有事の円買い・ドル買いとは|なぜ買われるのか、今も起きるのか

有事の円買いとは、戦争・テロ・金融危機・大災害などで世界の先行きが急に不透明になったとき、外国為替市場で円が買われて円高になる現象です。有事のドル買いは、同じような場面で基軸通貨の米ドルが買われることを指します。どちらも、投資家がリスクの高い資産から逃げる「リスクオフ」のときの通貨の動きです。
円が買われる理由は1つではありません。「日本は対外純資産が大きいから」が通説ですが、IMFの研究者の分析は有事に実際に資金が日本へ戻っているとは確認できないとし、国際通貨研究所は低金利の円を借りた取引(キャリー取引)の巻き戻しを主因とみています。
2001年以降の9つの局面を日本銀行とBISのデータで確かめると、リーマン・ショック、コロナ・ショック、2024年8月の株安、2025年4月の米国の関税では円が対ドルで5.2〜9.3%上がった一方、2022年のロシアのウクライナ侵攻と2026年2月末のイランへの攻撃では円安が進みました。2026年はその後も円安が進み、財務省は4月30日〜5月6日に11兆7,349億円の円買い介入をし、7月31日(米国東部時間)には米国と協調して円買い介入をしています。
この記事では、有事の円買い・ドル買いの意味と違い、円が買われる理由とそれぞれ誰の説明か、過去の局面の実際の値動き、今も起きるのか、日本株への影響と投資家が見るべき指標を、公的な統計と研究で解説します(ドル円は2026年10月5日、政策金利は2026年10月7日時点)。
この記事の内容(目次)
有事の円買い・有事のドル買いとは——リスクオフで円とドルが「逃げ場」になる
「有事」は、戦争・テロ・金融危機・災害など、市場の不安を大きく高める出来事です。こうした局面で投資家が株式や高金利通貨などから、国債など相対的に安全と思われる資産へお金を移すことをリスクオフ(リスク回避)と呼びます(大和証券「金融・証券用語解説:リスクオフ」、2026年10月7日閲覧)。為替市場では、日本円は米ドル・スイスフランと並ぶ主要な「安全通貨」とされてきました(国際通貨研究所 橋本将司「安全通貨としての円について」(2022年8月24日) p.3)。
有事の円買い:有事に円が買われて円高になること。「リスクオフの円買い」とも呼ばれる。円は2000年代半ば以降、世界経済や地政学の先行きが不透明になる局面で買われる傾向が続いてきた(国際通貨研究所 髙山真「『有事の円買い』は過去のものか?」(2025年6月9日) p.1)
有事のドル買い:戦争や武力紛争などの非常事態のときに、国際的な信認が厚く流動性が高い米ドルが買われること(大和証券「金融・証券用語解説:有事のドル買い」、2026年10月7日閲覧)。2025年4月の世界の外国為替取引の89%は、売りか買いの一方が米ドルだった(BIS「Global FX trading hits $9.6 trillion per day in April 2025」、2025年9月30日)
有事の円買いと有事のドル買いの違い
買われる理由
円:低金利の円を借りて運用していた取引の巻き戻しや、対外純資産の大きさからの連想(次章)
ドル:世界で最もよく使われる通貨で、危機のときにはドルの借入れを返す・ドルで支払う需要が急に増える。2020年3月にはドルの資金市場の混乱が世界に広がった(BIS Bulletin No 15)
過去に目立った場面
円:米国発・欧州発の金融危機や世界的な株安(2008年・2016年・2024年・2025年)
ドル:世界的なドル資金の不足(2020年3月)、ロシアのウクライナ侵攻(2022年)、原油の供給不安(2026年3月)。米国自身が攻撃された2001年9月はドル円が円高に動いた
ドル円への表れ方
円:ドル円が下がる(円高)
ドル:ドル円が上がる(円安)。両方が同時に起きると、どちらが強いかで決まる
円が「安全通貨」らしく動くようになったのは、比較的新しいことです。国際通貨研究所の橋本将司氏は、円が安全通貨としての動きを強めたのは2000年代半ば以降で、それ以前の円は、ドルが売られるときに代わりに買われる「受け皿」の通貨としての性格が強かったと分析しています。資源国・新興国の通貨がドルの受け皿に選ばれやすくなり、円はドルと同じ向きに動きやすくなった、という見立てです(国際通貨研究所 橋本将司「安全通貨としての円について」(2022年8月24日) 要旨)。
ドル円は「円買い」と「ドル買い」の綱引き
有事には円もドルも買われるので、ドル円(1ドル=何円)だけを見ていると「円が買われたか」を見誤ります。ユーロや豪ドルなどに対して円が買われていても、ドルがそれ以上に買われればドル円は上がります(円安)。国際通貨研究所も、リスクオフの局面の円の動きをとらえるには、対ドルだけでなく、多くの通貨に対する平均である実効為替レートを見る必要があるとしています(国際通貨研究所 髙山真「『有事の円買い』は過去のものか?」(2025年6月9日) p.1〜2)。
2020年3月がその典型です。ドル円は2月21日の111.74円から3月9日に102.24円まで円高が進んだ後、23日には110.24円に戻りました。それでも円の実効為替レートは2月21日より4.1%高く、円はドル以外の通貨に対しては買われたままでした(日本銀行・BISのデータからKabuGraph算出)。同じ時期、米国のドル資金市場の混乱は世界に広がり(BIS Bulletin No 15「US dollar funding markets during the Covid-19 crisis - the international dimension」、2020年5月12日)、3月15日には日銀を含む6つの中央銀行がドル資金の供給を拡充する協調策を発表しています(FRB「Coordinated Central Bank Action to Enhance the Provision of U.S. Dollar Liquidity」、2020年3月15日)。
なぜ有事に円が買われるのか——4つの説明と、それぞれ誰の説明か
有事に円が買われる理由は、研究機関の間でも説明が分かれています。主な説明は次の4つで、どれか1つで決まるわけではありません。
① 日本は対外純資産が大きい——通説だが、資金が戻るとは限らない
最もよく聞く説明は、「日本は海外に持つ資産が負債より大きい(対外純資産が大きい)ので、有事には日本の投資家が海外の資産を売って円に戻す」というものです。国際通貨研究所も、経常黒字で対外純債権国という日本の対外バランスの良さなどが有事の円買いの要因とされてきた、と整理しています(国際通貨研究所 髙山真「『有事の円買い』は過去のものか?」(2025年6月9日) p.1)。
ただし、IMFの研究者による2013年の分析は、リスクオフのときの円高は資本の流入でも金融政策の予想でも説明できないとしています(IMF Working Paper WP/13/228「The Curious Case of the Yen as a Safe Haven Currency: A Forensic Analysis」(2013年11月)。分析に使ったのは1990年代〜2011年初めのデータ)。KabuGraphの見方では、日本の投資家が実際に資金を戻しているというより、「戻すかもしれない」という連想が先回りの円買いを呼んでいると考えられます。
対外純資産そのものは今も大きく、2025年末は561兆7,504億円で8年連続で増えました。ただし財務省がまとめた主要国の比較では、ドイツ(675兆5,374億円)・中国(636兆3,391億円)に次ぐ3番目です(財務省「令和7年末現在本邦対外資産負債残高の概要」・参考3「主要国(地域)の対外純資産」、2026年5月26日)。2023年末までは33年連続で世界最大でした(財務省「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会 報告書、2024年7月2日、p.3)。首位を外れたのは2024年末で、ドイツ(569兆6,512億円)に次ぐ2番目でした(財務省「主要国(地域)の対外純資産」令和6年末)。
② キャリー取引の巻き戻し——国際通貨研究所が「主因」とみる説明
キャリー取引(キャリートレード)は、金利の低い通貨で借りて、金利の高い通貨や資産で運用し、金利差を稼ぐ取引です。円は長く金利が低く、借りる側の通貨(調達通貨)に選ばれてきました。有事に運用先の資産が値下がりすると、取引をやめて借りた円を返すために円を買い戻すので、円高になります。
国際通貨研究所の橋本将司氏は、円とスイスフランを安全通貨にしている主因を、低インフレ・低金利を背景にこれらの通貨を調達通貨としたキャリー取引とその巻き戻しとみています(国際通貨研究所 橋本将司「安全通貨としての円について」(2022年8月24日) 要旨)。2024年8月の株安でも、BISはレバレッジをかけた取引の巻き戻しが市場の反応を増幅し、円のキャリー取引が大きな打撃を受けたと分析しました(BIS Bulletin No 90「The market turbulence and carry trade unwind of August 2024」、2024年8月27日)。キャリー取引の仕組みや損益の計算、2024年8月の経緯は、キャリートレードの記事で詳しく扱います。

キャリートレードとは|金利差で稼ぐ仕組みと、円高・株安を招く巻き戻し
キャリートレードは金利の低い通貨で借りて高い通貨で運用し、金利差を稼ぐ取引。日米の翌日物金利差は年2.65%(2026年10月5日)で、ドル円が1年で約2.6%下がる(円高)と利益は消える。2024年8月の巻き戻しでは日経平均が1日で4,451円下げた。
③ デリバティブの持ち高の変化——資金が動かなくても円高になる
IMFの2013年の分析は、リスクオフの局面では先渡し(為替予約)によるヘッジが増え、円の売り持ち(円安に賭けた持ち高)が縮んだり円の買い持ちが積み上がったりしており、こうしたデリバティブの取引が国境を越える資金の移動なしに直物の円相場を動かしているとしています(IMF Working Paper WP/13/228「The Curious Case of the Yen as a Safe Haven Currency: A Forensic Analysis」(2013年11月))。
担い手は投機筋だけではありません。同じ分析は、リスクオフで円高になることがよく知られているため、日本の輸出企業や海外子会社、ドル資産を持つ投資家には、有事にヘッジを増やす動機があると指摘しています(同)。KabuGraphの見方では、経験則そのものが先回りの円買いを呼ぶこの動きは、①の通説と表裏の関係にあります。
④ 低インフレ・低金利の通貨——②③の土台
橋本氏は、円とスイスフランが頑健な対外バランスなど安全通貨としての素養を備えているとしたうえで、両者に最も特徴的なのは低インフレと低金利だと指摘しています(国際通貨研究所 橋本将司「安全通貨としての円について」(2022年8月24日) 要旨)。金利が低いから円は借りられ、借りられているから有事に買い戻される、という関係です。
過去の有事で円とドルはどう動いた?——9つの局面を日銀・BISのデータで
2001年以降の主な有事・市場の急変9つについて、発生前の日から1か月以内に円がどこまで上がったかを、対ドル(日本銀行が公表する東京市場のドル円17時)と、64か国・地域の通貨に対する平均(BISの円の名目実効為替レート)で計算しました。局面は、大きな戦争・テロの発生、日本の大災害、世界的に株価が急落した局面から選んでいます(KabuGraphの選定)。
有事のあと1か月で円は最大どれだけ上がったか
円が対ドルで5%を超えて上がったのは、リーマン破綻(8.4%)・コロナ・ショック(9.3%)・2024年8月(5.2%)・2025年4月(6.7%)の4回です。一方、2022年のロシアのウクライナ侵攻と2026年のイランへの攻撃では、円は対ドルでほとんど上がらず、実効為替レートでもわずかでした。どちらもその後の1か月で円安が進んでいます。
局面ごとのドル円(東京市場17時)
2001年9月 米同時多発テロ:9月11日121.72円→21日116.78円。米国が攻撃された局面で、ドル円は円高に動いた
2008年9月 リーマン・ブラザーズの破綻:9月12日107.50円→10月10日99.17円。円高はその後も続き、12月18日に87.92円。円の実効為替レートは1か月で最大11.9%上がった
2011年3月 東日本大震災:3月10日82.77円→17日79.22円(東京市場の取引時間中は77.15円)。18日に日本と米・英・加・ECBが協調介入し(ECB掲載「Statement of G7 Finance Ministers and Central Bank Governors」、2011年3月18日)、日本の円売り介入は6,925億円(財務省「過去の介入実績」)。4月11日は84.75円
2016年6月 英国のEU離脱決定:6月23日104.44円→7月8日100.61円。開票の6月24日は取引時間中に99.00円
2020年2〜3月 コロナ・ショック:2月21日111.74円→3月9日102.24円→23日110.24円。前半は円買い、後半はドルの資金不足への懸念からドルが高止まりした(国際通貨研究所 髙山真「『有事の円買い』は過去のものか?」(2025年6月9日) p.3)
2022年2月 ロシアのウクライナ侵攻:2月22日114.74円→3月24日121.63円。円は1か月で対ドル5.7%下がり、10月21日には150.48円。財務省は9月22日(2兆8,382億円)と10月21日(5兆6,202億円)に円買い介入をした(財務省「過去の介入実績」)
2024年8月 世界的な株安:7月31日150.91円→8月5日143.50円(取引時間中は141.69円)。基準の7月31日は日銀が利上げ(0.25%程度へ)を決めた日で(日本銀行「金融市場調節方針の変更および長期国債買入れの減額計画の決定について」、2024年7月31日)、17時の値は前日の154.90円から150.91円へ2.6%円高になっていた。この分は金融政策による動きとして、上のグラフの上昇率には含めていない。7月3日の161.77円からは約18円の円高
2025年4月 米国の相互関税:米国が4月2日に全ての国への10%の関税と、国ごとの上乗せ関税を発表(The White House「Fact Sheet」、2025年4月2日)。ドル円は2日149.66円→22日140.29円
2026年2〜3月 米国・イスラエルによるイランへの攻撃:2月28日に攻撃(外務省 海外安全ホームページ「イランへの攻撃に伴う注意喚起」、2026年2月28日)。ドル円は2月27日156.09円→3月27日159.95円。円の実効為替レートもほぼ横ばいで、円は買われなかった
出典:日本銀行「主要時系列統計データ表:為替相場(東京インターバンク相場)(日次)」(東京市場 ドル・円 スポット 17時時点・最安値)、BIS「Effective exchange rates」よりKabuGraph作成
有事の円買いは今も起きる?——2022年以降に効きにくくなった局面と、その説明
有事の円買いは消えてはいませんが、円の上がり方は小さくなっている可能性があります。国際通貨研究所の髙山真氏は、世界の市場の不安定さと円の実効為替レートの関係を計測し、2024年末〜2025年4月上旬にも有意な円買いを確認して、円が安全資産として買われやすい構造は続いているとしました。一方で、不安定さに対する円の上がり方(弾性値)は2010年代までの0.200〜0.240から2020年代は0.165に下がっており、有事の円の上昇幅が縮んでいる可能性を指摘しています。一時的な要因の可能性もあるが、円の信認の陰りという構造的な要因も考えられる、という評価です(国際通貨研究所 髙山真「『有事の円買い』は過去のものか?」(2025年6月9日) p.3〜4)。前章のデータでも、2022年と2026年の有事では、円は対ドルでほとんど上がりませんでした(KabuGraph算出)。
2022年:ウクライナ侵攻でも円安が進んだ
2022年は、米国の急な利上げと日本の低金利が重なりました。FRBは2022年3月から2023年7月までに政策金利を0〜0.25%から5.25〜5.50%へ引き上げ(FRB「Open Market Operations」)、日銀はマイナス金利を2024年3月19日の決定まで続けました(日本銀行「金融政策の枠組みの見直しについて」、2024年3月19日)。
KabuGraphの見方では、日米の金利差が開くと円を借りて売る取引が増えやすく、有事が起きても円の買い戻しがドル買いに勝ちにくくなります。また、財務省の懇談会は、資源価格が上がった年は貿易収支が悪化しやすく、輸入の約77%が外貨建てだと指摘しています(財務省「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会 報告書 p.5)。資源高を伴う有事では、輸入の支払いのための外貨の需要も増えます。
2026年:イランへの攻撃で円安、日米協調の円買い介入まで
2026年2月28日の米国・イスラエルによるイランへの攻撃の後、ドル円は2月27日の156.09円から3月27日には159.95円へ上がりました(日本銀行、17時)。第一生命経済研究所の熊野英生氏は、この円安は投機色が薄く、インフレ予想の高まりで日米の金利差が広がるという観測が背景にあるとしたうえで、「イラン攻撃に伴うドル高」も挙げ、原油高で米国の貿易赤字が縮むという連想と「有事のドル高」を指摘しています(第一生命経済研究所「1ドル160円台で為替介入の警戒ラインへ」、2026年3月30日)。
円安はその後も進み、財務省は4月30日〜5月6日に計11兆7,349億円の円買い介入をしました(財務省「外国為替平衡操作の実施状況(令和8年4月28日〜5月27日)」。日ごとの内訳は4月30日6兆2,787億円・5月4日7,802億円・5月6日4兆6,759億円で、いずれも米ドル売り・円買い。財務省「過去の介入実績」)。7月30日〜8月26日にも計15兆3,993億円の為替介入があり(同(令和8年7月30日〜8月26日)。日ごとの内訳は11月に公表予定)、このうち米国東部時間の7月31日は、米国財務省と協調した円買い介入でした(財務省「片山財務大臣談話」、2026年8月3日)。ドル円は7月28日に163.79円をつけた後、7月31日は160.21円、10月5日は157.66円です(日本銀行、17時)。
構造の変化:経常黒字の中身が変わった
財務省の懇談会(2024年7月)は、日本の黒字の稼ぎ手が貿易から海外投資の収益(第一次所得収支)に移り、その多くが国内に戻らず海外で再投資されていると指摘しました。2023年度の第一次所得収支の黒字35.5兆円のうち、海外で再投資される割合は51〜71%と試算しています。貿易収支は赤字基調で、クラウドやオンライン会議などの「デジタル赤字」も広がっています(財務省「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会 報告書 p.3・p.5)。
2025年は、経常収支が31兆8,799億円の黒字で、そのうち第一次所得収支が41兆5,903億円の黒字、貿易収支は8,487億円の赤字でした(財務省「令和7年中 国際収支状況(速報)の概要」、2026年2月9日)。KabuGraphの見方では、黒字が海外にとどまる形に変わったことで、「日本は黒字国だから有事に円が戻る」という連想は以前ほど働きにくくなっています。
日本株への影響——円高局面で輸出株と指数はどう動くか
有事の円買いで円高が進むと、日本株には二重の下げ圧力がかかりやすくなります。世界的な株安そのものに加え、円高は輸出企業が海外で稼いだ売上・利益を円に直したときに目減りさせるからです。自動車・電機・機械などの輸出株は、景気の影響も受けやすい景気敏感株でもあります。
2024年8月5日、日経平均株価は前営業日比4,451.28円(12.40%)安の31,458.42円でした。下げ幅は過去最大で(2026年10月7日時点)、下落率では1987年10月20日の14.90%に次ぐ2位です。翌6日は3,217.04円高の34,675.46円で、上げ幅は当時の過去最大でした。上げ幅はその後、2026年5月7日の3,320.72円高などに抜かれています(日本経済新聞社「日経平均プロフィル:記録」・日経平均株価 日次データ、三菱UFJアセットマネジメント「日経平均が過去最大の下げと上げ!」、2024年8月8日)。この間、ドル円は2日の149.22円から5日は143.50円へ円高が進みました(日本銀行、17時)。
一方、有事の株安が円高を伴わないこともあります。イランへの攻撃後の2026年3月9日、日経平均は2,892.12円(5.2%)安の52,728.72円でしたが(同 日次データ)、ドル円は158.46円と攻撃前より円安でした(日本銀行、17時)。
為替の影響は会社の「前提為替レート」で測れる
輸出企業の多くは、決算説明資料で業績予想の前提にした為替レートと、為替が動いたときの利益への影響を示しています。トヨタ自動車は2026年8月4日、2027年3月期の前提を1ドル150円から160円に見直し、輸出入などの外貨取引のうち米ドル分だけで営業利益の見通しが4,200億円増えると示しました(為替変動の影響は全体で4,800億円。トヨタ自動車「2027年3月期 第1四半期決算」説明資料 p.12〜13)。単純に割ると1円あたり約420億円で、ほかの条件が同じなら10円の円高で同じくらい減る計算です(KabuGraph算出)。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、世界最大級の自動車メーカーです。カローラ、ランドクルーザー、アルファードなど幅広い車種を展開し、セダンからSUV、トラックまで手がけています。子会社にダイハツ工業、持分法適用関連会社にデンソーを持ち、グループ全体で600社超…
実際のドル円が会社の前提より円高に進めば会社予想の下方修正の要因に、円安に進めば上方修正の要因になります。持ち株の前提為替レートとその時点のドル円を比べておくと、有事の円高がどれだけ業績に響くかの目安になります。
円安型の有事は輸入コストを押し上げる
2022年や2026年3月のように有事に円安が進む場合、輸出企業の円換算の利益は増えやすい一方、原油などの輸入コストが上がります。KabuGraphの見方では、燃料や原材料を輸入して国内で売る電力・ガス、空運、食品などは、円安と資源高が同時に来ると利益が圧迫されやすい業種です。有事=円高と決めつけず、どちらに振れても困らない持ち方を考えましょう。
有事に投資家が見るべき指標と注意点
有事の円買いが起きているか、起きそうかは、次の数字を並べると判断しやすくなります。
ドル円と円の実効為替レート:両方を見ると、円が買われたのか、ドルが買われたのかが分かる(日本銀行「時系列統計データ検索サイト」、BIS「Effective exchange rates」)
日米の政策金利:日銀は2026年9月18日に1.25%程度への引き上げを決めた(日本銀行「金融市場調節方針の変更について」)。FRBは9月16日に3.75〜4.00%へ引き上げた(FRB「Federal Reserve issues FOMC statement」)。差はなお2.5ポイント以上ある(2026年10月7日時点)
VIX指数:Cboeが米国株のオプション価格から算出する、市場が予想する変動の大きさ。急上昇はリスクオフのサイン(Cboe「VIX Index」)
投機筋の円の持ち高:米商品先物取引委員会(CFTC)が毎週公表する建玉報告(Commitments of Traders)で、シカゴの円先物の非商業部門(投機筋)の売り越し・買い越しが分かる(CFTC「Commitments of Traders」)。KabuGraphの見方では、円の売り越しが大きいほど有事の買い戻しの余地も大きい。2026年9月29日時点は約0.69兆円の買い越しで、7月28日時点の約2.0兆円の売り越しから大きく変わった(KabuGraph算出。1枚=1,250万円で円換算。推移はキャリートレードの記事)
為替介入の実績:財務省が毎月末ごろに直近約1か月の総額を、四半期ごとに日ごとの内訳を公表する(財務省「外国為替平衡操作の実施状況」)
持ち株の前提為替レート:決算説明資料の為替の前提と、為替が1円動いたときの利益への影響
金利がドル円と株価にどう効くかは、利上げの記事で解説しています。

利上げとは|政策金利が株価・為替・住宅ローンに波及するメカニズム
利上げ(政策金利の引き上げ)が株価・為替・住宅ローンに与える影響をわかりやすく解説。2026年9月に1.25%へ至った日銀の利上げの経緯と、業種別の株価への影響パターンがわかります。
よくある質問
有事の円買いと有事のドル買いは、どちらが起きる?
両方が同時に起きることが多く、ドル円はその力比べで決まります。2024年8月は円買いが勝って円高、2026年3月はドル買いが勝って円安でした。どちらが買われたかは、ドル円と円の実効為替レートを並べると分かります。
日本が「世界一の対外純資産国」でなくなったから、円は買われなくなった?
それだけでは説明できません。日本の対外純資産は2025年末も561兆7,504億円と8年連続で増えており、順位が下がったのは、ドイツと中国の対外純資産(円換算)がそれ以上に増えたためです。2025年はユーロが対円で11.7%上がっており(財務省 参考4「為替相場の推移」)、円安そのものもドイツの円換算額を押し上げました。IMFの研究者の分析も、有事の円高は資金の流入ではなく、デリバティブの取引で起きているとみています。
円高になると日本株は必ず下がる?
必ずではありません。円高は輸出企業の利益を減らす一方、輸入のコストが下がる企業にはプラスです。ただ、有事の円高は世界的な株安と同時に起きることが多く、2024年8月5日のように指数全体が大きく下がる場面があります。
有事の円買いを狙って円を買えば儲かる?
確実ではありません。2022年と2026年のように有事でも円安が進むことがあり、円高になっても介入や各国の政策対応で短期間に戻ることがあります。FXでレバレッジをかければ、読みが外れたときの損失も大きくなります。
まとめ
有事の円買いは有事に円が買われて円高になること、有事のドル買いは基軸通貨の米ドルが買われること。どちらもリスクオフの通貨の動き
ドル円は円買いとドル買いの綱引き。円が買われたかは、ドル円と円の実効為替レートを並べて判断する
円が買われる理由は4つの説明がある。通説は対外純資産だが、IMFの分析は資金の流入を確認できないとし、国際通貨研究所はキャリー取引の巻き戻しを主因とみる
2001年以降の9局面では、リーマン・コロナ・2024年8月・2025年4月に円が対ドルで5.2〜9.3%上がった一方、2022年と2026年のイランへの攻撃では円安が進んだ
効き方は弱まっている可能性がある。国際通貨研究所の計測では円の上がり方は2010年代より小さくなり、2026年は有事のあとも円安が進んで、日米協調の円買い介入まで行われた
日本株は円高と世界的な株安が重なると大きく下がりやすい。持ち株の前提為替レート、日米の金利差、VIX、投機筋の持ち高を確かめておく









