項)。A社に実質的に支配されうるB社が、A社の株主総会で票を投じる形になるのを防ぐ規定です。

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持ち合いの歴史——資本自由化で広がり、バブル崩壊後に解消へ
持ち合いは戦後に広がり、1980年代後半に頂点を迎え、1990年代からは一貫して減ってきました。流れを年表で整理します。
1949年度:財閥解体の後で、個人の持株比率は69.1%、事業法人等は5.6%(JPX「株式分布状況調査」参考表2、株数ベース)
戦後〜1960年代:株価の暴落などで資本市場から資金を集めにくくなった企業が銀行借入を増やし、買収を防ぐために銀行へ安定株主として株を持ってもらうようになった(内閣府「平成18年度 年次経済財政報告」第2章第2節)。銀行を中心に株を持ち合った戦後の企業集団はコンツェルンの例で解説している
昭和40年代(1965〜1974年):資本の自由化で企業が買収防止をいっそう重視し、持ち合いがさらに進んだとの見方がある(同)。事業法人等の持株比率は1973年度に27.5%で最高(JPX、株数ベース)
1987〜1988年度:金額ベースの保有比率は事業法人等が30.3%(1987年度)、金融機関全体が44.1%(1988年度)で、いずれも過去最高(JPX)
1990年代〜2003年:バブル崩壊後に銀行などが保有株を売り、持合株式の割合は90年代初めの2割弱から2003年に7.6%まで下がった(内閣府)
2025年度:都銀・地銀等1.7%、生命保険会社2.7%、損害保険会社0.5%、事業法人等17.7%はいずれも過去最低。外国法人等は34.7%で過去最高(JPX)
投資部門別の株式保有比率(金額ベース、年度末)
銀行と保険が大きく減った:都銀・地銀等は1990年度の15.7%から2025年度は1.7%に、生保・損保の合計は15.9%から3.2%に下がった
事業法人等は減り方が緩やか:30.1%から17.7%へ。この区分には上場会社の自己株式(2025年度は全体で4.42%、その大部分が事業法人等に計上)や親会社が持つ子会社株も入るため、他社株の保有だけを見た減り方はこの数字より大きいとみられる
外国人が最大の株主に:外国法人等は4.7%から34.7%に上がり、2025年度は3年連続で過去最高を更新した
投資部門 | 1990年度(%) | 2025年度(%) |
|---|---|---|
都銀・地銀等 | 15.7 | 1.7 |
生命保険会社 | 12.0 | 2.7 |
損害保険会社 | 3.9 | 0.5 |
事業法人等 | 30.1 | 17.7 |
信託銀行 | 9.8 | 21.8 |
外国法人等 | 4.7 | 34.7 |
個人・その他 | 20.4 | 17.4 |
解消を後押しした制度——銀行等株式保有制限法からCGコード・有報開示まで
持ち合いの解消は、銀行の株式保有を縛る法律と、上場会社に保有の理由を説明させるルールの両面から進みました。主な制度を年表にまとめます。
2001年11月:銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律が成立。銀行グループが持てる株式を自己資本に相当する額までに制限し、銀行と株を持ち合う事業会社が銀行株を売りやすくすることも目的に掲げた(第1条・第3条)
2002年1月:銀行等保有株式取得機構が設立され、銀行や、銀行と株を持ち合う会社が短期間に大量に売る株の買い手になった
2010年3月期:有価証券報告書で「株式の保有状況」の開示が始まる。純投資目的以外の株式について銘柄・株数・保有目的などを記載(金融庁 2010年2月12日公表の内閣府令案)
2015年6月:東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを適用。原則1-4で政策保有の方針の開示と、主要な保有の経済合理性の検証・説明を求めた
2018年6月:コード改訂。縮減の方針の開示と、個別銘柄ごとに「便益やリスクが資本コストに見合っているか」の検証を求め、相手からの売却の申し出を取引縮小をほのめかして妨げないことも加えた(東証「改訂前からの変更点」)
2019年3月期:有報で銘柄ごとに開示する数を30から60に広げ、保有の合理性を検証する方法の開示も求めた(金融庁 2019年1月31日)
2022年2月:議決権行使助言会社ISSが、政策保有株式が純資産の20%以上の会社で経営トップの選任に反対を推奨する基準を導入
2023年12月:損保大手が保険料などの調整行為で業務改善命令を受ける。各社はその後、2024年にかけて政策保有株式をゼロにする方針を打ち出した(次章)
2025年3月期:政策保有から純投資目的に変えた株を、変更後5年間、変更理由と売却方針つきで開示させる(金融庁 2025年1月31日)。純投資に変えた株が実質的には政策保有と変わらないという、金融庁の有報レビューで見つかった課題への対応
2026年7月:コード改訂。売却を妨げない・経済合理性のない取引をしないという旧補充原則を、原則1-4の本文に移した。上場会社は2027年7月末までに改訂版に沿った報告書を出す(金融庁・東証「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」)
こうした開示の積み重ねで、投資家は保有株の多い会社を有価証券報告書から自分で見つけられるようになりました。調べ方は最後の章で説明します。同じ時期には、日本企業にROE8%以上を求めた伊藤レポート(2014年)も資本効率への関心を高めました。

伊藤レポートとは|ROE8%提言と2.0・3.0・人材版の違い、東証のROEは公表時7.6%→8.7%に
伊藤レポートは2014年8月に経済産業省が公表し、最低限8%を上回るROEを求めた報告書です。2.0・人材版・3.0の違い、CGコード・東証要請との関係、東証のROEが公表時7.6%→8.7%、PBRが1.2倍→1.8倍になった推移とPERの寄与まで。
2025〜2026年の解消事例——トヨタと豊田自動織機、損保3グループ
トヨタ:豊田自動織機が持つ自社株9.15%を3.66兆円で買い戻し
トヨタグループは2025年6月3日、豊田自動織機の非公開化と、同社を軸にした持ち合いの解消を発表しました。トヨタ不動産が設立した会社が豊田自動織機にTOBを行い、トヨタ・アイシン・デンソー・豊田通商の4社は、持っている豊田自動織機株を手放す一方、豊田自動織機が持つ自社株を自己株式の公開買付けで買い戻す枠組みです(トヨタ自動車 2025年6月3日)。4社の取引は次のとおりで、いずれも完了しています。
トヨタの自社株買い戻し:2026年3月31日〜4月27日に1株3,067円で自己株式の公開買付けを行い、11億9,233万株を約3兆6,569億円で取得。豊田自動織機が応募した株は所有割合で9.15%にあたる(トヨタ自動車 2026年4月28日)
トヨタの消却:2026年6月30日に12億株(消却前の発行済株式の7.60%)を消却
トヨタの豊田自動織機株の売却:持っていた24.66%を、非公開化の手続き後に豊田自動織機の自己株式取得に応じて売却。2027年3月期第1四半期に関係会社株式売却益を計上する見込みで、6月15日時点の見込み額は連結5,769億円(トヨタ自動車 2026年6月15日)
デンソー・アイシン・豊田通商:3社も自己株式の公開買付けで、豊田自動織機が持つ自社株を引き取った。デンソーは6月1日に終了し1億8,490万株(デンソー 公開買付報告書)、アイシンも6月1日に終了し2,324万株(アイシン 公開買付報告書)、豊田通商は6月2日に終了し1億1,810万株を約6,637億円で取得した(豊田通商 2026年6月3日)
豊田自動織機:2026年6月1日に上場廃止(豊田自動織機 2026年5月12日)
トヨタから見ると、自己株式を除く発行済株式の約9%にあたる株が、市場を通さずにトヨタ自身へ戻ったことになります。持ち合い解消の売りを、発行会社が自社株買いで吸収した典型例です。

スクイーズアウトで株価はどうなる?|豊田自動織機の実例で見るTOB価格への張り付きと入金時期・税金
スクイーズアウト予定のTOBが出ると、株価はTOB価格のすぐ下に張り付き、上場廃止まで持っていても同額の現金が約3か月後に届くのが原則です。豊田自動織機など実例の株価推移、TOB価格を上回る・下回るケース、入金時期と税金・NISAの扱いを解説。
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東京海上HD:2029年度末までにゼロ(2024年5月の取締役会で決定)。2025年度は7,456億円を減らし、年度末の保有時価は連結純資産の24.5%(IFRS)。保有目的を純投資目的に変えることはしないと明記している(東京海上HD 2026年3月期 有価証券報告書 p.79)
MS&AD(三井住友海上):2023年12月の業務改善命令を受け、2030年3月末までにゼロ。2024年3月末に持っていた上場619銘柄のうち370銘柄(60.4%)を2026年3月末までに全株売却し、残りは243銘柄(MS&AD 2026年3月期 有価証券報告書 p.95)
SOMPO(損保ジャパン):2030年度末を目処にゼロ。2024〜2025年度の累計で7,217億円を減らし、2024〜2026年度の削減目標を2026年5月に9,700億円以上へ引き上げた(SOMPO 2026年3月期 有価証券報告書 p.123)
JPXの調査でも、2025年度に保有金額が前年度より減った投資部門は損害保険会社だけでした(6兆338億円→5兆8,942億円、2.3%減)。株価の上昇で全体の保有金額が28.0%増えた年に減ったことが、売却の大きさを示しています。

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東京海上ホールディングス(8766)の国内損保・海外保険・生保・ソリューションの4事業、セグメント別業績、株主還元策、2026年10月1日効力の1:15株式分割と株主優待の新設、日本基準とIFRSで二重に開示された2026年3月期の利益を個人投資家向けに解説します。
持ち合い解消の売りは株価にどう響く?——受け皿で変わる需給
持ち合い解消で株を持たれていた会社の業績は変わりませんが、売られた株の行き先によって需給への影響は大きく変わります。受け皿は大きく4つあります。
発行会社が買い戻す:自己株式の公開買付けや、買い手を発行会社に限った時間外取引のToSTNeT-3で引き取る。株は市場に出ず、消却すれば1株あたり利益が増える
立会外分売:取引時間外に、前日の終値を基準にした固定価格で多くの投資家に売る。JPXは個人株主を増やす方法として説明している
市場で少しずつ売る:数か月〜数年かけて売るため、その間は上値が重くなりやすい
売出し:証券会社を通じて一度にまとめて売る。新株を発行しないので1株あたり利益は薄まらないが、短期間に大量の株が出る
上場企業全体で見ても、自社株買いが大きな受け皿になっています。JPXの調査では、事業法人等は2025年度に11兆521億円の買い越しで、2004年度から22年連続の買い越しでした。JPXはその背景に自己株式の取得が続いたことを挙げています。
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自社株買いとは|EPS・ROE改善の仕組みと株価への影響
自社株買いの仕組み・目的・株価への影響をわかりやすく解説。EPS・ROE・PERなど財務指標への効果、メリット・デメリット、発表時の投資判断ポイントがわかります。
解消でROE・PBRはどう変わるか——売ったお金の使い道しだい
政策保有株を売ればROEが上がるとは限りません。上がるのは、売って得たお金を自社株買いや、より稼ぐ投資に回したときです。
仮の会社で計算します。純資産1,000億円、純利益80億円(ROE 8.0%)で、そのうち200億円を配当利回り2%の政策保有株で持っている会社です。受取配当は年4億円、税引後で約2.8億円(税率を約3割と仮定)とします。
売って自社株買いに回す:純資産は800億円、純利益は77.2億円になり、ROEは9.65%に上がる
売って現金のまま置く:純資産は1,000億円のまま純利益だけが77.2億円に減り、ROEは7.72%に下がる(預金の利息をほぼゼロとした場合)
PBRはPER×ROEに分解できるため、PERが12.5倍のままなら、ROEが8.0%から9.65%に上がるとPBRは1.0倍から約1.2倍になります。解消が株価の評価を押し上げるかどうかは、売却資金の使い道で決まると考えてください。ROEの見方はROEとはで解説しています。
含み益は純資産を膨らませる
政策保有株は時価で評価され、値上がり分(税金相当額を除く)は純資産に積み上がります。保有株の株価が上がるほどROEの分母が大きくなり、ROEを押し下げます。後で見る大林組では、1年で660億円を売ったのに、保有株の値上がりで残高はかえって増えました。

PBR(株価純資産倍率)とは|1倍割れ問題と東証改革の核心
PBR(Price Book-value Ratio)の計算式・目安・1倍割れ問題を解説。東証が改善を要請した背景と、PERやROEとの関係から投資判断に活かす方法がわかります。
安定株主が減ると何が変わるか——議決権行使とアクティビスト
持ち合いが減ると、会社提案に賛成してくれる安定株主が減り、機関投資家や議決権行使助言会社、アクティビスト(物言う株主)の票の重みが増します。
ISSの基準:2026年版の日本向け議決権行使助言基準(2026年2月施行)でも、政策保有株式(純投資目的以外の投資株式の貸借対照表計上額と、みなし保有株式の合計)が純資産の20%以上なら、経営トップの取締役選任に反対を推奨する。2025年に総会を開いた3,083社のうち9.0%が該当した
株主提案:京阪神ビルディングの2026年6月19日の総会には、同社株を持つ銀行・建設会社など特定の33社から自社株23,941,125株を買い取り、「特定の企業による当社株式の保有を解消」するよう求める株主提案が出された。買い取る相手の議決権は数えずに採決され(会社法第160条第4項の趣旨)、反対69.9%で否決された(京阪神ビルディング 臨時報告書 2026年6月22日、提案の内容は第103回定時株主総会招集ご通知)
否決されたとはいえ、持ち合い株主から発行会社に株を引き取らせる案が総会の議題になる時代です。政策保有株が純資産の20%以上の会社は、ISSが反対を推奨するため、経営トップの選任議案で反対票が増えるおそれがあります。
個別銘柄の政策保有株式を有報で調べる方法
政策保有株式は、有価証券報告書の「第4 提出会社の状況」→「4 コーポレート・ガバナンスの状況等」→「(5) 株式の保有状況」に載っています。次の順に見ると、持ち合いの多さと減らし方が分かります。
「イ 銘柄数及び貸借対照表計上額」で総額を見る:上場株(非上場株式以外の株式)と非上場株の銘柄数・金額
純資産で割る:ISSと同じく、みなし保有株式(退職給付信託に出した株など)を足して連結純資産で割る。20%以上なら要注意
「ア 保有方針…」で縮減目標を確かめる:いつまでに何%まで減らすか、売ったお金を何に使うか
「ウ 特定投資株式」の右端「当社の株式の保有の有無」を見る:「有」は相手も自社株を持つ持ち合い、「無」は片持ち
保有目的の変更を確かめる:純投資目的に変えた株は、2025年3月期から変更後5年間、理由と売却方針つきで開示される
大林組(1802)の2026年3月期の有報では、提出会社が上場株73銘柄を2,759億円、非上場株110銘柄を124億円持っています。表の右端を見ると、太平電業やヤクルト本社は「有」(持ち合い)、南海辰村建設やアサヒグループホールディングスは「無」(片持ち)です。
同社はグループ全体の政策保有株を連結純資産の21.9%(2026年3月末)と開示し、2027年3月末までに20%以内とする目標を掲げています。売却で合意済みの分を除くと17.5%です(大林組 2026年3月期 有価証券報告書 p.91)。
項目 | 金額(億円) |
|---|---|
2025年3月末の残高 | 2,735 |
期中の売却 | △660 |
株価上昇による増加 | +798 |
その他(非上場株式の取得など) | +14 |
2026年3月末の残高 | 2,888 |
1年で660億円を売っても、保有株の値上がりで残高は153億円増えました。株価が上がる局面では比率が下がりにくいため、売却額や売却合意済みの額と合わせて進み具合を見てください。
よくある疑問——持ち合いは悪いこと?提携の出資とどう違う?
持ち合いにも取引の安定などのメリットがあるのに、なぜ減らすよう求められるのか。シナジーを狙った出資とはどう違うのか。制度が何を問題にしているかを整理します。
持ち合うこと自体が問題なの?
持ち合いは禁止されていません。東証のコーポレートガバナンス・コードも保有そのものは禁じていませんが、縮減に関する方針の開示と、銘柄ごとに保有の理由を毎年検証して説明することを求めています。取引関係の安定や提携の実効性といったメリットがあること自体は否定されていません。
コードの原則1-4が問題にしているのは、次の3つです(東証 コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)原則1-4 p.9〜10)。
資本コストに見合わない保有:保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを、銘柄ごとに毎年検証して開示する(原則1-4(1))。取引のメリットがあっても、配当や取引の利益を合わせて株主が求める収益率(資本コスト)に届かなければ、持ち続ける理由を説明できない
売らせない圧力:自社株を政策保有株式として持つ会社が売りたいと言ってきたときに、取引の縮小をほのめかして売却を妨げてはならない(原則1-4(3))
株と引き換えの取引:政策保有株主との取引を、経済合理性を十分に検証しないまま続けてはならない(原則1-4(4))
つまり問われているのは、株の保有が取引や議決権の「交換条件」になり、ほかの株主の利益より当事者同士の関係が優先されることです。互いに会社提案へ賛成票を入れ合えば、経営への監視が緩む点は冒頭の章で見たとおりです。
シナジーを狙った出資(資本業務提携)と区別できる?
支配や経営への関与を目的とする出資とは区別できますが、数%の出資では線引きは会社の説明しだいです。
区別できる:過半数を持つ子会社や、20%以上を持つなどして経営に影響を与える関連会社の株は、提出会社の貸借対照表では「関係会社株式」として投資有価証券とは別に扱われ、有報の「株式の保有状況」の開示にも入りません。買収でシナジーを狙う場合は、通常こちらです
区別しにくい:数%程度の出資は、取引関係の維持でも資本業務提携でも、有報では同じ「保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式」です。どちらに当たるかは、会社が書く保有目的で判断するしかありません
そのため開示のルールは、区別そのものより説明の中身を求めています。有報では主な銘柄ごとに、保有目的、定量的な保有効果、相手が自社株を持っているかを書く決まりです。定量的な効果を書くのが難しい場合は、その旨と保有の合理性を検証した方法を書くことになっています(金融庁 2019年1月31日 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正)。
まとめ
持ち合いとは:2社が互いの株を持って安定株主になる慣行。一方向の保有を含めた政策保有株式の一部
持ち合い自体は禁止されていない:問われるのは、保有の便益が資本コストに見合うかと、株を取引の交換条件にしていないか。数%の出資では持ち合いと提携の線引きは会社の説明しだい
保有比率は過去最低:都銀・地銀等は1990年度15.7%→2025年度1.7%、事業法人等は17.7%。外国法人等は34.7%で過去最高
解消を促した制度:2001年の銀行等株式保有制限法、2015年以降のコーポレートガバナンス・コード原則1-4、有報の開示拡充、ISSの20%基準
株価への影響は受け皿しだい:発行会社が自社株買いで引き取れば市場に出ない(トヨタは約3兆6,569億円で9.15%を買い戻し)。売出しは短期の需給悪化要因
ROE・PBR:上がるのは売却資金を還元や投資に回したとき。売却益は一時的な利益
調べ方:有報「株式の保有状況」で純資産比(20%が目安)と「当社の株式の保有の有無」欄を確認する









