仕手株・仕手筋とは|過去の有名な仕手戦一覧と、相場操縦になる線

仕手筋(してすじ)とは、潤沢な資金を背景に投機的な売買で株価を動かし、大きな利益を得ようとする投資家や投資集団のことで、仕手株はその仕手筋が手掛けている、または好んで売買の対象にする銘柄を指します。単に「仕手」とも呼びます(大和証券「金融・証券用語解説:仕手筋」・「仕手株」、2026年10月13日閲覧)。
1つの銘柄を大量に買い集めること自体は違法ではありません。ただし、自分の売りを自分で買う仮装売買、高い指値で買い上がる・見せ玉で買いを誘うといった変動操作、根拠のない情報を掲示板やSNSで広める風説の流布は、金融商品取引法が禁じる相場操縦などに当たり、10年以下の拘禁刑などの刑事罰や課徴金の対象です(2026年10月時点)。
過去の仕手戦でよく知られるのは、1980〜81年の誠備グループ(加藤暠)と宮地鉄工所などの「誠備銘柄」、1980年代後半の光進(小谷光浩)をめぐる国際航業・蛇の目ミシン工業・藤田観光の事件です。その後も南野建設(2007年告発)や新日本理化(2015年告発)など、証券取引等監視委員会が相場操縦や風説の流布を告発した事件が続いています。
この記事では、仕手株によく見られる値動きと特徴、違法になる線引き、国会会議録・証券取引等監視委員会の告発資料・判決で確かめた過去の有名な仕手戦と事件の一覧、近年の手口、近づいたときに負いやすい損、東証などの公表データでの確かめ方を順に整理します。どの銘柄が仕手株かを示す公式の一覧はないため、この記事でも現在の銘柄を仕手株と名指しすることはしません。
この記事の内容(目次)
仕手筋・仕手株とは——大きな資金で株価を動かそうとする投資家と、その対象の銘柄
証券会社の用語集の説明を並べると、次のとおりです(大和証券の用語集は情報提供:時事通信社。いずれも2026年10月13日閲覧)。
仕手筋(仕手):潤沢な資金を背景に投機的な売買で株価を操り、巨額の利益を得ようとする投資家や投資集団。単に「仕手」ともいう(大和証券「仕手筋」・「仕手」)
仕手株:仕手筋が手掛けている銘柄、または仕手筋が好んで売買の対象とする銘柄(大和証券「仕手株」)。野村證券は、短期間に大きな利益を得ることを目的に市場に参加する投資家が好んで売買の対象に取り上げる銘柄と説明している(野村證券「証券用語解説集:仕手株」)
仕手戦:仕手株をめぐって、売方と買方が激しい攻防戦を展開すること(大和証券「仕手戦」)
どの銘柄が仕手株かという公式の区分はありません。大和証券の用語集も、仕手株は相場の流れによって変わることが多く、「仕手株とそうでない株との区別は必ずしもはっきりしていません」としています。掲示板やSNSで「仕手株」と呼ばれていても、それだけで誰かが株価を操作している証拠にはなりません。
仕手株の値動きと特徴——買い集め・つり上げ・売り抜け・急落
証券取引等監視委員会(以下、監視委)の事例集が示す相場操縦の取引の流れ(つり上げと売り抜け)に、その前後の段階を加えてKabuGraphが整理すると、仕手株の値動きはおおむね次の4つの段階になります(図は架空の値動き)。
①買い集め:つり上げの前に、あとで売るための株を手元に集めておく
②つり上げ:売り注文を高い指値で次々に買う「株価引上げ」、約定させる気のない注文を並べて買いが多いように見せる「見せ玉」、下値に厚い買いを置く「下値支え」、自分の売りを自分で買う「対当売買」などで、売買が活発で値上がりしているように見せる(監視委「課徴金事例集~不公正取引編~」2026年6月 p.50〜51)。名義や証券会社を分けることも多く、ストリーム株の事件では最大13名義・証券会社6社で高い指値の買い上がりをしたとして告発されている(監視委「株式会社ストリーム株券に係る相場操縦事件の告発について」2017年11月21日)
③売り抜け:値上がりと売買の活発さにつられて入ってきたほかの投資家の買いに、集めた株を売る。監視委の事例集も、取引の流れを「誘引されたと考えられる他の投資者からの買い注文」に売り抜ける形で説明している(同 p.58)
④急落:つり上げの買いが止まると、値上がりを支えていたものがなくなる。買い手がいなければストップ安が続き、売りたくても約定しにくくなる(第6章)
仕手株の話でよく出る相場の俗語のうち、証券会社の用語集に載っているものは次のとおりです(2026年10月14日閲覧)。
ちょうちん(提灯をつける):自分の考えではなく、有力投資家の売買に付和雷同して同じ動きをすること(大和証券「ちょうちん」)。野村證券は、株価の動きだけを材料に、その動きに追随して相場に参加することと説明している(野村證券「提灯をつける」)。③で売り抜けの相手になりやすいのはこの買い
イナゴ投資家:材料が出た株を対象に、短期間に売買を繰り返す個人投資家の集団。対象になった銘柄のチャートは急上昇したあと急落し、塔のような形の「イナゴタワー」と呼ばれる(大和証券「イナゴ投資家」)
売り抜け:保有株を相場が下がる前に売って、取引から離脱すること。「売り逃げ」ともいう(大和証券「売り抜け」)
たとえば新日本理化株の事件では、2012年2月15日〜3月2日の13取引日に、寄り付き前の大量の成行買いや高い指値の買い、下値の大量の買い注文で株価を871円から1,297円まで上げ、その株価で147万5,400株を売ったとして、監視委が2015年12月に告発しています(監視委「新日本理化株式会社株券に係る相場操縦嫌疑事件の告発について」2015年12月4日)。
狙われやすいとされる銘柄——品薄株・低位株・板の薄い銘柄
用語集などが挙げるのは、少ないお金で値を動かしやすい銘柄です。
品薄株:資本金が小さい、安定株主が多いなどの理由で浮動株(市場で売り買いされる株)が少ない株。市場性が小さく、株価の動きが荒っぽくなりやすい(大和証券「品薄株」)
低位株:株価水準が低い銘柄。何円以下という明確な基準はなく、相場全体の水準によって変わる(大和証券「低位株」)
板の薄い銘柄:売り買いの注文が少ないと、1つの注文で値段が何段も動く。板の読み方はザラ場の記事で説明している
監視委が2026年3月に告発したスーパーバリュー株など5銘柄の事件では、株価91円の銘柄を111円に、200円の銘柄を234円に動かしたとされています(監視委「株式会社スーパーバリュー株券等5銘柄に係る相場操縦事件の告発について」2026年3月12日)。値幅が小さくても調査の対象で、監視委は「取引規模の大小にかかわらず」調査するとしています(課徴金事例集2026年6月 p.52)。
値上がりの途中では、信用取引で買った人の未決済の買い(信用買い残)も積み上がりやすくなります。信用取引は所定の期限内に主に反対売買で返済する取引で、制度信用取引の返済期限は最長6か月です(日本取引所グループ「信用取引制度の概要」、2026年10月14日閲覧)。積み上がった買い残の多くはいずれ返済のための売りになるので、下げ始めると売りが売りを呼びやすくなります。

信用残高とは|買い残・売り残から相場の需給バランスを読む方法
信用残高(信用買い残・売り残)の見方と株価予測への活用法を解説。信用倍率・貸借倍率の意味と、需給から相場の方向性を読み取る方法がわかります。
仕手株は違法?——買い集めは合法、相場操縦と風説の流布は違法
ある銘柄を大量に買い集めることや、急騰している株を売り買いすること自体は違法ではありません。金融商品取引法が禁じているのは、他人に誤解させたり取引に誘い込んだりする目的での次のような行為です(金融商品取引法(e-Gov法令検索)、2026年10月13日確認)。
相場操縦(159条)——売買を装う、値を人為的に動かす
仮装売買(1項):売買が活発だと誤解させるなどの目的で、権利の移転を目的としない仮装の売買をする。同じ人が同じ銘柄を同時期に同じ値段で売り買いする形(課徴金事例集2026年6月 p.50)
馴合売買(1項):あらかじめ示し合わせた相手と、同時期・同じ値段で売りと買いをぶつける
変動操作(2項1号):取引に誘い込む目的で、売買が繁盛だと誤解させたり相場を変動させたりする一連の売買や注文。監視委は手口の例として、株価引上げ、見せ玉、下値支え、対当売買、大引け間際に終値を引き上げる「終値関与」を挙げている(同 p.50〜51)
表示による相場操縦(2項2号・3号):相場が自分や他人の操作で変動すると言いふらす。売買について重要な事項で虚偽や誤解を生じさせる表示を故意にする
違法な安定操作(3項):政令の定めによらずに、相場をくぎ付け・固定・安定させる一連の売買。夢の街創造委員会株の事件では、追証が発生しない1,190円程度に株価を維持しようとした買い支えが含まれていた(監視委「夢の街創造委員会株式会社株券に係る相場操縦事件の告発について」2016年6月14日)
終値関与がどこから違法になるかは、期末の買いを扱ったこちらの記事で説明しています。

お化粧買い(ドレッシング買い)とは|期末の終値を上げる買いと、違法になる場合
お化粧買い(ドレッシング買い)は、機関投資家が期末に保有株の評価額を高く見せるための買い。米国の研究では四半期末の最終日に株価が上がり翌日に戻る。終値をつり上げる注文は終値関与で相場操縦に。権利落ちや指数入れ替えとの見分け方、2026年9月末の例も解説。
風説の流布・偽計(158条)——お金を使わずに相場を動かす
158条は、売買のため、または相場の変動を図る目的で、風説を流布し、偽計を用い、暴行・脅迫をすることを禁じています。監視委は風説の流布を「合理的根拠を有しない情報を不特定多数の者へ伝達される可能性がある状態に置くこと」とし、情報が虚偽か結果的に真実かを問わず、合理的根拠がないまま流布すること自体が違法と説明しています(課徴金事例集2026年6月 p.62)。
風説の流布でも、執行猶予のつかない懲役になった例があります。大盛工業株の事件では、虚偽の事実を流布した会社役員に懲役2年6月(執行猶予なし)と約15億5,810万円の追徴が言い渡され、2009年11月に確定しています(監視委「告発事件の概要一覧表」 100号事件)。
偽計には、上場会社が第三者割当増資の払込みや買収を偽って公表した事件も含まれます(同 148号の井上工業、154号のセラーテムテクノロジーなど)。小さな上場会社が外部の資本に「箱」として使われる手口は、裏口上場の記事で事例とともに扱っています。

裏口上場とは|北沢バルブからSPACまで・仕組みと東証の規制を解説
裏口上場(バックドアリスティング)の仕組み・手法・過去の事例を解説。東証の「実質的存続性喪失」基準による規制と、米国SPACとの違いまで投資家が知るべきポイントを網羅します。
罰則と課徴金——10年以下の拘禁刑、利益は追徴
刑事罰:10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金、またはその両方(197条1項5号)。財産上の利益を得る目的で相場を変動させ、その相場で売買したときは10年以下の拘禁刑及び3,000万円以下の罰金(同条2項)
法人:7億円以下の罰金(207条1項1号)
没収・追徴:犯罪行為で得た財産は没収し、没収できなければその価額を追徴する(198条の2)。新日本理化株の事件では約26億5,864万円の追徴が確定している(第4章)
課徴金:刑事事件にならなくても、行政上の制裁として課徴金の納付が命じられる。相場操縦は174条・174条の2・174条の3(違法な安定操作)、風説の流布・偽計は173条
刑法の改正で、2025年6月1日から懲役と禁錮は「拘禁刑」になりました(法務省「法務省だより あかれんが」89号)。それより前の行為の告発資料や判決には「懲役」と書かれています。
相場操縦の規制は「何人も」が対象で、個人の小さな取引も例外ではありません。監視委は、株価の引上げ幅が小幅なら、見せ玉の株数が少なければ相場操縦にならないだろう、という考えを「誤解」としています(課徴金事例集2026年6月 p.51)。
過去の有名な仕手戦・事件の一覧——国会会議録と監視委の資料で確かめたもの
国会会議録、証券取引等監視委員会の告発資料と判決、課徴金の勧告で確かめられた事件を年代順に並べます。行為者の名前は、国会での政府答弁など公的な記録に出ているものだけを書き、監視委が名前を伏せている事件は資料の肩書きのままにしています。報道で名前が挙がっている人物は、本文で報道として触れます。
株価を動かされた会社の多くは、被害を受けた側です。会社自身の経営者・関係者が告発された例は、表ではキャッツ(社長ら)と夢の街創造委員会(特別顧問)です。
時期 | 銘柄と行為者 | 結末 |
|---|---|---|
1980〜81年 | 宮地鉄工所など「誠備銘柄」 | 1981年2月に加藤が脱税の共犯で逮捕(株の操作は捜査の対象外)。1985年の一審で共犯の脱税は有罪、本人の脱税は無罪。誠備銘柄は急落 |
1986〜90年 | 国際航業、蛇の目ミシン工業、藤田観光 | 1990年7月に藤田観光株の株価操作の容疑で逮捕・立件、蛇の目ミシン工業への恐喝でも起訴 |
1993年告発 | 日本ユニシス(現BIPROGY) | 十数名義の仮装売買など。懲役2年6月・執行猶予4年ほか(1994年) |
2004年告発 | キャッツ | 社長に懲役3年・執行猶予5年、追徴金3億1,082万円(2005年) |
2007年告発 | 大盛工業 | 虚偽の事実を流布した風説の流布。懲役2年6月(執行猶予なし)、追徴金約15億5,810万円(2009年確定) |
2007年告発 | 南野建設 | 買い上がり・仮装売買など。会社役員等2名に懲役2年と3年(いずれも執行猶予5年)と追徴金。株式投資アドバイザーは2010年4月に公訴棄却 |
2011〜12年 | 新日本理化 | ウェブサイトでの風説の流布と相場操縦。無職の1名は死亡で公訴棄却。大学教員に懲役2年6月・執行猶予4年、追徴金約26億5,864万円(2021年確定) |
2013〜14年 | 夢の街創造委員会(現出前館) | 懲役3年・執行猶予4年、罰金2,000万円(2018年確定) |
2014年 | ストリーム | 会社員に懲役1年8月(執行猶予なし)・罰金2,000万円、会社役員に懲役3年・執行猶予5年・罰金4,000万円(2021〜23年確定) |
2020年 | ニチリョク | 多数の異名義口座。懲役2年・執行猶予4年、罰金300万円(2024年) |
2021年 | ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ | 掲示板への書き込みで風説の流布。課徴金209万円(2024年) |
2023年 | スーパーバリューなど5銘柄 | 複数名義の売り下がり・買い上がり・仮装売買。2026年3月告発、公判中(2026年6月時点の一覧) |
2025年 | ウィルソン・ラーニングワールドワイド | 不正アクセスで乗っ取った他人の口座も使って買い上げ。代表者に懲役3年・執行猶予5年、罰金400万円(2026年確定) |
1993年以降の事件と判決は監視委「告発事件の概要一覧表」で確かめられます(2026年6月更新の版。2026年10月13日取得)。日本ユニシスの事件は、この一覧の1件目(1993年5月告発)です。
報道では、南野建設の事件で2007年10月に逮捕された人の中に、「大物仕手筋」と呼ばれた西田晴夫がいたとされています(FACTA 2007年12月号)。監視委の一覧は嫌疑者の名前を伏せているため、誰がどの判決・処分を受けたかは、表に書いた肩書きの範囲でしか確かめられません。
昭和の2つの事件と、新日本理化の事件の経緯を、もう少し詳しく見ます。
誠備グループと加藤暠(1980〜1981年):「誠備銘柄」の急騰と急落
誰が:加藤暠(あきら)は証券会社の歩合外務員で(参議院決算委員会 1981年3月20日)、投資家を集めた誠備グループの「統率者」として国会で取り上げられた(衆議院証券及び金融問題に関する特別委員会 1991年8月30日)
1980年8月28日:国会の質疑によると、宮地鉄工所株が最高値の2,950円をつけた。宮地鉄工所・丸善・石井鉄工所などは「代表的な誠備銘柄」と呼ばれていた(衆議院大蔵委員会 1981年3月3日、参議院決算委員会 1981年3月20日)
1981年2月16日:東京地検が加藤を、別の投資家の所得税法違反(脱税)の共犯として逮捕(衆議院大蔵委員会 1981年2月27日 法務省刑事課長の答弁)。法務省は、刑事事件にしたのは脱税で「誠備グループなるものの何か株の操作というものを捜査の対象としておるわけではございません」と答弁した(参議院決算委員会 1981年3月20日 法務省刑事局長の答弁)
逮捕の後:大蔵省は、いわゆる誠備銘柄が軒並み値下がりし(衆議院物価問題等に関する特別委員会 1981年5月12日)、関係する証券会社が苦境に立ち、大阪の証券金融会社(大阪証券信用)が経営難に陥ったと説明した(衆議院大蔵委員会 1981年5月13日 証券局長の答弁)。東証の理事長は3月3日の国会で、値幅制限のため宮地鉄工所株の気配が少しずつ下がってまだ2,000円前後にあると述べ、金融をつけて買い支えている相場に安心して乗っていた投資家について「お気の毒な方がずいぶん多い」と語った(衆議院大蔵委員会 1981年3月3日 谷村参考人)
制度の手当て:大蔵省は、グループで一括して注文を受ける取引などを証券会社への是正命令の対象にした(衆議院大蔵委員会 1981年5月13日)
1985年3月22日:一審判決は、加藤自身の脱税は無罪、共犯としての脱税は有罪とした(参議院法務委員会 1985年3月28日 法務省刑事局長の答弁)
光進と小谷光浩(1986〜1990年):恐喝事件・株価操作事件で起訴
国際航業:1987年に小谷光浩の側が国際航業株を買い占めていたことが、国会で取り上げられた(衆議院予算委員会 1990年4月19日)。国会では、誠備の加藤暠とともに「仕手グループの著名な」人物とも呼ばれている(衆議院証券及び金融問題に関する特別委員会 1991年8月30日)
蛇の目ミシン工業:株を大量に買って筆頭株主になり、高値での買い取りを求めた。法務省刑事局長は国会で、「株式会社光進の代表取締役小谷光浩に係る恐喝事件」を、同社株を高値で買い取らせようとした一連の行為の中で起きた事件と説明し、第1回公判は1991年5月17日だった(衆議院大蔵委員会 1991年7月25日)
藤田観光:蛇の目ミシン工業の株主代表訴訟の最高裁判決は、光進の代表(判決では「A」)が1990年7月19日に株価操作の容疑で逮捕されたと認定している(最高裁 平成18年4月10日 第二小法廷判決 全文)。法務省刑事局長は「小谷光浩に係る藤田観光事件」を検察が自ら認知して立件したと答弁し(衆議院証券及び金融問題に関する特別委員会 1991年9月2日)、大蔵大臣は、相場操縦の規定が「藤田観光株価操作事件等において適用されておる」と述べている(参議院同特別委員会 1991年10月1日)
2つの刑事事件の判決の内容は、国会会議録と公的な資料では確かめられなかったため、この記事では起訴までを書いています。
蛇の目ミシン工業(現ジャノメ)では、要求に応じて約300億円を渡した旧経営陣の責任が株主代表訴訟で争われ、最高裁は2006年4月10日に取締役の過失を否定できないと判断しました(最高裁 平成18年4月10日 第二小法廷判決)。株を高値で引き取らせる手口と判決の内容は、グリーンメールの記事で詳しく扱っています。

グリーンメールとは|会社に株を高値で買い取らせる手口と、日本で起きにくい理由
グリーンメールは、株を買い集めて会社側に市場より高く買い取らせる手口。米ディズニーは1984年に1株約77ドルで買い戻した後、株価が50ドルを割った。日本では特定の株主から高く買うには総会の特別決議が要り、ほかの株主も売り手に加われる。
新日本理化(2011〜2012年):ウェブサイトで「踏み上げ」をあおり、自らは売る
監視委は2015年12月、新日本理化株について2つの事件を告発しました(嫌疑者は監視委の表記で無職の2名と大学教員)。
風説の流布・偽計:2011年11〜12月、嫌疑者が主宰する「般若の会」のウェブサイトに、空売りの踏み上げで株価が大きく上がる可能性があるという虚偽の情報を載せ、自分たちは持ち続けると示唆して他の投資家にも保有を勧めながら、2011年11月2日〜2012年2月10日の49取引日で293万株を約16億円で売った。5%を超えて持ったのに大量保有報告書を出していなかったことも告発された(監視委「新日本理化株式会社及び明和産業株式会社の各株券に係る風説の流布、偽計及び大量保有報告書不提出事件の告発について」2015年12月24日)
相場操縦:2012年2月15日〜3月2日に株価を871円から1,297円まで引き上げ、その株価で売った(第2章、同 2015年12月4日)
報道では、「般若の会」の代表は誠備グループの加藤暠で、2015年11月に相場操縦の疑いで逮捕され、2016年12月に死去したとされています(現代ビジネス 2015年8月6日、文春オンライン 2025年3月29日)。監視委の一覧に載っている裁判の経過は次のとおりです(監視委「告発事件の概要一覧表」 178号・180号事件)。
2017年1月18日:無職の被告人1名が死亡し、公訴棄却。この被告人について有罪・無罪の判断は出ていない
2018年3月22日:同じ事件で起訴された大学教員に、東京地裁が懲役2年6月・執行猶予4年、罰金1,000万円、追徴金約26億5,864万円
2021年11月8日:最高裁が大学教員の上告を棄却し、確定
近年の仕手の形——個人の相場操縦、掲示板の書き込み、乗っ取った口座
相場操縦の課徴金勧告は、課徴金制度ができた2005年度から2025年度までに109件あり、うち91件は個人でした(課徴金事例集2026年6月 p.53・55)。直近5年(2021年度以降)の18件では、見せ玉などが13件、株価の引上げ・引下げが10件、対当売買が6件で、約6割は複数の手口を組み合わせていました(同 p.54)。
監視委はその背景に、インターネット取引で個人でも素早く大量の注文と取り消しができることや、小さな取引までは監視の目が届かないだろうという甘い認識を挙げています(同 p.51)。
掲示板への書き込みで初めての課徴金(2021年の投稿、2024年に命令)
何をしたか:2021年7月8日9時45分ごろ、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株を上げて売り抜けようと、Yahoo!ファイナンスの掲示板に「初期の認知症を見つける凄い国際特許を取得してたことが判明!!!」などと合理的な根拠のない情報を投稿した(監視委「ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式に係る風説の流布に対する課徴金納付命令の勧告について」2024年7月26日)
結末:金融庁は2024年9月19日、209万円の課徴金の納付を命じた(金融庁「課徴金納付命令の決定について」2024年9月19日)。158条の風説の流布を適用した課徴金勧告は、これが初めて(課徴金事例集2025年6月 p.70)
刑事事件も:掲示板への書き込みによる風説の流布は、2011年(4銘柄、罰金30万円)と2014年(3銘柄、罰金80万円・追徴金275万円)に刑事告発された例もある(監視委「告発事件の概要一覧表」 149号・167号事件)
乗っ取った他人の証券口座で買い上げ(2025年)
監視委は2025年12月18日、ウィルソン・ラーニングワールドワイド株の相場操縦で法人とその代表者を告発しました。2025年3月17日、法人名義に加えて不正アクセスで乗っ取った他人の証券口座などで高い指値の買い上がりや下値の大量の買い注文、示し合わせた売買を行って株価を上げ、上げた株価で法人名義の72万2,900株を売ったとされています(監視委「不正アクセス行為を手段とした相場操縦事件の告発について」2025年12月18日)。東京地裁は2026年3月23日、法人に罰金400万円、代表者に懲役3年・執行猶予5年と罰金400万円、両者に連帯して追徴金約7,807万円を言い渡し、確定しています(監視委「告発事件の概要一覧表」 235号事件。行為が拘禁刑の導入前のため懲役)。
2025年には、こうした口座の乗っ取りが大量に起きました。金融庁によると、乗っ取られた口座で取引まで行われた不正取引は2025年4月の3,033件が最も多く、2025年1月〜2026年9月の合計は1万642件、売却金額は約4,372億円、買付金額は約3,837億円です(暫定値、2026年10月9日更新)。多くは、乗っ取った口座の株を勝手に売り、その代金で国内外の小型株などを買い付ける形で、被害口座にはその小型株が残ります(金融庁「インターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引にご注意ください」・「被害状況」)。金額は売買代金の合計で、顧客の損失額とは一致しません。
自分の口座が乗っ取られると、知らないうちにこうした買い上げに使われ、高値でつかまされた株の損を負うことになりかねません。金融庁は、証券会社が用意している多要素認証や取引の通知サービスを有効にすること、ブックマークから正しいサイトにログインすること、パスワードを使い回さないことを呼びかけています(同)。
仕手株に近づくとどんな損をする?——高値づかみ、ストップ安、追証
仕手株で損をしやすいのは、値上がりが話題になってから買った人です。つり上げた側は、集めた株を売るためにほかの投資家の買いを必要としています。
高値づかみ:つり上げの最後に入った買いは、売り抜けの相手になりやすい。監視委の事例でも、対当売買や株価引上げに誘われた他の投資者の買い注文に、あらかじめ上値に出しておいた売り注文をぶつけて売り抜けている(課徴金事例集2026年6月 p.58)
ストップ安で売れない:1日の値動きには制限値幅があり、たとえば株価200円以上500円未満なら上下80円(日本取引所グループ「制限値幅」、2026年10月13日閲覧)。売りが殺到してストップ安の気配のまま終わると、その日は売りが約定しないことがある。2営業日続けてストップ安で売買が成立しなければ、翌営業日から制限値幅が広がる
追証:信用取引で買っていると、株価が下がって委託保証金維持率が下がり、追加の保証金(追証)を求められる。ストップ安で売れなくても追証の義務は消えない
規制で身動きが取りにくくなる:信用取引の利用が過度になると、東証は新規の信用取引の委託保証金率を引き上げる(第7章)
空売りの側も危ない:急騰する銘柄を空売りすると、買い戻しが買い戻しを呼ぶ踏み上げや、高い逆日歩に巻き込まれることがある
追証がどの水準で発生し、発生したらいつまでに何をすればよいかは、こちらで計算例とともに説明しています。

追い証(追証)とは|委託保証金維持率の計算と発生時の対処法
追い証(追加保証金)の仕組みを初心者向けに解説。委託保証金維持率の計算方法、具体的な発生シミュレーション、期限内の対処法、追い証を出さないための実践的なリスク管理まで。
空売りした銘柄が急騰したときに何が起きるかは、逆日歩と株価の記事で実例を挙げています。

逆日歩で株価はどうなる?踏み上げの条件と実例|上限10倍の急騰株も5営業日で3割安、権利付最終日の21銘柄は13銘柄が下落
逆日歩が付いても株価が上がるとは限りません。踏み上げが起きやすい条件(売り残・株価の上昇・逆日歩の上限の倍率・申込停止)と、日証金のデータで確かめた2026年の実例を解説。権利付最終日に上限まで付いた21銘柄は、配当落ちを含む翌日の前日比で上昇5・下落13でした。
仕手株かどうか確かめるときに見る公表データ
どの銘柄が仕手株かを示す公式の一覧はありません。急騰した銘柄で次の公表データを確かめると、値上がりに裏付けがあるか、信用取引が過熱していないかの手がかりになります(2026年10月時点の制度)。
適時開示:値上がりを説明する会社の開示(業績予想の修正、提携、買収など)があるか。東証の適時開示情報閲覧サービスで確かめられる。開示が無いのに掲示板やSNSでだけ「材料」が語られているなら、その情報の出どころを疑う
日々公表銘柄:東証は信用取引の利用が過度になりつつある銘柄を指定し、信用取引残高を毎日公表する。指定基準の例は、信用の買い残が上場株式数の20%以上、または株価が25日移動平均を30%以上上回る日が3営業日続き、かつ信用取引の新規の買いが売買高の40%以上の日が3営業日続く場合など(東京証券取引所「日々公表銘柄の指定等に関するガイドライン」)。残高は日本取引所グループ「日々公表銘柄等信用取引残高」で見られる
増担保規制:さらに過度になると、新規の信用取引の委託保証金率を引き上げる。第一次措置で50%以上(うち現金20%以上)、第四次措置では新規の信用売買を禁止する(東京証券取引所「信用取引に係る委託保証金の率の引上げ措置等に関するガイドライン」)。対象銘柄は日本取引所グループ「信用取引に関する規制等」に載る
注意喚起:投資判断に重要な影響を与えるおそれがあるのに内容が不明確な情報が出たとき、東証が投資者に注意を促す制度がある(日本取引所グループ「注意喚起情報」)
大量保有報告書:上場株を5%を超えて持った人は、5日以内(休日を除く)に、取得資金や保有の目的を書いた大量保有報告書を出さなければならない(金融商品取引法27条の23)。金融庁のEDINETで、誰がどんな目的で買い集めているかを確かめられる。新日本理化株の事件では、この報告書を出していなかったことも告発された
板と出来高:板が薄い銘柄に成行で注文を出すと、想定より不利な値段で約定しやすい。値段を決める指値・逆指値の使い分けは注文の種類の記事で扱っている
日々公表から増担保、日本証券金融の貸株の制限・停止までの段階と、それぞれが株価にどう効くかは、こちらで表にしています。25日移動平均の考え方はグランビルの法則の記事で説明しています。

売り禁とは|新規の空売りが止まる条件と段階的規制、株価への影響
売り禁(貸借取引の申込停止措置)の発動条件・規制内容・株価への影響を解説。東証の日々公表銘柄・増担保規制、日証金の貸株注意喚起・申込制限・売り禁という段階的規制と、投資家が取るべき対応がわかります。
不審な書き込みや取引に気づいたら、証券取引等監視委員会「情報提供窓口」に情報を提供できます。監視委は、取引所や証券会社の売買データを分析して問題のある取引をした人を特定でき、証券会社も売買審査で問題を見つければ取引所や監視委に情報提供する仕組みだとしています(課徴金事例集2026年6月 p.52)。
仕手株のよくある質問
仕手株を買うのは違法?
買うこと自体は違法ではありません。違法になるのは、相場操縦や風説の流布をした側です。ただし、値上がりの理由を確かめずに買えば、売り抜けの相手になり、ストップ安で売れなくなる損を負いえます。
仕手株の一覧はどこで見られる?
今の仕手株の公式の一覧はありません。過去の事件は監視委の告発・課徴金勧告の公表資料で、信用取引が過熱している銘柄は東証の日々公表銘柄・規制銘柄で分かりますが、後者は仕手株の一覧ではありません。特定の銘柄を「仕手株」と呼ぶ書き込みや記事を見たら、その根拠(会社の開示や監視委の公表)があるかを確かめましょう。
「この株は仕手株だ」と書き込んでもよい?
自分の売買のためや相場を動かす目的で、根拠のない材料や暴落の話を書き込めば、風説の流布に当たりえます。大和証券の用語集は、明白な虚偽とはいえなくても合理的な根拠のない情報を流せば風説の流布に該当するおそれがあり、株価を動かす目的がなくても、刑法の業務妨害罪や信用毀損罪で罰せられることがあるとしています(大和証券「風説の流布」、2026年10月13日閲覧)。
もちつき相場は、仕手筋が売り買いして上げ下げする相場のこと?
違います。もちつき相場は、年末に参加者が減って株価があわただしく上下する様子を指す言葉で、特定の誰かの売買を指すものではありません(もちつき相場の記事)。
仕手とグリーンメールの違いは?
仕手は、つり上げた株を市場でほかの投資家に売って利益を得ようとします。グリーンメールは、買い集めた株を会社やその関係者に市場より高く買い取らせる手口で、売る相手が違います。光進による蛇の目ミシン工業の事件は、株の買い占めと高値での引き取りの要求が重なった例です(グリーンメールの記事)。
昔の仕手戦と今の相場操縦は何が違う?
1980年代までは、大きな資金を集めたグループが特定の銘柄を買い占める形が国会でも取り上げられました。監視委の近年の勧告では個人による事件が大半で、見せ玉や対当売買のような注文の出し方、掲示板への書き込み、乗っ取った口座の利用といった形が見られます(第5章)。








