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転換社債(CB)とは|仕組みと株価への影響、2026年に1兆円超へ急増した発行の実例

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転換社債(CB)は、あらかじめ決めた価格(転換価額)で発行会社の株式に換えられる権利が付いた社債です。株価が転換価額を上回れば株に換えて値上がり益を得られ、上回らなければ満期に額面で返ってくる、債券と株式の性格をあわせ持つ商品です。現在は「転換社債型新株予約権付社債」と呼ばれ、会社法上は「新株予約権付社債」の一種にあたります(日本取引所グループ「転換社債型新株予約権付社債(CB)とは」)。

既存の株主から見ると、CBの発行は「将来、株数が増えるかもしれない」という潜在的な希薄化を意味し、発表直後はCBを買った投資家のヘッジ売りで株価の重しになりやすいのが特徴です。2026年は発行が急増し、日本証券業協会の統計では1〜8月だけで1兆2,547億円と、2019年以降のどの年の年間額も上回りました。

この記事では、CBの仕組みと用語、普通社債・株式との違い、メリット・デメリット、企業が発行する理由、既存株主への影響、MSCB、個人が買えるかまでを、2026年の実際の発行事例とともに解説します。

転換社債の要点まとめ

最初に全体像を一覧にします。詳しい説明は次のセクション以降で順に扱います。

  • 現在の名称:転換社債型新株予約権付社債(CB:Convertible Bond)。会社法上は「新株予約権付社債」の一種

  • 仕組み:社債に「決まった価格(転換価額)で株式に換える権利」が付いたもの。社債と権利は切り離して売れない

  • 投資家の損益:株価が転換価額を上回れば株に換えて値上がり益。上回らなければ満期に額面で償還(発行会社が破綻しない限り)

  • 利息:普通社債より低い。日本企業の円建てCBは利息ゼロ(ゼロクーポン)が基本

  • 期間:2026年の主な発行例では3〜7年(5年が多い)

  • 発行会社の狙い:利払いを抑えた資金調達、時価より高い価格での将来の株式発行

  • 既存株主への影響:転換されれば株数が増える(潜在的な希薄化)。発表直後はヘッジ売りで株価の重しになりやすい

  • 個人は買えるか:東証に上場しているCBは現在なし。近年のCBの多くは海外で発行される。CBに投資する投資信託なら間接的に投資できる

出典:日本取引所グループ、会社法、財務省『ファイナンス』、各社適時開示よりKabuGraph作成

転換社債の仕組み——社債に「株に換える権利」が付いたもの

CBを買った投資家は、まず発行会社にお金を貸している(社債を持っている)状態です。そのうえで、決められた期間内であれば、社債を差し出して株式を受け取ることができます。受け取れる株数は「額面÷転換価額」で決まり、たとえば転換価額1万円のCB100万円分を転換すると100株になります(日本取引所グループ「CBとは」)。

具体例で見る転換の流れ

財務省の広報誌『ファイナンス』の解説(服部孝洋「転換社債(CB)入門―基礎編―」令和7年3月号)の例で考えます。発行額100億円、転換価額1,000円のCBがすべて株式に転換されると、100億円÷1,000円=1,000万株が交付されます。

  • 株価が転換価額(1,000円)を上回った場合:株式に転換すれば、1株1,000円で株を手に入れたのと同じになる。株価が1,500円なら1株あたり500円分の利益

  • 株価が転換価額を下回ったままの場合:転換せずに持ち続け、満期に額面で償還を受ける(発行会社が破綻しない限り)

転換は権利行使期間中いつでもできるのが基本ですが(後述の転換制限条項が付く場合を除く)、転換する権利そのものに「時間的価値」があるため、実際の転換は満期の直前に行われる傾向があると同記事は説明しています。

出典:日本取引所グループ「CBの価格(パリティと乖離率)」「リスク」、財務省『ファイナンス』よりKabuGraph作成

図のように、CBの価格は株価が低いときは債券としての価値に、株価が高いときは「株に換えた価値(パリティ)」に近づきます。JPXも、株価が上がればCBの価格も上がる一方、「株式が大幅に値下がりしても、CBの値下がりの度合いは、相対的に小さくなって」いると説明しています(日本取引所グループ「CBとは」)。「値上がりは株に近く、値下がりは債券が支える」のがCBの基本的な性格です。

ただし、満期前のCBの価格は額面を下回ることもあります。転換しない場合、ゼロクーポンのCBは利息のない社債(割引債)と同じで、債券としての価値は金利や満期までの期間、発行会社の信用力で決まるためです(財務省『ファイナンス』基礎編、日本取引所グループ「リスク」)。業績の悪化で株価が大きく下がる局面では、発行会社が破綻するリスクが意識され、債券としての価値も下がりえます(図の左端)。

「転換社債」は旧称、法律上は「新株予約権付社債」

「転換社債」はもともと商法上の名称で、2002年4月施行の商法改正で「新株予約権付社債」に一本化されました。JPXの用語集は、転換社債型新株予約権付社債を「平成14年4月の商法改正前の転換社債に相当するもの」と説明しています(日本取引所グループ 用語集「転換社債型新株予約権付社債」)。

現在の会社法は、新株予約権付社債を「新株予約権を付した社債」と定義しています(会社法 第2条第22号(e-Gov法令検索))。そのうち、権利を使うときに社債そのものを出資に充てる(現金を追加で払い込まない)タイプが転換社債型です。「転換社債型新株予約権付社債」という呼び名は、会計基準(企業会計基準適用指針第17号 第3項)が定義している用語です。

押さえておきたい用語と条項

CBの発行を伝える適時開示やニュースには、独特の用語が並びます。最低限これだけ押さえておけば、発表文の数字が読めるようになります。

価格と条件に関する用語

主な用語の意味と計算例は次のとおりです。

  • 転換価額:株式に転換するときの1株あたりの価格。受け取る株数=額面÷転換価額

    • 例:転換価額1万円のCB100万円分 → 100株

  • アップ率:発行時の株価に対して転換価額をどれだけ高く設定したか。(転換価額÷株価−1)×100

    • 例:株価100円・転換価額120円 → 20%

  • パリティ:CBを株に換えた場合の理論価格。株価÷転換価額×100(円)

    • 例:株価1,200円・転換価額1,000円 → 120円

  • 乖離率:CBの時価がパリティからどれだけ離れているか。(CB時価−パリティ)÷パリティ×100

    • 例:時価125円・パリティ120円 → 4.17%

  • ゼロクーポン:利息(クーポン)が付かないこと。日本企業の円建てCBは基本的にゼロ

    • 例:丸井グループの2031年満期CBは「利息は付さない」

  • 潜在株式比率:すべて転換された場合に交付される株数の、発行済株式数(自己株式を除く)に対する割合。条件決定時に開示される

    • 例:丸井グループの2026年8月のCBは8.64%

出典:日本取引所グループ「CBとは」「CBの価格(パリティと乖離率)」、財務省『ファイナンス』、丸井グループ適時開示よりKabuGraph作成

乖離率がプラスなら、CBは株に換えた価値より高く取引されています。JPXは、CBの時価がパリティより安い場合は乖離率がマイナスになると説明しています(日本取引所グループ「CBの価格(パリティと乖離率)」)。

CBに付けられる主な条項

実際のCBには、株に換える権利のほかにさまざまな条項が付きます。財務省『ファイナンス』の発展編(服部孝洋「転換社債入門―発展編―」令和7年4月号)は、条項を「転換(希薄化)を促すか、抑えるか」で整理しています。既存株主にとっては、株数を増やす方向の条項か、抑える方向の条項かが重要です。

主な条項は次のとおりです。

  • ソフトコール(コールオプション条項):株価が転換価額の一定水準(例:130%)を一定期間上回ると、発行会社が額面で繰上償還できる

    • 既存株主から見ると:投資家に転換を促すため、株数が増える方向に働く

  • 転換制限条項:株価が転換価額の一定水準(例:130%や150%)を上回るまで転換できない

    • 既存株主から見ると:転換(株数の増加)を抑える

  • 取得条項(額面現金決済型):発行会社がCBを取得し、額面分は現金で、上回る分だけ株式で渡せる

    • 既存株主から見ると:交付する株数を減らし、希薄化を抑える

  • 転換価額修正条項:発行後に株価に合わせて転換価額が見直される。下方修正されると受け取れる株数が増える

    • 既存株主から見ると:株価が下がるほど希薄化が膨らむ(MSCB)

出典:財務省『ファイナンス』「転換社債入門―発展編―」、日本取引所グループ「CBとは」、丸井グループ・JX金属の適時開示よりKabuGraph作成

普通社債・株式との違い

CBは「普通社債」と「株式」の中間に位置する商品です。3つを並べると違いがはっきりします。

  • 利息・配当

    • 普通社債:利息を受け取れる

    • CB:利息は低いかゼロ(転換後は配当)

    • 株式:配当(業績次第)

  • 元本

    • 普通社債:満期に額面で返る

    • CB:転換しなければ満期に額面で返る

    • 株式:返済されない(売却で回収)

  • 株価上昇の恩恵

    • 普通社債:なし

    • CB:あり(パリティに連動)

    • 株式:あり

  • 株価下落の影響

    • 普通社債:直接は受けない

    • CB:債券としての価値が下支え

    • 株式:そのまま損失

  • 議決権

    • 普通社債:なし

    • CB:転換するまでなし

    • 株式:あり

  • 主なリスク

    • 普通社債:信用リスク・金利変動

    • CB:信用リスク・株価変動・流動性

    • 株式:株価変動

出典:日本取引所グループ「CBとは」「リスク」よりKabuGraph作成

CBは転換されるまでは社債なので、発行会社が破綻すれば利息も額面も返ってこない可能性があります(日本取引所グループ「リスク」)。「元本保証」ではなく「発行会社の信用力が前提の下支え」である点に注意が必要です。

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ワラント債(転換社債型以外の新株予約権付社債)との違い

新株予約権付社債には、転換社債型のほかに、権利を使うときに別途お金を払い込んで株式を買うタイプもあります。かつて「ワラント債」と呼ばれていたもので、法律上はどちらも新株予約権付社債に含まれます(大和証券 金融・証券用語解説「転換社債型新株予約権付社債」)。

日本証券業協会の統計もこの2つを分けて集計しています。後者については、株式を「予め定められた行使価格で、一定数量買い付けることができる権利」を付した社債と説明しています(日本証券業協会「全国上場会社のエクイティファイナンスの状況」解説資料)。

CBは社債を差し出して株に換えるので、転換されても会社に新しい現金は入らず、借金(社債)が資本に置き換わるだけです。ワラント債は権利行使のたびに現金が払い込まれる点が異なります。

転換社債のメリット・デメリット

CBのメリットとデメリットは、買う投資家と発行する企業で裏返しの関係にあります。投資家は「株の値上がり益と債券の下支え」を得る代わりに利息をあきらめ、企業は利払いを抑えられる代わりに将来の希薄化を受け入れる、という取引です。立場ごとに整理すると次のとおりです。

  • 投資家

    • メリット:株価が上がれば値上がり益(パリティに連動)。株価が下がっても債券としての価値が下支えする

    • デメリット・リスク:利息は普通社債より低いかゼロ。発行会社が破綻すれば元本が戻らない(信用リスク)。繰上償還や行使期間の制限がある

  • 発行企業

    • メリット:利払いを抑えて資金を調達できる。時価より高い転換価額で将来の株式発行を約束できる。転換されれば返済が要らない

    • デメリット・リスク:転換されると株数が増える(希薄化)。利息がゼロでも、株を割安に渡すという実質的なコストがある。転換されなければ満期に額面を返す

出典:日本取引所グループ「CBとは」「リスク」、財務省『ファイナンス』基礎編・発展編、大和証券「転換社債型新株予約権付社債(CB)」よりKabuGraph作成

企業側の狙いは次の「企業が転換社債を発行する理由」で、既存株主から見たデメリットは「既存株主への影響」で詳しく扱います。CBを持つ場合のリスクは「個人投資家は転換社債を買えるのか」の最後にまとめています。

企業が転換社債を発行する理由

企業から見たCBの利点は、主に次の3つです(財務省『ファイナンス』「転換社債入門―発展編―」、各社の適時開示)。

  • 利払いを抑えられる:普通社債は国債以上の金利を払う必要があるが、CBはクーポンをゼロに設定できる。丸井グループは「ゼロ・クーポンで発行されるため、キャッシュベースでの金利コストを最小化した資金調達が可能」と説明している(丸井グループ「2031年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ」2026年8月24日)

  • 時価より高い価格で、将来の株式発行を約束できる:転換価額は発行時の株価より高く設定される(アップ率)。同社は「時価を上回る転換価額の設定により、発行直後の1株当たり利益の希薄化を抑制する効果」を挙げている

  • 転換されれば返済が要らない:株価が上がって転換が進めば、社債が株式に置き換わり、満期に現金を返す必要がなくなる。転換されなければ普通社債と同じく満期に額面を返す

目立つ「CB+自社株買い」

近年の日本企業のCBでは、調達した資金の一部で同時に自社株買いを行う組み合わせが目立ちます(2026年のミズノ・丸井グループ・ニチコンなど)。負債(CB)を増やして自己資本を減らすことで、資本効率を高める狙いがあります。丸井グループは発表文の図で「負債増加と資本減少による資本コスト低減」「資本減少による ROE の向上」「自己株式取得による EPS の増加」を挙げています(丸井グループ 2026年8月24日の発表文)。

もう1つの狙いが、後述するヘッジ売りの吸収です。丸井グループも美津濃(ミズノ)も、自社株買いの目的として、CBの発行に伴う自社の株式需給への「短期的な影響の緩和」を明記しています(美津濃「2031年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ」2026年2月26日)。

JX金属のように、CBで集めた資金を大株主からの自己株式の公開買付けに充てる例もあります(JX金属 自己株式取得及びユーロ円CB発行に関する補足説明資料 2026年5月11日)。

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2026年は発行が急増——統計と主な事例

日本証券業協会の「全国上場会社のエクイティファイナンスの状況」で上場会社の転換社債型新株予約権付社債の調達額を見ると、2026年は1〜8月だけで1兆2,547億円に達しました。2019年以降で最も多かった2024年(9,897億円)を、8か月で上回っています。

上場会社の転換社債(CB)調達額の推移

出典:日本証券業協会「全国上場会社のエクイティファイナンスの状況」よりKabuGraph作成。転換社債型新株予約権付社債券の調達額(国内・海外)。2026年は1〜8月(2026年9月24日公表分)。払込日ベースで集計しているため、下の主な発行例のうち丸井グループ(9月9日払込)・ニチコン(9月18日払込)は含まない

金額の大半は海外での発行で、2026年1〜8月も1兆2,547億円のうち1兆1,800億円が海外でした。財務省『ファイナンス』投資家編によると、日本企業のCBの多くは、ロンドンなど日本国外で円建てで発行される「ユーロ円CB」です(服部孝洋「転換社債(CB)入門―投資家編―」令和7年5月号)。

発行が増えた背景には、発行する企業の側と、買う投資家の側の両方の事情があります。

  • 発行企業の事情(金利上昇):JX金属はCBを選んだ理由として「金利上昇が見込まれる中で、通常の社債発行や借入と比較し、ゼロ・クーポン/オーバー・パー発行により、資金調達コストの最小化を図ることが可能」と説明している(JX金属 補足説明資料)。オーバー・パー発行とは、額面を上回る価格で投資家に買ってもらうこと

  • 投資家の事情(海外マネー):日本経済新聞は2026年7月、1〜6月の発行額が22年ぶりの高水準になったと報じ、株価変動のリスクを抑えながら収益を狙う海外投資家の資金がCBに集まっていると伝えている(日本経済新聞 2026年7月21日)

2026年の主な発行例

2026年に決議された主な案件は次のとおりです。

  • 美津濃(ミズノ)(2026年2月決議):100億円(2031年満期)

    • 主な設計:ゼロクーポン、2段階の転換制限条項、取得条項

    • 資金の使い道:直営店・EC・生産体制への投資、自社株買い約30億円

  • JX金属(2026年5月決議):2,500億円(2029年・2031年満期 各1,250億円)

    • 主な設計:ゼロクーポン、130%コールオプション条項

    • 資金の使い道:自己株式の公開買付け(ENEOSホールディングスが応募予定)

  • 川崎重工業(2026年7月決議):1,000億円(2031年・2033年満期 各500億円)

    • 主な設計:新株の海外募集(約974億円)と同時。転換価額3,913円・3,783円

    • 資金の使い道:液化水素サプライチェーン、フィジカルAIなど

  • 丸井グループ(2026年8月決議):500億円(2031年満期)

    • 主な設計:ゼロクーポン、転換制限条項(150%・130%)、取得条項。転換価額3,231円

    • 資金の使い道:エポスカードなどグループ子会社への貸付等約350億円、自社株買い約150億円

  • ニチコン(2026年9月決議):220億円(2031年満期)

    • 主な設計:ゼロクーポン、転換制限条項(130%)、取得条項

    • 資金の使い道:生産体制強化などの設備投資約170億円、自社株買い約50億円

出典:美津濃(2026年2月26日)、JX金属(2026年5月11日)、川崎重工業(2026年7月14日)、丸井グループ(2026年8月24日)、ニチコン(2026年9月2日)の適時開示よりKabuGraph作成

同じCBでも、転換制限条項や取得条項で株数の増加を抑える「負債寄り」の設計と、新株発行と組み合わせて資本を厚くする設計があり、既存株主への影響は案件ごとに違います。発行額だけでなく、条項と資金の使い道まで見ることが大切です。

既存株主への影響——希薄化と株価の動き

保有株の会社がCBを出すと、既存株主には「潜在的な希薄化」「発表直後の需給」「転換時の株数増加」という3つの影響があります。時系列で整理すると次のとおりです。

出典:財務省『ファイナンス』、企業会計基準第2号、丸井グループ適時開示よりKabuGraph作成

① 潜在的な希薄化——「潜在株式比率」を確認する

CBがすべて転換されると株数が増え、1株あたりの利益や議決権の割合が薄まります(希薄化)。

財務省『ファイナンス』の例では、発行済株式9,000万株の会社が100億円・転換価額1,000円のCBを出すと、転換で1,000万株が増え、転換後の1億株に対して10%の希薄化になります(発行前の9,000万株を分母にすると約11.1%)。同記事は、2010〜2024年の公募CBでは潜在的な希薄化の比率が平均10%程度だったとしています(財務省『ファイナンス』基礎編)。

発行条件を決めた日の適時開示には、この比率が「潜在株式による希薄化情報」として載るのが一般的です。開示される比率は、発行前の発行済株式数(自己株式を除く)を分母にするのが基本です。丸井グループの2026年8月のCBは8.64%(2026年7月31日時点の発行済株式総数(自己株式を除く)に対する比率)でした(丸井グループ 発行条件等の決定に関するお知らせ)。

川崎重工業の2本のCBは合計2.97%で、同時に発行した新株の分を分母に加えて計算されています(川崎重工業 発行条件等の決定に関するお知らせ)。両社の事業や財務への影響は、KabuGraphの企業分析(丸井グループ、川崎重工業)で扱っています。

② 発表直後の株価——ヘッジ売りと自社株買い

CBは発行時に株価が下がる傾向が知られています(財務省『ファイナンス』基礎編)。潜在的な希薄化への警戒に加えて、需給の要因があります。日本企業のCBの典型的な保有者であるヘッジファンドなどの海外投資家は、CBを買った時点で発行会社の株式を空売りしてリスクを相殺(ヘッジ)します。この売りが株価を押し下げます。

そこで、CBの発表翌朝に東証の立会外取引(ToSTNeT-3)で自社株買いを行い、ヘッジの売りを会社自身が受け止める設計が、近年の案件で目立ちます(2026年のミズノ・丸井グループ・ニチコンなど)。丸井グループは2026年8月25日、発表日(8月24日)の終値と同じ2,992円で5,013,300株(約150億円)を買い付けました(丸井グループ ToSTNeT-3による自己株式の取得結果 2026年8月25日)。

ニチコンも2026年9月3日、発表日(9月2日)の終値と同じ2,601円で1,922,300株(約50億円)を買い付けています(ニチコン ToSTNeT-3による自己株式の取得結果 2026年9月3日)。

ToSTNeT-3で自社株買いを行った発表翌営業日の終値を、発表日の終値と比べると次のとおりです。TOPIX連動ETFはNEXT FUNDS TOPIX連動型上場投信(1306)です。

  • 丸井グループ(発表日 2026年8月24日):終値2,992円 → 翌営業日3,022円(+1.0%)。同日のTOPIX連動ETFは+0.5%

  • ニチコン(発表日 2026年9月2日):終値2,601円 → 翌営業日2,497円(−4.0%)。同日のTOPIX連動ETFは+0.6%

出典:東証株価よりKabuGraph作成(各日の終値)

どちらも自社株買いを組み合わせた案件ですが、翌日の反応は分かれました。株価は業績や相場全体の影響も受けるので2例だけで一般化はできませんが、自社株買いを組み合わせても、発表後の下落を防げるとは限らないことは分かります。

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丸
8252小売

丸井グループ

丸井グループは、商業施設「マルイ」「モディ」の運営とフィンテック事業を両輪とする企業グループ。店舗事業は従来の百貨店型から定期借家契約によるテナント賃料収入型へ転換し、安定収益モデルを構築。フィンテック事業では「エポスカード」を軸にクレジッ…

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ニ
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コンデンサとエネルギーソリューション(NECST)の二事業展開。コンデンサはアルミ電解・リチウムイオン二次電池・パワーエレクトロニクス用・xEV用フィルムコンデンサ、変圧器を製造。NECSTは家庭用・産業用蓄電、V2H・充電器、スイッチング…

③ 転換の時点——株数は増えるが、多くは織り込み済み

株価が転換価額を上回ったまま満期が近づくと、CBは株式に転換され、実際に株数が増えます。ただし財務省『ファイナンス』は、ヘッジファンドが株価の上昇に合わせてヘッジを積み増し、転換されるかどうかも事前に市場に織り込まれるため、「実際の転換時点では株価に影響を与えないとされています」と説明しています(同 基礎編)。株価への影響は、転換の日よりも発表時と期中に出やすいということです。

なお、会社は転換の際に新株を発行する代わりに、保有する自己株式を渡すこともできます(企業会計基準適用指針第17号 第19項)。この場合、発行済株式総数は増えませんが、自己株式を除いた株数は増えるので、1株あたり利益が薄まる点は新株の発行と変わりません。

決算書では「潜在株式調整後1株当たり当期純利益」を見る

CBによる希薄化は、決算短信や有価証券報告書の「潜在株式調整後1株当たり当期純利益」で確認できます。日本の会計基準は、希薄化効果のあるCBについて期首(期中に発行したものは発行時)にすべて転換されたと仮定して計算する「転換仮定方式」を採っており、期末の株価で転換の可能性を判断することはしません(企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」第30項・第58項)。通常のEPSと並べて、差が大きいほど潜在的な希薄化が大きいと読めます。

なお、発行会社はCBを会計上、払込金額をすべて社債(負債)として計上する「一括法」か、社債部分(負債)と新株予約権部分(純資産)に分けて計上する「区分法」のどちらかで処理します(企業会計基準適用指針第17号 第18項)。

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MSCB(転換価額修正条項付CB)とは

MSCBは、発行後に株価に合わせて転換価額が見直される(主に引き下げられる)CBです。Moving Strike Convertible Bondの略です。東証は、上場会社が第三者割当で発行するCBなどのうち、転換価額などが「6か月間に1回を超える頻度で」株価を基準に修正されうるものを「MSCB等」と定義しています(日本取引所グループ「MSCB等の発行に関する実務上の留意事項」)。

問題は、株価が下がるほど受け取れる株数が増えることです。財務省『ファイナンス』の例では、発行額100億円・転換価額1,000円なら1,000万株ですが、転換価額が500円に修正されれば2,000万株になります(財務省『ファイナンス』発展編)。

出典:財務省『ファイナンス』、日本取引所グループ「MSCB等の発行に関する実務上の留意事項」よりKabuGraph作成

東証のルール——暦月10%の行使制限と毎月の開示

MSCBへの規制は、次の流れで整えられました(財務省『ファイナンス』発展編、日本取引所グループ「MSCB等の発行に関する実務上の留意事項」)。

  1. 2000年代:株価の下落で転換株数が増え、さらに株価が下がる「スパイラル」がしばしば指摘される。2005年にはライブドアがニッポン放送の買収のために800億円のMSCBを発行したことが大きく報道され、MSCBが広く知られるきっかけになったとされる

  2. 2007年:金融庁の懇談会の要請を受けて日本証券業協会が証券会社向けの規則を定め、東証も6月25日付で上場会社に要請を出す。財務省『ファイナンス』は、このとき原則として1か月に転換できる株数を発行済株式の10%以内にするルールができ、以後MSCBの発行は下火になったとしている

  3. 現在:東証の上場規程で、MSCB等を発行する上場会社に次の2つが義務づけられている

  • 暦月の転換・行使のうち、払込日時点の上場株式数の10%を超える部分は転換・行使できないようにする(公開買付けの期間中など一定の例外あり。有価証券上場規程第434条・同施行規則第436条)

  • 毎月初に前月の転換・行使状況を開示し、月初からの累計が発行総額の10%以上になったときも直ちに開示する

東証の定義では、第三者割当で発行する新株予約権のうち、株価に応じて行使価額が修正されるもの(行使価額修正条項付新株予約権)も「MSCB等」に含まれ、同じルールが適用されます。株価が下がるほど交付株数が増える点は同じなので、成長企業の資金調達でこの種の発表を見たら注意が必要です。

個人投資家は転換社債を買えるのか

結論からいうと、2026年9月時点で東京証券取引所に上場しているCBはなく、株式のように取引所で手軽に売買できる商品ではありません。JPXのCB銘柄一覧には「上場銘柄は現在ありません」と表示されています(日本取引所グループ「銘柄一覧(CB)」)。

理由の1つは、近年のCBの多くが海外で発行されるユーロ円CBで、主な買い手がCBファンドやヘッジファンドなどの外国人投資家だとされていることです(財務省『ファイナンス』投資家編)。

丸井グループのCBも欧州・アジアを中心とする海外市場で募集され、発表文には「同社債については国内における募集又は売出しは行われません」と明記されています。1本あたりの額面も1,000万円です(丸井グループ 2026年8月24日の発表文)。

個人がCBに関わる方法は、主に次の3つです。

  • 証券会社で取り扱いのある銘柄を買う:国内で公募されるCBなら個人が買うこともあるが、近年は減っている(財務省『ファイナンス』投資家編)。たとえば大和証券は店舗・コンタクトセンターでCBを取り扱っており、インターネット取引は対象外としている(大和証券「転換社債型新株予約権付社債(CB)」)。取り扱い銘柄や購入単位は証券会社・銘柄によって異なる

  • CBに投資する投資信託を買う:世界の転換社債などに投資する公募の投資信託があり、個別のCBを買わなくても間接的に投資できる。たとえば「UBS世界CBファンド」は商品分類上「その他資産(転換社債)」とされ、購入単位は販売会社が決める(UBSアセット・マネジメント 請求目論見書)。為替ヘッジの有無や手数料は商品ごとに違うので、目論見書で確かめる

  • CBを発行した会社の株式を持つ:多くの個人投資家にとって最も身近な関わり方。上の「既存株主への影響」を確認しておく

CBを持つ場合の主なリスク

  • 信用リスク:発行会社が破綻すると、利息や額面が返ってこない(日本取引所グループ「リスク」)

  • 価格変動リスク:株価や金利、需給で価格が動く。額面を上回る価格で買えば、転換せずに満期まで持っても償還額との差が損失になる

  • 流動性リスク:転換が進むと残りの発行額が減り、売りにくくなる

  • 繰上償還・行使期間のリスク:繰上償還の条項があれば償還期日前に償還されることがあり、権利を行使できる期間にも制限がある(大和証券「転換社債型新株予約権付社債(CB)」)

まとめ

  • 転換社債(CB)は、決まった価格(転換価額)で株式に換えられる権利付きの社債。法律上は「新株予約権付社債」のうち、社債そのものを出資に充てる「転換社債型」を指す

  • 株価が上がれば株に近い値動き、下がれば債券としての価値が下支え。ただし発行会社が破綻すれば元本は戻らない

  • 企業は利払いを抑えて(多くは利息ゼロで)資金を調達し、時価より高い価格での将来の株式発行を約束できる。2026年は1〜8月で1兆2,547億円と発行が急増

  • 既存株主にとっては潜在株式比率の分だけ希薄化の可能性があり、発表直後はヘッジ売りで株価の重しになりやすい。自社株買いや転換制限条項で影響を抑える設計も目立つ

  • MSCBは株価下落で交付株数が増えるため特に注意。東証は暦月10%の行使制限と毎月の開示を義務づけている

  • 東証に上場しているCBは現在なく、個人にとっては「CBを発行した会社の株主」としての関わりが中心。間接的に投資するならCBに投資する投資信託がある

保有銘柄がCBの発行を発表したら、発行額・潜在株式比率・転換価額・資金の使い道・自社株買いの有無・条項を順に確認し、決算では通常のEPSと潜在株式調整後EPSの差を見ておきましょう。

コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

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