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景気サイクル(景気循環)とセクターローテーション|日本株で検証

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景気サイクル(景気循環)とは、景気がよくなる「拡張」と悪くなる「後退」を交互に繰り返すことです。拡張から後退に変わる転換点を「山」、後退から拡張に変わる転換点を「谷」と呼びます。

日本では内閣府が山と谷を「景気基準日付」として、1年以上たってから決めています。戦後の景気循環は第16循環(2012年11月の谷→2018年10月の山→2020年5月の谷)まで確定しており、2020年5月の谷の後の山はまだ決まっていません(2026年10月6日時点)。毎月の景気動向指数の判断は、2026年7月分で「改善を示している」です(8月分は2026年10月7日に公表予定)。

株価は景気より先に動き、景気の局面ごとに強い業種が入れ替わるとされます。それに合わせて業種を乗り換える考え方がセクターローテーションです。

2018〜2021年の日本株17業種で確かめると、景気の谷からの1年は自動車・鉄鋼・電機・機械が大きく上がり、医薬品・電気・ガスは出遅れました。一方、後退期にディフェンシブ株の下げが小さく見えたのは銘柄の中央値で見た場合だけで、Stovall(1996)のモデルで「後退期の後半から強い」とされる銀行は、後退期に大きく下げています。

この記事では、景気循環の見方と今の局面、セクターローテーションの使い方と限界を、内閣府の統計と日本株のデータで解説します。

この記事の内容(目次)

  1. 景気サイクル(景気循環)とは——拡張と後退、山と谷
    1. 山と谷は1年以上たってから決まる
  2. 日本の景気循環は今どこ?——戦後16回と、2020年5月の谷の後
    1. 第17循環——2020年5月の谷の後、山はまだ決まっていない
    2. 景気動向指数の読み方——CI・DI、先行・一致・遅行
  3. 景気の4つの波——キチン・ジュグラー・クズネッツ・コンドラチェフ
  4. 株価は景気に先行する——TOPIXは景気の山の8〜23か月前に天井
    1. 金融相場・業績相場——株式相場の4つの局面
  5. セクターローテーションとは——景気の局面ごとに強い業種
    1. 「回復期に強いのは金融? 素材・機械?」——区切り方が2つある
    2. 景気敏感株とディフェンシブ株
  6. 日本株で検証——2018〜2021年の後退期と、谷からの1年
    1. 銀行は「後退期の後半から強い」どころか大きく下げた
    2. 業種の「中央値」と「業種別指数」で順位が入れ替わる
    3. 後退期の終わりは新型コロナと重なった
    4. 米国の研究では、局面を完全に当てても超過リターンは月0.16%
  7. セクターローテーションを使う前に知っておきたい限界
  8. 景気の局面と業種を確かめる手順
  9. よくある質問
    1. 今の日本の景気はどの局面?
    2. 景気後退はどのくらい続く?
    3. 景気が悪くなると、株は全部下がる?
    4. セクターローテーションで儲かる?
    5. シラーPERの「景気循環調整」とは?
  10. まとめ

景気サイクル(景気循環)とは——拡張と後退、山と谷

景気循環は、生産・雇用・消費・企業の利益など幅広い経済活動が、そろって上向く時期と下向く時期を繰り返す現象です。内閣府は、主要な経済指標の中心的な転換点を「山」と「谷」として設定し、景気の局面の判断や、循環どうしの比較に使っています(内閣府「景気基準日付」)。

  • 谷:景気が底を打ち、拡張に変わる月

  • 拡張期:谷の翌月から山まで。生産・雇用・利益が増える

  • 山:景気が最も強く、後退に変わる月

  • 後退期:山の翌月から谷まで。生産・雇用・利益が減る

拡張期の前半を「回復」、後半を「好況」、後退期の前半を「後退」、後半を「不況」と分けて、4つの局面で呼ぶこともあります(大和証券「テクニカル分析講座 第5回 サイクル(日柄分析)」)。ただし内閣府が決めるのは山と谷だけで、「回復」と「好況」の境目のような区切りは公式には決めていません。

山と谷は1年以上たってから決まる

内閣府経済社会総合研究所は、景気動向指数の一致指数に使う10の指標から作る「ヒストリカルDI」をもとに、有識者の景気動向指数研究会の議論を踏まえて山と谷を設定します(内閣府「景気基準日付」)。判定では、①後退(拡張)が大半の指標に広がったか、②一致指数の下げ(上げ)が過去の例と比べて十分な大きさか、③1つの局面が5か月以上、1つの循環が15か月以上続いたか、の3つを確かめます(内閣府「第21回景気動向指数研究会について(概要)」)。

このため、山と谷が決まるのは転換点から1年以上たってからです。直近の第16循環は、次の順で決まりました。

  • 2018年10月:景気の山(後から設定)

  • 2020年5月:景気の谷(後から設定)

  • 2020年7月30日:内閣府が2018年10月を「暫定の山」に設定。山から21か月後で、すでに谷も過ぎていた(第19回景気動向指数研究会の概要)

  • 2021年11月30日:2020年5月を「暫定の谷」に設定。谷から18か月後(第20回の概要)

  • 2022年7月19日:山と谷を確定(第21回の概要)

暫定の山と谷は、確定のときに動くこともあります。第14循環は暫定の山を2007年10月としていましたが、2011年10月の確定で2008年2月に改めました(内閣府 第13回景気動向指数研究会 資料4)。第15循環も、暫定の山の2012年4月を、2015年7月の確定で2012年3月に改めています(内閣府「第15循環の景気基準日付の確定について(概要)」)。

日本の景気循環は今どこ?——戦後16回と、2020年5月の谷の後

内閣府の景気基準日付では、戦後の景気循環は第1循環(1951年)から第16循環まで16回あります。第2〜第15循環の平均は拡張期36.2か月、後退期16.1か月、1循環52.4か月で(内閣府 第21回景気動向指数研究会 資料1 p.7)。平均では拡張が後退の2倍以上続いていますが、第9循環(拡張28か月、後退36か月)のように後退の方が長かった循環もあります。

出典:内閣府「景気基準日付」よりKabuGraph作成。拡張は谷の翌月から山まで、後退は山の翌月から谷までの月数。平均は内閣府 第21回景気動向指数研究会 資料1 p.7

循環

景気の山

景気の谷

第11循環

1991年2月
拡張51か月

1993年10月
後退32か月

第12循環

1997年5月
拡張43か月

1999年1月
後退20か月

第13循環

2000年11月
拡張22か月

2002年1月
後退14か月

第14循環

2008年2月
拡張73か月

2009年3月
後退13か月

第15循環

2012年3月
拡張36か月

2012年11月
後退8か月

第16循環

2018年10月
拡張71か月

2020年5月
後退19か月

第17循環

未設定

—

出典:内閣府「景気基準日付」よりKabuGraph作成。拡張は谷の翌月から山まで、後退は山の翌月から谷までの月数

確定した循環のうち、拡張期の最長は第14循環の73か月(2002年2月〜2008年2月)、後退期の最長は第9循環の36か月(1980年3月〜1983年2月)です(内閣府「景気基準日付」)。

第17循環——2020年5月の谷の後、山はまだ決まっていない

2020年5月の谷の後、内閣府は山を設定していません(2026年10月6日時点、内閣府「景気基準日付」)。ただし毎月の景気動向指数の「基調判断」は、この間に景気後退の可能性を示したことがあります。速報時点の判断は次のとおりです。

  • 2024年1月分:足踏み

  • 2024年2〜4月分:下方への局面変化(景気の山がそれ以前の数か月にあった可能性が高い)

  • 2024年5月分〜2025年4月分:下げ止まり

  • 2025年5月分:悪化(景気後退の可能性が高い)

  • 2025年6月分〜2026年2月分:下げ止まり

  • 2026年3・4月分:上方への局面変化(景気の谷がそれ以前の数か月にあった可能性が高い)

  • 2026年5〜7月分:改善(景気拡張の可能性が高い)

出典:内閣府「景気動向指数」の各月の結果の概要(速報)よりKabuGraph作成

基調判断は、あらかじめ決めた基準に一致指数の動きを機械的に当てはめた暫定の判断です。正式な山と谷は、景気動向指数研究会の議論を経て決まります(内閣府「景気動向指数(令和8年7月分速報)」p.3)。2024〜2026年の動きが景気後退として認定されるかどうかは、まだ分かりません。

内閣府は2026年7月23日の研究会で、サービス業の動きをより多く取り込んだ新しい指数(新CI・新DI)を2027年4月分の公表から参考指標として出すことを決めました。新しい山・谷の判定方法は、早ければ次の山の暫定設定のときに、従来の方法と大きく食い違わないことを確かめたうえで採用します(内閣府「第22回景気動向指数研究会について(概要)」)。次の暫定の山そのものはデータの蓄積がある今の指数で判断し、そのときに新しい方法との食い違いを確かめる、というのが事務局の説明です(第22回景気動向指数研究会 議事要旨)。

景気動向指数の読み方——CI・DI、先行・一致・遅行

景気の現在地をいちばん早く数字で示すのが、内閣府が毎月公表する景気動向指数です。生産・雇用・消費など30の指標を、景気との時間のずれで3つに分けて合成しており、今の採用系列は2021年1月分から使われています(内閣府「景気動向指数の利用の手引」)。

  • 先行指数(11系列):景気より先に動く。新規求人数、実質機械受注(製造業)、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、東証株価指数(TOPIX)など

  • 一致指数(10系列):景気とほぼ同時に動く。鉱工業の生産指数、有効求人倍率、営業利益(全産業)、輸出数量指数など。景気の現状の判断に使う

  • 遅行指数(9系列):景気から数か月〜半年ほど遅れて動く。完全失業率、法人税収入、消費者物価指数(生鮮食品を除く)など

CIは指標の動きの大きさを合成した「量感」、DIは改善している指標の割合で見る「広がり」を表し、2008年4月分からCIを中心に公表されています(同)。CI一致指数は月々の振れが大きいため、内閣府は3か月後方移動平均と7か月後方移動平均の動きから、「改善」「足踏み」「局面変化(上方・下方)」「悪化」「下げ止まり」の5段階で基調を判断します。

2026年7月分(2026年9月29日改訂)のCIは、先行指数117.7、一致指数120.6、遅行指数113.0(2020年=100)で、基調判断は「改善を示している」でした(内閣府「景気動向指数 速報からの改訂状況(令和8年7月分)」)。先行指数も、3か月後方移動平均(前月差+0.60ポイント)と7か月後方移動平均(同+1.04ポイント)がともに上がっています(同)。速報は対象月の翌々月の上旬に出ます(7月分は2026年9月7日、8月分は2026年10月7日の予定)。

景気の4つの波——キチン・ジュグラー・クズネッツ・コンドラチェフ

景気循環には、周期の長さが違う波がいくつも重なっていると考えられてきました。代表的な4つの波は次のとおりです。

出典:コトバンク「景気循環」(改訂新版 世界大百科事典・日本大百科全書・デジタル大辞泉)、History of Economic Thought Website「Joseph Kitchin」よりKabuGraph作成。周期は事典の記載による目安で、波の形は模式図

波(提唱者・発表年)

周期

主な原因と、投資家が見る指標

キチンの波
キチン(1923年)

約40か月

在庫の積み増しと削減。鉱工業の在庫率、半導体・電子部品の在庫

ジュグラーの波
ジュグラー(1862年)

約10年

設備投資。機械受注、短観の設備投資計画

クズネッツの波
クズネッツ(1930年)

約20年

住宅や建物の建設。新設住宅着工

コンドラチェフの波
コンドラチェフ(1922年)

約50年

大きな技術革新。新しい産業の立ち上がり

出典:コトバンク「景気循環」(改訂新版 世界大百科事典・日本大百科全書・デジタル大辞泉)、コトバンク「ジュグラー」、History of Economic Thought Website「Joseph Kitchin」よりKabuGraph作成。周期は事典の記載による目安

株式投資で身近なのは、在庫の波と設備投資の波だと考えられます。半導体・電子部品・機械のように、顧客の在庫調整や設備投資の増減が受注に直結する業種は、これらの波で業績が大きく上下しやすいためです(KabuGraphの見方)。なお、キチン自身は40か月の波の原因を示しておらず、在庫で説明したのは後の研究です(History of Economic Thought Website)。

周期が長い波ほど、統計で確かめられる回数は少なくなります。約50年周期のコンドラチェフの波は1つの波を確かめるのに半世紀かかり、「次の波がいつ来るか」を投資判断に使えるほどの精度はありません。

株価は景気に先行する——TOPIXは景気の山の8〜23か月前に天井

株価は先行きの企業業績を織り込んで動くため、景気そのものより早く天井と底をつけやすいと考えられています。内閣府も、景気動向指数の先行系列に東証株価指数(TOPIX)を採用しています(内閣府「景気動向指数の利用の手引」)。

内閣府が公表しているTOPIXの月中平均(個別系列の概要)で1991年以降の6回の景気循環を確かめると、TOPIXの天井は景気の山の8〜23か月前でした。底は谷の0〜14か月前でしたが、第13循環だけは谷(2002年1月)の15か月後(2003年4月)まで下げ続けています。

景気の山・谷

TOPIXの天井

TOPIXの底

山 1991年2月
谷 1993年10月

1989年12月
山の14か月前

1992年8月
谷の14か月前

山 1997年5月
谷 1999年1月

1996年6月
山の11か月前

1998年10月
谷の3か月前

山 2000年11月
谷 2002年1月

2000年2月
山の9か月前

2003年4月
谷の15か月後

山 2008年2月
谷 2009年3月

2007年6月
山の8か月前

2009年3月
谷と同じ月

山 2012年3月
谷 2012年11月

2010年4月
山の23か月前

2011年11月
谷の12か月前

山 2018年10月
谷 2020年5月

2018年1月
山の9か月前

2020年3月
谷の2か月前

出典:内閣府「景気動向指数」(先行系列の東証株価指数、月中平均)・「景気基準日付」よりKabuGraph算出。天井は前の谷から次の谷までで最も高い月、底は天井の後、谷の18か月後までで最も低い月。月中平均の差が0.5%未満の月もある(2007年6月と2007年2月、1996年6月と1994年6月、2011年11月と2012年6月)

先に動く長さは毎回違い、平均を目安に売買のタイミングを計ることはできません。1980年代までは、後退期にTOPIXが上がった循環もあります。第9循環の後退期(1980年2月→1983年2月)は+24.7%、第10循環(1985年6月→1986年11月)は+41.7%でした(いずれも山の月と谷の月の月中平均で比較、KabuGraph算出)。

出典:内閣府「景気動向指数」(CI一致指数・先行系列の東証株価指数〈月中平均〉、2026年7月分改訂値)・「景気基準日付」よりKabuGraph作成。網かけは景気の山の月から谷の月まで

図の下の段のとおり、CI一致指数は2026年7月が120.6で、2018年10月の山(122.0)とほぼ同じ水準です。一方、TOPIXの月中平均は2018年10月の1,704から2026年7月の4,022へ2倍超になりました。景気動向指数と株価は同じものを測っていない点にも注意が必要です。

金融相場・業績相場——株式相場の4つの局面

景気・金利と株価の関係を、相場の側から4つの局面に分けた見方があります。チャーチストの浦上邦雄氏が『相場サイクルの見分け方』(初版1990年4月)で示した「金融相場」「業績相場」「逆金融相場」「逆業績相場」です(『相場サイクルの見分け方〈新装版〉』日本経済新聞出版)。一般には次のように説明されます。

  • 金融相場:景気も業績もまだ悪いが、金融緩和で金利が下がり、株価が先に上がる(景気の谷の前後)

  • 業績相場:景気が拡張して企業の利益が伸び、株価が上がる。金利も上がり始める

  • 逆金融相場:景気の過熱や物価上昇を抑えるための利上げで、業績が好調なうちに株価が下がる(景気の山の前後)

  • 逆業績相場:景気が後退して企業の利益が減り、株価が下がる。金利は下がり始める

出典:浦上邦雄『相場サイクルの見分け方』(初版1990年4月)の4つの局面をもとにKabuGraph作成。模式図

4つの局面は「金利の向き」と「業績の向き」の組み合わせで決まります。日本銀行は2026年9月18日、政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)を1.25%程度に引き上げました(日本銀行「金融市場調節方針の変更について」)。利上げが株価と業種に与える影響は次の記事で解説しています。

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セクターローテーションとは——景気の局面ごとに強い業種

セクターローテーションは、景気の局面ごとに業績と株価が伸びやすい業種(セクター)が入れ替わるという考え方と、それに合わせて投資する業種を乗り換える手法です。原型として広く引用されるのが、サム・ストバル(Sam Stovall)の『Sector Investing』(1996年、McGraw-Hill)のモデルです(前年版の書名は『Standard & Poor's Guide to Sector Investing 1995』)。景気を5つの段階に分け、段階ごとに強い業種を割り当てています(Molchanov & Stangl(2023)「The myth of business cycle sector rotation」)。

出典:Molchanov & Stangl(2023)Table 3(Stovall〈1996〉の分類)、日本取引所グループ「TOPIX-17」ファクトシートよりKabuGraph作成。日本の業種への当てはめはKabuGraphによる

モデルの割り当てを、東証の業種に置き換えると次のようになります。TOPIX-17は、東証業種別株価指数の33業種を17業種にまとめた指数シリーズです(日本取引所グループ「TOPIX-17 情報通信・サービスその他」ファクトシート)。

  • ①拡張の初期:テクノロジー・運輸 → 電機・精密、情報通信(ソフトウェア)、運輸・物流

  • ②拡張の中盤:素材・資本財・サービス → 素材・化学、鉄鋼・非鉄、機械

  • ③拡張の終盤:生活必需品・ヘルスケア・エネルギー → 食品、医薬品、エネルギー資源

  • ④後退の初期:公益(電力・ガス、通信) → 電気・ガス、情報通信(通信)

  • ⑤後退の後半:一般消費財(自動車・建設・小売など)・金融(銀行・保険・不動産) → 自動車・輸送機、建設・資材、小売、商社・卸売、銀行、金融(除く銀行)、不動産

出典:Stovall(1996)の分類はMolchanov & Stangl(2023)のTable 3による。TOPIX-17業種への当てはめはKabuGraph作成

「回復期に強いのは金融? 素材・機械?」——区切り方が2つある

局面ごとの業種は、景気の局面で区切るか、株価の局面で区切るかで呼び方が変わると考えられます(KabuGraphの整理)。株価は景気より先に底を打つので、モデルで「⑤後退の後半」に強いとされる金融・一般消費財は、株価の局面でいえば「底からの回復の始まり」に当たります。一方、景気の谷を過ぎた後の時期に強いとされるのは、①②の電機・素材・機械などです。

「回復期は金融・不動産」は株価の局面、「回復期は素材・機械」は景気の局面で区切った言い方と考えると、両者の食い違いの多くは説明できます。局面ごとの業種の表を見るときは、どちらの区切りかを確かめます。

景気敏感株とディフェンシブ株

景気の波で業績が大きく上下する業種の株を景気敏感株(シクリカル株)、景気に左右されにくい業種の株をディフェンシブ株と呼びます。前回の景気後退期と、その後の1年の日本株(東証33業種ごとに、業種に属する上場銘柄の株価騰落率の中央値)では、次のように分かれました。

  • 景気敏感:後退期に大きく下げ、谷の後に大きく戻した

    • 後退期(2018年10月末→2020年5月末):石油・石炭製品−32.4%、証券・商品先物取引業−28.7%、ゴム製品−28.5%、輸送用機器−27.7%、海運業−26.4%、鉄鋼−22.8%

    • 谷からの1年(2020年5月末→2021年5月末):海運業+28.0%、証券・商品先物取引業+26.6%、鉄鋼+24.6%、電気機器+21.3%、輸送用機器+20.7%

  • ディフェンシブ:後退期の下げが小さく、谷の後は出遅れた

    • 後退期:食料品−4.5%、陸運業−4.9%、医薬品−5.1%、電気・ガス業−5.9%

    • 谷からの1年:医薬品−13.3%、陸運業−6.5%、電気・ガス業−3.7%、食料品+0.2%

  • どちらにも当てはまらない:銀行業

    • 後退期は−31.5%と大きく下げ、谷からの1年も−6.1%だった

出典:東証株価・内閣府「景気基準日付」よりKabuGraph算出。業種に属する上場銘柄の騰落率の中央値(月末終値、株式分割を調整、配当を含まない)。全銘柄の中央値は後退期−12.8%、谷からの1年+8.7%。2026年5月下旬以降も上場していた銘柄が対象(それより前に上場廃止になった銘柄は含まない)

なお、後退期に33業種で唯一、中央値がプラスだったのは情報・通信業(+2.5%)でした。業種ごとの今のPER・PBRは「業種別PER・PBR」のページで33業種を一覧できます。

景気敏感株は利益が大きく上下するため、利益で測るPERが景気の山で低く、谷で高く見えます。景気敏感株をPBRで見る理由は次の記事で解説しています。

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日本株で検証——2018〜2021年の後退期と、谷からの1年

Stovall(1996)のモデルは日本株にも当てはまるのか。内閣府が決めた第16循環の山(2018年10月)と谷(2020年5月)の月末で区切り、TOPIX-17の業種区分ごとに、業種に属する上場銘柄の株価騰落率の中央値と、日本取引所グループ(JPX)が算出するTOPIX-17業種別指数の騰落率を比べました。中央値の集計対象は2026年5月下旬以降も上場していた銘柄で、それより前に倒産・買収・合併などで上場廃止になった会社は入っていないため、中央値は高めに出ている可能性があります。

出典:日本取引所グループ(TOPIX・TOPIX-17業種別指数の指数値)・東証株価・内閣府「景気基準日付」よりKabuGraph算出。棒は業種に属する上場銘柄の騰落率の中央値(月末終値、株式分割を調整、配当を含まない。2026年5月下旬以降も上場していた銘柄が対象で、それより前に上場廃止になった銘柄は含まない。業種は2026年10月時点の分類)。◆はTOPIX-17業種別指数(浮動株ベースの時価総額加重、配当なし)の月末値の騰落率
  • 後退期(2018年10月末→2020年5月末):中央値で下げが小さかったのは食品−4.7%、医薬品−5.1%、電気・ガス−5.9%、大きかったのは銀行−31.5%、自動車・輸送機−27.9%、鉄鋼・非鉄−21.0%。業種別指数では医薬品+16.3%、電機・精密+10.8%、情報通信・サービスその他+10.1%が上がり、エネルギー資源−45.9%、鉄鋼・非鉄−34.0%、銀行−31.5%が大きく下げた。TOPIXは−5.0%、全銘柄の中央値は−12.8%

  • 谷からの1年(2020年5月末→2021年5月末):中央値で上昇が大きかったのは自動車・輸送機+20.7%、鉄鋼・非鉄+20.1%、電機・精密+19.6%、金融(除く銀行)+18.7%。業種別指数でも鉄鋼・非鉄+52.7%、電機・精密+42.2%、自動車・輸送機+33.4%、機械+33.1%が上位だった。医薬品(中央値−13.3%、指数−13.6%)と電気・ガス(−3.7%、−7.8%)は出遅れた。TOPIXは+23.0%、全銘柄の中央値は+8.7%

谷の後に景気敏感株が強く、ディフェンシブ株が出遅れるという形は、中央値でも業種別指数でも当てはまりました。一方、後退期にディフェンシブ株の下げが小さかったのは中央値で見た場合で、業種別指数では食品(−10.7%)と電気・ガス(−18.1%)がTOPIX(−5.0%)より大きく下げています。次の点もモデルどおりではありません。

銀行は「後退期の後半から強い」どころか大きく下げた

モデルでは金融は⑤後退の後半に強いとされますが、銀行は後退期全体で中央値・業種別指数とも−31.5%と大きく下げ(中央値では17業種で最下位)、谷からの1年も中央値−6.1%、業種別指数+22.5%と、TOPIX(+23.0%)を上回れませんでした。銀行株が大きく上がったのはその後で、2021年5月末→2026年9月末の騰落率は中央値+429.3%、業種別指数+432.6%と、どちらも17業種で最大です(全銘柄の中央値は+36.2%、TOPIXは+113.7%、KabuGraph算出)。業種別指数の2位以下は鉄鋼・非鉄+270.6%、エネルギー資源+261.4%、商社・卸売+246.9%で、最も低いのは医薬品+29.4%でした。

5年余りの長い期間では、上場廃止になった銘柄を含まない影響が中央値に特に出やすくなります。KabuGraphの見方では、この間の銀行株を動かしたのは景気の局面より金利です。日本銀行が2016年2月から2024年3月まで続けたマイナス金利政策の下では預金と貸出の利ざやが縮み(日本銀行「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入、日本銀行「金融政策の枠組みの見直しについて」)、金利が上がり始めると利益の見通しが大きく変わりました。銀行株と金利の関係は次の記事で解説しています。

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業種の「中央値」と「業種別指数」で順位が入れ替わる

図の◆はTOPIX-17業種別指数の騰落率です。業種別指数は浮動株ベースの時価総額で重みをつけるので(日本取引所グループ「TOPIX-17」ファクトシート)、時価総額の大きい銘柄の動きが強く出ます。後退期の医薬品は中央値−5.1%に対して業種別指数+16.3%で、時価総額の大きい第一三共(+133.8%)と中外製薬(+139.7%)が大きく上がったことが効いています(株式分割を調整した月末終値で比較、KabuGraph算出)。電機・精密(中央値−11.4%、指数+10.8%)、情報通信・サービスその他(−8.6%、+10.1%)も同じ形です。

同じ業種でも、時価総額の大きい一部の銘柄が業種別指数を動かし、典型的な銘柄とは逆の結果になることがあります。業種を当てても、どの銘柄を持つかで結果は大きく変わります。

後退期の終わりは新型コロナと重なった

第16循環の後退期は、2018〜19年に対外的な要因もあって製造業が悪化した時期(第22回景気動向指数研究会 議事要旨)に、2020年春の新型コロナの感染拡大が重なっています。内閣府も、2020年4〜6月期のマイナス成長を感染拡大という「経済外的要因」による下押しと説明しています(第21回景気動向指数研究会 資料1 p.8)。この期間の業種の値動きには、景気の局面と関係のない感染症の影響も入っています。

米国の研究では、局面を完全に当てても超過リターンは月0.16%

ニュージーランド・マッシー大学のMolchanov氏とStangl氏は、米国の1948〜2022年について、全米経済研究所(NBER)が定めた12回の景気循環に、欧州の債務危機やBrexit(英国のEU離脱)など3回の金融危機を後退期として加えた計15回で、Stovall(1996)のモデルを検証しています(Molchanov & Stangl(2023))。景気の局面を完全に言い当てられたとしても、リスク調整後の超過リターンは月0.16%で、「後退の初期だけ株式から離れる」単純な戦略の月0.18%に届かず、取引コストを入れるとすぐに消えるという結果でした。モデルどおりの局面で有意に市場を上回った業種は48業種中4つで、逆に3業種はモデルで強いはずの局面に有意に市場を下回っていました。

米国と日本では、景気の山と谷も違います。NBERによる米国の直近の山は2020年2月、谷は2020年4月で(NBER「Business Cycle Dating」)、日本の第16循環(2018年10月の山→2020年5月の谷)とは時期も長さも異なります。米国の景気後退期とS&P500の水準は「S&P500のPER・シラーPER(CAPE)」のページで重ねて見られます。

セクターローテーションを使う前に知っておきたい限界

  • 今の局面は後からしか分からない:山と谷の公式判定は1年以上後。毎月の基調判断も2024〜2026年に「下方への局面変化」「悪化」を経て「改善」に変わり、山が付くかどうかはまだ分からない

  • 株価は景気より先に動く:局面がはっきりした頃には、その局面で強いはずの業種はすでに上がっている。1991年以降、TOPIXの天井は景気の山の8〜23か月前だった

  • 金利・為替・資源価格・制度が局面より強く効くことがある:2021年5月末→2026年9月末の銀行(業種別指数+432.6%)やエネルギー資源(同+261.4%)の上昇は、景気の局面だけでは説明しにくい(KabuGraphの見方)

  • 業種の中の差が大きい:銘柄の中央値と業種別指数で逆の結果になる業種がある。業種を当てても、持つ銘柄で結果が変わる

  • 景気動向指数と株価は同じものを測っていない:CI一致指数は2018年10月の山(122.0)と2026年7月(120.6)がほぼ同じでも、TOPIXは2倍超になった。研究会でも、製造業に大きな比重を置く今の指数はGDPとの連動が薄れていると指摘されている(第22回景気動向指数研究会 議事要旨)

  • 乗り換えにはコストがかかる:売買のたびに手数料がかかり、上場株式の売却益には課税口座なら20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税)の税金がかかる(2026年10月時点、国税庁 タックスアンサー No.1463。詳しくはキャピタルゲインとインカムゲインの違い)

景気の局面と業種を確かめる手順

  1. 景気動向指数の基調判断と先行指数を見る:内閣府が毎月、前々月分を上旬に速報する(8月分は2026年10月7日の予定)。一致指数の判断が「改善」から「足踏み」「下方への局面変化」に変わったら、景気の山が過ぎた可能性を意識する

  2. 月例経済報告と日銀短観で裏を取る:政府の景気の認識と、企業が答える業況判断DI(業種別)を比べる。短観の次回は2026年12月調査で、12月14日に公表の予定(日本銀行「統計データの公表・掲載予定」)

  3. 金利の向きを確かめる:日銀の金融政策決定会合の結果を見る。利上げ局面か利下げ局面かで、金融相場・逆金融相場のどちらに近いかが変わる

  4. 業種の株価と評価を見る:業種の騰落率だけでなく、業種ごとのPER・PBRで期待が織り込まれすぎていないかを確かめる(業種別PER・PBR)

  5. 業種の中の銘柄を選ぶ:その会社の利益が景気のどの部分(在庫・設備投資・金利・為替・資源価格)で動くのかを決算短信で確かめる。業種全体を買うなら、TOPIX-17業種別指数(配当込み)に連動するETF(野村アセットマネジメントの「NEXT FUNDS」、銘柄コード1617〜1633)もある(日本取引所グループ「銘柄一覧(ETF)」、2026年9月30日現在)。ただし売買の少ない銘柄もあり、小売(1630)は2016年9月〜2026年6月の月末のうち31か月で終値が付いていない(KabuGraph調べ)。注文前に板と出来高を確かめる

業種ごとのPERの水準と読み方は次の記事にまとめています。

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よくある質問

今の日本の景気はどの局面?

公式には、2020年5月の谷の後の山が決まっておらず、局面は確定していません(2026年10月6日時点)。足元の判断は、景気動向指数が「改善を示している」(2026年7月分。8月分は2026年10月7日に公表予定)、月例経済報告が「緩やかに回復している」(2026年9月29日)です。2024〜2025年には基調判断が「下方への局面変化」「悪化」になった月もあり、この間に山と谷が付くかどうかは、今後の研究会の判断を待つことになります。

景気後退はどのくらい続く?

第2〜第15循環の後退期の平均は16.1か月です(内閣府 資料)。第2〜第16循環で最も短いのは第15循環の8か月、最も長いのは第9循環の36か月でした(内閣府「景気基準日付」)。

景気が悪くなると、株は全部下がる?

全部ではありません。2018年10月末→2020年5月末の後退期に、全銘柄の中央値は−12.8%、TOPIXは−5.0%でしたが、TOPIX-17の医薬品(+16.3%)・電機・精密(+10.8%)・情報通信・サービスその他(+10.1%)の業種別指数は上がり、33業種のうち情報・通信業の中央値も+2.5%でした(KabuGraph算出)。1980年代には、後退期を通じてTOPIXが上がった循環もあります。

セクターローテーションで儲かる?

確実な方法ではありません。日本の2018〜2021年では、谷の後に景気敏感株が強いという形は当てはまりましたが、後退期のディフェンシブ株の強さは中央値と業種別指数で食い違い、銀行のように外れた業種もありました。局面も後からしか確定しません。米国の75年分の検証でも、局面を完全に当てた場合ですら超過リターンは小さく、取引コストで消えるという結果です(Molchanov & Stangl(2023))。

シラーPERの「景気循環調整」とは?

景気の山で膨らみ谷で縮む利益の影響をならすため、過去10年の物価調整後の利益の平均でPERを計算する方法です。景気の局面に左右されにくい割高・割安の物差しとして使われます。

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まとめ

  • 景気サイクル(景気循環)は、拡張(谷→山)と後退(山→谷)の繰り返し。日本の山と谷は内閣府が1年以上たってから決める

  • 戦後は第16循環(2020年5月の谷)まで確定し、その後の山はまだ決まっていない(2026年10月6日時点)。景気動向指数の基調判断は2026年7月分で「改善」(8月分は2026年10月7日に公表予定)

  • 株価は景気より先に動く。1991年以降、TOPIXの天井は景気の山の8〜23か月前だった

  • セクターローテーションは、局面ごとに強い業種が入れ替わるという考え方。原型はStovall(1996)の5段階モデル

  • 2018〜2021年の日本株では、谷からの1年は自動車・鉄鋼・電機・機械が強く、医薬品・電気・ガスが出遅れた。後退期のディフェンシブ株の強さは中央値と業種別指数で食い違い、銀行はモデルに反して後退期に大きく下げ、その後、金利が上がる中で17業種最大の上昇になった

  • 局面は後からしか分からず、業種の中の差も大きい。業種の表を売買ルールにせず、自分の持つ業種が景気・金利の変化にどう反応するかを点検する枠組みとして使う

コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

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