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スピンオフ税制とは|コシダカ初適用からソニーのパーシャルスピンオフまで制度と事例を解説

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スピンオフ税制とは、企業が事業部門や子会社を切り離して独立させる「スピンオフ」を実行する際に、一定の要件を満たせば企業・株主ともに課税を繰り延べられる制度です。2017年度(平成29年度)税制改正で創設され、2020年のコシダカHD→カーブスHDで日本初の適用事例が生まれました。

さらに2023年度改正で親会社に持分を一部残す「パーシャルスピンオフ税制」が加わり、2025年にはソニーグループがソニーフィナンシャルグループを分離・上場させ、初のパーシャルスピンオフを実行しています。パーシャルスピンオフ税制は2026年度(令和8年度)改正で期限の定めのない措置になり、要件も見直されました。

この記事では、スピンオフ税制の仕組みと適格要件、完全スピンオフとパーシャルスピンオフの違い、株主にとっての取得価額按分の計算方法、そして国内外の実例を体系的に解説します。

この記事の内容(目次)

  1. スピンオフ税制の概要──なぜ制度が必要だったのか
    1. スピンオフとは
    2. 親会社がスピンオフを選ぶ理由
    3. 制度創設前の課題──「分離すると課税される」問題
    4. 2017年度税制改正で制度が創設
  2. 完全スピンオフの適格要件
    1. 分割型分割の適格要件(6要件)
    2. 株式分配の適格要件(5要件)
  3. 課税繰延の仕組み──企業・株主それぞれの税務
    1. 企業側の課税繰延
    2. 株主側の課税繰延と取得価額の按分
    3. 具体的な計算例
  4. 日本初の適用事例──コシダカHDからカーブスHDを分離
    1. スピンオフの背景
    2. スキームと主要日程
  5. パーシャルスピンオフ税制──親会社に持分を残す新しい選択肢
    1. 完全スピンオフとの違い
    2. パーシャルスピンオフ税制の適用要件(令和8年度改正後)
    3. 令和6年度改正──認定期限の延長と新事業活動要件
    4. 令和8年度改正──期限の定めのない措置に
  6. パーシャルスピンオフ初の事例──ソニーG→ソニーフィナンシャルG
    1. スキームの詳細
  7. 米国のスピンオフとの比較──再編手法として定着
    1. 日米のスピンオフ制度比較
    2. 日本の実行例
    3. 米国の代表的なスピンオフ事例
  8. 投資家が押さえるべき3つのポイント
    1. 1. 取得価額の按分を必ず確認する
    2. 2. スピンオフは「企業価値向上のシグナル」になりうる
    3. 3. カーブアウトとの違いを理解する
  9. まとめ──制度の全体像と今後の展望

スピンオフ税制の概要──なぜ制度が必要だったのか

スピンオフとは

スピンオフ税制の基本的な仕組み(KabuGraph作成)

スピンオフとは、企業グループ内の事業部門や子会社を資本関係ごと切り離して独立した会社とし、その株式を株主に直接交付する組織再編手法です。売却(ダイベスティチュア)やIPO(新規上場)と異なり、対価として現金は動きません。親会社の既存株主が、独立する新会社の株式を自動的に受け取ります。

スピンオフには2つの法的スキームがあります。

  • 分割型分割

    • 仕組み:親会社の事業部門を新設会社に承継させ、その新会社の株式を株主に交付

    • 典型的な使い方:事業部門の独立

  • 株式分配

    • 仕組み:親会社が保有する100%子会社の株式を現物配当として株主に分配

    • 典型的な使い方:既存子会社の独立・上場

親会社がスピンオフを選ぶ理由

スピンオフでは親会社が子会社株式を原則として全て手放しますが(パーシャルスピンオフでも80%超)、分配先は親会社の既存株主です。株主は「親会社株+新会社株」の両方を保有する形になり、グループ全体の企業価値が外部に流出するわけではありません。親会社にとっての主なメリットは次のとおりです。

  • コングロマリットディスカウントの解消──異なる事業を一つの上場会社に抱えると、市場が各事業の価値を適切に評価しにくくなり、株価が割安になりやすい。事業を分離すれば各社が独立して評価され、合算の時価総額が増加するケースが多い

  • 経営資源の集中──成長ステージや必要な投資規模が異なる事業を分けることで、人材・資金の配分を各社で最適化できる

  • 資本市場への独自のアクセス──分離後の新会社が独自に株式・社債を発行でき、事業特性に合ったファイナンスが可能になる

  • 経営陣のインセンティブ整合──各社の株価に連動する報酬体系を設計でき、経営陣が自社の業績に直接責任を持てる

売却と違い現金収入は得られませんが、「企業価値の最大化」と「経営の機動性向上」が親会社の動機です。後述するコシダカHDのケースでも、カラオケ事業とフィットネス事業を分離することで、それぞれの市場環境に合った成長戦略を採れるようになりました。

制度創設前の課題──「分離すると課税される」問題

2017年の税制改正前は、企業が事業部門を分離すると以下の課税が発生していました。

  1. 企業側:移転資産の含み益に対して法人税が課税

  2. 株主側:受け取った株式にみなし配当課税が発生

事業ポートフォリオの見直しが経営上合理的であっても、課税コストが障壁となり実行できない──これが日本でスピンオフがほとんど行われてこなかった大きな理由です。米国や欧州でスピンオフが事業再編の手法として定着してきたのとは対照的でした(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」参考事例編 p.9〜22)。

2017年度税制改正で制度が創設

こうした課題を受け、平成29年度(2017年度)税制改正で、スピンオフのうち一定のものが「適格組織再編」と位置づけられました(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編 p.3)。適格要件を満たせば、分離する企業側の譲渡損益への課税が繰り延べられ、株主が受け取る新会社株式も配当としての課税の対象外になります。

翌年の平成30年度改正では、スピンオフの準備として行うグループ内の再編(分社化など)の適格要件が緩和され、スピンオフを行う会社には、株主の取得価額の計算に必要な分配資産割合などを証券会社へ通知する義務が設けられました(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編 p.6)。

完全スピンオフの適格要件

スピンオフ税制の適用を受けるには、法人税法が定める「適格要件」をすべて満たす必要があります。要件は分割型分割と株式分配で若干異なりますが、共通する考え方は「独立した事業として継続させること」と「支配関係を生じさせないこと」の2点です。

分割型分割の適格要件(6要件)

事業部門を新設会社に切り出すケースの要件で、分割法人が1社だけの新設分割(単独新設分割)であることが前提です(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編 Q25 p.34、国税庁 質疑応答事例、税理士法人山田&パートナーズ 平成29年度改正解説)。

要件は次のとおりです。

  • ①非支配要件:分割の直前に分割法人が他の者に支配されておらず、分割後も分割承継法人が他の者に支配されることが見込まれていないこと

  • ②株式のみ按分交付要件:分割法人が受け取る分割承継法人の株式の全てを、分割法人の株主に持株数に応じて交付すること(株式以外の対価は交付しない)

  • ③主要資産等移転要件:分割事業に係る主要な資産・負債が分割承継法人に移転すること

  • ④従業者引継要件:分割事業に従事する従業者のおおむね80%以上が分割承継法人の業務に従事する見込み

  • ⑤事業継続要件:分割事業が分割承継法人において引き続き行われる見込み

  • ⑥役員引継要件:分割法人の役員、または分割事業に従事する重要な使用人のいずれかが、分割承継法人の特定役員となる見込み

出典:経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編(令和8年5月)Q25 p.34よりKabuGraph作成

株式分配の適格要件(5要件)

既存の100%子会社の株式を株主に分配するケースの要件です(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編 Q25 p.34)。親会社が子会社株式を一部でも持ち続けると原則として要件を満たさず、例外が後述のパーシャルスピンオフです(同 Q38 p.41〜42)。

要件は次のとおりです。

  • ①非支配要件:分配の直前に現物分配法人(親会社)が他の者に支配されておらず、分配後も完全子法人が他の者に支配されることが見込まれていないこと

  • ②株式のみ按分交付要件:完全子法人の株式の全てを、親会社の株主に持株数に応じて交付すること(株式以外の対価は交付しない)

  • ③従業者継続要件:完全子法人の従業者のおおむね80%以上が引き続き業務に従事する見込み

  • ④事業継続要件:完全子法人の主要な事業が分配後も引き続き行われる見込み

  • ⑤役員継続要件:完全子法人の特定役員の全員が分配に伴って退任するものでないこと(1人以上が残ればよい)

出典:経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編(令和8年5月)Q25 p.34・Q37 p.41よりKabuGraph作成

課税繰延の仕組み──企業・株主それぞれの税務

適格要件を満たしたスピンオフでは、企業側・株主側の双方で課税が繰り延べられます。「非課税」ではなく「繰延」である点が重要です。

企業側の課税繰延

  • 分割型分割の場合:移転する資産・負債は帳簿価額のまま承継法人に引き継がれ、分割法人には譲渡損益が生じません

  • 株式分配の場合:子会社株式の帳簿価額で譲渡したものとみなされ、時価との差額(含み益)に対する課税が繰り延べられます

株主側の課税繰延と取得価額の按分

株主にとっての最大のポイントは、受け取った新会社の株式にみなし配当課税が生じないことです。代わりに、もとの親会社株式の取得価額を「分配資産割合」で按分して、親会社株式と新会社株式それぞれの取得価額を算出します。

計算式は次のとおりです。

分配資産割合は、スピンオフ直前の親会社における子会社株式の帳簿価額を、前事業年度末の親会社の簿価純資産価額で割った値です(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編 p.9)。

  • 分割型分割では、移転した資産から負債を引いた帳簿価額を使う「純資産移転割合」で、同じように按分します(同 p.9)

  • パーシャルスピンオフでは、子会社株式の帳簿価額に、株主に交付した株式の割合を掛けて計算します(同 Q39 p.44)

  • グループ通算制度を使う会社のスピンオフは、令和7年度改正で計算方法が手当てされました(同 p.10)

  • スピンオフを行う会社には、分配資産割合などを株主と証券会社に通知する義務があり、特定口座では証券会社が自動で按分します(同 Q12 p.25)

具体的な計算例

親会社A社の株式を1株1,000円(取得価額)で保有している株主を例に、スピンオフ税制の適用の有無による違いを見てみましょう。A社が100%子会社B社を株式分配でスピンオフし、分配資産割合が30%だったとします。

スピンオフ税制が適用される場合(適格)

  1. 株主はB社株式を無償で受け取る(みなし配当課税なし)

  2. B社株式の取得価額 = 1,000円 × 30% = 300円

  3. A社株式の新取得価額 = 1,000円 × 70% = 700円

  4. この時点で課税ゼロ。将来B社株を800円で売却すれば、譲渡益800円 − 300円 = 500円に対して課税される

スピンオフ税制がなかった場合(非適格)

  1. B社株式の時価の全額ではなく、一部がみなし配当として課税される(A社の資本金等に対応する部分を超える額。配当所得として最大約55%の総合課税、上場株の場合は約20%の申告分離も選択可)

  2. 仮にB社株式の時価が500円とすると、現金を受け取っていないのに、受け取った時点でその一部に課税が発生

  3. A社側でもB社株式の含み益(時価と帳簿価額の差額)に法人税が課される

このように、スピンオフ税制がなければ企業・株主の双方に多額の課税が生じるため、経営上は合理的な事業分離であっても実行をためらわざるを得ませんでした。

日本初の適用事例──コシダカHDからカーブスHDを分離

スピンオフ税制の日本初の適用事例は、コシダカホールディングス(2157)がフィットネス子会社のカーブスホールディングス(7085)を株式分配により分離・上場させたケースです。

スピンオフの背景

コシダカHDはカラオケ事業(まねきねこ)とフィットネス事業(カーブス)を運営していましたが、両事業は顧客層・成長戦略・設備投資サイクルが大きく異なります。一体運営では各事業に最適な経営資源を配分しにくく、企業価値の最大化が困難でした。いわゆるコングロマリットディスカウントの解消を狙ったスピンオフです。

スキームと主要日程

  • 手法:株式分配(現物配当)

  • 分配基準日:2020年2月29日

  • カーブスHD上場日:2020年3月2日(東証一部)

  • 分配比率:コシダカHD 1株あたりカーブスHD 1株を交付

  • 分配資産割合:0.1(確定見込値)

分配資産割合が0.1なので、コシダカHD株式の旧取得価額の10%がカーブスHD株式の取得価額に振り替わり、コシダカHD株式の取得価額は90%に修正されます。たとえば取得価額1,000円のコシダカHD株を持っていた株主は、スピンオフ後にコシダカHD(取得価額900円)とカーブスHD(取得価額100円)の2銘柄を保有する形になります(楽天証券 コシダカHDスピンオフについて)。

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カ
7085情報通信・サービスその他

カーブスホールディングス

女性専用30分フィットネス「カーブス」をフランチャイズ中心に全国展開するフィットネス事業持株会社。会員数は約88万人規模に達し、1回30分の独自プログラム(筋力トレーニング・有酸素運動・ストレッチの組み合わせ)で運動習慣のない女性やシニア層…

パーシャルスピンオフ税制──親会社に持分を残す新しい選択肢

2017年に創設されたスピンオフ税制は、親会社が子会社の全株式を手放す「完全スピンオフ」のみが対象でした。しかし実務上は、親会社が一定の持分を残してグループ間の連携を維持したいニーズがあります。

このニーズに応えて、令和5年度(2023年度)税制改正で「パーシャルスピンオフ税制」が創設されました(EY Japan 令和5年度税制改正解説)。

完全スピンオフとの違い

主な違いは次のとおりです。

  • 親会社の残存持分

    • 完全スピンオフ:0%(全株式を分配)

    • パーシャルスピンオフ:20%未満(80%超を分配)

  • 使えるスキーム

    • 完全スピンオフ:分割型分割・株式分配

    • パーシャルスピンオフ:株式分配のみ(分割型分割は対象外)

  • 根拠法

    • 完全スピンオフ:法人税法

    • パーシャルスピンオフ:租税特別措置法第68条の2(産業競争力強化法の認定が前提)

  • 事前の認定

    • 完全スピンオフ:不要

    • パーシャルスピンオフ:事業再編計画の認定が必要(事業を所管する省庁が認定)

  • 従業者の継続

    • 完全スピンオフ:おおむね80%以上

    • パーシャルスピンオフ:おおむね80%以上(令和8年度改正前は90%以上)

  • 適用期限

    • 完全スピンオフ:なし(法人税法の本則)

    • パーシャルスピンオフ:期限の定めのない措置(令和8年度改正で時限措置から移行)

  • グループ連携

    • 完全スピンオフ:分離後は資本関係なし

    • パーシャルスピンオフ:20%未満の持分で連携を維持できる

出典:経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編(令和8年5月)p.4・7〜8・Q45 p.49・p.71、同(令和7年7月)p.8よりKabuGraph作成

パーシャルスピンオフ税制の適用要件(令和8年度改正後)

現行の要件は次のとおりです(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編 p.7〜8、同 Q26 p.35)。

  1. 残す持分は20%未満──完全子会社の株式の80%超を、持株数に応じて株主に分配する

  2. 事業再編計画の認定──産業競争力強化法に基づく認定を、分配の実行時までに受ける。認定は事業を所管する省庁が行う(同 Q43・Q44 p.48)

  3. 経営資源を集中させる事業の特定──親会社グループが経営資源を集中させる事業を特定し、その事業を引き続き行う見込みであること

  4. 切り出す子会社の事業はそれ以外──子会社の主要な事業が特定した事業以外のもので、分配後も子会社で続けられる見込みであること

  5. 生産性向上の目標──特定した事業と子会社の主要な事業について、スピンオフにより生産性向上の目標の達成が見込まれること

  6. 完全スピンオフと共通の要件──非支配要件、役員継続要件、従業者継続要件(おおむね80%以上)

対象は完全子会社の株式分配だけで、事業部門を切り出す分割型分割には使えません(同 Q45 p.49)。

令和6年度改正──認定期限の延長と新事業活動要件

創設時は、2023年4月1日から2024年3月31日までに事業再編計画の認定を受けることが条件の、1年間の時限措置でした。令和6年度(2024年度)税制改正で認定の期限が2028年3月31日まで4年延長されています(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編(令和7年7月) p.7、長島・大野・常松法律事務所 令和6年度税制改正大綱解説)。あわせて次の見直しが行われました。

  • 公表時期の柔軟化:認定した事業再編計画の公表を、認定日から事業再編計画の開始日までの間に行えるようにした

  • 新事業活動要件の追加:スピンオフされる子会社が、主要な事業として新たな事業活動を行っていることを要件に加えた(スタートアップ創出の観点からの追加)

令和8年度改正──期限の定めのない措置に

令和8年度(2026年度)税制改正で、パーシャルスピンオフ税制は期限の定めのない措置になりました(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編 p.7)。2026年4月1日以後に事業再編計画の認定を受けた法人が行う認定株式分配が対象です(租税特別措置法第68条の2、同 p.71)。

経済産業省は改正の狙いを、企業が経営資源を集中させるべき事業に専念して成長を図ることと、事業ポートフォリオの組替えを常に検討できる環境を整えることだと説明しています(同 p.7)。要件の主な変更点は次のとおりです(長島・大野・常松法律事務所 令和8年度税制改正解説)。

  • 新事業活動要件の廃止:令和6年度改正で加わった「新たな事業活動」の要件をなくし、スタートアップの切り出しに限らず、コア事業への集中を目的とした組替えにも使えるようにした

  • 認定要件の見直し:親会社が経営資源を集中させる事業を特定すること、子会社の主要な事業がそれ以外であること、両方の事業で生産性向上の目標達成が見込まれることが新たな認定要件になった(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編 p.8)

  • 従業者継続要件の緩和:おおむね90%以上から、完全スピンオフと同じおおむね80%以上になった(同 p.8、改正前の手引 p.8)

パーシャルスピンオフ初の事例──ソニーG→ソニーフィナンシャルG

パーシャルスピンオフ税制の初の適用事例は、ソニーグループ(6758)が金融子会社のソニーフィナンシャルグループ(8729)を分離・上場させたケースです。2024年2月に産業競争力強化法に基づく事業再編計画の認定を取得し(経済産業省 2024年2月14日発表)、2025年10月1日にスピンオフの効力が発生しました。認定は令和5年度改正当時の要件で受けたもので、新事業活動要件は課されていません(長島・大野・常松法律事務所 令和8年度税制改正解説)。

スキームの詳細

スキームの概要は次のとおりです。

  • 手法:パーシャルスピンオフ(株式分配。ソニーFG株式の80%超を分配し、20%未満を保持)

  • 事業再編計画の認定日:2024年2月13日

  • 分配比率:ソニーG株式1株につきソニーFG株式1株

  • ソニーFG上場日:2025年9月29日(ソニーG株の権利落ち日。東証プライム市場に新規上場)

  • 基準日:2025年9月30日

  • 効力発生日:2025年10月1日

  • 流通参考値段・初値:150円・205円

出典:経済産業省 2024年2月14日発表、ソニーフィナンシャルグループ 2025年9月8日開示、日本取引所グループ 2025年9月22日公表、楽天証券「ソニーグループ(6758)のスピンオフについて」、日本経済新聞 2025年9月29日よりKabuGraph作成

ソニーGは80%超のソニーFG株式を株主に現物配当として分配し、残りの20%未満を保持しています。金融事業(ソニー生命・ソニー損保・ソニー銀行)はテクノロジー事業とはリスク特性・規制環境が異なるため、独立させることで各事業の成長戦略に集中できるという判断でした(日本経済新聞 2025年9月29日)。

株主の証券口座では、ソニーG株とソニーFG株の取得価額が自動的に按分されます。完全スピンオフのコシダカと同様に分配資産割合を使いますが、パーシャルでは子会社株式の帳簿価額に分配した割合を掛けて計算します(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編 Q39 p.44)。

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ソ
6758電機・精密

ソニーグループ

エンタテインメントとテクノロジーを融合させた総合企業。PlayStation等のゲーム事業、ソニー・ミュージックによる音楽制作・出版、ソニー・ピクチャーズによる映画・テレビ番組制作、カメラ・テレビ・ヘッドホン等のエレクトロニクス製品、スマー…

米国のスピンオフとの比較──再編手法として定着

スピンオフは米国では長い歴史を持つ組織再編手法で、米国内国歳入法(IRC)355条のもとで毎年まとまった数の案件が実行されています。経済産業省の参考事例編は、2013〜2015年にスピンオフを実施した米国企業94社や、2023年の19社を分析しています(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」参考事例編 p.12・19。いずれもデータを取得できた案件のみ)。日本との制度的な差異を整理します。

日米のスピンオフ制度比較

米国(IRC 355条)と日本の主な違いは次のとおりです。

  • 制度の歴史

    • 米国:1954年のIRC制定時から存在

    • 日本:2017年度税制改正で創設

  • 親会社の持分保持

    • 米国:80%以上を分配すれば、残り20%以下を保持できる(保持に租税回避の目的がないことが条件)

    • 日本:完全スピンオフは0%、パーシャルは20%未満(2023年度改正で創設、2026年度改正で期限の定めのない措置に)

  • 事前認定

    • 米国:不要(事後のIRS判断)

    • 日本:パーシャルは事業再編計画の認定(事業を所管する省庁)が必要

  • 実績

    • 米国:毎年まとまった数(経産省の参考事例編は2023年の19社などを分析)

    • 日本:完全スピンオフ3件、パーシャル2件(パーシャルの2件目は2026年10月1日効力発生のレゾナックHD→クラサスケミカル。下記の実行例)

出典:経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編(令和8年5月)・参考事例編(令和7年7月)、各社開示資料よりKabuGraph作成

日本の実行例

2023年以降は検討を公表する上場企業が増えています。レゾナックHDの石油化学子会社クラサスケミカル(646A)は、2026年9月29日に東証スタンダードへ上場し、10月1日を効力発生日としてパーシャルスピンオフを実施する形をとりました。ソニーFGと同じく親会社株の権利落ち日に上場する方式で、パーシャルスピンオフとしては2例目です(経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」参考事例編 p.8、レゾナック・ホールディングス「クラサスケミカル株式会社のパーシャル・スピンオフについて」、同 2026年9月29日開示)。

スピンオフ税制を使った国内の例は次のとおりです。

  • 2020年3月:コシダカHD→カーブスHD(完全スピンオフ・株式分配)

  • 2024年10月:メルコHD→シマダヤ(完全スピンオフ・株式分配)

  • 2025年10月:ソニーG→ソニーFG(パーシャルスピンオフ・株式分配)

  • 2025年11月:Hamee→NE(完全スピンオフ・株式分配)

  • 2026年10月:レゾナックHD→クラサスケミカル(パーシャルスピンオフ・株式分配。9月29日に東証スタンダードへ上場、10月1日効力発生)

出典:経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」参考事例編(令和7年7月)p.6〜8、経済産業省 2024年2月14日発表、Hamee 2025年6月13日開示、レゾナック・ホールディングス 2026年9月29日開示ほかよりKabuGraph調べ(2026年9月30日時点)

メルコHD(現バッファロー)は2024年10月に製麺子会社シマダヤを(参考事例編 p.7)、Hameeは2025年11月にEC支援SaaSのNEを、それぞれ適格株式分配でスピンオフしました(Hamee 2025年6月13日開示、楽天証券「Hamee(3134)のスピンオフについて」)。

米国の代表的なスピンオフ事例

  • eBay → PayPal(2015年):決済子会社PayPalをスピンオフしてNASDAQに再上場。親会社の競合(Amazon等)との取引制限が解消され、PayPalの事業拡大が加速した

  • IBM → Kyndryl(2021年):マネージドインフラサービス事業をKyndrylとしてスピンオフ。IBMがクラウド・AIに経営資源を集中する戦略の一環

  • GE → GE Vernova・GE Aerospace(2023-2024年):ゼネラル・エレクトリックがヘルスケア、電力・再エネ、航空の3社に分割。100年超の歴史を持つコングロマリットの解体事例

米国ではスピンオフ後に独立企業の株価が上昇する傾向があり、「スピンオフ投資」という投資手法も存在します。直近4年以内にスピンオフした企業で構成する「S&P米国スピンオフ指数」は2010年1月からの15年で約6.7倍になり、S&P500(約5.6倍)を上回りました(参考事例編 p.16)。日本でもパーシャルスピンオフ税制が期限の定めのない措置になったことで、今後事例が増えることが期待されています。

投資家が押さえるべき3つのポイント

1. 取得価額の按分を必ず確認する

スピンオフが実行されると、保有株式の取得価額が按分されます。按分後の取得価額は将来の売却時の譲渡所得の計算に直結するため、確定申告に備えて記録しておくことが重要です。特定口座では証券会社が自動で按分処理を行いますが、一般口座の場合は自分で計算する必要があります。

2. スピンオフは「企業価値向上のシグナル」になりうる

スピンオフの実行は、経営陣が事業ポートフォリオの見直しに本気で取り組んでいるシグナルです。コングロマリットディスカウントが解消されれば、親会社と新会社の合計時価総額がスピンオフ前を上回る「1+1>2」の効果が期待できます。

3. カーブアウトとの違いを理解する

スピンオフと同じく事業を切り離す手法に「カーブアウト」があります。スピンオフは株主に株式を直接交付するのに対し、カーブアウトは事業を売却して現金を得る手法です。スピンオフでは既存株主が自動的に新会社の株主になりますが、カーブアウトでは親会社が売却対価を受け取ります。

主な違いは次のとおりです。

  • 対価

    • スピンオフ:株主に新会社の株式を交付

    • カーブアウト:親会社が売却代金を受領

  • 現金の動き

    • スピンオフ:なし

    • カーブアウト:あり

  • 税制優遇

    • スピンオフ:適格要件を満たせば課税繰延

    • カーブアウト:通常の売却益課税

  • 株主の立場

    • スピンオフ:自動的に新会社の株主になる

    • カーブアウト:親会社の株主のまま

まとめ──制度の全体像と今後の展望

スピンオフ税制の変遷を時系列で整理します。

  • 2017年4月:平成29年度税制改正でスピンオフ税制を創設(分割型分割・株式分配の2類型)

  • 2020年3月:日本初の適用事例──コシダカHD→カーブスHDのスピンオフ

  • 2023年4月:令和5年度改正でパーシャルスピンオフ税制を創設(1年間の時限措置)

  • 2024年2月:ソニーGが事業再編計画の初認定を取得

  • 2024年4月:令和6年度改正で認定期限を2028年3月まで4年延長、新事業活動要件を追加

  • 2024年10月:メルコHD→シマダヤのスピンオフ

  • 2025年4月:令和7年度改正で、グループ通算制度の適用会社が行うスピンオフの分配資産割合の計算を手当て

  • 2025年9月:東証の規程改正で、スピンオフ元の権利落ち日から新会社の上場が可能に(9月16日施行)

  • 2025年10月:日本初のパーシャルスピンオフ実行──ソニーG→ソニーFG

  • 2025年11月:Hamee→NEのスピンオフ

  • 2026年4月:令和8年度改正でパーシャルスピンオフ税制が期限の定めのない措置に。新事業活動要件を廃止し、認定要件を見直し

  • 2026年10月:レゾナックHD→クラサスケミカルのパーシャルスピンオフ(9月29日上場、10月1日効力発生)

出典:経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」制度編(令和8年5月・令和7年7月)・参考事例編、各社開示資料よりKabuGraph作成

スピンオフ税制は、日本企業の事業ポートフォリオ再編を後押しする制度として着実に拡充されてきました。2026年度改正でパーシャルスピンオフ税制が期限の定めのない措置になり、新事業活動要件に代えて「経営資源を集中させる事業」を軸にした認定要件が設けられたことで、コア事業への集中を目的とした組替えにも使いやすくなっています。

投資家にとっては、保有銘柄のスピンオフ発表時に慌てないよう、取得価額按分の仕組みと税務上の影響を事前に理解しておくことが大切です。

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コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

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