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グリーンメールとは|会社に株を高値で買い取らせる手口と、日本で起きにくい理由

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グリーンメールとは、ある会社の株を買い集め、買収や経営への介入をちらつかせて、その会社や関係者に市場より高い値段で買い取らせ、差額で利益を得る手口です。英語の greenmail は、ドル紙幣(greenback)と脅迫(blackmail)を組み合わせた言葉で、実行する投資家はグリーンメーラーと呼ばれます(大和証券『金融・証券用語解説[グリーンメール]』、2026年10月7日閲覧)。

得をするのは買い集めた投資家と、買収を避けられた経営陣です。上乗せした代金は会社のお金から出るので、損をするのは同じ値段で売れないほかの株主です。1980年代の米国で相次ぎ、1987年には受け取った利益に50%の税をかける規定が設けられました。

日本では、会社が特定の株主から市場より高く自社株を買うには株主総会の特別決議が要り、ほかの株主も「自分も売り手に加えて」と請求できるため、1人だけに上乗せを払う形は通りにくくなっています。この記事では、お金の流れと計算例、米国と日本の事例・判例、日本で起きにくい理由、アクティビストやTOBとの違い、株主として確かめたいことを、判決・条文・開示資料に沿って整理します(制度は2026年10月時点)。

この記事の内容(目次)

  1. グリーンメールとは——株を買い集めて、会社に高値で買い取らせる手口
    1. 計算例:上乗せの分だけ、ほかの株主の価値が減る
  2. 米国では1980年代に相次ぎ、課税と州法で規制された
    1. ディズニー(1984年):買い戻しの後、株価は50ドル割れ
    2. グッドイヤー(1986年):買い戻しの後に人員削減
    3. 1987年、受け取った利益に50%の税
  3. 日本の事例と判例——蛇の目ミシン、小糸製作所、ニッポン放送
    1. 蛇の目ミシン工業と光進(1986〜1990年):最高裁が取締役の責任を認めた
    2. 小糸製作所とブーン・ピケンズ氏(1989〜1991年):グリーンメールかどうかで対立
    3. ニッポン放送事件(2005年):「グリーンメイラー」は会社を食い物にする買収者の例
  4. 日本でグリーンメールが起きにくい理由——自己株式の取得のルール
    1. ①市場で買う:値段は市場で決まる
    2. ②自己株式の公開買付け:上乗せすれば全員が同じ値段で売れる
    3. ③特定の株主から買う:特別決議と「売主追加請求」
    4. 権利行使をやめさせるための支払いは「利益供与」
  5. アクティビスト・TOB・買収防衛策との違い
    1. 実例:フジ・メディア・ホールディングスの2,350億円の自社株買い(2026年2月)
    2. 買収防衛策で買収者にお金を渡すのは「望ましくない」
  6. 株主として確かめたいこと
    1. 会社が大株主の株を買い取るとき
    2. 大株主が現れたとき
  7. よくある質問
    1. グリーンメールは違法ですか?
    2. グリーンメーラーと判断されれば、どんな買収防衛策も許されますか?
    3. アクティビストの株を会社が買い取るのはグリーンメールですか?
    4. グリーンメールとTOBの違いは何ですか?

グリーンメールとは——株を買い集めて、会社に高値で買い取らせる手口

グリーンメールは、次の3つの段階で進みます(大和証券『金融・証券用語解説[グリーンメール]』、三菱UFJ eスマート証券『用語集:グリーンメール』、いずれも2026年10月7日閲覧)。

  • 買い集める:市場で、まとまった数の株を買う(ディズニーの例では発行済株式の約12%、小糸製作所の例では20%超。第2章・第3章)

  • 脅威を示す:買収(TOB)や経営への介入、好ましくない相手への売却などをちらつかせる

  • 高値で売る:会社や関係者に、市場より高い値段で引き取らせる。米国では「今後は株を買わない」という約束(スタンドスティル)を付けた例もある

経営権を取ること自体が目的ではなく、上乗せされた代金(プレミアム)が目的という点が、通常の買収と違います。会社のお金で1人の株主から高く買うので、得をする人と損をする人がはっきり分かれます。

出典:Heckmann v. Ahmanson(カリフォルニア州控訴裁判所、1985年5月14日)、大和証券『金融・証券用語解説』よりKabuGraph作成

計算例:上乗せの分だけ、ほかの株主の価値が減る

前提:発行済株式1億株、株価1,000円(時価総額1,000億円)の会社で、株価が会社の価値をそのまま表しているとします。ある投資家が10%(1,000万株)を買い集め、会社がこれを1株1,300円(30%の上乗せ)で買い戻したとします。

  • 会社が払うお金:1,000万株×1,300円=130億円(市場価格なら100億円)

  • 買い戻し後の会社の価値:1,000億円−130億円=870億円

  • 残った9,000万株の1株の価値:870億円÷9,000万株=約966.7円

ほかの株主の持ち分は1株あたり約33円(3.3%)目減りし、その合計30億円が売り手の上乗せ分になります。市場価格の1,000円で買い戻していれば、1株の価値は(1,000億円−100億円)÷9,000万株=1,000円のまま変わりません。

米国では1980年代に相次ぎ、課税と州法で規制された

グリーンメールが社会問題になったのは、敵対的買収が盛んだった1980年代の米国です。代表的な2件と、その後の規制を整理します。

ディズニー(1984年):買い戻しの後、株価は50ドル割れ

ディズニーの株主が起こした訴訟の判決(Heckmann v. Ahmanson, 168 Cal.App.3d 119(カリフォルニア州控訴裁判所、1985年5月14日))が認定した経緯は次のとおりです。

  • 1984年3月:投資家ソール・スタインバーグ氏のグループが、ウォルト・ディズニー・プロダクションズの株を200万株超買い、その後、発行済株式の約12%まで買い増した

  • 1984年6月8日:49%を1株67.50ドルで買い付ける公開買付け(TOB)の意向を、ディズニーの取締役会に伝えた

  • 1984年6月11日:ディズニーが同グループの全株を総額3億2,540万ドル(1株約77ドル)で買い戻すことで合意。同グループは約6,000万ドルの利益を得て、以後ディズニー株を買わないと約束した

  • その後:ディズニーの株価は50ドルを割り込み、同グループは取引後の株価より5割高い値段で売った形になった

ディズニーの株主は、買い戻しを決めた取締役と同グループを訴えました。控訴裁判所は、同グループが得た利益を保全する仮差止めを維持しています。上乗せ分は会社から売り手に移り、残った株主には下がった株価が残った典型例です。

グッドイヤー(1986年):買い戻しの後に人員削減

  • 1986年10月31日:英国の投資家ジェームズ・ゴールドスミス氏が、タイヤ大手グッドイヤーの株式11.5%を取得したと表明。残りを1株49ドルで買い付ける可能性にも触れた(UPI 1986年11月18日)

  • 1986年11月:同氏は買収をやめ、1,250万株すべてを会社に売り戻して9,400万ドルの利益を得たと報じられた(Christian Science Monitor 1986年12月4日)

  • 1986年12月初め:買い戻し計画で多額の借金を抱えたグッドイヤーは、事務職の10%・現業の5%の人員削減と子会社の売却を発表したと報じられた(同)

1987年、受け取った利益に50%の税

米国議会は1987年12月22日成立の法律(Pub. L. 100-203)で、グリーンメールを受け取った人に、その利益の50%の税(物品税)をかける規定を内国歳入法に加えました(26 U.S. Code §5881(コーネル大学 LII))。条文は、次の3つをすべて満たす買い戻しの代金をグリーンメールと定めています。

  • 売り手がその株を持っていた期間が2年未満

  • 売り手(関係者を含む)が、買い戻しの前2年以内に公開買付けを行った、または行うと示した

  • 全株主に同じ条件で申し出た買い戻しではない

州の会社法にも同じ考え方の規定があります。たとえばニューヨーク州の事業会社法第513条(c)は、同州の一定の会社について、発行済株式の10%超を特定の株主から時価より高く買うには、取締役会に加えて、議決権のある発行済株式の過半数の賛成を要すると定めています(全株主への申し出や、2年超保有の株主からの取得は除く。New York Business Corporation Law §513)。

日本の事例と判例——蛇の目ミシン、小糸製作所、ニッポン放送

日本でも1980年代後半には、仕手筋や海外の投資家が上場会社の株を大量に買い集め、会社側と対立する事件が起きました。当時は会社が自社の株を取得することが原則として禁じられていた時代で(2001年6月の商法改正で解禁。中小企業基盤整備機構 J-Net21『自己株式の会計と税務-その1』)、蛇の目ミシン工業の事件でも、引き取り手として計画されたのは会社自身ではなく関係先や取引先でした。企業の側は、銀行や取引先に安定株主として株を持ってもらうことで買収に備えていました(内閣府『平成18年度 年次経済財政報告』第2章第2節)。

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株式の持ち合いは、企業同士が互いの株を持って安定株主になる慣行です。都銀・地銀等の保有比率は1990年度15.7%から2025年度1.7%へ(JPX調査)。政策保有株式との違い、解消の売りが株価に与える影響、有報での調べ方をトヨタ・大林組の実例で解説します。

蛇の目ミシン工業と光進(1986〜1990年):最高裁が取締役の責任を認めた

最高裁の判決文は社名・人名を伏せていますが、蛇の目ミシン工業(2021年10月に商号を「ジャノメ」に変更)の株主代表訴訟です(新日本法規「会社法ニュース」2008年5月5日号、ジャノメ 有価証券報告書(2022年6月27日提出) 沿革)。判決が認定した経緯は次のとおりです(最高裁 平成18年4月10日 第二小法廷判決)。

  • 1986〜1987年:「仕手筋として知られる」人物(光進の代表)が、自分の会社と個人で同社株を大量に買い、1987年3月末にはその会社が3,255万6,000株を持つ筆頭株主になった。同年6月には本人が取締役に選ばれた

  • 1988年10月ごろ:保有株の高値での買取りを要求し始めた

  • 1989年7月末〜8月:株を暴力団の関連会社に売ったと告げ(7月31日)、売却の取り消しと引き換えに300億円を要求(8月1日)。会社は債務保証をして関連会社などを経由する融資の形で約300億円を渡した。判決は回収の見込みのない「巨額の利益供与」で、恐喝による「喝取」と認定

  • 1990年5月:会社側は、同人側の持株3,750万株を1年後に1株5,000円で関係先が買い取る計画を立て、それまで同人の会社の借金を関連会社に肩代わりさせた。判決は5,000円を「株価操作も加わるなどして異常な高値」と認定

最高裁は2006年4月10日、警察に届け出るなどの適切な対応が期待できない状況ではなかったとして、要求に応じた取締役らの過失を否定できないと判断し、審理を東京高裁に差し戻しました。あわせて、会社にとって好ましくない株主が議決権などを行使しないよう、その株を譲り受ける代金を誰かに渡すことは、株主の権利の行使に関する利益の供与に当たると述べています。差し戻し後の東京高裁は2008年4月23日、元取締役5人に連帯して583億円余りの支払いを命じました(新日本法規)。

小糸製作所とブーン・ピケンズ氏(1989〜1991年):グリーンメールかどうかで対立

米国の法律雑誌の論文(Eduardo Recio「Shareholders' Rights in Japan」Pacific Basin Law Journal 10巻(1992年))によると、経緯は次のとおりです。

  • 1989年3月:米国の投資家ブーン・ピケンズ氏が率いるブーン社が、輸入車販売の麻布自動車(社長は渡辺喜太郎氏)から、自動車部品大手・小糸製作所の株式20.2%を買い取り、筆頭株主になった。その後26.2%まで増やした

  • 取締役の派遣を要求:小糸はこれを拒んだ。当時トヨタ自動車は小糸株の19%を持ち、生産の約半分を買う最大の顧客だった

  • 1990年6月28日の株主総会:小糸の社長は、ピケンズ氏を「麻布グループのために動くグリーンメーラー」だと述べた。ピケンズ氏側の取締役4人の選任、増配、グリーンメールを禁じる定款変更などの提案は、すべて否決された

  • 1991年:ピケンズ氏は持株の売却を表明。寄稿で、株は元の持ち主に売り戻し、利益は出ないと書いた(The Seattle Times 1991年6月9日)

小糸側は、会社に高値で買い取らせようとした麻布グループの代理だと主張しました(Recio 論文)。ピケンズ氏は寄稿で、会社が栄えることで自分たちも利益を得るつもりだったと書いています(The Seattle Times 1991年6月9日)。会社が株を高値で買い取ることはなく、グリーンメールだったかどうかは当事者の主張が分かれたまま終わっています。

ニッポン放送事件(2005年):「グリーンメイラー」は会社を食い物にする買収者の例

2005年、ライブドアがニッポン放送の株を買い集めたのに対し、ニッポン放送はフジテレビジョンに新株予約権を割り当てようとしました。東京地裁はこの発行を差し止め、東京高裁も2005年3月23日、ニッポン放送の抗告を退けました(東京高裁 平成17年3月23日決定、INTERNET Watch 2005年3月23日)。

決定は、経営支配権を守ることが主な目的の新株予約権の発行は原則として「著しく不公正」だが、買収者が会社を「食い物にしようとしている場合」は、対抗手段として必要性や相当性が認められる限り許されるとし、その例として次の4つを挙げました。最初の類型が、「真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(グリーンメイラー)」です。

  • グリーンメイラー:株価をつり上げ、高値で会社関係者に引き取らせる目的

  • 焦土化経営:知的財産・ノウハウ・主要な取引先などを買収者側に移す目的

  • 資産の流用:会社の資産を買収者側の借金の担保や返済の原資に充てる目的

  • 高配当と売り抜け:事業に関係のない資産を売らせて一時的な高配当を出させ、株価が上がったところで売り抜ける目的

ただし、この事件ではライブドア側にそうした目的があるという確かな証拠はないとされ、対抗策は認められませんでした。経済産業省の「企業買収における行動指針」(2023年8月31日)も、4類型は強力な対抗措置が使われた事案での例示で、それ自体が適法性の範囲を決めるものではないと注記しています(p.47 注83)。友好的な相手に株を割り当てて支配権を守る手法の是非は、次の記事でも扱っています。

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第三者割当増資は特定の相手に新株を割り当てる増資。払込金額の目安は前日終値の90%以上で、希薄化率25%以上なら独立者の意見か株主の意思確認が必要。2026年9月の実例では提携型は上昇が多く、MS型7社は翌日すべて下落した。開示の読み方も解説。

日本でグリーンメールが起きにくい理由——自己株式の取得のルール

2001年に自己株式の取得が解禁された後も、会社法と金融商品取引法は特定の株主だけを有利に扱う買い取りを防ぐ仕組みを持っています。上場会社が大株主から自社株を買う方法は、次の3つに分かれます。

出典:会社法第120条・第160条・第161条・第165条・第970条、金融商品取引法第27条の22の2、東京証券取引所「東証市場を利用した自己株式取得に関するQA集」よりKabuGraph作成

①市場で買う:値段は市場で決まる

取引所での買付けや、東証の自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)では、株主への通知や均等な条件といった会社法の手続き(第157〜160条)はかからず、定款に定めがあれば取締役会で決められます(会社法第165条(e-Gov法令検索))。ToSTNeT-3の値段は前営業日の終値で、売り注文は誰でも出せ、買付数を超えれば按分されます(東京証券取引所『東証市場を利用した自己株式取得に関するQA集』 Q14・Q16、2025年8月1日改訂版)。市場より高い値段を付ける余地がないので、上乗せは払えません。

②自己株式の公開買付け:上乗せすれば全員が同じ値段で売れる

上場会社が取引所の外で自社株を買うときは、③の手続きによる場合を除き、公開買付け(自己株TOB)によらなければなりません(金融商品取引法第27条の22の2(e-Gov法令検索))。全株主が同じ条件で応募でき、応募が予定数を超えれば按分になります。上乗せした値段を付ければ、ほかの株主も同じ値段で応募できるので、1人だけに上乗せを渡すことはできません。

③特定の株主から買う:特別決議と「売主追加請求」

会社法は、特定の株主だけから買う方法も認めていますが(会社法第160条(e-Gov法令検索))、次のハードルがあります。

  • 株主総会の特別決議:出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が要る(第309条第2項第2号)。売り手になる株主は、その決議で議決権を使えない(第160条第4項)

  • ほかの株主の売主追加請求:会社は株主に、「自分も売り手に加えて」と議案の変更を求められることを通知しなければならない(第160条第2項・第3項)

  • 市場価格以下なら請求権はない:値段が市場価格(原則として取得を決める総会の前日の終値。会社法施行規則第30条)を超えなければ、売主追加請求の規定は適用されない(第161条)。逆に言えば、市場より高く買おうとすると、ほかの株主も売り手に加われる

  • 定款で外すには全員の同意:売主追加請求を定款で外すこともできるが、株式を発行した後に定めるには、その株式を持つ株主全員の同意が要る(第164条)

どの道でも、グリーンメールの核である「1人だけへの上乗せ」は、ほかの株主の賛成か参加なしには実現しにくいのが日本のルールです。自社株買いの方法と、EPS・ROEへの効果は次の記事で解説しています。

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自社株買いの仕組み・目的・株価への影響をわかりやすく解説。EPS・ROE・PERなど財務指標への効果、メリット・デメリット、発表時の投資判断ポイントがわかります。

権利行使をやめさせるための支払いは「利益供与」

会社は、株主の権利の行使に関して、誰に対しても会社や子会社の計算で財産上の利益を与えてはなりません(会社法第120条(e-Gov法令検索))。違反すれば受け取った人は返還し、関与した取締役は連帯して同じ額を会社に支払う義務を負います。役員などが利益を与えた場合は3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金で、事情を知って受け取った人や、会社に利益を与えるよう要求した人も同じく処罰の対象です(第970条)。蛇の目ミシン工業の事件の最高裁判決は、好ましくない株主の権利行使を避けるために株の譲受け代金を渡すことも利益供与に当たると判断しています(判決が当てはめたのは当時の商法第294条ノ2第1項で、会社法第120条に引き継がれた規定)。

アクティビスト・TOB・買収防衛策との違い

大株主として会社に要求を突きつける点は似ていても、グリーンメールは利益を売り手1人だけが受け取る点で、ほかの手法と違います。

  • 何を求めるか

    • グリーンメール:自分の株を会社側に高く買い取らせる

    • アクティビスト(物言う株主):増配・自社株買い・事業の売却や分離・取締役の交代など、経営や資本政策の変更を、株主提案や対話で求める

    • TOB(買収):経営権を取るために、ほかの株主から株を買い集める(経営陣が買い手ならMBO)

  • 誰が得をするか

    • グリーンメール:売り手だけ。ほかの株主は同じ値段で売れない

    • アクティビスト:要求が通れば、増配や自社株買いの恩恵は株主全員に同じ条件で及ぶ

    • TOB:応募した株主全員が同じ買付価格で売れる

  • 誰のお金で払うか

    • グリーンメール:会社のお金(上乗せ分が売り手に流れる)

    • アクティビスト:配当や自社株買いなら会社のお金を株主全体に戻す

    • TOB:買い手が払う

アクティビストの持株を、会社が自社株買いで引き取ることもあります。そのとき確かめたいのは、値段が市場より高いか、ほかの株主も同じ条件で売れるかの2点です。

実例:フジ・メディア・ホールディングスの2,350億円の自社株買い(2026年2月)

2026年2月、フジ・メディア・ホールディングスは、村上世彰氏の関係者(野村絢氏・レノ・エスグラントコーポレーション・シティインデックスファースト。以下レノら)が持っていた株の大半を、自社株買いで引き取りました。会社の開示と大量保有報告書から分かる経緯は次のとおりです。

  • 2025年7月〜12月:会社はレノらによる大規模買付けへの懸念を理由に、買収への対応方針を導入(7月10日)。野村氏は大規模買付行為等の趣旨説明書を出し(12月15日)、不動産事業の分離か売却の準備などを会社が公表すれば撤回するとしていた(会社 2026年2月3日の開示(取り下げ))

  • 2026年2月3日:会社は都市開発・観光事業への外部資本の導入の検討を決め、野村氏は趣旨説明書を取り下げた。同日、ToSTNeT-3で最大7,100万株・2,350億円を買う枠を決議し、村上氏・レノらと売付申込の契約を結んだ(同日の開示(自己株式の取得))

  • 2026年2月5日:前日の終値3,839円で6,121万3,800株を取得。資金にはみずほ銀行からの借入れ2,300億円を充てた(2月4日の開示、2月5日の開示)。レノらは全株(4,204万2,900株)を売りに出し、3,186万9,000株が買い取られ、1,017万3,900株(発行済株式の4.34%)が残った(レノの変更報告書 2026年2月10日)

  • 2026年2月13日:野村氏らは会社の訂正臨時報告書について自らの見解を公表。会社は、一部見解の相違があるとしたうえで、「村上氏や野村氏及びその関係者が当社株式を新たに取得することはないものと考えて」いると表明した(会社 2026年2月13日)

  • 2026年2月18日〜3月25日:関係会社のATRAが市場で217万5,000株を取得。3月12日に会社が自己株式6,507万1,500株を消却して発行済株式が約28%減ったため、共同保有の割合は5.76%に上がったが、株数(973万4,500株)は2月5日の直後より少ない(会社 2月26日の開示、エスグラントの大量保有報告書 3月19日)。会社はATRAの取得に「疑義」があるとして、村上氏らに質問書兼要請書を送った(会社 3月25日)

  • 2026年6月:会社は、野村氏・エスグラント・ATRAの定時株主総会での議決権行使の禁止を求めて仮処分を申し立てた。野村氏とエスグラントは行使しないことで和解。東京地裁は6月2日にATRAについて申し立てを認め、ATRAは保全異議を申し立てたが、その審理で議決権を行使しないと誓約し、会社は申し立てを取り下げた(会社 6月2日、6月9日)

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フ
4676情報通信・サービスその他

フジ・メディア・ホールディングス

フジテレビジョンを中核とした認定放送持株会社。テレビ放送、ラジオ放送、映像・音楽ソフト販売、広告、通信販売、ビル賃貸・ホテルリゾート運営などメディア・コンテンツから都市開発・観光事業まで多角展開。

買付価格は前日の終値で、取得した6,121万3,800株のうち約48%(2,934万4,800株)はレノら以外の株主が売った株でした(KabuGraph算出:取得株数からレノらの売却分3,186万9,000株を引いた値。会社の2月5日の開示とレノの変更報告書より)。ほかの株主も同じ値段で売れたので、1人だけに上乗せを払うグリーンメールの形ではありません。会社も、レノら以外の株主に売却の機会を与えることを理由の1つに挙げていました。

一方で、取得資金の大半は借入れでした。会社の有価証券報告書(2026年6月24日提出、p.31〜33「企業・株主間の合意事項」)に記載された合意では、売りに出した株について配当以外の株主権を行使しないこと、売れ残った株は速やかに市場で売ること、決済日までは株を取得しないことが定められ、決済日より後の取得についての定めは記載されていません。大株主の株を会社が引き取るときは、値段だけでなく、合意が誰を・いつまで縛るかを確かめましょう。大量保有報告書の保有割合は、会社が自己株式を消却して分母が減っただけでも上がるので、株数もあわせて見ることが大切です。

買収防衛策で買収者にお金を渡すのは「望ましくない」

買収への対抗措置を発動するとき、買収者が持つことになった新株予約権を会社がお金で引き取るなどして、買収者の損を埋める設計があります。経済産業省の「企業買収における行動指針」は、買収者に金員などを渡すことは、かえって対抗措置の発動を誘発し、株主が十分な時間と情報のもとで株を売る機会を失わせるとして「望ましくない」としています(p.51)。会社のお金が株を買い集めた側に流れる点で、グリーンメールと似た構図だというのがKabuGraphの見方です。

経済産業省の行動指針は、2026年7月30日に内容を維持したうえで、「『企業買収における行動指針』の解釈について」「ポイント」「Q&A」の3つの文書が加えられました(経済産業省 2026年7月30日)。ポイズンピルやホワイトナイトなど防衛策の種類と、TOBの手続きは次の記事で解説しています。

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株主として確かめたいこと

保有株に大株主が現れたときや、会社が大株主の株を引き取ると発表したときは、次の点を開示で確かめましょう。

会社が大株主の株を買い取るとき

  • 方法:市場(ToSTNeT-3を含む)か、自己株TOBか、株主総会での特定の株主からの取得か。適時開示の表題と本文に書かれる

  • 特定の株主からの取得なら請求の期限:会社は原則として総会の2週間前までに、売主追加請求ができることを株主に知らせる。株主が「自分も売り手に」と求められるのは、原則として総会の5日前まで(定款で短くできる。会社法施行規則第28条・第29条(e-Gov法令検索))

  • 値段:前日の終値や直近の平均株価と比べて上乗せか割引か。上乗せなら、自分も同じ条件で売れるか

  • 資金:手元資金か借入れか。借入れなら、その後の利払いや配当方針への影響

  • その後の約束:売り手が今後株を買わない約束(スタンドスティル)や議決権を使わない約束があるか。あれば、関係会社まで含むか、いつまで続くか。有価証券報告書の「企業・株主間の合意事項」に書かれることがある

  • 残った持株:売り手が全部売れたか。大量保有報告書の変更報告書で、取引後の保有割合と株数を確かめる(会社が自己株式を消却すると、株数が変わらなくても割合は上がる)

自己株TOBに応募して会社に株を売ると、受け取った代金のうち会社の資本金等の額を超える部分は配当とみなして課税されます(所得税法第25条第1項第5号(e-Gov法令検索)。取引所の市場での売却は対象外)。計算例は次の記事にあります。

みなし配当とは|自社株TOBや非上場株の買取りで受取額の一部が配当課税に、計算例と税率
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みなし配当の定義・発生するケース・計算方法・税率を具体的な計算例つきで解説。自己株式取得や資本の払戻しで生じる課税の仕組み、確定申告での総合課税・申告分離課税の選択まで。

大株主が現れたとき

  • 大量保有報告書の「保有目的」:純投資か、「重要提案行為等を行うこと」か。保有割合が5%を超えると5日(日曜日などの休日を除く)以内に提出され、その後1%以上増減すると変更報告書が出る(金融商品取引法第27条の23・第27条の25(e-Gov法令検索)。仕組みはTOBの記事の大量保有報告制度の節)

  • 株価の急騰に飛びつかない:買い集めの思惑で上がった株価は、買い手が引き上げると支えを失う。ディズニーは買い戻しの後に50ドルを割った

  • 会社の対応と株主総会の議案:買収への対応方針(防衛策)の導入・発動、第三者割当、大株主からの自社株買い。防衛策の承認などの議案に、自分の議決権をどう使うか考える

よくある質問

グリーンメールは違法ですか?

株を買い集めて会社に売ること自体は違法ではありません。脅して金を出させれば恐喝などの犯罪になり、日本では株主の権利行使をやめさせる目的の支払いは利益供与として、渡した側も要求した側も処罰の対象です(会社法第970条)。米国では、受け取った利益に50%の税がかかります(内国歳入法第5881条)。

グリーンメーラーと判断されれば、どんな買収防衛策も許されますか?

いいえ。ニッポン放送事件の東京高裁決定も、対抗措置は「必要性や相当性が認められる限り」許されるとしています。経済産業省の指針は、4類型は例示で、それ自体が適法性の範囲を決めるものではないと注記しています。

アクティビストの株を会社が買い取るのはグリーンメールですか?

値段とほかの株主の扱いで判断します。市場の値段で、ほかの株主も同じ条件で売れるなら、1人だけに上乗せを払うグリーンメールの形ではありません。上乗せがあり、売り手だけが売れるならグリーンメールと同じ構図で、日本では株主総会の特別決議とほかの株主の売主追加請求を経ないと実現しにくい仕組みです。

グリーンメールとTOBの違いは何ですか?

TOBは、買い手が自分のお金で、応募した株主全員から同じ値段で株を買う手続きです。グリーンメールは、買い集めた側が会社のお金で自分の株だけを高く買い取らせるもので、お金の出どころと、誰が得をするかが逆になります(TOBの手続きはTOBの記事)。

コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

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