トヨタ自動車(7203)の企業分析|日本初の売上50兆円突破、電動車500万台超のマルチパスウェイ戦略
2027年3月期 第1四半期決算まで反映

トヨタ自動車(7203)は、2025暦年のグループ世界販売台数1,132万台を誇る、売上高で日本最大の企業です。2026年3月期の営業収益は50兆6,849億円と日本企業として初めて50兆円を突破し、5年連続の増収で過去最高を更新しました(出典:2026年3月期 決算短信)。
一方、営業利益は米トランプ政権の自動車関税の影響で前期比21.5%減の3兆7,662億円と減益に転じました。電動車(HEV・BEV含む)の販売台数は初めて500万台を超え、全方位の電動化戦略(マルチパスウェイ)が進行しています。
会社概要 — 世界最大の自動車メーカー
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | トヨタ自動車株式会社(Toyota Motor Corporation) |
証券コード | 7203(東証プライム) |
本社 | 愛知県豊田市トヨタ町1番地 |
従業員数 | 73,133名(単体)/390,927名(連結)(2026年3月31日現在) |
時価総額 | 約44.1兆円(2026年9月18日終値3,025円ベース) |
発行済株式総数 | 14,594,987,460株(2026年6月末、前期末比△7.6%)。うち2億株を消却予定 |
決算期 | 3月 |
トヨタの事業はトヨタ・レクサスの自動車事業、金融事業(トヨタファイナンシャルサービス)、その他事業で構成されています。ダイハツ工業を連結子会社に持つほか、2026年4月に日野自動車と三菱ふそうトラック・バスが経営統合して発足した持株会社ARCHION(アーチオン)に25%出資しています。スバル・マツダ・スズキとも資本提携関係にあります。
2026年に入ってグループの資本関係が大きく動きました。なかでも豊田自動織機の非公開化は、トヨタ本体の発行済株式数を1割近く減らすかたちで株主に直接影響しています。
豊田自動織機は、トヨタ不動産による公開買付けを経て2026年6月1日付で上場廃止(東証プライム・名証プレミア)
トヨタはこの非公開化の一環として、織機が保有していた自社株を公開買付けで取得。2027年3月期第1四半期の自己株式取得額は3兆6,568億円
その結果、発行済株式総数は15,794,987,460株から14,594,987,460株へ7.6%減少(2026年6月末)
日野自動車は、その連結子会社70社とともに2026年4月1日付で連結の範囲から除外(ARCHIONへ移行)
デンソーやSUBARUは連結子会社ではなく持分法適用関連会社(2026年3月期 有価証券報告書「関係会社の状況」)
地域別売上高推移
電動化戦略と成長ドライバー
マルチパスウェイ戦略 — HEVの強みを活かした全方位戦略
トヨタはBEV一辺倒ではなく、HEV・PHEV・FCEV・BEVの全方位戦略を採っています。特にHEV(ハイブリッド車)はプリウス以来の蓄積があり、2026年3月期のトヨタ・レクサスブランドの電動車(HEV・MHEV・PHEV・BEV・FCEV)販売台数は5,039,522台となり、初めて500万台を超えました。各国・地域のインフラ整備状況や消費者ニーズに応じて最適なパワートレインを提供する戦略です(出典:2025年度 販売・生産・輸出実績)。
全固体電池 — 次世代BEVの切り札
トヨタはBEVの航続距離と充電時間の課題を解決する全固体電池の開発を推進しています。ただし、量産時期やエネルギー密度・充電時間といった性能目標について、2026年3月期の有価証券報告書および決算説明会資料には具体的な記載がありません。会社が公表している直近の電池ロードマップはHEV用電池が中心で、現行のHEV用電池を2027〜2028年に60万台規模で次世代HEV用電池へ切り替える計画が示されています。全固体電池は実用化できれば大きな競争優位性となりますが、進捗は会社開示からは確認しにくい領域です。
米関税の影響
2026年3月期最大のマイナス要因は米国の関税政策です。会社開示によれば、2026年3月期の営業利益への減益影響額は1兆3,800億円に達し、営業利益は前期比21.5%減に転じました(出典:2026年3月期 決算説明会資料)。トヨタは米国での現地生産比率を引き上げることで対応を進めています。
車販売以外の収益源
2026年3月期は車販売以外の収益も好調でした。金融事業(自動車ローン・リース)やウーブン(自動運転・モビリティサービス)への投資に加え、水素事業やモビリティサービスなど、「自動車メーカー」から「モビリティカンパニー」への転換を推進しています(出典:2026年3月期 有価証券報告書)。
業績推移と財務分析
通期業績推移(営業収益・営業利益・営業利益率)
売上は5年連続で増収(過去最高)ですが、営業利益は2期連続の減益です。ただし減益の中身は2年で違い、「関税で2期連続減益」ではありません。会社の営業利益増減要因は次のとおりです。
2025年3月期(△5,573億円)— 人への投資・成長領域への総合投資 △7,000億円、市場環境など △3,529億円が主因。米国の自動車関税の発動は2025年4月で、この期の増減要因に関税の項目はない
2026年3月期(△1兆293億円)— 米関税の影響 △1兆3,800億円が最大の要因。販売台数増・価格改定・バリューチェーン収益の拡大で一部を吸収
2027年3月期の会社予想は営業収益54兆円・営業利益3.4兆円です。この3.4兆円は、2026年8月4日の第1四半期決算で5月時点の3.0兆円から4,000億円上方修正されたものです。為替前提の見直し(1米ドル150円→160円)に加え、中東向けの代替物流ルート構築などの営業面の努力が理由と説明されています。
2027年3月期 見通しの増減要因(前期差) | 金額(億円) |
|---|---|
為替変動の影響 | +7,150 |
営業面の努力 | +5,600 |
原価改善の努力(うち資材価格・仕入先基盤強化 △13,250) | △11,050 |
諸経費の増減・低減努力(うち中東影響 △1,650) | △2,400 |
その他(固定費増・開発プロジェクト見直しなど) | △2,962 |
合計 | △3,662 |
この増減要因に関税の項目はありません。関税影響は前期と同水準(約1.4兆円)が織り込み済みで、前期からの新たな悪化要因は資材価格の上昇と中東情勢の影響(原価改善と諸経費で計△5,100億円)です。関税は「本格化」ではなく「高止まり」を前提とした見通しだと読むべきでしょう。
2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月の3ヶ月)
項目(3ヶ月) | 2026年4〜6月 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
営業収益 | 13兆5,254億円 | 12兆2,533億円 | +10.4% |
営業利益 | 1兆634億円 | 1兆1,661億円 | △8.8% |
親会社の所有者に帰属する四半期利益 | 1兆4,770億円 | 8,413億円 | +75.6% |
1株当たり四半期利益 | 120.69円 | 64.56円 | +86.9% |
3ヶ月の営業利益は1兆634億円で前年同期比8.8%の減益。中東情勢の影響を受けるなか、為替の追い風とバリューチェーン収益の拡大、競争力の高いHEVの増販で前年同期並みを確保した、というのが会社の説明です。
EPS・配当金の推移
EPS・1株配当金の推移
トヨタの配当は減益局面でも増配を継続しており、2027年3月期は1株100円(前期比+5.3%)を予想。配当利回りは2027年3月期予想配当100円ベースで約3.3%(2026年9月18日終値3,025円)と、大型株としては魅力的な水準です。配当性向は20〜35%台のレンジで推移しており、2027年3月期予想では36.7%となります。
1兆円の自己株式取得と2億株の消却
2026年8月4日、第1四半期決算と同時に上限1兆円・5億株の自己株式取得が決議されました。発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合は4.22%、取得期間は2026年8月5日から2027年8月4日まで、取得方法は市場買付です。あわせて2億株(消却前の発行済株式総数の1.37%)の消却も決めており、消却日は取得が完了した日を含む四半期の末日です。会社は「株式市場からの評価や足元の株価水準などを踏まえ、自己株式の取得枠を設定し、機動的に市場買付を実施」と説明しています(出典:2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料)。
これに先立ち、豊田自動織機の非公開化に伴う自己株式公開買付けで3兆6,568億円を投じており、発行済株式総数はすでに7.6%減っています。2027年3月期の会社予想は純利益が15.5%減(3兆8,481億円→3兆2,500億円)である一方、EPSの減少は7.8%(295.25円→272.17円)にとどまります。この差は株数の減少によるもので、上のEPSチャートが示す2027年3月期の落ち込みが利益の落ち込みより小さいのはそのためです。
投資家が注目すべきポイント
強み① 世界最大の自動車メーカーとしてのスケール
売上50兆円超、2025暦年のグループ世界販売台数1,132万台というスケールは、部品調達・研究開発・販売において圧倒的なコスト競争力をもたらします。グループにダイハツを擁し、ARCHION(日野・三菱ふそう)やスバル・マツダとの協力関係を持ち、電動化やソフトウェア定義車両(SDV)への投資も業界最大級です。
強み② マルチパスウェイ戦略とHEVの競争力
HEVはプリウス以来の技術蓄積があり、BEVへの移行が遅れている地域(新興国、EV充電インフラが未整備な地域)では依然として最も現実的な電動車選択肢です。電動車500万台超の実績は、全方位戦略の正しさを示しています。
強み③ PER 10.2倍・PBR 0.99倍のバリュエーションと1兆円の自社株買い
2026年9月18日終値3,025円ベースで、PER 10.2倍(2026年3月期実績EPS 295.25円)・PBR 0.99倍・配当利回り3.3%(2027年3月期予想配当100円)・時価総額約44.1兆円です。2027年3月期の会社予想EPS 272.17円で計算するとPERは11.1倍になり、予想ベースでも二桁前半にとどまります(出典:東証株価・決算短信よりKabuGraph算出、2026年9月18日終値ベース)。
ただしPBRが1倍を割っているといっても0.99倍で、下値の根拠にするには薄い水準です。2週間前の2026年9月1日終値3,243円ではPBR 1.06倍と1倍を上回っており、数%の値動きで1倍を挟む位置にあります。下支えとして具体性があるのは、むしろ上限1兆円・5億株の自己株式取得と2億株の消却です。会社が「足元の株価水準などを踏まえ」機動的に市場買付を実施すると明言しており、需給と1株当たり価値の両面に効きます。
リスク① 米国関税の長期化
米国の関税政策による2026年3月期の営業利益への減益影響額は、会社開示で1兆3,800億円でした。トヨタは米国現地生産を増強していますが、すべての車種を現地化するには時間がかかります。関税政策が長期化・強化された場合、さらなる利益圧縮は避けられません。
リスク② BEV市場でのシェア獲得の遅れ
BEV市場ではテスラ・BYD・中国新興勢がリードしており、トヨタのBEV販売台数は相対的に限られています。全固体電池の実用化が想定通り進まなかった場合、BEV時代への移行が遅れるリスクがあります。
リスク③ 為替リスク
トヨタは1円あたりの感応度を公式には開示していませんが、決算説明会資料の営業利益増減要因から逆算すると、対ドル1円の変動で営業利益が概ね430〜500億円動く計算になります(2026年3月期は米ドル△1,000億円/2円の円高、2027年3月期見通しは米ドル+3,900億円/9円の円安)。この高い為替感応度は円高局面で大きなリスクとなり、特に日米金利差の縮小による急速な円高進行には注意が必要です。
リスク④ 通期見通しに未反映の熊本地震
会社は2027年3月期の通期見通しについて、「令和8年熊本地震の状況や当社事業への影響を精査中、見通しには未反映」と注記しています(出典:2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料)。8月に3.4兆円へ上方修正された営業利益見通しには地震の影響が一切織り込まれていません。サプライチェーンや国内生産への影響が精査された段階で、見通しが下方に振れる余地があります。
まとめ
トヨタ自動車は日本企業初の売上50兆円を突破し、電動車500万台超の実績でマルチパスウェイ戦略の有効性を示しています。一方、米関税による1.4兆円規模の減益インパクトは無視できず、営業利益率は7%台に低下しています。2027年3月期は8月に営業利益見通しを3.0兆円から3.4兆円へ上方修正しましたが、前期からの悪化要因は関税の本格化ではなく資材価格と中東情勢です。
PER 10.2倍・PBR 0.99倍・配当利回り約3.3%(2026年9月18日終値3,025円ベース、配当は2027年3月期予想100円)という現在のバリュエーションは、関税リスクを相当程度織り込んだ水準です。PBRは1倍をわずかに割る程度で「万年1倍割れ」とまでは言えませんが、上限1兆円の自己株式取得と2億株の消却が需給と1株当たり価値の両面から支えます。全固体電池の実用化やBEV戦略の進展、関税交渉の行方次第では、バリュートラップではなくバリュー投資の好機となる可能性があります。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、世界最大級の自動車メーカーです。カローラ、ランドクルーザー、アルファードなど幅広い車種を展開し、セダンからSUV、トラックまで手がけています。子会社にダイハツ工業、持分法適用関連会社にデンソーを持ち、グループ全体で600社超…










