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ラクス(3923)の企業分析|楽楽精算を核としたクロスセル戦略、中小企業クラウドの成長余地

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ラクス(3923)は、経費精算クラウド「楽楽精算」を中核に、帳票発行「楽楽明細」、販売管理「楽楽販売」など「楽楽クラウド」シリーズで中小企業のバックオフィスDXを推進するSaaS企業です。

2026年3月期は売上高602.9億円(前期比+23.3%)、営業利益173.5億円(同+70.2%)と大幅増益を達成。営業利益率は28.8%に到達し、国内SaaS企業として異例の高収益体質を示しています。ROEは51.1%(カオナビ株式売却益14.9億円を含む)と国内上場SaaS企業のなかでもトップクラスの資本効率です。

2026年4月にはIT人材事業(ラクスパートナーズ)を譲渡し、クラウドSaaS事業への完全集中を打ち出しました。譲渡後初の決算となる2027年3月期第1四半期は、売上高142.1億円(前年同期比+0.9%)ながら営業利益47.6億円(同+30.1%)と増益基調を維持しています。2025年10月にはメール系2製品を「楽楽クラウド」ブランドに統合し、全サービスを楽楽ブランドで揃えることでクロスセル戦略を本格的に加速させています。

この記事では、ラクスの「楽楽クラウド」各サービスの仕組み、業績推移、クロスセル戦略、投資判断のポイントを、個人投資家の視点からわかりやすく解説します。

会社概要 — 「楽楽クラウド」で企業のDXを支えるSaaSリーダー

ラクスは、代表取締役社長の中村崇則氏が2000年に大阪で設立したIT企業です。創業当初はITエンジニアスクール事業からスタートし、そこで培った技術力をベースに、IT人材派遣事業、メール配信サービス、そしてクラウド型業務支援サービスへと事業領域を着実に拡大してきました。

項目

内容

会社名

株式会社ラクス(RAKUS Co., Ltd.)

証券コード

3923(東証プライム)

設立

2000年11月

上場

2015年12月 東証マザーズ上場 → 2021年3月 東証一部 → 2022年4月 東証プライム(市場区分見直し)

代表取締役社長

中村 崇則

従業員数

1,720名(単体、2026年3月時点)

本社

大阪市北区鶴野町1番9号

セクター

情報・通信業

出典: ラクス コーポレートサイト

「選択と集中」で進化し続ける企業

ラクスの成長の軌跡は、事業ポートフォリオを大胆に組み替えながら、高収益領域に集中してきた歴史です。

  • 2000年 — 大阪で創業。ITエンジニアスクール事業からスタート。技術者育成のノウハウを蓄積

  • 2001年 — 「メールディーラー」(現・楽楽自動応対)の提供を開始。クラウドサービスの原点

  • 2007年 — 「配配メール」(現・楽楽メールマーケティング)の提供を開始。メール配信のクラウド化を推進

  • 2009年 — 経費精算システム「楽楽精算」をリリース。バックオフィスSaaSの主力製品に成長

  • 2015年 — 東証マザーズに上場。クラウド事業の成長を加速

  • 2025年10月 — 「楽楽クラウド」ブランドへ統合。旧名称の「メールディーラー」を「楽楽自動応対」、「配配メール」を「楽楽メールマーケティング」にそれぞれ改称

  • 2026年4月 — IT人材事業(ラクスパートナーズ)を譲渡。クラウド事業の単一セグメント体制に移行

特筆すべきは2026年4月のIT人材事業譲渡です。IT人材事業はラクスの売上の約14%を占めていましたが、クラウド事業と比べて利益率が低く、会社は「シナジーの希薄化」を譲渡の理由に挙げています。高収益のクラウドSaaSに経営資源を完全集中する戦略的判断であり、2027年3月期以降はクラウド事業の単一セグメントとなります。

2026年3月期の売上構成比は、クラウド事業が約86%、IT人材事業が約14%。営業利益ベースではクラウド事業が約92%を占め、IT人材事業は約8%(13億円)にとどまるため、IT人材事業の譲渡は利益率の構造的改善に直結します。

セグメント別売上構成比(2026年3月期)

出典:決算短信よりKabuGraph作成
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ラ
3923情報通信・サービスその他

ラクス

ラクスは、中小・中堅企業のバックオフィスDXを支援するSaaS企業です。経費精算クラウド「楽楽精算」は累計導入社数No.1を誇り、帳票発行「楽楽明細」、販売管理「楽楽販売」、勤怠管理「楽楽勤怠」、AI自動応対「楽楽自動応対」など「楽楽クラウ…

クラウドサービス群を理解する

ラクスのクラウド事業は、企業のバックオフィス業務を効率化する複数のSaaSプロダクトで構成されています。「ITに不慣れなユーザーでもマニュアルなしで使える」ことを設計思想の中心に据え、従業員数50〜1,000名規模の中小・中堅企業を主要ターゲットとしています。

2025年10月にメール系2製品(メールディーラー・配配メール)を「楽楽クラウド」ブランドに統合し、全サービスを楽楽ブランドで揃えたことで、バックオフィスからフロントオフィスまでをカバーする統一ブランドとしての訴求力を強化しました。以下、各サービスの特徴を解説します。

楽楽精算 — 累計導入社数No.1の経費精算クラウド

楽楽精算の公式サイト
出典:楽楽精算公式サイト

「楽楽精算」は、交通費・出張旅費・経費の申請から承認、仕訳データの出力までを一貫してデジタル化するクラウド型経費精算システムです。累計導入社数20,000社以上(2025年9月時点、会社公表)で、クラウド型経費精算システムの累計導入社数No.1(デロイト トーマツ ミック経済研究所調べ)を誇り、ラクスのクラウド事業の売上の中核を担っています。

主な特徴は3つあります。

  1. 規定違反の自動チェック — 申請時に社内規定に沿っているかをシステムが自動判定。経理担当者の確認業務を大幅に削減

  2. 交通費の自動計算 — ICカード読み取りや乗換案内連携により、交通費の入力ミスと手間を徹底排除

  3. 会計ソフトとの連携 — 仕訳データをCSV出力し、既存の会計ソフトにそのまま取り込み可能。会計システムを丸ごと置き換える必要がない

楽楽精算の強みは、既存の会計システムを残したまま、経費精算業務だけをクラウド化できる点にあります。会計ソフト全体を入れ替えるには大きなコストとリスクが伴いますが、楽楽精算は経費精算という特定領域に特化しているため、導入ハードルが低く、中小企業でも手軽に始められます。この「機能特化型」のアプローチがフリーやマネーフォワードなどの「統合プラットフォーム型」との差別化ポイントです。

また、楽楽精算はラクスのクロスセル戦略の起点となっています。楽楽精算で「使いやすい」という信頼を得た顧客に対し、楽楽明細や楽楽勤怠といった追加サービスを提案するモデルが確立されています。

楽楽明細 — 帳票発行のデジタル化で急成長

楽楽明細の公式サイト
出典:楽楽明細公式サイト

「楽楽明細」は、請求書・納品書・支払明細・領収書などの帳票をクラウド上で一括発行・送付するシステムです。電子データ・郵送・FAXの送付方法を取引先ごとに選択可能なため、すべての取引先が電子化に対応していなくても導入できる柔軟性が最大の強みです。

楽楽明細は近年の法制度改正を強力な追い風としています。

  • 2023年10月 — インボイス制度(適格請求書等保存方式)の開始。請求書の発行・管理要件が厳格化

  • 2024年1月 — 改正電子帳簿保存法の宥恕期間が終了し、電子取引データの電子保存が完全義務化

これらの法制度対応により帳票電子化の需要が急増し、楽楽明細は主力2サービスのなかで最も高い成長率(2026年3月期+31.1%、売上131億円)を記録しています。ただし会社は競合の増加で市場拡大のペースが想定よりやや緩やかになっていると説明しており、法制度改正の追い風を一時的なブームで終わらせず、デジタル化の不可逆的な潮流として需要を取り込み続けられるかが焦点です。

楽楽販売 — ノーコードで業務をデジタル化

楽楽販売の公式サイト
出典:楽楽販売公式サイト

「楽楽販売」は、販売管理・受注管理・請求管理などの業務プロセスをノーコードでカスタマイズできるクラウド型の業務管理システムです。Excelやスプレッドシートで管理している業務をそのままクラウド化でき、ルーチンワークの自動化や承認フローの設定、データの可視化が可能になります。

販売管理領域はカスタマイズ性が求められるため、汎用性の高い楽楽販売は幅広い業種に対応できます。楽楽精算や楽楽明細の導入企業に対して、受発注管理の効率化を提案するクロスセルの武器としても機能しています。

楽楽勤怠 — 勤怠管理のクラウド化

楽楽勤怠の公式サイト
出典:楽楽勤怠公式サイト

「楽楽勤怠」は、出退勤の打刻、残業時間の自動集計、有給休暇管理、シフト管理などをクラウドで一元化する勤怠管理システムです。労働基準法に準拠した残業上限のアラート機能や、36協定の順守状況を可視化する機能を備え、コンプライアンス対応を支援します。

楽楽勤怠は比較的後発のプロダクトですが、楽楽精算との連携(勤怠データと交通費精算の突合など)により、既存顧客への追加導入が進んでいます。

楽楽自動応対 — 問い合わせ業務のAI自動化

楽楽自動応対の公式サイト
出典:楽楽自動応対公式サイト

「楽楽自動応対」(旧メールディーラー)は、カスタマーサポートの受信メールを一元管理し、AIによる自動分類・自動返信を行う問い合わせ対応システムです。担当者間での二重対応や対応漏れを防ぐステータス管理機能が特徴で、ECサイト運営企業やカスタマーサポート部門で広く利用されています。

2025年10月のブランド統合で「メールディーラー」から改称されました。生成AIを活用した返信文の自動生成機能の実装が進んでおり、「楽楽クラウド」シリーズのなかでもAI活用の先行事例となっています。

楽楽メールマーケティング — メール配信の効率化

「楽楽メールマーケティング」(旧配配メール)は、メールマガジンや販促メールの配信・効果測定を行うクラウド型メールマーケティングツールです。メールディーラー(2001年)に次ぐ古参のクラウドサービスで、2007年から提供を続けています。開封率・クリック率の計測、セグメント配信、A/Bテスト機能など、マーケティング部門の生産性向上を支援します。

サービス一覧 — 「楽楽クラウド」プロダクトマップ

サービス名

領域

主な機能

ポジション

楽楽精算

経費精算

経費申請・承認、交通費自動計算、仕訳出力

主力(国内No.1)

楽楽明細

帳票発行

請求書・納品書の電子発行、郵送代行

急成長中

楽楽販売

販売管理

受注・発注管理、ノーコードカスタマイズ

成長中

楽楽勤怠

勤怠管理

打刻、残業管理、有休管理、36協定対応

成長初期

楽楽自動応対

問い合わせ管理

メール一元管理、AI自動分類・自動返信

安定稼働

楽楽メールマーケティング

メール配信

メルマガ配信、開封率計測、セグメント配信

安定稼働

出典: ラクス サービス一覧

収益モデル — 高い継続率がストック収益を支える

楽楽クラウドの各サービスは月額課金型のサブスクリプションモデルです。経費精算や勤怠管理は企業の日常業務に深く組み込まれるため、一度導入すると業務プロセスがシステムに依存する形になり、切り替えコスト(スイッチングコスト)が高くなります。その結果、解約率は極めて低く、安定的なストック収益が積み上がります。

収益の3つの柱は以下の通りです。

  1. 初期費用 — 導入時に一括で発生する設定・カスタマイズ支援の費用。フロー収益

  2. 月額利用料 — ユーザー数や利用機能に応じた月額課金。ストック型の安定収益の本体

  3. クロスセル収入 — 楽楽精算の導入企業に楽楽明細・楽楽勤怠・楽楽販売などを追加提案し、1社あたりの月額利用料(ARPU)を拡大

この「楽楽精算で入り口を作り、クロスセルで顧客単価を引き上げる」モデルは、新規顧客の獲得コスト(CAC)を抑えながら顧客生涯価値(LTV)を最大化するSaaSビジネスの理想形といえます。ブランド統合により「楽楽クラウド」としてのワンストップ提案が可能になったことで、クロスセルの加速が期待されています。

業績推移と財務分析

通期業績推移 — 2022年3月期から4年で売上は約2.9倍、営業利益は約11倍に

ラクスは過去5年間にわたり年率23〜40%の売上成長を継続しています。特に注目すべきは利益率の劇的な改善です。2022〜2023年3月期に意図的に利益率を落としてまで採用と広告宣伝に投資する先行投資期を設け、その後は売上の伸びを大きく上回るペースで利益が拡大する「回収フェーズ」に入っています。

決算期

売上高

営業利益

純利益

営業利益率

2022年3月期

206.3億円

15.8億円

10.8億円

7.6%

2023年3月期

274.0億円

16.6億円

12.7億円

6.0%

2024年3月期

384.1億円

55.6億円

41.9億円

14.5%

2025年3月期

489.0億円

101.9億円

80.0億円

20.8%

2026年3月期

602.9億円

173.5億円

132.9億円

28.8%

出典:決算短信よりKabuGraph作成

通期業績推移(売上高・営業利益・営業利益率)

出典:決算短信・有価証券報告書よりKabuGraph算出

営業利益率の「V字回復」に注目

ラクスの業績推移で最も注目すべきは、営業利益率のV字回復です。

2021年3月期に25.3%あった営業利益率は、2022年3月期に7.6%、2023年3月期には6.0%まで低下しました。これは業績悪化ではなく、採用強化と広告宣伝(TVCM)への「先行投資」を意図的に実行した結果です。ラクスは2021年5月に発表した5ヵ年計画(2026年3月期に純利益100億円以上)で「当初4年間は積極的な成長投資、最終年は効率化」と打ち出し、短期の利益率を犠牲にしてまで人件費と広告宣伝費の投下に踏み切りました。

その投資が結実し、2024年3月期に14.5%、2025年3月期に20.8%と利益率は急速に回復。2026年3月期には28.8%と、先行投資前(25.3%)を上回る水準に到達しました。売上の伸び(+23.3%)を大きく上回るペースで営業利益(+70.2%)が成長しており、SaaS事業特有のスケールメリット(売上が増えても固定費は比例して増えない)が強力に効いています。

営業利益率の推移 — V字回復の軌跡

出典:決算短信よりKabuGraph作成

2027年3月期 第1四半期決算の進捗 — 譲渡後初の四半期で営業利益+30%

2026年8月14日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)決算は、売上高142.1億円(前年同期比+0.9%)、営業利益47.6億円(同+30.1%)、経常利益48.7億円(同+33.2%)でした。IT人材事業(前年同期は連結に含まれていた)が外れたため売上はほぼ横ばいですが、営業利益率は33.5%(前年同期26.0%)へ上昇し、クラウド事業への集中が利益率の改善として早くも表れています。

純利益は146.3億円(前年同期の約4.1倍)と突出していますが、これはラクスパートナーズ譲渡(譲渡対価187.7億円)に伴う特別利益約167億円を第1四半期に計上したためで、一過性の要因です。四半期末の総資産は513.9億円、純資産は383.5億円(自己資本比率約75%)と、売却代金の受け取りで財務基盤はさらに厚くなりました。

項目

2027年3月期 Q1

前年同期比

通期会社予想

進捗率

売上高

142.1億円

+0.9%

597.0億円

23.8%

営業利益

47.6億円

+30.1%

205.0億円

23.2%

純利益

146.3億円

約4.1倍

252.0億円

58.1%

出典:決算短信よりKabuGraph作成。純利益にはラクスパートナーズ譲渡に伴う特別利益約167億円を含む

通期の会社予想は据え置きで、売上高597億円(前期比−1.0%)、営業利益205億円(同+18.2%)、純利益252億円、EPS 71.16円、年間配当8円(同+1円)です。売上が減収予想なのはIT人材事業(2026年3月期売上85.2億円)の剥落によるもので、クラウド事業単体では+15.3%の成長計画です。営業利益の進捗率は23.2%で、前年同期の進捗率(21.1%)を上回るペースです。

あわせて2026年5月に公表した新中期経営計画では、クラウド事業の売上高を年率15%以上で伸ばし、2028年3月期以降はRule of 50(売上成長率+営業利益率が50以上)を維持、一過性要因を除くROE 30%以上、総還元性向20%以上と累進配当を掲げています。なお2027年3月期の純利益・EPS・ROEは売却益で大きく膨らむため、PERやROEでバリュエーションを見る際は一過性要因を除いた水準で評価する必要があります。

財務健全性 — 無借金経営に近い盤石な財務基盤

2026年3月期の総資産は365.8億円、純資産は260.3億円で、自己資本比率は71.2%と非常に高い水準です。SaaS企業は一般にキャッシュフローが安定しているため借入に依存する必要がなく、ラクスも実質的に無借金経営に近い財務基盤を維持しています。

ROE(自己資本利益率)は51.1%と、国内上場SaaS企業のなかでもトップクラスの水準です(純利益にはカオナビ株式売却益14.9億円が含まれ、会社は一過性要因を除いたROE 30%以上を中期目標にしています)。これはクラウドサービスの高い粗利率(2026年3月期の連結売上総利益率は75.3%、クラウド事業のみとなる2027年3月期の会社計画では81.6%)に加え、楽楽精算を起点とする効率的な営業体制によって、売上拡大がそのまま利益に直結する構造を実現しているためです。

指標

数値

総資産

365.8億円

純資産

260.3億円

自己資本比率

71.2%

ROE(自己資本利益率)

51.1%

営業利益率

28.8%

出典: ラクス 有価証券報告書(2026年3月期)

株主還元 — 配当性向19%に加え自社株買いで総還元性向71%(2026年3月期)

2026年3月期の1株あたり配当金は7円で、配当性向は19%です。配当利回りは0.62%(株価1,125.5円時点)と低めですが、同期は約70億円の自己株式取得・消却も実施しており、総還元性向は71.3%に達しました。

会社は総還元性向20%以上と毎期増配(15期連続増配予定)を方針に掲げ、2027年3月期は年8円へ増配を予定しています。配当は控えめに保ちつつ、自社株買いで機動的に還元するスタイルで、ROE 51.1%(2026年3月期)という高い資本効率を考慮すれば、利益の多くを事業成長に再投資するこの方針は合理的といえます。

株価指標(2026年8月21日時点)

指標

値

株価

1,125.5円

時価総額

約3,989億円

PER(株価収益率)

30.5倍

PBR(株価純資産倍率)

15.3倍

ROE(自己資本利益率)

51.1%

配当利回り

0.62%(年間7円/株)

配当性向

19%

出典:東証株価・決算短信よりKabuGraph算出(2026年8月21日時点)
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投資家が注目すべきポイント

4つの成長ドライバー

1. 楽楽精算起点のクロスセル戦略

累計導入社数20,000社以上(2025年9月時点、会社公表)の楽楽精算は、ラクスにとって巨大な「見込み顧客リスト」です。楽楽精算で信頼関係を構築した企業に対し、楽楽明細・楽楽勤怠・楽楽販売を提案するクロスセルモデルは、新規の顧客獲得コスト(CAC)をかけずにARPU(1社あたり月額単価)を引き上げられるため、極めて効率的な成長エンジンとなっています。

2025年10月の「楽楽クラウド」ブランド統合は、まさにこのクロスセルを加速するための布石です。メールディーラー・配配メールの2製品を楽楽ブランドに揃えて全サービスの名称を統一し、「楽楽ファミリー」としてのワンストップ提案を可能にしました。

2. SaaS企業として異例の高収益体質

営業利益率28.8%・ROE 51.1%(いずれも2026年3月期)は、国内上場SaaS企業のなかで群を抜く高水準です。多くの国内SaaS企業が赤字または一桁の営業利益率で推移するなか、ラクスは「成長と利益の両立」を実現しています。

この高収益の源泉は、経費精算や勤怠管理といった「なくてはならない」業務に特化している点にあります。景気が悪くても企業は経費精算をやめることはできません。結果として解約率が低く、ストック収益が安定的に積み上がります。SaaSビジネスのスケールメリット(売上が増えてもサーバーコスト等の限界費用は微増に留まる)も相まって、売上の伸びを大幅に上回るペースで利益が拡大しています。

3. IT人材事業売却によるクラウドへの完全集中

2026年4月のIT人材事業(ラクスパートナーズ)譲渡は、短期的には売上高ベースで約14%の剥落を意味しますが、営業利益ベースの影響は約8%にとどまります(2026年3月期のIT人材事業のセグメント利益は13億円)。むしろ、低収益セグメントの切り離しにより、連結の営業利益率は構造的に改善します。実際、譲渡後初の四半期となる2027年3月期第1四半期の営業利益率は33.5%と前年同期の26.0%から大きく上昇しました。また、開発・営業のリソースをすべてクラウド事業に振り向けられるようになったことで、プロダクト開発のスピードアップも期待されます。

4. 生成AIによるプロダクト価値の向上

ラクスは生成AIの活用を複数の方向で推進しています。開発効率化(AIによるコード生成・テスト自動化)に加え、楽楽精算のOCR(光学文字認識)精度向上や、楽楽自動応対でのAI返信文自動生成など、プロダクトへのAI実装が進んでいます。AIによる付加価値向上は、将来的なARPU引き上げにも寄与する可能性があります。

注意すべきリスク

1. PBR 15.3倍(2026年8月時点)という高いバリュエーション

PER 30.5倍(2026年8月時点)は高成長SaaS企業としては許容範囲内ですが、PBR 15.3倍(2026年8月時点)はROE 51.1%(2026年3月期)を反映した極めて高い水準です。仮にROEが低下する局面(利益率の伸びが鈍化した場合など)が訪れれば、PBRの切り下げを伴って株価が大きく調整するリスクがあります。市場の期待を少しでも下回る業績はダウンサイドが大きくなる「高期待銘柄」の宿命です。

2. 競合環境の激化

経費精算領域ではコンカー(SAP傘下)、マネーフォワードクラウド経費、freee経費精算などの競合が存在します。帳票発行領域でもインフォマート(BtoBプラットフォーム)やマネーフォワードクラウド請求書との競争があります。特にfreeeやマネーフォワードは「統合型プラットフォーム」を志向しており、ラクスの「機能特化型」アプローチとは異なるアプローチで中小企業市場を攻めています。大企業向けではSAPやOracleとの競合も意識する必要があります。

3. 中小企業市場の景気感応度

ラクスの主要顧客層は従業員50〜1,000名の中小・中堅企業です。景気後退局面ではIT投資の抑制やコスト削減による新規導入の遅延・解約リスクがゼロではありません。ただし、経費精算や勤怠管理は業務に不可欠なインフラであるため、景気の波の影響は限定的という見方もあります。

4. IT人材事業譲渡後の見かけ上の成長率鈍化

2027年3月期はIT人材事業分の売上(2026年3月期で約85億円)が連結から剥落するため、会社計画でも連結売上高は597億円(前期比−1.0%)と横ばいで、見かけ上の連結売上成長率は一時的にマイナスまたは低成長となります(第1四半期は+0.9%)。クラウド事業単体では+15.3%の成長計画であり、投資判断の際はクラウド事業の成長率で評価することが重要です。

競合比較 — 国内バックオフィスSaaSの構図

バックオフィスSaaS市場では、ラクスは「中小企業向け × 経理・バックオフィス特化 × 機能特化型」というポジションを確立しています。各社の戦略の違いを整理します。

企業

主力サービス

戦略

営業利益率

ラクス(3923)

楽楽精算・楽楽明細

機能特化型、既存システムと共存

28.8%

freee(4478)

freee会計・freee人事労務

統合プラットフォーム型

2.6%(2026年6月期)

マネーフォワード(3994)

マネーフォワード クラウド会計・クラウド経費

統合プラットフォーム型、個人向け連携

−5.3%(2025年11月期、営業赤字)

コンカー(SAP傘下)

Concur Expense

大企業向け、グローバル展開

非公開

出典:各社決算短信よりKabuGraph作成(営業利益率は直近通期実績ベース)

ラクスの強みは「機能特化型」であること。会計ソフト全体を置き換えるのではなく、既存の会計システムを残したまま、経費精算や帳票発行といった特定業務だけをクラウド化できるため、導入ハードルが低い点が中小企業に支持されています。freeeやマネーフォワードが「会計を中心とした統合型」を目指すのに対し、ラクスは「個別業務の効率化」にフォーカスしており、競合というより棲み分けの側面もあります。

営業利益率の面では、ラクスの28.8%(2026年3月期)は競合他社を大きく上回っています。これは機能特化型のシンプルなプロダクト設計が、開発・保守コストの効率化にも寄与していることを示しています。

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フリーは、「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、個人事業主から従業員数千名規模の法人まで幅広い中小企業に統合型クラウドERPを提供するSaaS企業です。会計・人事労務・販売管理・申告・契約など経営に必要な業務をワンプラッ…

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3994情報通信・サービスその他

マネーフォワード

マネーフォワードは、「お金を前へ。人生をもっと前へ。」をミッションに掲げ、法人向けバックオフィスSaaS「マネーフォワード クラウド」を中核に、個人向け家計簿アプリ「マネーフォワード ME」、金融機関向けサービスなどを展開するフィンテック企…

Rule of 40分析 — SaaS企業としての健全性評価

Rule of 40は、SaaS企業の健全性を測る代表的な指標で、「売上成長率(%)+営業利益率(%)」が40%を超えているかどうかで判断します。成長投資と収益性のバランスが取れている企業は、この指標が40以上となります。さらに50を超える企業は「Rule of 50」をクリアし、SaaS業界でもトップクラスの効率性を示すとされています。

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Rule of 40推移(売上成長率 + 営業利益率)

出典:決算短信・有価証券報告書よりKabuGraph算出

ラクスのRule of 40推移を見ると、過去9期のうち8期でRule of 40をクリアしています。唯一の例外は2023年3月期(38.8)で、これは広告宣伝費を積極投下した先行投資期にあたります。

注目すべきトレンド

  1. 成長から利益へのシフト:2022〜2023年3月期は売上成長率30%超だったのに対し営業利益率は6〜8%と低水準でした。これはラクスが意図的に採用と広告宣伝への投資を優先した時期です。2024年以降は成長率がやや鈍化(23〜40%)する一方、営業利益率が14%→21%→29%と急上昇しており、利益回収フェーズへの転換が鮮明です。

  2. 2026年3月期はRule of 52:直近期は売上成長率23.3%+営業利益率28.8%=52.1(2026年3月期)と、Rule of 50を突破しました。グローバルSaaS企業と比較しても上位に入る水準です。

  3. IT人材事業の譲渡効果:2026年4月のIT人材事業(ラクスパートナーズ)譲渡により、今後はクラウドSaaS事業のみの業績となります。クラウド事業は利益率が高いため、Rule of 40は維持ないし改善が見込まれます。

投資家にとって重要なのは、ラクスがRule of 40を「成長率の高さ」で達成していた時期から、「利益率の高さ」で達成する時期へと構造的に変化している点です。成長が鈍化しても利益率の改善が補い、合計値は安定的に40を超え続けています。これはSaaS企業として理想的な成熟パターンといえます。

まとめ

ラクス(3923)は、「楽楽精算」を中核に、楽楽明細・楽楽販売・楽楽勤怠などのクラウドサービス群で中小企業のバックオフィスDXを推進する国内有数のSaaS企業です。

投資の観点からのポイントを整理すると、以下の通りです。

  • 事業の強さ: 楽楽精算は累計導入社数No.1の経費精算クラウド。機能特化型の使いやすさと低い導入ハードルで20,000社以上(2025年9月時点)の顧客基盤を構築。解約率が低く、ストック型の安定収益が積み上がる

  • 成長戦略: 楽楽精算を入り口にしたクロスセルでARPUを拡大。2025年10月の「楽楽クラウド」ブランド統合でワンストップ提案を本格化。IT人材事業を譲渡しクラウドに完全集中

  • 収益力: 営業利益率28.8%・ROE 51.1%(2026年3月期)は国内SaaS企業で群を抜く水準。先行投資期を経たV字回復で「成長と利益の両立」を実現し、譲渡後初の2027年3月期第1四半期も営業利益+30.1%と増益基調を維持

  • 注意点: PBR 15.3倍(2026年8月時点)と高いバリュエーション。競合(freee・マネーフォワード・コンカー)との競争。IT人材事業譲渡後の見かけ上の成長率鈍化に注意

先行投資期を経て「利益回収フェーズ」に入ったラクスは、売上の伸びを大幅に上回るペースで利益が拡大する段階にあります。楽楽精算で構築した顧客基盤を起点に、クロスセルでARPUを引き上げ、SaaS特有のスケールメリットで利益率を向上させるという成長モデルは、高い再現性と持続性を備えています。

ただし、PBR 15倍台(2026年8月時点)という評価は将来の高成長を織り込んだ水準であり、成長ペースの鈍化や競合環境の変化があれば株価への影響は大きくなります。投資判断の際は、四半期ごとの新規受注数、ARPU(1社あたり月額単価)の推移、クロスセル率の進捗に注目してください。


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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。記事中の株価指標は2026年8月21日時点、決算数値は2027年3月期第1四半期決算(2026年8月14日発表)までの情報に基づいています。

コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

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