黄金株とは|1株で合併や役員選任を拒否できる株、上場企業にほぼ無い理由

黄金株とは、株主総会で決まったことでも1株で否決できる、拒否権の付いた株式のことです。会社法108条1項8号に定める種類株式で、一般に「拒否権付種類株式」と呼ばれ、合併や取締役の選任など、どの決議を止められるかを会社が定款で決めておきます(会社法第108条1項8号・第323条(e-Gov法令検索))。「黄金株」も「拒否権付種類株式」も会社法の条文には無い呼び名です。英語では golden share と呼ばれ、各国の政府が民営化した会社に残す特別な権利を指して使われてきました(Bortolotti & Faccio(2009, Review of Financial Studies))。
日本の上場企業では、INPEXの1株を経済産業大臣が持っているのが、知られている唯一の例です。東京証券取引所は2006年の規則改正で、上場企業が一定の黄金株を出すことを上場廃止の理由になりうるものとし、INPEXは例外として上場を続けています。海外では、英国が1980年代からの民営化で政府に「特別株」を残し、2025年6月には日本製鉄によるUSスチールの買収にあたり、USスチールが米国政府に黄金株1株を発行することになりました。
この記事では、黄金株の仕組み、INPEXの黄金株が何をどんなときに止められるのか、東証のルール、英国・EU・USスチールの例、中小企業の事業承継での使い方を、投資家が確かめたい点とあわせて解説します(2026年10月13日時点)。
この記事の内容(目次)
黄金株とは——1株で重要な決議を拒否できる「拒否権付種類株式」
会社法は、株主総会や取締役会で決める事項について、ある種類の株主だけで開く「種類株主総会」の決議も必要とする株式を認めています(会社法第108条1項8号)。そう定めた事項は、株主総会で可決されても、種類株主総会の決議がなければ効力を生じません(同第323条)。この種類の株を1株だけ発行し、特定の株主に持たせたものが「黄金株」と呼ばれます。
何を止められるかは定款で決める
会社は、種類株主総会の決議が必要な事項と、決議が必要になる条件を定款に書きます(会社法第108条2項8号)。対象になるのは、たとえば次のような事項です(INPEX 有価証券報告書 第20期 p.46、中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」p.106)。
会社の形を変えること:合併・株式交換などの統合、解散
経営陣:取締役の選任・解任
大きな財産:重要な資産の売却
会社の基本ルール:定款の変更(事業の目的など)
「1人の株主が議決権の20%以上を持ったときの取締役の選任」のように、条件つきにすることもできます。INPEXの黄金株がこの形です(次の章)。
黄金株のメリットとデメリット
メリット
1株で、合併や取締役の選任などの重要な決定を止められる。国や先代の経営者が、株の大半を手放しても会社の方向を見張れる
事業承継で、後継者に株を渡しながら、先代が重要な決定に拒否権を残せる(中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」p.106)
非上場企業なら、譲渡を制限して信頼できる人に持たせることで、買収への備えになる(大和証券「金融・証券用語解説[黄金株]」)
デメリット
持ち主の判断しだいで、ほかの株主の大半が賛成した合併や役員の選任が止まる
持ち主が亡くなると相続人に拒否権が渡り、経営に関わらない人が重要な決定を握ることがある
出資の額と発言力が釣り合わない。東証は、取締役の選解任などに及ぶ黄金株の発行を「株主にとって重要な権利を不当に制限するもの」として上場廃止の対象にしている(東京証券取引所「買収への対応方針の導入等に係る上場制度の概要」p.4)
普通株やほかの種類株式との違い
普通株の「拒否権」
普通株は持ち株数に応じて議決権がある。合併などの特別決議は出席株主の議決権の3分の2以上で決まるので(会社法第309条2項)、単独で確実に否決するには議決権の3分の1超が要る(TOBの記事の持株比率の表)
黄金株は株数にかかわらず、定款で決めた事項だけを止められる
議決権の多い株(複数議決権)
議決権の数で影響力を持たせる仕組みで、黄金株とは別物。東証では、CYBERDYNEが実質10倍の議決権を持つ非上場のB種類株式を残したまま、2014年3月に東証マザーズへ上場した(JPX金融商品取引法研究会 白井正和「有価証券上場規程の具体的検討(7)」2019年12月27日 p.4〜5)
取締役を選ぶ株(取締役選任権付種類株式)
その種類の株主だけで取締役を選べる株。公開会社(株式の一部でも自由に譲渡できる会社。会社法第2条5号)は発行できない(会社法第108条1項ただし書)。上場企業は株式の譲渡制限が上場廃止の理由になるので(日本取引所グループ「上場廃止基準の概要」)公開会社に当たり、この株は使えない
配当の順番が違う株(優先株・劣後株)
配当や残余財産を受け取る順番が普通株と違う株。拒否権とは別の話で、次の記事で扱っている

優先株・劣後株とは|普通株との違いと、個人が買える社債型種類株式
優先株は配当と残余財産を普通株より先に受け取る株、劣後株(後配株)は後に回る株で、どちらも会社法の種類株式。2026年10月7日時点で東証の上場優先株は7銘柄、社債型6銘柄の利回りは2.6〜4.1%で、5銘柄が発行価格を下回る。
日本の上場企業の黄金株——INPEXの1株を経済産業大臣が持つ
日本の上場企業で黄金株を発行しているのは、INPEXが知られている唯一の例です。第一生命経済研究所は、2025年6月時点で黄金株がある上場企業を1社としています(第一生命経済研究所「【1分解説】黄金株(拒否権付種類株式)とは?」)。INPEXは定款でこの株を「甲種類株式」と呼び、経済産業大臣が1株を持っています。経済産業大臣は普通株の23.74%(2025年12月31日時点)も持つ筆頭株主です(INPEX 有価証券報告書 第20期(2026年3月26日提出)p.44・46・68)。
INPEX
日本最大の石油・天然ガス開発企業(E&P)。子会社88社・関連会社等30社を擁するグローバル体制で、日本・オーストラリア・東南アジア・中東(アブダビ)・欧州等において原油・コンデンセート・LPG・天然ガスの探鉱・開発・生産・販売を行う。確認…
2004年に石油公団へ1株、外資などによる経営支配を防ぐため
2003年3月:総合資源エネルギー調査会の答申が、国際石油開発をエネルギーの安定供給を担う「中核的企業」と位置づけた(INPEX 有価証券報告書 第20期 p.46)
2004年11月17日:国際石油開発が、東証への上場の前提として石油公団に甲種類株式1株を発行。会社は「短期的な資金回収や外資等による経営支配などの可能性を排除しつつ、経営の効率性・柔軟性を不当に阻害しない」ための必要最小限の措置と説明した(国際石油開発「種類株式の発行のお知らせ」2004年10月12日)
2005年4月:石油公団の解散に伴い、経済産業大臣が株式を引き継いだ(有価証券報告書 p.44・46)
2006年4月3日:国際石油開発と帝国石油が経営統合して持株会社が発足し、同じ内容の甲種類株式を経済産業大臣に交付。2008年10月に国際石油開発帝石、2021年4月にINPEXへ社名を変えた(有価証券報告書 p.46、同 沿革)
止められるのは6つの事項、使うのは国策に反するおそれが高いときだけ
INPEXの黄金株は、ふだんの株主総会では議決権がありません。次の事項にだけ、甲種類株主総会の決議が必要です。さらに経済産業大臣は、経済産業省の告示(2006年4月の告示第74号を改めた、令和4年3月24日経済産業省告示第54号)で決めた基準に当たる場合にだけ否決するとしています(有価証券報告書 p.46〜47・61〜62・91)。
事項 | 黄金株の決議が要るとき | 否決する場合(告示の基準) |
|---|---|---|
取締役の | 国など以外の1株主が議決権の20%以上を持つとき | 否決しないと、中核的企業の役割に反する経営が行われる蓋然性が高いとき |
合併・株式交換 | INPEXが消える側なら常に。残る側なら、統合後に国など以外の1株主が20%以上を持つとき | 同上 |
重要な資産の | INPEXや子会社の資産の売却・事業譲渡などで、対価が総資産の20%以上か、その資産の売上高が連結売上高の20%以上のとき | 石油・ガスの権益やそれを主な資産とする子会社株の処分で、役割に否定的な影響が及ぶ蓋然性が高いとき |
定款変更 | 事業の目的の変更、普通株以外への議決権の付与 | 目的:役割に否定的な影響が及ぶ蓋然性が高いとき |
資本金の減少 | 株主への払い戻しを伴う減資、株主総会での解散 | 役割に否定的な影響が及ぶ蓋然性が高いとき |
INPEXは、拒否権の対象が限られ、行使の基準も告示で決まっていることから、「経営の効率性・柔軟性を不当に阻害しない」設計だと説明しています。取締役会は拒否権の行使に関わらないので、黄金株は経営陣の保身のためのものではない、とも書いています(有価証券報告書 p.89〜90)。
2026年3月の株主総会では、取締役の選任は黄金株の対象外だった
2026年3月27日の株主総会で取締役10人を選んだ際、会社は20%の条件を満たさないとして、甲種類株主総会にかけませんでした。定款では、黄金株の株主は総会から2週間以内に異議を申し立てて種類株主総会を開かせることができます。今回は、会社提案が原案どおり承認され、ほかの議案が承認されないことを条件に異議を申し立てないという通知を、甲種類株主から事前に受けていたと開示しています(INPEX「第20回定時株主総会決議ご通知」2026年3月27日)。
黄金株1株の「値段」は普通株400株分
INPEXは2013年10月1日に普通株を1株→400株に分割しましたが、甲種類株式は分割していません。そのため、配当と残余財産は普通株の400倍と定款で決めています。2025年12月期の年間配当は、普通株1株100円に対し甲種類株式1株4万円でした(第20回定時株主総会決議ご通知、有価証券報告書 p.61)。
会社が甲種類株式を取得するときの価格も、普通株の終値の400倍です(有価証券報告書 p.63)。2026年10月13日の終値3,730円で計算すると149万2,000円(KabuGraph算出)。時価総額およそ4.7兆円(同日終値ベース、KabuGraphデータ)の会社の取締役の選任や合併を、普通株400株分の価値の1株が条件つきで止めうる、というのがこの株の性格です。
INPEXの事業・業績・株主還元は次の記事で分析しています。

INPEX(1605)の企業分析|イクシスLNG×営業利益率56%×ネットゼロで進化する日本最大の石油開発会社
INPEX(1605)の石油・天然ガス開発事業、イクシスLNG、アブダビ権益、ネットゼロ戦略、業績推移と投資判断のポイントを個人投資家向けに解説。2026年12月期は純利益予想を5,100億円へ上方修正し、1,400億円の自社株買いを決めました。
東証のルール——上場企業の黄金株は原則として上場廃止の対象
東京証券取引所は、取締役の過半数の選解任その他の重要な事項に拒否権が及ぶ黄金株の発行を、原則として上場廃止の対象にしています。東証は、こうした黄金株の発行は「取締役の選解任などの株主にとって重要な権利を不当に制限するもの」だと説明しています(東京証券取引所「買収への対応方針の導入等に係る上場制度の概要」p.4、2026年10月14日閲覧)。上場廃止基準の一覧では「株主の権利の不当な制限」に当たります(日本取引所グループ「上場廃止基準の概要」、2026年10月13日閲覧)。このルールは2006年の規則改正で、買収防衛策をめぐる上場制度の整備の一環として定められました(JPX金融商品取引法研究会 白井正和「有価証券上場規程の具体的検討(7)」2019年12月27日 p.2)。
対象:「拒否権付種類株式のうち、取締役の過半数の選解任その他の重要な事項について種類株主総会の決議を要する旨の定めがなされたものの発行に係る決議又は決定」(同 p.4)
例外:会社の事業目的、発行目的、権利内容、割当先の属性などに照らして、株主と投資者の利益を侵害するおそれが少ないと東証が認める場合。東証は、例外に当たりうる場合として「民営化企業が、その企業行動が国の政策目的に著しく矛盾することがないよう、国を割当先として拒否権付種類株式を発行する場合」を挙げ、事前相談で個別に判断するとしている(同 p.4)
INPEX:当時の国際石油開発帝石ホールディングスは、この例外により上場廃止基準に抵触しないとされた(東京証券取引所 種類株式の上場制度整備に向けた実務者懇談会「議決権種類株式の上場制度に関する報告書」2008年1月16日 p.3の注4。上記のJPX金融商品取引法研究会の資料に参考資料として収録)
すでに上場している会社:新たに黄金株を出す場合は「既存の一般株主の利益が侵害されるおそれが大きいため、上場廃止に係る規定の例外の適用は慎重に行います」(同 p.5)
持株会社の子会社:持株会社である上場会社の主要な事業を行う子会社が、上場会社以外に拒否権付種類株式や取締役選任権付種類株式を出し、それが上場会社への買収を困難にする方策だと東証が認めれば、上場会社が黄金株を出したものとして扱う。検討するときは東証への事前相談が必要で、発行したら直ちに通知する(同 p.4〜5)
INPEXの黄金株は、規則改正前の2004年に上場の前提として発行されたものを、2006年4月の持株会社の発足で引き継いだものです。すでに上場している企業が、敵対的な買収への備えとして黄金株を新しく出すのは、東証が例外の適用に慎重な姿勢を示しているため、事実上難しいといえます。買収防衛策の種類と、TOBが来たときの株主の選択肢は次の記事で扱っています。

TOB(株式公開買付)とは|30%ルール導入後の制度と株主の選択肢
TOB(株式公開買付)の仕組み・手続きの流れ・プレミアムの目安を解説。2026年5月施行の30%ルールや、友好的・敵対的TOBの違い、株主がとれる3つの選択肢まで網羅。
海外の黄金株——英国の民営化、EU司法裁判所の判断、USスチール
英国:民営化した会社に政府が「特別株」を残した
黄金株は、1980年代に英国で始まった民営化の中で広く使われました。英国の特別株(special share)の多くは、株主総会の議決権を持たない代わりに、1人の投資家が議決権の15%以上を持つことを禁じる定款の規定などを、政府の同意なしに変えられないようにするものです(Bortolotti & Faccio(2009, Review of Financial Studies 22巻8号)、本文 p.12)。同じ研究は、英米法の国の政府は黄金株で、大陸法の国の政府は大株主として株を持ち続けることで、民営化した会社への影響力を残す傾向があったとしています。
BAA(ヒースローなどの空港を運営):1986年の空港法で民営化され、1987年に設立されたBAAの1ポンドの特別株を運輸大臣が持った。空港を持つ子会社の支配を手放すことや自主的な解散などには特別株主の書面の同意が必要で、1人が15%を超える議決権を持つことも定款で制限していた(EU司法裁判所(当時は欧州司法裁判所)C-98/01 判決(2003年5月13日))
BAEシステムズ(防衛大手、今も続く例):外国人(共同で行動する者を含む)が15%を超える議決権を持つことを定款で禁じ、この規定は特別株を持つビジネス・通商大臣の同意なしには変えられない(BAE Systems「Individual foreign shareholding restrictions」、2026年10月13日閲覧)
EU司法裁判所:多くの黄金株を「資本移動の自由」に反すると判断
EU(当時は欧州共同体)では、欧州委員会が加盟国の黄金株を訴え、EU司法裁判所は多くを資本移動の自由(EC条約56条)に反すると判断しました。
2002年6月4日:ポルトガル(民営化企業で外国投資家が取得できる株数の上限や、一定以上の取得への事前の承認)と、フランス(エルフ・アキテーヌ。一定割合を超える株式の取得に経済相の事前の承認、子会社株の売却への異議)は違反(C-367/98、C-483/99)
同じ日:ベルギーが2つのガス会社に持つ黄金株は違反でないとして、訴えを退けた(C-503/99)
2003年5月13日:英国のBAAの特別株と、スペインの民営化企業への事前の承認の仕組みも違反(C-98/01、C-463/00)
2007年10月23日:ドイツのフォルクスワーゲン法(議決権の上限と、国・州が監査役を送る権利)も違反(C-112/05)
ベルギーが認められたのは、①事前の承認ではなく、必要なときに政府が異議を述べる仕組みで、②ガスの輸送管など戦略的な資産に関する決定に限られ、③厳しい期限があり、④エネルギー政策の目的が損なわれるおそれがあるときだけ、理由を示して使い、裁判所の審査も受けるからでした(C-503/99 判決 49〜52段)。判決が見たのは、資本移動の自由を制限する措置として必要な範囲かどうかで、株主の立場からの判断ではありません。ただ投資家にとっても、「どの事項を・どんな基準で止めるのか」が公表され、狭く限られているかどうかが、黄金株の重さを分ける目安になります(KabuGraphの見方)。
USスチール:日本製鉄の買収にあたり米国政府へ1株
日本製鉄は2025年6月18日にUSスチールの買収を完了し、両社は米国政府と国家安全保障協定(NSA)を結びました。USスチールは、この協定に基づいて米国政府に黄金株1株を発行することになりました(日本製鉄・USスチール「日本製鉄とUSスチールのパートナーシップ成立のお知らせ」2025年6月18日)。米国の開示では、協定は2025年6月13日付で、黄金株は「Class G 優先株式」1株です(USスチール Form 8-K(2025年6月18日))。8-Kは、黄金株は一定の規制上の承認を得たうえで発行するとしており、その後、2025年11月の大統領の書簡(後述)で、大統領が黄金株を保有していると述べています。
米国政府の権利:USスチールの独立取締役1人の選任権
大統領またはその指名する者の同意が必要な事項:協定で約束した設備投資の削減、社名・本店所在地の変更、法人登記の米国外への移転、生産・雇用の米国外への移転、米国内の競合事業の重要な買収、米国の既存工場の閉鎖・休止、通商・労働・米国外からの調達に関する一定の事項など
協定で約束したこと:日本製鉄が2028年までに約110億ドルを投資、USスチールは本社をピッツバーグに維持、取締役の過半数と経営陣の中枢(CEOを含む)を米国籍にする など(いずれも日本製鉄のお知らせ)
黄金株の権限が持ち出された例もあります。2025年9月、USスチールがイリノイ州のグラニットシティ工場でのスラブ(鋼片)の加工をやめる計画を示したのに対し、ホワイトハウスは、ラトニック商務長官が、トランプ大統領が黄金株の権限を行使する構えだと伝えて計画を止めさせた、と説明しました。USスチールは同工場への供給を「無期限に」続けるとしましたが、ホワイトハウスの説明には触れませんでした(AP通信 2025年9月22日(News4JAX掲載))。
2025年11月20日には、大統領が書簡で自らが黄金株を持つことを示し、権限の行使を商務次官(国際貿易担当)に委ね、黄金株に基づく取締役(Class G取締役)を任命しました(Federal Register 第90巻225号(2025年11月25日))。
日本製鉄によるUSスチールの買収の経緯は、企業合同(トラスト)の歴史とあわせて次の記事でも扱っています。

トラストの例|スタンダード石油から日本製鐵・王子製紙まで、企業合同の代表例と解体後の姿
トラスト(企業合同)の代表例を米国と日本に分けて一覧で解説。スタンダード石油や王子製紙・日本製鐵がなぜトラストに当たるのかを市場シェアで示し、解体・分割を経ていまの日本製鉄や王子HDに続く系譜、現代の合併審査と反トラスト訴訟まで紹介します。
日本製鉄
日本製鉄は、粗鋼生産量で国内首位・世界有数の総合鉄鋼メーカー。高炉から条鋼・鋼板・鋼管・特殊鋼まで幅広い鉄鋼製品を製造し、自動車・建設・造船・エネルギー産業に供給する。鉄鋼事業を中核に、エンジニアリング事業(製鉄プラント・環境ソリューション…
非上場企業の黄金株——事業承継で先代が拒否権を残す
上場企業ではほとんど見られない黄金株ですが、株式を公開していない中小企業では、事業承継での使い方があります。中小企業庁は、後継者が一人で経営判断をできるようになるまで、先代の経営者が拒否権付種類株式を持ち、取締役・監査役の選任・解任や報酬、多額の投資、事業譲渡や合併、重要な資産の譲渡などに拒否権を残す使い方を挙げています(中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」2022年3月 p.106)。株式の大半は後継者に渡しつつ、重要な決定だけは先代が止められる形です。
便利な一方で、次の点に気をつける必要があります。
相続で拒否権が思わぬ人に渡る:黄金株も相続財産なので、先代が亡くなると相続人が拒否権を持つ。中小企業庁は、株主の死亡を条件に会社が取得できる「取得条項付種類株式」で株式の散逸を防ぐ方法を挙げている(事業承継ガイドライン p.106)。譲渡制限株式なら、相続した人に会社への売り渡しを請求できると定款で決めておくこともできる(会社法第174条)
事業承継税制(納税猶予)と両立しにくい:贈与税・相続税の納税猶予を受けるには、後継者以外の人が拒否権付株式を持っていないことが要件で、後継者以外が持つことになると猶予が打ち切られる(租税特別措置法施行令第40条の8第10項2号・第25項1号、第40条の8の2第10項2号・第31項1号(e-Gov法令検索)。2027年12月31日までの贈与・相続などが対象の特例措置(租税特別措置法第70条の7の5・第70条の7の6)も、施行令第40条の8の5第9項・第40条の8の6第9項で同じ要件を準用。いずれも2026年10月14日時点の条文)
相続税の評価は普通株と同じ:国税庁は、拒否権付株式は拒否権を考慮せずに評価するとしている(国税庁 文書回答事例「相続等により取得した種類株式の評価について」、2007年2月26日回答)
登記で外から分かる:種類株式の内容は登記される(会社法第911条3項7号)。非公開会社が株主ごとに権利を変える「属人的株式」(同第109条2項)は登記されない(事業承継ガイドライン p.105)
導入には手続きが要る:株主総会の特別決議で定款を変える必要があり、すでにある普通株を種類株式に変えるには、その株主との合意などが要る(事業承継ガイドライン p.106)
投資家が確かめたいこと——黄金株の有無より「何を・いつ止められるか」
上場株に投資するとき、黄金株のような拒否権付きの株があるかは、有価証券報告書で確かめられます。見るところは次のとおりです。
「株式の総数等」の発行済株式:普通株以外の種類があるか。INPEXなら「甲種類株式 1株 非上場・非登録」とあり、注記に拒否権の対象と条件が書かれている(INPEX 有価証券報告書 p.61〜62)
止められる事項:合併・取締役の選任のように、買収の成否に直結する事項か
条件と基準:「20%以上の株主が現れたとき」のような条件があるか、否決の基準が公表されているか。判決の観点は投資家の目線とは別だが、EU司法裁判所が認めたベルギーの黄金株も、対象が狭く基準が明確な仕組みだった
誰が持ち、譲れるか:国など特定の者しか持てない設計か。INPEXは、国など以外に渡ると会社が取得する(有価証券報告書 p.63)
子会社・共同出資会社の黄金株:上場企業の本体ではなく、子会社に政府の黄金株が付くこともある(USスチール)。親会社の株主には、子会社の事業を整理する自由が限られる形で効いてくる。東証は、持株会社である上場会社の主要な事業を行う子会社が外部に拒否権付種類株式を出し、それが買収を困難にする方策だと認めれば、上場会社が出したものとして上場廃止の対象にしうる(東京証券取引所「買収への対応方針の導入等に係る上場制度の概要」p.4)
KabuGraphの見方:黄金株の対象に取締役の選任や合併が入っていると、経営陣や大株主が賛成する買収でも成り立たない可能性があり、買収プレミアムを当てにした投資は成り立ちにくくなります。一方、INPEXの拒否権は対象と条件が限られ、配当や自社株買いのようなふだんの株主還元は対象に入っていません。黄金株があるかどうかより、何を・どんなときに止められるのかを読むことが大切です。
よくある質問
黄金株は1株しか発行できない?
会社法に、拒否権付種類株式の株数を1株に限る定めはありません(会社法第108条)。1株にするのは会社の設計で、INPEXの甲種類株式もUSスチールの黄金株も1株です。
個人投資家が黄金株を買える?
上場している黄金株はありません。INPEXの甲種類株式は非上場・非登録で、国など以外に譲渡されると、会社が取締役会の決議で取得する定めになっています(INPEX 有価証券報告書 p.61・63)。
「3分の1超で拒否権」とは違う?
別物です。普通株で議決権の3分の1超を持つと、合併などの特別決議を単独で否決できます(会社法第309条2項、TOBの記事)。黄金株は株数に関係なく、定款で決めた事項だけを止められます。
黄金株は買収防衛策になる?
非上場企業なら、譲渡を制限したうえで信頼できる人に持たせれば、買収への備えになりえます(大和証券「金融・証券用語解説[黄金株]」)。上場企業では、取締役の選解任などに拒否権が及ぶ黄金株の発行は原則として上場廃止の対象で、すでに上場している会社が新たに出す場合、東証は例外の適用を慎重に行うとしています(東京証券取引所「買収への対応方針の導入等に係る上場制度の概要」p.4〜5)。会社に株を高値で買い取らせる「グリーンメール」と買収防衛策の関係は、グリーンメールの記事で扱っています。
東京電力も黄金株を入れる?
共同通信は2026年4月28日、関係者への取材で分かったとして、東京電力ホールディングスが外部企業との提携にあたり、提携先との共同出資会社の黄金株を政府に持たせる案を検討していると報じました(共同通信 2026年4月28日(OANDA Lab掲載))。2026年10月13日時点で、導入を決めたという会社の発表は、KabuGraphが調べた範囲では見つかりませんでした。
東証は、持株会社である上場会社の主要な事業を行う子会社が、上場会社以外に拒否権付種類株式を出す場合も上場廃止基準の対象になりうるとして、必ず事前に相談するよう求めています(東京証券取引所「買収への対応方針の導入等に係る上場制度の概要」p.4〜5)。共同出資会社がこれに当たるかどうかは、東証が個別に判断することです。
まとめ
黄金株は「拒否権付種類株式」の通称。1株でも、定款で決めた事項(合併、取締役の選任など)を否決でき、否決された決議は効力を生じない(会社法108条1項8号・323条)
日本の上場企業では、INPEXの1株を経済産業大臣が持つのが知られている唯一の例。取締役の選任は国など以外の1株主が20%以上を持つときだけが対象。合併などの統合は、INPEXが消える側なら常に、残る側なら20%以上の株主が出るときに対象。否決は告示の基準(エネルギーの安定供給に反するおそれが高い場合など)による
東証は、取締役の選解任などに拒否権が及ぶ黄金株の発行を、株主の重要な権利を不当に制限するとして原則上場廃止の対象にしている(2006年の規則改正から)。例外に当たりうるのは民営化企業が国の政策目的のために国に割り当てる場合などで、INPEXはこの例外で上場を続けている。すでに上場している会社が新たに出す場合、東証は例外の適用を慎重に行うとしている
海外では英国の民営化の特別株が代表例。EU司法裁判所は多くを資本移動の自由に反するとしたが、対象が狭く基準が明確なベルギーの例は認めた
USスチールは2025年6月、日本製鉄による買収にあたり米国政府に黄金株1株を発行することになった。工場の閉鎖・休止などに大統領側の同意が要り、2025年9月には黄金株の権限を持ち出して工場の計画を止めたとホワイトハウスが説明した
非上場企業では、事業承継で先代が拒否権を残す使い方がある。相続で拒否権が分散するリスクや、事業承継税制の要件に注意
投資家は、黄金株の有無より「何を・いつ・誰の判断で」止められるかを有価証券報告書で確かめる








