優先株・劣後株とは|普通株との違いと、個人が買える社債型種類株式

優先株は、配当や会社をたたむときの残余財産を普通株より先に受け取れる株式、劣後株(後配株)は普通株より後に回る株式です。どちらも会社法が認める「種類株式」の通称で、優先株は代わりに株主総会の議決権を制限されているのが一般的です(会社法第108条(e-Gov法令検索)、SMBC日興証券「用語集:優先株」(2026年10月7日閲覧))。
劣後株は、名前の似た劣後債とは別物です。劣後債は借金(負債)の中で返済が後回しになる債券、劣後株は株主の中で後回しになる株式です。
個人が買える優先株もあります。2026年10月7日時点で東証に上場している優先株は7銘柄で(日本取引所グループ「優先株等 銘柄一覧」)、伊藤園の第1種優先株式と、ソフトバンク・インフロニアHD・ゼンショーHD・ANA HD・JALが出した「社債型種類株式」6銘柄です。社債型6銘柄の配当利回りは同日の終値で2.6〜4.1%ですが、6銘柄中5銘柄は発行価格を下回っています(KabuGraph算出)。
この記事では、普通株との違い、優先株の条件の読み方(累積型・参加型など)、誰がなぜ発行するのか、上場優先株の一覧と買う前の注意点、そして普通株主から見た影響(優先配当の先取り・転換による希薄化)までを、法令と各社の開示に沿って整理します。
この記事の内容(目次)
優先株・劣後株とは——配当と残余財産を受け取る順番が普通株と違う株
優先株・劣後株は、配当と残余財産を受け取る順番が普通株と違う株です。会社法は、剰余金の配当・残余財産の分配・議決権などについて内容の違う2種類以上の株式を発行することを認めています(会社法第108条1項(e-Gov法令検索))。配当や残余財産で普通株より前に立つ種類を優先株、後ろに立つ種類を劣後株と呼びます。
会社法の条文には「優先株」「劣後株」という言葉は出てきません。どちらも、定款で定めた種類株式の中身を表す通称です。
普通株との違い
配当
優先株:決まった額(発行価格×配当年率など)を普通株より先に受け取る
普通株:優先株に払った後の残りから、会社が額を決める
劣後株:普通株への配当の後に回る
残余財産(会社をたたむとき)
優先株:発行価格などの決まった額を普通株より先に受け取る
普通株:債権者と優先株に払った残りを、株数に応じて分ける
劣後株:普通株の後に回る
議決権
優先株:無いことが多い(定款で決める)
普通株:ある
株価の動き
配当が決まっている優先株:主に市場金利と会社の信用力で動く
普通株:業績や成長への期待で動く
株価の動きの違いは、東証が社債型種類株式について示している説明です(日本取引所グループ「社債型種類株式」)。
会社法は、配当と残余財産のどちらも受け取れない株式は認めていません(会社法第105条2項)。劣後株も、後回しになるだけで権利は残ります。また上場会社のような公開会社は、議決権に制限のある株式を発行済株式の半分までしか出せません(同第115条)。
劣後株は「劣後債」とは別物
劣後株は株主の中で後回しになる株式、劣後債は借金の中で後回しになる債券です。劣後債の持ち主は債権者なので、利息と元本は株主への配当や残余財産より先に払われます。会社法も、清算する会社は債務を弁済した後でなければ株主に財産を分配できないと定めています(会社法第502条)。
順番で並べると「普通社債・借入 → 劣後債 → 優先株 → 普通株 → 劣後株」です。銀行や保険会社が出す劣後債・AT1債の仕組みとリスクは、こちらで説明しています。

劣後債とは|弁済順位の仕組みからAT1債・クレディスイス全損事例まで解説
劣後債(劣後特約付社債)の意味と仕組みを弁済順位の図解で解説。期限付劣後債・永久劣後債・AT1債の違い、バーゼルIIIの自己資本規制との関係、クレディ・スイスAT1債の全損事例、個人投資家のリスクまで網羅します。
劣後株はどこで使われる?
劣後株は、普通株主の取り分を減らさずにお金を集めたいときに使われます(大和証券「金融・証券用語解説集:劣後株式」(2026年10月7日閲覧))。会社をつくるときに発起人の株を後回しにしたり、設備を増やすための新株を、その設備が動き出すまで後回しにしたりする使い方が知られています(コトバンク「後配株」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、2026年10月7日閲覧))。
個人が劣後株を売買する場面は、まずありません。東証が普通株と別に上場を認める「優先株等」は、非参加型優先株と子会社連動配当株に限られ(日本取引所グループ「優先株等 概要」)、2026年10月7日時点の優先株等の上場銘柄にも劣後株はありません。
優先株の条件の読み方——累積型・参加型、議決権、転換と買い戻し
同じ「優先株」でも、配当や買い戻しの条件は銘柄ごとに違います。買う前・持っている会社が発行したときに確かめたいのは、次の4点です。
累積型か非累積型か:優先配当を払えなかった年の不足分を、翌年以降に普通株より先に払うのが累積型、繰り越さないのが非累積型です(野村證券「証券用語解説集:優先株式」(2026年10月7日閲覧))
参加型か非参加型か:決まった優先配当に加えて普通株の配当も受け取れるのが参加型、決まった額までしか受け取れないのが非参加型です(同)
議決権:多くは無議決権です(SMBC日興証券「用語集:優先株」)。株式の内容の変更や合併など、ある種類の株主に損害が及ぶおそれがある決定には、その種類の株主だけで開く種類株主総会の決議が要るのが原則です(会社法第322条1項)。ただし定款で外すこともでき(同2項)、上場の社債型種類株式6銘柄はどれも外したうえで、合併で会社が消える場合などに限って種類株主総会を開く定めにしています(東京証券取引所「新規上場銘柄概要 日本航空 第1回社債型種類株式」p.5など)
転換と買い戻し:株主が会社に普通株などとの交換を求められる「取得請求権」と、会社が決まった条件で買い戻せる「取得条項」があります(会社法第108条1項5号・6号)
取得請求権(転換)と取得条項(買い戻し)
取得請求権の付いた優先株は、株主の請求で普通株に替わると普通株の数が増えます。原子力損害賠償・廃炉等支援機構が引き受けた東京電力HDの優先株にもこの権利が付いており、普通株主にとっては希薄化の種になります(後述)。
取得条項は会社の権利です。上場している社債型種類株式はどれも、払込から5年たつと会社が「発行価格+未払いの配当+経過した期間の配当」で買い戻せる条件で、普通株への転換権も、株主の側から買い戻しを求める条件もありません(東京証券取引所「新規上場銘柄概要 日本航空 第1回社債型種類株式」)。JAL以外の5銘柄は、格付会社が資本としての評価を発行時の想定より引き下げた場合(資本性変更事由)にも、5年たつ前に買い戻せます(同「ソフトバンク 第1回社債型種類株式」p.2など)。買い戻すかどうかを決めるのは会社です。
誰がなぜ優先株を出すのか——公的な資本注入と、議決権を薄めない資本の調達
優先株は、議決権を渡さずに、借金ではない「資本」を厚くしたいときに使われます。公的機関などの特定の相手に割り当てることもあれば、社債型種類株式のように広く売り出すこともあります。
公的な資本注入:りそなは2015年に完済、東京電力HDの優先株は今も機構が保有
2003年9月末:りそなHDに入っていた公的資金は注入額ベースで3兆1,280億円、うち優先株式が2兆5,315億円でした(りそなHD「『公的資金完済プラン』の策定について」(2013年5月10日)p.2)
2012年7月31日:東京電力(現 東京電力HD)が原子力損害賠償支援機構(現 原子力損害賠償・廃炉等支援機構)にA種優先株式(1株200円、計3,200億円)とB種優先株式(1株2,000円、計6,800億円)、合わせて1兆円を割り当てました(東京電力HD 有価証券報告書 2026年3月期 PDF p.70)
2015年6月:りそなグループが公的資金を完済しました(りそなHD「公的資金の完済について」)
2026年3月31日:機構は東京電力HDのA種・B種優先株式19.4億株を持ち、発行済株式(自己株式を除く)の54.75%にあたります(同 有価証券報告書 PDF p.72)
東京電力HDの優先株は、A種が議決権あり、B種が議決権なしで、どちらも普通株への交換を請求できます。2種類に分けたのは、機構が総議決権の2分の1超を持ちつつ、B種をA種に替えれば3分の2超まで議決権を増やせるようにするためだと会社は説明しています(同 PDF p.59)。公的機関が持つ優先株は、資本を出すと同時に経営に関わる手段にもなります。東京電力HDも、機構が議決権を行使することなどで事業運営に影響が生じる可能性があるとしています(同 PDF p.37)。
議決権を薄めずに資本を増やす:社債型種類株式
2023年以降に上場が続く社債型種類株式は、議決権も普通株への転換権も無い優先株です。発行の準備を進める電通グループは、会計上は全額が資本、格付会社(R&I)の評価では半分が資本として扱われる見込みで、公募増資と違って議決権の希薄化が生じない点を挙げています(電通グループ「社債型種類株式に関するご説明資料」(2026年2月13日))。ソフトバンクも「既存の当社普通株主の皆さまの利益を可能な限り損なわず自己資本の拡充を実現する調達手段」として選んだと説明しています(ソフトバンク「社債型種類株式」)。
電通グループは2026年3月27日の株主総会で、社債型種類株式を出せるようにする定款変更を賛成99.61%で可決しました(電通グループ「第177回定時株主総会 議決権行使結果のご報告」)。2026年10月7日時点で、東証の銘柄一覧にはまだ載っていません。
第三者割当・スタートアップ・メザニン・銀行の自己資本
特定の相手に優先株を割り当てるのは第三者割当の一種です。払込金額(有利発行)や希薄化率のルールの考え方は、第三者割当増資の記事で説明しています。

第三者割当増資とは|時価90%・希薄化25%のルールと株価への影響、2026年9月の26件で見る提携型とMS型の違い
第三者割当増資は特定の相手に新株を割り当てる増資。払込金額の目安は前日終値の90%以上で、希薄化率25%以上なら独立者の意見か株主の意思確認が必要。2026年9月の実例では提携型は上昇が多く、MS型7社は翌日すべて下落した。開示の読み方も解説。
未上場のスタートアップが、ベンチャーキャピタルのファンドなどに優先株を割り当てて資金を集め、上場の前に普通株に替える例もあります。2025年に東証グロース市場へ上場したフライヤーは、ファンドなどに割り当てていたA種・B種優先株式を2024年10月11日に取得条項に基づいてすべて取得し、代わりに普通株式40,808株を交付しています(フライヤー「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(2025年1月17日提出)p.36)。
買収や事業承継の資金で、借入(シニアローン)と普通株の間を埋める「中二階」として優先株を使う方法は、メザニンファイナンスの記事で説明しています。

メザニンファイナンスとは|シニアローンとエクイティの間を埋める「中二階」の資金調達
メザニンファイナンスの仕組みをシニアローン・エクイティとの返済順位の比較で図解。劣後ローン・優先株式・転換社債の違い、LBOでの活用、日本市場の動向まで解説します。
銀行が出す優先株は、元本の削減や株式への転換の条件などを満たすと、規制上の自己資本の「その他Tier1(AT1)」に数えられます(金融庁「バーゼル規制の概要」p.4)。

銀行の自己資本比率の見方と計算方法|最低水準は8%と4%、決算短信の数%とは別物
銀行の自己資本比率は、自己資本を、貸出などを損失の出やすさで数え直したリスク・アセットで割って計算します。決算短信1ページ目の数%とは別物で、最低水準は海外拠点のある銀行が8%(CET1は4.5%)、国内だけの銀行が4%です。
個人が買える優先株——東証に上場する7銘柄と優先出資証券
2026年10月7日時点で、東証に上場している優先株は7銘柄です(日本取引所グループ「優先株等 銘柄一覧」)。2007年から上場する伊藤園の第1種優先株式と、2023年以降に上場した社債型種類株式6銘柄です。上場できるのは普通株が上場している会社の優先株だけで(同「優先株等 上場制度」)、売買の時間や値幅制限などのルールは普通株と同じです(同「優先株等 売買制度」)。
上場している優先株は上場株式なので、NISAの成長投資枠でも買えます(監理銘柄・整理銘柄を除く。日本証券業協会「2024年以降のNISAに関するQ&A」(2025年9月)p.11)。新しく発行されるときは、引受けの証券会社に申し込めば発行価格で買えます。JALの第1回は1株1万円で、申込期間は2026年5月20日〜6月2日でした(日本航空「新規上場申請のための有価証券報告書」p.7)。銘柄コードは普通株と別なので、注文のときは取り違えないようにします(JALの普通株は9201、社債型は92015)。
銘柄・コード | 配当の決め方 | 終値(円) | 利回り |
|---|---|---|---|
伊藤園 第1種優先株式 | 普通株の配当×1.25(下限15円) | 1,863 | 3.22% |
ソフトバンク 第1回 | 4,000円×年2.5% | 3,795 | 2.64% |
インフロニアHD 第1回 | 5,000円×年2.6% | 4,623 | 2.81% |
ソフトバンク 第2回 | 8,000円×年3.2% | 7,490 | 3.42% |
ゼンショーHD 第1回 | 5,000円×年4.0% | 4,900 | 4.08% |
ANA HD 第1回 | 5,000円×年3.5% | 4,720 | 3.71% |
JAL 第1回 | 10,000円×年4.0% | 10,170 | 3.93% |
社債型種類株式の終値と発行価格の差(2026年10月7日)
6銘柄中5銘柄が発行価格を下回っています。東証は、社債型種類株式の株価は「主に市場金利や発行会社の信用力に連動」すると説明しています(日本取引所グループ「社債型種類株式」)。この間に金利は上がり、5年物国債の利回りは、ソフトバンク第1回の払込日(2023年11月1日)の0.489%から、2026年10月6日には2.418%になりました(財務省「国債金利情報」)。
伊藤園の優先株は、普通株の1.25倍の配当
伊藤園は2007年9月、普通株1株につき0.3株の割合で優先株を無償で割り当て、東証一部に上場させました。優先株の配当は普通株の1.25倍(下限15円、未払い分は累積)で、議決権は無く、残余財産は普通株と同じ扱い、株主から普通株への転換は求められません(伊藤園「優先株について」)。合併やTOBで買収者が50%超を握った場合などには、会社が普通株と1対1で交換して優先株を取得することがあります(同)。
2026年4月期の年間配当は普通株48円・優先株60円でした(伊藤園「配当情報」)。2026年10月7日の終値は普通株3,091円・優先株1,863円で、利回りは普通株1.55%・優先株3.22%です(KabuGraph算出)。配当の多い優先株の方が株価は約4割安く、議決権が無いことなど権利の違いが価格の差に表れていると見られます(KabuGraphの見方)。
2027年4月期の会社予想は普通株52円・優先株66円(中間・期末とも33円)で(伊藤園 2027年4月期 第1四半期決算短信(2026年9月1日))、10月7日の終値に対する予想利回りは普通株1.68%・優先株3.54%です(KabuGraph算出)。
信金中央金庫の優先出資証券は「株」ではない
東証には、信金中央金庫の優先出資証券(コード8421、2000年12月22日上場、1口単位)も上場しています(日本取引所グループ「優先出資証券 銘柄一覧」)。協同組織金融機関が優先出資法に基づいて出す証券で、配当は普通出資より優先されますが、議決権も普通出資への転換権もありません(同「優先出資証券 概要」)。優先株と仕組みは似ていても、根拠の法律が違う商品です。
社債型種類株式を買う前に確かめたい5つのこと
社債型種類株式は「社債に似た株」です。社債と同じ感覚で買うと見落としやすい点を、東証の説明と発行条件から5つ挙げます。
金利が上がると株価は下がる:固定配当の期間中に金利が上がると、株価は下がりやすくなります。上の図のとおり、2026年10月7日時点で6銘柄中5銘柄が発行価格を下回っており、途中で売れば損が出ます
5年後に買い戻されるとは限らない:ANA HDは、多くの投資家が5年後からの買い戻しを期待していることを「十分に認識」しつつ、実際に買い戻すかは「その時点の事業・財務状況や市場環境等を総合的に勘案して判断」するとしています(ANA HD「社債型種類株式」)。東証も、大幅な金利上昇や財務の悪化で想定の時期に買い戻されず、株価が大きく下がるおそれを挙げています(日本取引所グループ「社債型種類株式」)
発行価格より高く買うと、買い戻しで値下がり分の損が出る:買い戻しの価格は発行価格に未払い・経過分の配当を足した額です。JALの第1回は2026年10月7日の終値が10,170円で、発行価格10,000円を上回っています。この値段で買い、最短の2031年6月3日に買い戻された場合を概算すると、次のとおりです(東京証券取引所「新規上場銘柄概要 日本航空 第1回社債型種類株式」の配当年率・取得条項からKabuGraph算出)
受け取る配当:2027年3月期の期末200円(2026年9月末基準の期中配当131.50円は、10月に買うと受け取れない)+2028〜2031年3月期の年400円×4年=1,800円
買い戻しで受け取る額:発行価格10,000円+2031年4月1日〜6月3日の経過配当70.13円(400円×64日÷365日)=10,070.13円
損益:1,800円+10,070.13円−10,170円=+1,700.13円。買い戻しの額は買値より99.87円少ないが、配当がそれを上回る。約4.65年の保有で年およそ3.6%。表の利回り3.93%より低くなる
前提:10月7日に買って10月9日に受け渡し、配当は毎回払われ、経過配当は6月3日までの日数で計算する。売買手数料と税金(配当にかかる20.315%、買い戻しのときのみなし配当・譲渡損益)を含めない概算
配当は約束ではない:配当は普通株より先でも、社債の利払いより後です。分配できる利益(分配可能額)が無ければ配当は出ません(日本取引所グループ「社債型種類株式」)。累積型なので不足分は後で払われる定めですが、払える状態に戻る保証はありません
議決権は無く、優待は銘柄による。買い戻し時は税金の計算が変わる:社債型には議決権が無く、ソフトバンクとANA HDは社債型に株主優待を実施しないとしています(ソフトバンク「社債型種類株式」、ANA HD「社債型種類株式」)。JALは第1回社債型種類株式を長く持つ個人株主に、保有株数に応じてLife Statusポイントを付ける特典を用意しています(2027年3月末の株主名簿を起点に計3回。2026年5月19日提出の日本航空「新規上場申請のための有価証券報告書」p.10)。会社が買い戻すと、みなし配当や譲渡損益が出て税金の手続きが要ることがあります(日本取引所グループ「社債型種類株式」)
会社に株を買い取られたときに、受取額の一部が配当として課税される「みなし配当」の仕組みは、こちらで計算例とともに説明しています。

みなし配当とは|自社株TOBや非上場株の買取りで受取額の一部が配当課税に、計算例と税率
みなし配当の定義・発生するケース・計算方法・税率を具体的な計算例つきで解説。自己株式取得や資本の払戻しで生じる課税の仕組み、確定申告での総合課税・申告分離課税の選択まで。
普通株主から見た優先株——配当の先取り、EPSの計算、転換による希薄化
自分が持っている普通株の会社が優先株を出すと、配当も残余財産も優先株の後に回ります。影響は3つに分けて見ると読みやすくなります。
1. 優先配当の分だけ、普通株の取り分が減る
優先配当は普通株の配当より先に払われます。JALの第1回社債型種類株式は2,000万株×年400円で、年80億円の優先配当が普通株への配当より先に出ていきます(満年度の額。初年度の2027年3月期は払込日からの日割りで1株331.50円、計約66億円)。年80億円はJALの2026年3月期の純利益1,376億円の約6%です(東京証券取引所「新規上場銘柄概要 日本航空 第1回社債型種類株式」、日本航空 2026年3月期 決算短信よりKabuGraph算出)。
そのため、会社はEPS(1株当たり利益)を、当期純利益から優先配当を引き、普通株の数で割って計算します(電通グループ「社債型種類株式に関するご説明資料」)。BPS(1株当たり純資産)も、純資産から優先株の払込額を引いて計算します。東京電力HDは、2026年3月末の純資産3兆4,183億円から優先株式の払込額1兆円などを引いて、1株当たり純資産1,491円01銭を出しています(東京電力HD 有価証券報告書 2026年3月期 PDF p.162)。

EPS(1株あたり利益)とは|計算式と変動要因4パターン、PER・配当性向への読み替え方
EPS(Earnings Per Share・1株あたり利益)の計算式・変動要因(増益・自社株買い・増資・株式分割)を解説。PER・配当性向・PEGレシオなど他の投資指標との関係と、投資判断への活用法がわかります。
2. 普通株に替わる優先株は、潜在的な希薄化になる
普通株への取得請求権が付いた優先株は、請求されると普通株が増えます。東京電力HDの2025年3月期のEPSは100円67銭でしたが、優先株がすべて普通株に替わったと仮定した「潜在株式調整後」のEPSは32円68銭で、約3分の1でした(A種・B種で計33.3億株の増加を見込む計算。同 PDF p.162・p.163)。2026年3月期は赤字のため、潜在株式調整後のEPSは開示されていません(同)。会社自身も、普通株を対価とする取得請求が行われれば希薄化が進み、株価が下がるおそれがあるとしています(同 PDF p.37)。
交付される普通株の数は、払込額を「取得価額」で割って決まります。東京電力HDの取得価額は請求直前5日間の終値平均の90%で、300円が上限、30円が下限です(同 PDF p.58・p.59)。1兆円を300円で割ると33.3億株、30円なら333億株で、株価が下がるほど、交付される普通株は多くなります。2026年3月末の普通株の発行済株式数は16.07億株でした(東京電力HD「株式等の状況」)。
りそなHDも公的資金の完済プランで、預金保険法に基づく優先株式の「潜在株式数を、早期に、可能な限り減少させる」必要を、プランを作った理由の1つに挙げていました(りそなHD「『公的資金完済プラン』の策定について」p.2)。優先株の取得請求で普通株が大きく増えうる例は、債務超過の会社の記事でも取り上げています。
3. 社債型種類株式は、株数は増えず影響は優先配当の分
社債型種類株式には普通株への転換権が無いので、普通株の数は増えません。電通グループは、普通株のEPS・ROEへの影響は「限定的」で、主な影響は優先配当の分に限られると説明しています(電通グループ「社債型種類株式に関するご説明資料」)。普通株主として見るのは、優先配当の総額が利益に対してどのくらいかです。
よくある質問
優先株は値上がりする?
社債型種類株式は非参加型で、業績が伸びても配当は増えず、株価は主に金利と会社の信用力で動きます(日本取引所グループ「社債型種類株式」)。値上がり益より配当を受け取る商品です。伊藤園の優先株は配当が普通株の1.25倍なので、普通株が増配すれば配当も増えます。
優先株の株主は株主優待をもらえる?
銘柄によります。伊藤園は普通株・優先株のどちらにも優待を出してきましたが、2026年9月29日に優待の廃止を決め、2026年4月30日を基準日とする分が最後になりました(伊藤園「株主優待制度の廃止に関するお知らせ」(2026年9月29日))。社債型種類株式では、ソフトバンクとANA HDは優待を実施せず(ANA HD「社債型種類株式」など)、JALは長く持つ個人株主にLife Statusポイントを付けます(日本航空「新規上場申請のための有価証券報告書」p.10)。
会社が破綻したら、優先株と劣後債はどちらが先?
劣後債が先です。劣後債は負債で、会社法は、清算する会社は債務を弁済した後でなければ株主に財産を分配できないと定めています(会社法第502条)。破産の場合も、劣後債は破産手続で配当を受ける債権の一つ(約定劣後破産債権)として扱われます(破産法第99条2項(e-Gov法令検索))。ただし銀行のAT1債のように、破綻の前に契約で元本が削られる債券もあります(劣後債の記事)。
米国の優先株は買える?
東証にも、米国の優先証券に投資するETFが上場しています(2026年10月時点)。たとえば「グローバルX 米国優先証券ETF」(コード2866)は、米国に上場するGlobal X U.S. Preferred ETF(PFFD)を通じて米国の優先証券に投資します(Global X Japan「グローバルX 米国優先証券 ETF」)。円で売買できますが、中身はドル建ての資産なので為替の影響を受けます。
劣後株は買える?
市場で売買できる劣後株はありません。東証が普通株と別に上場を認める「優先株等」は非参加型優先株と子会社連動配当株で(日本取引所グループ「優先株等 概要」)、2026年10月7日時点の銘柄一覧にも劣後株はありません。
まとめ
優先株は配当と残余財産を普通株より先に、劣後株(後配株)は後に受け取る株。どちらも会社法108条の種類株式の通称で、優先株は無議決権が多い
劣後株と劣後債は別物。劣後債は借金の中で最後、劣後株は株主の中で最後
条件は4点で読む:累積型か、参加型か、議決権の有無、普通株への転換(取得請求権)と会社の買い戻し(取得条項)
発行するのは、公的な資本注入(りそなは2015年に完済、東京電力HDの優先株は今も原子力損害賠償・廃炉等支援機構が保有)や、議決権を薄めずに資本を増やしたい会社(社債型種類株式)
個人が買える上場優先株は7銘柄(2026年10月7日時点)。社債型6銘柄の利回りは2.6〜4.1%だが、5銘柄が発行価格割れ。株価は金利で動き、5年後の買い戻しも約束ではない
普通株主から見ると、優先配当の分だけ取り分が減り、普通株に替わる優先株は希薄化の種になる。決算短信の「潜在株式調整後」EPSで確かめる








