コーポレートガバナンス・コードとは|2026年改訂で83原則→30原則に、独立社外取締役3分の1以上の会社は6.4%→98.8%

コーポレートガバナンス・コード(CGコード)は、東京証券取引所が上場会社に示している企業統治の行動原則です。金融庁と東証が事務局を務めた有識者会議の案をもとに、2015年6月から適用されました。株主の権利、取締役会の役割、情報開示などについて、上場会社が取るべき行動を原則の形で並べています。
法律ではなく、原則ごとに「実施する」か「実施しない理由を説明する」かを会社が選べるのが特徴です(コンプライ・オア・エクスプレイン)。2026年7月21日の改訂で補充原則が廃止され、説明が必要な原則は83から30(基本原則4・原則26)に絞られました。プライム・スタンダード市場の会社は全原則、グロース市場の会社は基本原則だけが対象です。
コードができてから、企業の取締役会は大きく変わりました。独立社外取締役を取締役会の3分の1以上にしている会社は、東証一部の6.4%(2014年)からプライム市場の98.8%(2026年7月)に増えています(東証調べ)。この記事では、コードの中身と改訂の経緯、市場区分ごとの適用、各社の対応をコーポレート・ガバナンス報告書で確かめる方法、議決権行使や株価とのつながりを解説します。
この記事の内容(目次)
コーポレートガバナンス・コードとは——東証が定める上場企業の行動原則
コードは「コーポレートガバナンス」を次のように定義しています。
「上場会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」(東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」2026年7月21日 p.1)
この仕組みを実効的にするための主要な原則をまとめたものが、コーポレートガバナンス・コードです。
定める者:東京証券取引所。有価証券上場規程の別添として定めている(東証「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」2026年4月10日)
案をつくる場:金融庁と東証が事務局を務める有識者会議。策定時は2014年8月に設けられた「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」、2026年の改訂は「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」
対象:東証の上場会社。市場区分によって説明が必要な範囲が違う(後述)
最新版:2026年7月21日の改訂版(2026年7月版)。基本原則4つと原則26個、原則の趣旨や具体例を補う「解釈指針」からなる
狙いは不祥事を防ぐ「守りのガバナンス」だけではありません。序文は、健全な企業家精神を発揮して経営手腕を振るえる環境を整える「攻めのガバナンス」を目指すと書いています。各原則は「経営陣にとっての制約と捉えることは適切ではなく」、むしろリスクテイクを伴う事業活動を後押しするものだとしています(同 p.1)。
スチュワードシップ・コードとの関係——「車の両輪」
企業の側に行動を求めるのがCGコード、株を持つ機関投資家(運用会社・年金・保険会社など)の側に求めるのがスチュワードシップ・コード(2014年2月、金融庁)です。CGコードの序文は両者を「いわば『車の両輪』」と呼び、企業と機関投資家の「目的を持った対話」で統治を良くしていくことを期待しています(東証「コーポレートガバナンス・コード」p.1)。
機関投資家が投資先とどう対話し、議決権をどう使っているかは、次の記事で扱います。

スチュワードシップ・コードとは|8原則と2025年改訂、受入れ354機関——同じ議案でも運用会社で賛否が割れる
スチュワードシップ・コードは金融庁が2014年に定めた機関投資家の行動原則(8原則)。2025年6月の第三次改訂の要点、受入れ354機関、CGコードとの違い、投信・年金の議決権を運用会社がどう使ったかを個別開示で調べる方法まで。
策定と改訂の経緯——2015年の適用から2026年の大改訂まで
CGコードは政府の成長戦略から生まれ、3〜5年おきに改訂されてきました。
2013年6月:閣議決定の「日本再興戦略」に、機関投資家の行動原則(スチュワードシップ・コード)の検討が盛り込まれる
2014年2月:金融庁がスチュワードシップ・コードを策定
2014年6月:「『日本再興戦略』改訂2014」に、東証によるCGコードの策定を支援することが盛り込まれる。OECDのコーポレート・ガバナンス原則を踏まえることも明記
2014年8月:金融庁・東証を共同事務局とする有識者会議が発足し、計9回議論。同じ月に経済産業省が伊藤レポートを公表
2015年3月5日:有識者会議が「コーポレートガバナンス・コード原案」を公表(東証「コーポレートガバナンス・コード原案」序文 資料編 p.1〜2)
2015年6月1日:東証がコードの適用を開始
2018年6月1日:1回目の改訂
2021年6月11日:2回目の改訂。2022年4月の市場区分の再編に合わせ、プライム市場向けの原則を加えた
2023年3月:東証がプライム・スタンダード市場の全社に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請
2026年4月10日:改訂案を公表。5月15日までの意見募集に147の個人・団体が意見を寄せた(金融庁「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」)
2026年7月21日:3回目の改訂(2026年7月版)。同日に施行され、上場会社は2027年7月末までに改訂版に沿った報告書を出す(東証「コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正について」2026年7月21日)
各改訂で何が変わったか
2018年:資本コストと政策保有株式
自社の資本コストを的確に把握したうえで、事業ポートフォリオの見直しなど果断な経営判断をすることを明確にした
政策保有株式(取引先などの株)の縮減方針の開示と、個別銘柄ごとの保有の検証を求めた
CEOの選解任の手続と後継者計画、指名委員会・報酬委員会の活用、取締役会の多様性、企業年金の運用体制(フォローアップ会議「コーポレートガバナンス・コードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」2018年3月26日)
2021年:プライム市場向けの上乗せ
プライム市場の会社に独立社外取締役を3分の1以上求めた(それまでは「2名以上」)
女性・外国人・中途採用者の管理職への登用など、中核人材の多様性について目標と状況の開示を求めた
サステナビリティへの取組みの開示と、プライム市場ではTCFDなどの枠組みに沿った気候変動の開示(フォローアップ会議「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」2021年4月6日)
2026年:成長投資と「スリム化」
取締役会の役割として、成長の道筋を示し、成長投資や事業ポートフォリオの見直しで何を実行するかを説明することを明記
補充原則を廃止し、具体例は「解釈指針」へ移した。基本原則は5→4、原則は31→26
有価証券報告書を株主総会の前に出すこと、取締役会事務局の機能強化、サイバーや経済安全保障のリスク管理を加えた(金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂(2026年)の概要」)
2026年の改訂の趣旨を説明した文書は、企業が「専ら株主還元に頼るなど短期目線でふるまうのではなく」、中長期の企業価値の向上に向けた成長投資に取り組むことを期待すると書いています(金融庁・東証「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」2026年7月21日 p.1)。自社株買いや増配で資本効率を上げる段階から、稼ぐ力を伸ばす投資の中身を説明させる段階へ、重心が移ったと読めます。
同じ時期に経済産業省が公表し、ROE8%を掲げた伊藤レポートとCGコードの関係は、次の記事にまとめています。

伊藤レポートとは|ROE8%提言と2.0・3.0・人材版の違い、東証のROEは公表時7.6%→8.7%に
伊藤レポートは2014年8月に経済産業省が公表し、最低限8%を上回るROEを求めた報告書です。2.0・人材版・3.0の違い、CGコード・東証要請との関係、東証のROEが公表時7.6%→8.7%、PBRが1.2倍→1.8倍になった推移とPERの寄与まで。
2026年版の中身——4つの基本原則と26の原則
2026年版は、基本原則4つと原則26個の計30個でできています。2021年版にあった補充原則47個は廃止され、中核の部分は原則に格上げされ、具体例やベストプラクティスは「解釈指針」に移りました。解釈指針は基本原則4つと原則20個に付いていますが、実施か説明かを求める対象ではありません(東証「コーポレートガバナンス・コード」p.3)。
4つの基本原則と、その下に並ぶ26の原則の見出しを図にまとめました。基本原則の要旨は図の下に並べます(東証「コーポレートガバナンス・コード」p.5〜26)。
基本原則1 株主の権利・平等性の確保、株主との対話:株主の権利を実質的に守り、少数株主や外国人株主も平等に扱う。株主総会の場以外でも株主と建設的に対話する。旧基本原則5「株主との対話」をここに統合した
原則1-1 株主との建設的な対話/1-2 株主総会における権利行使/1-3 株主総会で相当数の反対があった会社提案議案/1-4 政策保有株式
基本原則2 株主以外のステークホルダーとの適切な協働:従業員・顧客・取引先・債権者・地域社会との協働。解釈指針に、人的資本への投資や、取引先との公正な取引(適正な価格転嫁を含む)が加わった
原則2-1 中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定/2-2 社内の多様性の確保/2-3 内部通報/2-4 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮
基本原則3 適切な情報開示と透明性の確保:財務情報に加え、経営戦略・リスク・ガバナンスなどの非財務情報を、正確で分かりやすく有用な形で開示する
原則3-1 情報開示の充実/3-2 英文開示/3-3 会計監査人
基本原則4 取締役会等の責務:企業戦略の大きな方向性を示す、経営陣の適切なリスクテイクを支える、独立した立場から経営陣を実効的に監督する
原則4-1〜4-5 取締役会の役割・責務(企業戦略等の大きな方向付け/適切なリスクテイクを支える環境整備/経営陣・取締役に対する実効的な監督①②/サステナビリティを巡る取組み)
原則4-6 監査役及び監査役会の役割・責務/4-7 任意の仕組みの活用
原則4-8〜4-12 独立社外取締役(役割・責務/質の確保/数の確保/独立性の確保/機能発揮)
原則4-13 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件/4-14 取締役会における審議の活性化等/4-15 取締役・監査役の研鑽
投資家が特に読んでおきたい原則
26の原則のうち、株主の損得や株価につながりやすいのは次のものです。
原則1-2 株主総会における権利行使:有価証券報告書を株主総会の前に提出することを例に挙げた(2026年の追加)。解釈指針は「3週間以上前」が最も望ましいとし、総会の開催時期を後ろにずらすことも検討するよう求める
原則1-4 政策保有株式:取引先などの株を持つなら縮減の方針を開示し、毎年、取締役会で銘柄ごとに便益やリスクが資本コストに見合うかを検証する。売却を申し出た相手に取引の縮小をほのめかして妨げない
原則4-1・4-2 成長の道筋と経営資源の配分:資本コストを踏まえた収益計画・資本政策の方針と、収益力・資本効率の目標を示し、成長投資や事業ポートフォリオの見直しで「具体的に何を実行するのか」を説明する。現預金などを成長投資に有効に使えているかを取締役会が検証し続ける
原則4-7・4-10 指名・報酬委員会と独立社外取締役の数:独立社外取締役はプライム市場で3分の1以上、その他の市場で2名以上。支配株主がいる会社は、支配株主から独立した社外取締役をプライムで過半数、その他の市場で3分の1以上。監査役会設置会社などで独立社外取締役が取締役会の過半数に満たない場合は、独立社外取締役を主な構成員とする指名委員会・報酬委員会を置く
原則2-2 社内の多様性の確保:中核人材への登用の多様性について、考え方と自主的で測定可能な目標、その状況を開示する
原則1-4の政策保有株式(持ち合い株)への要求がコードの改訂のたびにどう強まり、解消の売りが株価にどう響くかは、次の記事で詳しく扱っています。

株式の持ち合い・政策保有株とは|都銀・地銀の保有比率は15.7%→1.7%、トヨタ3.66兆円の解消事例と株価への影響
株式の持ち合いは、企業同士が互いの株を持って安定株主になる慣行です。都銀・地銀等の保有比率は1990年度15.7%から2025年度1.7%へ(JPX調査)。政策保有株式との違い、解消の売りが株価に与える影響、有報での調べ方をトヨタ・大林組の実例で解説します。
支配株主がいる会社に独立社外取締役の過半数を求めるのは、親会社と少数株主の利益がぶつかりやすいためです。親子上場の問題は次の記事で扱っています。

親子上場とは|利益相反の構造・解消事例・少数株主が知るべきリスク
親子上場の仕組みと問題点をわかりやすく解説。利益相反・少数株主保護の課題から、NTTドコモや日立グループの解消事例、東証の規制強化まで、投資家が押さえるべきポイントを網羅します。
コンプライ・オア・エクスプレイン——守らない原則は「理由」を読む
コードは細かい規則を並べる「ルールベース」ではなく、大まかな原則を示して中身を各社に任せる「プリンシプルベース」を採っています。そのうえで、原則ごとに「実施する(コンプライ)」か「実施しない理由を説明する(エクスプレイン)」かを会社が選びます(東証「コーポレートガバナンス・コード」p.2)。
東証と金融庁は、全部をコンプライすることが良いとは限らないと説明しています。2026年の改訂にあわせた上場会社向けの資料は、「全ての原則についてコンプライしなければならない」と考える必要はなく、形だけ実施するよりエクスプレインを積極的に選ぶべき場合があるとしています(金融庁・東証「上場会社の担当者の皆様へ」2026年7月)。
丁寧なエクスプレイン:実施しない原則について、趣旨に照らして工夫した説明が求められる。「ひな型」的な表現で表面的な説明に終わるのは趣旨に反する(コード序文 p.2)
形骸化への批判:「検討中」という説明のまま何年も放置している例があると、東証自身が指摘している(東証「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2025」p.14)
投資家の側への注文:一部の原則を実施していないことだけをもって、機械的にガバナンスが悪いと評価するのは適切でないと、コードは株主の側にも求めている(コード序文 p.2)
エクスプレインが多かった原則
2021年版のコードで実施率が低かったのは、英語での開示、議決権の電子行使、多様性の目標、指名・報酬委員会、CEOの後継者計画などです。プライム市場ではほぼ実施されていても、スタンダード市場では半分前後しか実施していない原則が目立ちます。
原則(2021年版) | 内容 | プライム | スタンダード |
|---|---|---|---|
補充原則1-2④ | 議決権の電子行使・招集通知の英訳 | 93.1% | 23.1% |
補充原則3-1② | 英語での情報開示 | 96.6% | 41.3% |
補充原則2-4① | 中核人材の多様性の目標 | 81.2% | 46.3% |
補充原則4-10① | 指名・報酬委員会 | 90.0% | 50.5% |
補充原則4-1③ | CEOの後継者計画 | 85.8% | 55.0% |
大企業もエクスプレインをしています。キーエンスは2026年7月31日に更新した報告書で、補充原則2-4①(中核人材の多様性の目標)について、女性・外国人・中途採用者の人材の充実に努めてきたとしたうえで「現時点において測定可能な目標を示すことは困難」と説明しています(キーエンス コーポレート・ガバナンスに関する報告書 2026年7月31日更新 p.1)。
市場区分ごとの適用範囲——プライム・スタンダードは全原則、グロースは基本原則だけ
どこまで説明が必要かは、上場している市場区分で決まります。グロース市場を基本原則だけにしている理由について、東証は2026年の改訂の際、「高い成長可能性を重視するというコンセプトの下、上場会社としての成長段階やリスク特性が他の市場と異なる」ことを踏まえたと説明しています(東証「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリック・コメントの結果 No.841 p.447)。
市場区分 | 実施か説明かの対象 | 独立社外取締役の水準 |
|---|---|---|
プライム | 基本原則4・原則26 | 取締役会の3分の1以上 |
スタンダード | 基本原則4・原則26 | 2名以上 |
グロース | 基本原則4 | 原則の対象外 |
スタンダード市場でも、支配株主がいる会社は支配株主から独立した社外取締役を3分の1以上選ぶよう求められます(原則4-10)。プライム市場には、原則の中に「プライム市場上場会社は」と書かれた上乗せがあります。
独立社外取締役:3分の1以上。支配株主がいれば、支配株主から独立した社外取締役を過半数(原則4-10)
指名・報酬委員会:独立社外取締役が取締役会の過半数に満たない会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役にすることを基本とし、独立性の考え方・権限・役割を開示する(原則4-7)
議決権電子行使プラットフォーム:少なくとも機関投資家が使えるようにする(原則1-2)
2026年7月14日時点の会社数は、プライム1,551社、スタンダード1,563社、グロース594社です(東証「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」2026年7月21日 p.6)。グロース市場の会社にも、市場区分にかかわらずコードの趣旨・精神を尊重してガバナンスの充実に努めることが求められています(東証「コーポレート・ガバナンス白書2025」p.13)。
コードで何が変わったか——独立社外取締役は1割未満からほぼ全社に
コードの効果が最もはっきり数字に出ているのが独立社外取締役です。東証一部(2021年まで)とプライム市場(2022年から)の推移を見ると、コードの適用と改訂に合わせて段階的に増えています。
独立社外取締役が3分の1以上・過半数の会社の割合(東証一部→プライム市場)
3分の1以上:6.4%(2014年)→33.6%(2018年)→72.8%(2021年)。プライム市場に3分の1以上を求めた2021年の改訂を受けて92.1%(2022年)に上がり、2026年は98.8%
2名以上:21.5%(2014年)→99.7%(2026年)。2名以上を求めたコードの適用を受け、48.4%(2015年)から79.7%(2016年)に跳ねた(同 p.3)
過半数:1.4%(2014年)→29.9%(2026年)。JPX日経400の構成銘柄では36.5%
指名委員会(法定・任意の合計):2015年の10.5%から2026年は92.6%に(同 p.9)
他の市場は水準が違います。2026年7月時点で、スタンダード市場の3分の1以上は62.3%、グロース市場の2名以上は75.1%です(東証「独立社外取締役の選任状況」2026年7月21日 p.6)。
次の焦点は過半数です。2026年の改訂文書は、グローバルに活躍するプライム企業では「いずれは」過半数の独立社外取締役が選任されるべきだとの指摘があると記し、独立社外取締役が議長を務めることの効果にも触れました(金融庁・東証「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」p.3)。原則の水準は3分の1のままで、過半数は必要と考える会社が選ぶ形です(原則4-10)。
株価・経営への影響——議決権行使・持ち合い解消・資本配分
コードに法的な強制力はなくても、機関投資家の議決権行使の基準を通じて、水準を満たさない会社の経営トップには株主総会で反対票が集まりやすい仕組みができています。
議決権行使の基準がコードの水準を取り込んでいる
議決権行使助言会社ISSの2026年版の日本向け基準(2026年2月施行)は、監査役設置会社について、次のいずれかに当たれば経営トップの取締役選任に反対を推奨するとしています(ISS「2026年版 日本向け議決権行使助言基準」p.5)。
総会後の取締役会で社外取締役が3分の1未満、または2名未満
政策保有株式が純資産の20%以上
過去5期平均のROEが5%を下回り、改善傾向にない
女性取締役が1人もいない(2027年2月以降の総会は女性比率10%未満)
反対票が多く集まった議案について、コードの原則1-3は、取締役会が反対の理由や原因を分析し、適切に対応することを求めています。株主総会で賛成率が大きく下がった会社は、次の報告書や招集通知で何を変えたかを確かめると、経営陣が株主の声をどう受け止めたかが分かります。
持ち合い解消と資本コストを意識した経営
政策保有株式の売却:原則1-4による方針の開示と検証の要求もあり、銀行・損保・事業会社の持ち合い解消が進んだ。売られた株を誰が買い取るかで、需給への影響が変わる(株式の持ち合い・政策保有株)
資本コストの意識:2018年の改訂で「自社の資本コストを的確に把握」が入り、2023年の東証の要請で、資本コストや株価を踏まえた改善計画の開示が広がった。自社株買いや増配を打ち出す会社が増えたのも、この流れの中にある
成長投資へ:2026年の改訂は、還元だけでなく、設備・研究開発・人的資本・知的財産への投資や事業の入れ替えに経営資源をどう配分するかの説明を求める。中期経営計画のキャピタルアロケーション(稼いだお金と調達した資金の使い道)を読む重要性が増している
ただし、コードだけが株価を動かしたと切り分けることはできません。東証一部・プライムのROEやPBRは2014年以降に上がりましたが、景気や企業業績、東証の要請など複数の要因が重なっています。市場全体の数字の推移は伊藤レポートの記事で確かめられます。
会社が示す資本コストの考え方と計算方法は、次の記事で扱っています。

WACC(加重平均資本コスト)とは|計算式・CAPMの使い方・ROIC≧WACCの判定を図解
WACC(加重平均資本コスト)の計算式をCAPMモデルから順を追って解説。株主資本コスト・負債コスト・実効税率の求め方、ROIC≧WACCで測る価値創造の判定基準、業種別の目安まで、個人投資家が使える水準でわかります。
コーポレート・ガバナンス報告書で確かめる——検索方法と読む順番
各社がコードにどう対応しているかは、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」(CG報告書)で確かめられます。上場会社が東証に提出する報告書で、東証のサイトで誰でも読めます。
東証の「コーポレート・ガバナンス情報サービス」を開く
「コード」の欄に証券コードを入れ、「この条件で一覧を抽出」を押す
一覧の「表示」から報告書のPDFを開く
内容に変更があれば随時更新されますが、資本構成やコードに関する部分は、株主総会の後に年1回まとめて更新されることがあります(東証「コーポレート・ガバナンスに関する報告書の見方」2026年7月改訂版 p.1)。
読む順番の目安です。
①「コードの各原則を実施しない理由」:報告書の冒頭近くにある。全原則を実施している会社は、トヨタ自動車のように「全てを実施しています」の1行になる(トヨタ自動車 コーポレート・ガバナンスに関する報告書 2026年6月17日更新 p.1)。エクスプレインがあれば原則の番号と理由を読む
②どの版のコードに基づくか:2027年7月末までは改訂前の版で更新してもよく、その場合は「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)に基づき記載しています」と書くよう東証が求めている(東証「コーポレートガバナンス報告書の更新について」p.2)。ただし書いていない報告書もあり、キーエンスの2026年7月31日の報告書は版を明記せずに旧番号(「補充原則2-4-1」「原則1-7」など)で書いている。「補充原則」や原則5-1・原則1-7のような旧番号が出てきたら2021年版と判断する
③「各原則に関する取組み」:政策保有の方針(原則1-4)、経営計画・報酬・指名の方針(原則3-1)、取締役のスキルの組み合わせや取締役会の実効性評価(原則4-13)。旧版の報告書では「各原則に基づく開示」という欄名
2026年版で開示を求める原則から外れたもの:サステナビリティの取組み(旧補充原則3-1③)、経営陣に任せる範囲(旧補充原則4-1①)、独立性の判断基準(旧原則4-9)、取締役・監査役の兼任状況(旧補充原則4-11②)。新しい報告書では記載が消えることがある(東証「コーポレートガバナンス報告書の更新について」p.9)。サステナビリティの取組みは有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄でも読める
④「資本コストや株価を意識した経営」の欄:東証の要請に沿った開示があるか、アップデートされているか
⑤大株主・親会社・支配株主と独立役員:支配株主がいるのに独立社外取締役が少なくないか
⑥買収への対応方針:いわゆる買収防衛策があるか
改訂版に沿った報告書の例——SWCC
電線大手のSWCC(5805、プライム市場)は2026年8月7日の更新で、2026年7月版に基づいて記載すると明記したうえで、「実施しない理由」の欄で原則1-2の解釈指針について次のように説明しています。
「2026年3月期の有価証券報告書は株主総会開催日1週間前に提出いたしました。2027年3月期以降の有価証券報告書では、『株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましい』との解釈指針の趣旨を踏まえ、年度末決算作業の一層の効率化に加え、会計監査人による監査日程の前倒し・監査体制の強化を求めていくなど、さらなる提出の早期化を目指してまいります」(SWCC コーポレート・ガバナンスに関する報告書 2026年8月7日更新 p.1)
解釈指針は説明義務の対象外ですが、今の状況(1週間前)、目指す水準(3週間前)、そのための手段を具体的に書いており、株主が進み具合を追いやすい説明です。
SWCC
電力ケーブル、通信ケーブル、自動車用電線で電力・通信・自動車インフラを支える。環境対応製品の開発、リサイクル事業も展開する電線総合メーカー。
まとめ
CGコードは東証が定める上場企業の行動原則。2015年6月に適用され、2018年・2021年・2026年に改訂された
法的拘束力はなく、原則ごとに「実施する」か「実施しない理由を説明する」かを会社が選ぶ。説明もしなければ上場規程の違反になる
2026年7月の改訂で補充原則を廃止し、83原則→30原則(基本原則4・原則26)に。成長投資と経営資源の配分の説明、有価証券報告書の総会前提出が加わった
プライム・スタンダードは全原則、グロースは基本原則だけ。プライムには独立社外取締役3分の1以上などの上乗せがある
独立社外取締役が3分の1以上の会社は6.4%(2014年・東証一部)→98.8%(2026年・プライム)、過半数は29.9%まで増えた
各社の対応はCG報告書で確かめる。まず「実施しない理由」、次に政策保有・経営計画・資本コストの欄を読む。2027年7月末までは旧版の番号に注意








