デュポン分解とは|ROEを3分解・5分解、大成建設のROE18.7%を本業・株式売却益・レバレッジに分ける

デュポン分解は、ROE(自己資本利益率)を「売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ」の3つの掛け算に分け、ROEが利益率・資産の回し方・借入のどれで生まれているかを確かめる方法です。5分解では売上高純利益率をさらに「税負担率 × 金利負担率 × 営業利益率」に分け、税金・金利・一時的な損益の影響まで切り分けます。
2026年3月期のROEが11〜14%で並ぶキーエンス(13.5%)・サンドラッグ(11.3%)・東急不動産ホールディングス(11.2%)も、分解すると純利益率38.1%・総資産回転率1.83回・財務レバレッジ3.88倍と、ROEを支える柱がそれぞれ違います。大成建設の2026年3月期のROE18.7%を4年前(8.4%)と比べて5分解すると、本業の回復(営業利益率で1.45倍)に、保有株式の売却益(1.26倍)と、自社株買い・買収による財務レバレッジの上昇(1.27倍)が重なった姿が見えます。
この記事では、3分解・5分解の式と決算短信での数字の拾い方、1社の推移の読み方、同業比較での使い方を実例で解説します。計算はすべて決算短信のROE(自己資本当期純利益率)と同じく、総資産と自己資本を期首と期末の平均にしています。ROEそのものの意味と目安はROEとはをご覧ください。
この記事の内容(目次)
デュポン分解とは:ROEを3つの掛け算に分ける
デュポン分解(デュポン分析)は、ROEを3つの比率の掛け算に書き直し、どの比率がROEを押し上げているかを見る方法です。
3つの分数を掛けると売上高と総資産が約分され、「純利益 ÷ 自己資本」に戻ります。同じROEでも、どの比率が大きいかで会社の稼ぎ方が分かります。
売上高純利益率(純利益 ÷ 売上高):売上のうち最終的に残る利益の割合。ブランド力や技術で値段を取れる会社ほど高い
総資産回転率(売上高 ÷ 総資産):持っている資産の何倍の売上を上げたか。在庫を早く回す小売や、大きな設備を持たない会社ほど高い
財務レバレッジ(総資産 ÷ 自己資本):自己資本の何倍の資産を持っているか。借入などの負債が多いほど高く、自己資本比率の逆数とほぼ同じ
最初の2つを掛けたもの(純利益 ÷ 総資産)はROA(総資産利益率)です。つまりROEは「ROA × 財務レバレッジ」とも書け、事業の効率(ROA)と借入の効き(レバレッジ)の2段階に分けて読むこともできます。
名前の由来は米国の化学メーカー、デュポン社です。同社の財務担当だったドナルドソン・ブラウンが1914年に、利益と投下資本を組み合わせた「投資利益率(ROI)」で事業を管理する方式を考えたことに始まります(Hagley Museum and Library「The Father of ROI: Donaldson Brown」)。

ROE(自己資本利益率)とは|8%基準の根拠とデュポン3分解の読み方
ROE(自己資本利益率)の計算式・8%の目安(伊藤レポート)・デュポン分析による3要素分解を解説。ROAとの違い、レバレッジによる嵩上げの見抜き方がわかります。
期首と期末の平均で計算すると、決算短信のROEと一致する
決算短信の1ページ目に載るROE(自己資本当期純利益率)は、東京証券取引所の「決算短信・四半期決算短信作成要領等」(2026年7月)p.25〜26で、親会社株主に帰属する当期純利益を、期首と期末の自己資本の平均で割ると決められています。自己資本は、純資産から新株予約権・株式引受権・非支配株主持分を引いた額です。
デュポン分解でもこれに合わせて総資産と自己資本を期首・期末の平均にすると、3つの積が短信のROEと一致します。この記事の数字はすべてこの方法で計算し、各社の短信のROEと一致することを確かめています。

ROEの計算式と計算方法|東京エレクトロンの短信で29.6%を再現する3ステップ
ROEの計算式は「親会社株主に帰属する当期純利益÷自己資本(期首・期末平均)×100」。東京エレクトロンの決算短信で29.6%を再現する手順、自己資本と純資産の違い(イオンは純資産で割ると6.4%が3.3%に)、EPS÷BPS・Excelでの計算を解説します。
3分解の実例:ROE11〜14%の3社は稼ぎ方がまったく違う
ROEがほぼ同じでも、3分解すると稼ぎ方はまったく違います。2026年3月期のROEが11〜14%で並ぶ3社を、決算短信の数字で分解しました。
キーエンス:利益率で稼ぐ(ROE13.5%)
売上高純利益率38.1%:売上高1兆1,693億円に対し、親会社株主に帰属する当期純利益は4,452億円。営業利益率は51.0%
総資産回転率0.34回:総資産3兆6,707億円(期末)のうち約3兆円が現預金と有価証券で、資産が売上高の約3倍に膨らんでいる
財務レバレッジ1.06倍:自己資本比率は94.6%で、借入にほとんど頼っていない
ROEはほぼ利益率だけで生まれています。回転率とレバレッジが低いぶん、利益率が下がればROEもそのまま下がる形です(キーエンス 2026年3月期 決算短信)。
サンドラッグ:資産の回転で稼ぐ(ROE11.3%)
売上高純利益率3.73%:売上高8,425億円に対し純利益314億円。3社で最も薄い
総資産回転率1.83回:総資産の約1.8倍の売上を上げている。店舗と在庫を早く回すドラッグストア・ディスカウントストアの形
財務レバレッジ1.66倍:自己資本比率は60.1%
薄い利益率を回転の速さで補う形です。利益率が3社で最も低くても、ROAは6.8%とキーエンスに次ぐ水準になります(サンドラッグ 2026年3月期 決算短信)。
東急不動産HD:借入を使って資産を大きく持つ(ROE11.2%)
売上高純利益率7.76%:売上高1兆2,460億円に対し純利益967億円
総資産回転率0.37回:賃貸ビルなどの有形固定資産1兆2,455億円と販売用の不動産1兆824億円(期末)を抱え、資産が売上高の約2.7倍
財務レバレッジ3.88倍:自己資本比率は26.3%で、資産の約4分の3を借入などの負債でまかなっている
ROAは2.9%と3社で最も低いのに、レバレッジ3.9倍でROEを11%台まで引き上げています(東急不動産ホールディングス 2026年3月期 決算短信)。
ROAに直すと差がはっきりする
純利益を平均総資産で割ったROAは、キーエンス12.8%、サンドラッグ6.8%、東急不動産HD 2.9%です。ROEが同じ11〜14%でも、事業そのものの資産効率には4倍以上の開きがあり、それを財務レバレッジ(1.06倍・1.66倍・3.88倍)が埋めています。

ROAとROEの違い|財務レバレッジが生む差と業種別の使い分け
ROAとROEの違いを計算式・分母の意味・財務レバレッジの影響から解説。デュポン分析によるROE=ROA×レバレッジの関係式、業種別の目安と使い分けがわかります。
5分解:純利益率を「税・金利・本業」に分ける
5分解は、3分解の売上高純利益率を「税負担率 × 金利負担率 × 営業利益率」に分け、純利益率の高さ(低さ)が本業・金利・税金のどこから来ているかを切り分けます。
証券アナリストの資格団体であるCFA協会の教材も、5分解を「ROEを税率・金利負担・営業上の収益性・効率・レバレッジの関数として表すもの」と説明しています(CFA Institute「Financial Analysis Techniques」)。本来、金利負担率の分母はEBIT(利払い前・税引前の利益)ですが、この記事では日本の決算短信で拾いやすい営業利益を使います。
税負担率=親会社株主に帰属する当期純利益 ÷ 税金等調整前当期純利益。法人税などを払って残る割合で、この記事で取り上げる7社の2026年3月期は0.65〜0.70に収まる。子会社の外部株主(非支配株主)の取り分もここで差し引かれる
金利負担率=税金等調整前当期純利益 ÷ 営業利益。1より小さいほど支払利息などで利益が削られている。日本基準の短信では受取利息・持分法投資損益・為替差損益などの営業外損益と、特別利益・特別損失もここに入るため、1を超えることもある
営業利益率=営業利益 ÷ 売上高。本業の利益率
前の章の3社を5分解すると、次のとおりです。表の純利益率は、上の3行(税負担率・金利負担率・営業利益率)を掛けた値です。
要素 | キーエンス | サンドラッグ | 東急不動産HD |
|---|---|---|---|
税負担率 | 0.70 | 0.69 | 0.66 |
金利負担率 | 1.07 | 0.98 | 0.88 |
営業利益率 | 51.0% | 5.6% | 13.4% |
純利益率 | 38.1% | 3.7% | 7.8% |
総資産回転率 | 0.34回 | 1.83回 | 0.37回 |
財務レバレッジ | 1.06倍 | 1.66倍 | 3.88倍 |
ROE | 13.5% | 11.3% | 11.2% |
キーエンスの金利負担率1.07は、利息を払うどころか受け取っているため:約3兆円の現預金・有価証券から受取利息162億円が入り、為替差益163億円などと合わせた営業外収益405億円が営業利益5,958億円に上乗せされた
東急不動産HDの金利負担率0.88は、借入のコスト:支払利息は209億円で、前期の140億円から1.5倍に増えた。レバレッジ3.88倍でROEを押し上げる一方、金利が上がると金利負担率が下がってROEを削る構造
サンドラッグは0.98:営業利益468億円がほぼそのまま税引前利益458億円になっている
税負担率は3社とも0.66〜0.70で差が小さい:ROEの違いは主に営業利益率・回転率・レバレッジから来ている
推移を分解する:大成建設のROE18.7%は何が押し上げたか
デュポン分解がいちばん役に立つのは、ROEが大きく動いたときに「何が変わったのか」を突き止める場面です。大成建設のROEは2024年3月期の4.6%から、2025年3月期13.8%、2026年3月期18.7%と2年で約4倍になり、2018年3月期(20.5%)以来の高さに戻りました。
大成建設
大成建設は、鹿島建設・大林組・清水建設・竹中工務店と並ぶスーパーゼネコン5社の一角。土木・建築・開発の3事業を柱に、国内外で大規模インフラ整備からオフィスビル・マンション開発まで幅広く手がける。土木では子会社の大成ロテック(道路舗装)やピー…
大成建設のROEと主な要素の推移
ROEの山と谷は、大きく3つの時期に分かれます。
2018〜2020年3月期(ROE16〜21%):営業利益率が9〜11%台と高く、税引前利益は営業利益とほぼ同じ。財務レバレッジも2.5〜3.0倍あった(2018年3月期の2.99倍は9期で最も高い)。本業の利益率と高めのレバレッジで稼いだROE
2021〜2024年3月期(ROE11.6%→4.6%):営業利益率が8.8%から1.5%まで低下。2024年3月期は建築事業が561億円の営業損失になった。利益を積み上げて自己資本が厚くなり、財務レバレッジも2.2〜2.6倍と低めだった
2025〜2026年3月期(ROE13.8%→18.7%):営業利益率が9.0%まで戻り、税引前利益が営業利益の1.3〜1.5倍に膨らんだ(グラフの税引前÷営業)。財務レバレッジも2.84倍に上がった
2026年3月期の18.7%は3つの要因の重ね合わせ
底だった2024年3月期と比べると、ROEが約4倍になった理由の大半は営業利益率の回復(1.5%→9.0%)です。ただ、2024年3月期も投資有価証券売却益179億円などで税引前利益が経常利益の1.47倍あり、2026年3月期(1.26倍)の方が比率は低いため、底からの比較では特別損益の押し上げが見えなくなります。4年前の2022年3月期(8.4%)と比べると、本業(営業利益率)の1.45倍に対し、特別損益とレバレッジを合わせて約1.6倍の押し上げがありました。
本業の回復(×1.45):営業利益率は6.2%→9.0%。2026年3月期は土木・建築とも利益率が好転し、営業利益は1,879億円と前期比56.4%増えた
保有株式の売却益(×1.26):特別利益のうち投資有価証券売却益が547億円。特別損益(純額506億円)が税引前利益2,464億円の約2割を占めた
自社株買いと買収・借入(×1.27):自己資本の伸びは、2023〜2026年3月期の4年で約2,300億円の自社株買いが抑えた。資産の側では、ピーエス三菱(2023年12月)と東洋建設(2025年9月)の連結子会社化や完成工事未収入金の増加で総資産が膨らみ、有利子負債は2,243億円から4,635億円に増えた。この2つで財務レバレッジは2.24倍から2.84倍に上がった
仮に2年間の自社株買い計1,602億円がなかったとすると、2026年3月期の平均自己資本は約1,213億円多くなり、ROEは約16.5%にとどまった計算です(期中の資金の運用益などを考えない単純試算)。
会社自身も、中期経営計画(2024年5月策定)のROE目標「8.5%程度」に「政策保有株式売却が目標通りに進捗した場合は10%程度」と注記しており、株式売却がROEを押し上げることを織り込んでいます。2027年3月期のROEは15.4%(純利益1,510億円)と予想しています(大成建設 2026年3月期 決算短信、DATABOOK 2026年3月)。
ROEの「質」を見分ける3つのチェック
本業の利益率と資産効率から生まれたROEは続きやすく、借入・一時的な利益・自社株買いで上がったROEは条件が変わると剥がれやすい。ROEが上がったときは、5分解のどの要素が動いたかを次の3点で確かめます。
①レバレッジ頼みのROEではないか
見るところ:財務レバレッジとROA(純利益率 × 総資産回転率)の推移。ROEが上がったのにROAが横ばいなら、上昇分はレバレッジから来ている
なぜ注意するか:借入で上げたROEは金利に弱い。東急不動産HDは支払利息が1年で1.5倍になり、金利負担率0.88が利益を削っている
確かめる数字:自己資本比率、有利子負債、損益計算書の支払利息
財務レバレッジと自己資本比率の関係、自己資本比率が高い会社ほどROEが低いのかは、次の記事でデータを使って解説しています。

自己資本比率とROEの関係|高いとROEは低い?上場3,492社ではROE中央値が8%前後で横ばい
自己資本比率とROEは「ROE=ROA÷自己資本比率」の関係。上場3,492社では自己資本比率10〜80%の帯でROE中央値が7.9〜9.4%とほぼ横ばい、80%以上は6.4%。ROA・PBRとの関係、実例5社、自社株買いと東証の要請まで。
②一時的な利益で膨らんでいないか
見るところ:金利負担率、特に「税引前利益 ÷ 経常利益」が1を大きく超えていないか。大成建設は2026年3月期に1.26、清水建設は1.58
確かめる数字:損益計算書の特別利益の内訳(投資有価証券売却益・固定資産売却益など)。政策保有株式を減らしている会社では売却益が数年続くこともあるが、売る株が無くなれば止まる
逆の場合も:減損損失などの特別損失でROEが一時的に下がった年は、この比率が1を大きく下回る。本業が崩れたのかどうかを営業利益率で確かめられる
③自社株買いで分母が減っただけではないか
見るところ:自己資本の増減と純利益の伸び。自社株買いは自己資本を減らし、財務レバレッジを上げる
大成建設の例:2年で1,602億円の自社株買いがROEを約2ポイント押し上げた(単純試算)
評価のしかた:使い道のない資金を株主に返す自社株買いは、資本効率を上げる正当な手段。ただし利益が伸びていなければ、ROEの上昇は買った年の一度きりで終わる

自社株買いとは|EPS・ROE改善の仕組みと株価への影響
自社株買いの仕組み・目的・株価への影響をわかりやすく解説。EPS・ROE・PERなど財務指標への効果、メリット・デメリット、発表時の投資判断ポイントがわかります。
ROEの質は株価の評価にもつながります。PBR=PER×ROEなので、同じPBRでも、本業から生まれたROEに支えられているのか、一時的な利益や自社株買いで上がったROEに支えられているのかで、その水準が続くかどうかが変わります。3つの指標の関係はPER・PBR・ROEを図解で解説しています。
同業比較での使い方:スーパーゼネコン4社を並べる
同業の会社は総資産回転率や財務レバレッジが似るため、デュポン分解するとROEの差が本業の利益率と一時的な損益のどちらから来ているかが見えやすくなります。2026年3月期のスーパーゼネコン4社で比べます。
スーパーゼネコン4社のROEと特別損益を除いた試算(2026年3月期)
会社 | 営業利益率 | 税引前÷経常 | 財務レバレッジ |
|---|---|---|---|
大成建設 | 9.00% | 1.26 | 2.84倍 |
鹿島建設 | 7.85% | 1.06 | 2.65倍 |
大林組 | 7.53% | 1.22 | 2.56倍 |
清水建設 | 5.77% | 1.58 | 2.82倍 |
総資産回転率とレバレッジは似ている:回転率は0.80〜0.87回、財務レバレッジは2.56〜2.84倍の幅に収まる
差は営業利益率と特別損益に出る:営業利益率は大成建設の9.00%から清水建設の5.77%まで開き、税引前利益÷経常利益は鹿島建設の1.06から清水建設の1.58まで開く
特別損益を除くと順位が変わる:ROEは清水建設(13.8%)が鹿島建設(13.3%)を上回るが、特別損益を除いた試算では清水建設8.7%、鹿島建設12.5%と逆転する。清水建設は投資有価証券売却益882億円が税引前利益1,933億円を押し上げていた
同業比較では、ROEの数字そのものより「営業利益率」と「特別損益への依存度」の差を見るのが実用的です(大林組 2026年3月期 決算短信、清水建設 2026年3月期 決算短信、鹿島建設 2026年3月期 決算短信)。
異業種は水準ではなく構造を比べる
業種が違うと、回転率とレバレッジの水準そのものが違います。サンドラッグの回転率1.83回や東急不動産HDのレバレッジ3.88倍は、それぞれの事業の形から来ていて、他の業種の会社がまねできるものではありません。
異業種を比べるときは、ROEの高低よりも「どの柱で稼いでいるか」と「その柱が崩れる条件」を比べます。業種ごとの資産効率の水準はROAの業種別中央値が、ROEの水準はROEの目安の業種別データが目安になります。

ROAの平均と目安|上場企業は中央値4.1%・平均2.9%、法人企業統計では5.5%
ROA(総資産利益率)の平均を最新データで解説。上場3,673社の直近通期は平均2.88%・中央値4.10%で、赤字企業が平均を押し下げます。財務省「法人企業統計」の2025年度5.5%、33業種別の平均・中央値、5%基準の位置づけまで。
国どうしの比較:日本企業の低ROEは利益率の差
国の単位で比べるときも同じ見方ができます。経済産業省の伊藤レポート(2014年8月)は、ROEを売上高利益率・資本回転率・レバレッジに分けて日米欧の企業を比べ、回転率やレバレッジには大きな差がなく、日本企業の低ROEは売上高利益率、つまり事業の収益力の低さによるところが大きいとしました(経済産業省「伊藤レポート」最終報告書 p.11)。報告書が掲げたROE8%の目標と、その後の日本企業のROEの変化は伊藤レポートとはで解説しています。
デュポン分解の注意点
検算にはならない:掛けると元の「純利益 ÷ 自己資本」に戻る式なので、数字の拾い間違いは分解しても見つからない。3つの積が短信のROEと一致するかで確かめる
分母の基準をそろえる:期末と期中平均、純資産と自己資本を混ぜると、要素の積がROEと合わない。非支配株主持分の大きい会社は、純資産で割ると財務レバレッジが小さく、ROEも低く出る
赤字や債務超過の年は読めない:純利益がマイナスだと純利益率や税負担率の符号が変わり、自己資本がマイナスなら財務レバレッジもマイナスになる。分解の前に利益と自己資本の符号を確かめる
銀行など金融業には向かない:銀行は売上高に当たる経常収益の性格が一般の事業会社と違い、自己資本比率が5%前後でレバレッジは20倍前後になる。ROAと財務レバレッジの2段階で見る方が分かりやすい
IFRSの会社は項目が違う:経常利益が無く、営業利益に「その他の収益・費用」が入る。金利負担率は税引前利益 ÷ 営業利益で計算できるが、日本基準の会社と並べるときは営業利益の中身の違いに注意する
税負担率には非支配株主の取り分も入る:分子を親会社株主に帰属する当期純利益にしているため、上場子会社などの外部株主の取り分(大成建設の2026年3月期は48億円)も税負担率を下げる
まとめ
デュポン分解はROE=売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ。5分解は純利益率を税負担率 × 金利負担率 × 営業利益率に分ける
総資産・自己資本を期首と期末の平均にすると、決算短信のROEと一致する
ROE11〜14%のキーエンス・サンドラッグ・東急不動産HDは、利益率38.1%・回転率1.83回・レバレッジ3.88倍と稼ぎ方が違う。ROAは12.8%・6.8%・2.9%
大成建設のROE18.7%は、本業の回復(営業利益率9.0%)に、保有株式の売却益と、自社株買い・買収による財務レバレッジの上昇が重なったもの。2022年3月期比の2.24倍のうち、本業の1.45倍に対し特別損益とレバレッジで約1.6倍
ROEの質は「レバレッジ」「一時的な利益」「自社株買い」の3点で確かめる。同業比較では営業利益率と特別損益への依存度を見る
借入の影響を除いて事業そのものの稼ぐ力を見たいときは、有利子負債も分母に入れるROIC(投下資本利益率)も役に立ちます。

ROICとROEの違い|レバレッジが生む乖離と使い分けの判断基準
ROICとROEの計算式・分母の違い・レバレッジの影響を図解で比較。高ROE×低ROICの落とし穴、WACC超えの意味、業種別の使い分け基準を解説します。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。










