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スクイーズアウトとは|3つの手法と価格決定申立の実務を解説

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スクイーズアウトとは、支配株主が少数株主の保有株式を強制的に取得し、持株比率を100%にする手法です。英語の「squeeze out(絞り出す)」が語源で、日本語では「少数株主の締め出し」とも呼ばれます。

TOB(公開買付)で大半の株式を取得した後、残りの少数株主から株式を取得して完全子会社化する場面で使われるのが典型です。2025年の国内TOBは12月時点で128件・総額約10.6兆円と過去最高を記録し(日本経済新聞 2025年12月)、スクイーズアウトの実施件数も急増しています。本記事では、会社法が定める3つの手法の比較、手続きの流れ、少数株主の対抗手段である価格決定申立まで、投資家目線で解説します。

スクイーズアウトの目的と背景

スクイーズアウトは、主に以下の目的で実施されます。

完全子会社化による経営の機動性確保

少数株主がいる限り、重要な意思決定には株主総会の手続きが必要です。完全子会社化すれば、グループ内の組織再編やM&Aを迅速に進められます。親会社と子会社の利益相反を気にせず経営資源を最適配分できる点も大きなメリットです。

上場廃止(非公開化)

MBOでは、経営陣がTOBで株式の大部分を取得した後、スクイーズアウトで残りの株式を取得して上場廃止に至ります。上場維持コスト(年間数千万〜数億円の開示・監査費用)の削減や、短期的な株価変動に左右されない長期的経営が可能になります。

税務上のメリット

完全親子会社間ではグループ通算制度(旧・連結納税制度)の適用が可能になり、グループ全体での損益通算による節税効果が得られます。また、完全子会社からの配当は益金不算入(100%)となるなど、税務面の最適化が図れます。

なぜ今スクイーズアウトが増えているのか

背景には、東証の資本効率改善要請(PBR1倍割れ企業への改善策開示)、アクティビスト(物言う株主)の増加、そして2019年の経済産業省「公正なM&Aの在り方に関する指針」の策定があります。この指針はMBOや支配株主による買収における公正な手続きの在り方を示したもので、特別委員会の設置やマーケットチェックの実務を定着させました。手続きの透明性が高まったことで、企業側がMBO・TOBに踏み切りやすくなり、その結果としてスクイーズアウトの実施も増加しています。

スクイーズアウトの3つの手法

会社法は、少数株主から強制的に株式を取得する手法として主に3つの方法を用意しています。それぞれ必要な持株比率、手続き、所要期間が異なります。

株式等売渡請求

株式併合

全部取得条項付種類株式

必要な持株比率

議決権の90%以上

議決権の2/3以上

議決権の2/3以上

株主総会決議

不要(取締役会承認)

特別決議が必要

特別決議が必要(2回)

所要期間の目安

約1ヶ月

約2ヶ月

約3ヶ月以上

根拠条文

会社法179条

会社法180条

会社法171条

現在の利用頻度

最も多い

多い

少ない(減少傾向)

出典:会社法(平成17年法律第86号)各条文よりKabuGraph作成

①株式等売渡請求(会社法179条)

議決権の90%以上を持つ「特別支配株主」が、残りの株主全員に株式の売渡しを直接請求する制度です(2014年会社法改正で新設)。

  • 条件:議決権の90%以上を保有

  • 株主総会:不要(取締役会の承認のみ)

  • 対価:支配株主が指定した金額(通常はTOB価格と同額)を直接支払い

  • 所要期間:約1ヶ月(最短)

手続きが最もシンプルで、TOBで90%以上を取得できた場合の第一選択肢として定着しています。

手続きの流れ

  1. 特別支配株主が対象会社に売渡請求の条件(対価の額・取得日等)を通知

  2. 対象会社の取締役会が承認

  3. 対象会社が少数株主に取得日の20日前までに通知

  4. 取得日に株式が特別支配株主に移転し、対価(金銭)が支払われる

②株式併合(会社法180条)

複数の株式を1株にまとめることで、少数株主の持ち分を1株未満の端数にする手法です。

  • 条件:議決権の2/3以上を保有(特別決議の可決に必要)

  • 仕組み:たとえば100万株を1株に併合すると、100万株未満の少数株主の持ち分は端数になる

  • 対価:全少数株主の端数を合算して整数にし(会社法235条)、裁判所の許可を得て支配株主に売却。代金を端数の割合に応じて各株主に交付(実務上はTOB価格と同額が基準)

  • 所要期間:約2ヶ月

TOBで90%に届かなかった場合の主要な選択肢です。ローソンのKDDI・三菱商事による完全子会社化(2024年)やベネッセのMBO(2024年)でもこの手法が使われました。法律上は競売も可能ですが、完全子会社化が目的なので第三者ではなく支配株主が買い取るのが通例です。

③全部取得条項付種類株式(会社法171条)

既存の普通株式を「全部取得条項付種類株式」に転換し、会社がそのすべてを取得する手法です。

  • 条件:議決権の2/3以上を保有(特別決議の可決に必要)

  • 仕組み:定款変更で普通株式を全部取得条項付種類株式に転換し、同時に新しい種類株式(A株)を作る → 会社が全株式を取得し、対価としてA株を交付 → 交付比率を「旧100万株につきA株1株」のように設定し、少数株主には端数しか渡らない設計にする

  • 対価:端数は株式併合と同じく支配株主が買い取り、少数株主には現金が渡る(支配株主だけが整数のA株を受け取る)

  • 所要期間:約3ヶ月以上(定款変更の特別決議が2回必要で最も煩雑)

2014年の会社法改正で株式等売渡請求が導入されて以降、利用は大幅に減少しています。ただし、2013年のジュピターテレコム(J:COM)のスクイーズアウトではこの手法が使われ、最高裁まで争われた重要判例を残しました。

TOBからスクイーズアウトまでの流れ

個人投資家が保有銘柄でスクイーズアウトに遭遇するのは、ほとんどの場合TOBの後です。典型的な流れを見てみましょう。

ステップ1:TOB(公開買付)の公表

買付者がTOBの実施を公表します。公開買付届出書には、買付価格、買付期間(最低20営業日)、買付予定数の下限・上限が記載されます。TOBの目的が完全子会社化である場合、「TOB後にスクイーズアウトを実施する予定」と明記されるのが通常です。

ステップ2:TOBへの応募判断

株主は、TOBに応募するか、市場で売却するか、保有し続けるかを選びます。TOB届出書にスクイーズアウトの予定が記載されている場合、TOBに応募しなくても最終的に同額の対価で強制取得されるのが基本です(後述のジュピターテレコム最高裁決定を参照)。ただし、価格決定申立ての権利行使を考える場合はあえてTOBに応募せず保有し続ける選択もあります。

ステップ3:TOB成立後のスクイーズアウト

TOBが成立し、買付者の持株比率に応じてスクイーズアウトの手法が選ばれます。

  • 90%以上取得 → 株式等売渡請求(最短約1ヶ月)

  • 2/3以上〜90%未満 → 株式併合(約2ヶ月)

出典:プルータス・コンサルティング「初めてのTOB:検討開始からスクイーズ・アウトまでのスケジュールイメージ」2026年4月

ステップ4:対価の支払いと上場廃止

スクイーズアウトが完了すると、少数株主には金銭対価が支払われ、株式は支配株主に移転します。上場会社の場合は株主数の基準を満たさなくなり、上場廃止となります。

少数株主の保護措置と価格決定申立

スクイーズアウトは強制的に株式を取得する制度であるため、会社法は少数株主を保護するための仕組みを用意しています。

価格決定申立権

少数株主は、スクイーズアウトの対価が「公正な価格」でないと考える場合、裁判所に価格の決定を申し立てることができます(会社法179条の8、182条の5等)。これが少数株主にとって最も重要な対抗手段です。

申立期限は手法によって異なりますが、株式等売渡請求の場合は取得日の20日前から取得日の前日まで、株式併合の場合は効力発生日の20日前から効力発生日の前日までです。

差止請求

株式等売渡請求が法令に違反する場合や、対価が著しく不当な場合、少数株主は裁判所に差止めを請求できます(会社法179条の7)。株式併合でも、法令・定款違反により不利益を受けるおそれがある場合は差止請求が認められます(会社法182条の3)。

「公正な価格」とは何か:2つの重要判例

スクイーズアウトにおける「公正な価格」の解釈は、以下の最高裁判例で大きく整理されました。

ジュピターテレコム事件(最高裁 平成28年7月1日決定)

住友商事とKDDIが全部取得条項付種類株式を用いてJ:COM(ジュピターテレコム)の少数株主を排除した事案です。最高裁は、「取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、全部取得条項付種類株式の取得価格は公開買付価格と同額とするのが相当」と判示しました(BUSINESS LAWYERS 解説)。つまり、TOBの手続きが公正であれば、スクイーズアウトの対価はTOB価格と同額でよいという考え方です。

レックス・ホールディングス事件(東京高裁 平成20年9月12日決定)

経営陣によるMBOの事案です。TOB公表の直前に業績の下方修正を発表し、株価が下がったタイミングでTOBを行った点が問題になりました。裁判所はTOB価格を不当に低いと認定し、補正後の「ナカリセバ価格」(MBOがなければ形成されていたであろう株価)を基準に公正な価格を算定しました。この判例は、MBOにおける利益相反の問題と、少数株主保護の重要性を明確にしました。

近年の主なスクイーズアウト事例

2024年以降、大型のスクイーズアウト事例が相次いでいます。代表的なケースを見てみましょう。

対象会社

買付者

手法

TOB価格

上場廃止

大正製薬HD

大手門(創業家MBO)

株式併合

8,620円

2024年4月

ベネッセHD

Bloom 1(創業家+EQT)

株式併合

2,600円

2024年5月

ローソン

KDDI+三菱商事

株式併合

10,360円

2024年7月

永谷園HD

創業家+丸の内キャピタル

株式併合

3,100円

2024年9月

出典:各社適時開示資料よりKabuGraph作成

大正製薬HD:PBR0.6倍でのMBOに批判

大正製薬ホールディングスは、2023年11月に創業家によるMBOを公表しました(大正製薬HD 適時開示 2023年11月24日)。TOB価格8,620円はPBR約0.6倍で、純資産を大幅に下回る価格での非公開化に対して株主から強い批判が起きました。TOB成立後、2024年3月の臨時株主総会で株式併合が承認され、4月に上場廃止。米投資ファンドのキュリRMBキャピタル等が裁判所に価格決定申立を行いました。

ベネッセHD:PEファンドとの共同MBO

ベネッセホールディングスは、2023年11月に創業家とスウェーデンの大手PEファンドEQTによる共同MBOを公表しました(日本M&Aセンター M&Aニュース)。TOB価格2,600円(プレミアム約45%)でTOBが成立した後、SPC(Bloom 1)が株式併合を実施し、2024年5月に上場廃止となりました。

ローソン:異業種連合による非公開化

KDDIと三菱商事がローソンの共同経営に向けてTOBを実施し、TOB成立後に株式併合でスクイーズアウトを実行しました。併合比率は約5,004万株を1株に統合という大幅なもので、最終的に発行済株式は2株のみとなりました。通信×小売×商社の異業種連合による経営という新しい形を目指した事例です。

スクイーズアウトのメリットとデメリット

支配株主・企業側のメリット

  • 意思決定の迅速化:少数株主の利害を考慮する必要がなくなり、大胆な構造改革や長期投資が可能に

  • 事務負担の軽減:株主総会の運営コスト、配当金の送金事務、株主名簿の管理等が不要に

  • グループ経営の最適化:完全親子会社間での資金移動、人材配置、事業再編が自由に

  • 訴訟リスクの軽減:株主代表訴訟や株主提案のリスクがなくなる

少数株主にとってのデメリットとリスク

  • 投資の強制終了:株主の意思に関わらず株式を手放すことになる。長期保有を前提としていた投資家にとっては想定外の出口になる

  • 対価の妥当性への疑問:MBOの場合、買い手と売り手が事実上同一で、構造的な利益相反がある。大正製薬HDのようにPBR1倍を大幅に下回る価格で実施されるケースもある

  • 対抗手段のコスト:価格決定申立には弁護士費用と時間がかかるため、個人投資家にとってはハードルが高い

投資家が押さえるべきポイント

保有銘柄でスクイーズアウトが行われる可能性がある場合、投資家として知っておくべきポイントをまとめます。

TOB公表時にチェックすべき項目

  1. スクイーズアウトの予定有無:TOB届出書に記載されているか確認

  2. TOB価格のプレミアム水準:直近株価に対するプレミアムに加え、PBRやPERなどの指標と比較

  3. 特別委員会の意見と算定書:独立した特別委員会が賛同しているか、算定方法(DCF法の前提等)に違和感がないか

  4. マジョリティ・オブ・マイノリティ条件:TOBの成立条件に少数株主の過半数の応募が含まれているか。含まれていない場合、少数株主の意向が反映されにくい

選択肢の比較

選択肢

対価

受取時期

備考

TOBに応募

TOB価格

TOB成立後すぐ

最も早く確実に現金化

市場で売却

市場価格

即時

TOB価格より若干低い場合が多い

保有継続→スクイーズアウト

TOB価格と同額が原則

数ヶ月後

価格決定申立の権利を確保

スクイーズアウトリスクが高い銘柄の特徴

以下の特徴を複数持つ銘柄は、MBO・TOBを経てスクイーズアウトが実施される可能性が相対的に高いといえます。

  • PBR1倍割れが長期間続いている

  • 創業家の持株比率が30〜50%台(MBOの引き金になりやすい)

  • 上場維持メリットが薄い(資金調達ニーズが小さい、知名度が既に十分等)

  • 親子上場している子会社(親会社による完全子会社化の候補)

  • アクティビストが株主にいる(非公開化の圧力になりうる)

税金・確定申告の注意点

TOBに応募して売却した場合と、スクイーズアウトで金銭交付を受けた場合では、税務上の扱いが異なります。特に確定申告の要否に違いがあるため、事前に把握しておきましょう。

項目

TOB応募(上場中の売却)

スクイーズアウト(金銭交付)

課税区分

株式等の譲渡所得(申告分離課税20.315%)

みなし配当+譲渡所得に分解される場合あり。みなし配当部分は総合課税(配当控除の適用可)

特定口座の利用

源泉徴収口座なら確定申告不要

上場廃止後は特定口座の対象外となり、一般口座での扱い

確定申告

源泉徴収ありの特定口座なら原則不要

原則として確定申告が必要

取得費の証明

特定口座の年間取引報告書で対応

自分で取得費を証明する書類を保管しておく必要がある

出典:所得税法・租税特別措置法の規定に基づく一般的な取扱い。個別の税務判断は税理士等の専門家に相談してください。

まとめ

スクイーズアウトは、TOBやMBOの最終段階として少数株主の株式を強制取得する手法です。会社法は株式等売渡請求・株式併合・全部取得条項付種類株式の3つの方法を用意しており、中でも90%以上を保有する特別支配株主が使える株式等売渡請求が最もシンプルかつ迅速です。

投資家にとって重要なのは、対価が公正であるかどうかです。ジュピターテレコム最高裁決定により、手続きが公正であればTOB価格=スクイーズアウト対価という原則が確立されています。しかし大正製薬HDのように対価の妥当性を巡って争いが生じるケースもあり、TOB公表時には価格の根拠・特別委員会の意見・マジョリティ・オブ・マイノリティ条件の有無を必ず確認しましょう。

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コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

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