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トラストとは|語源は1882年スタンダード石油の「信託」、カルテルとの違いから独禁法の合併審査まで

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トラスト(trust)とは、経済用語では、同じ業種の複数の企業が市場を支配するために合同し、各社が独立性を失って一つの企業体になる結合形態のことで、「企業合同」と訳されます。英語のtrustはもともと「信頼」「信託」という意味で、19世紀のアメリカでスタンダード・オイル(スタンダード石油)が各社の株式を受託者に信託して独占体をつくったことから、企業合同を指す言葉になりました(日本大百科全書「トラスト」(コトバンク))。

ただし「トラスト」は、文脈によって「信頼」や「信託」(信託銀行など)、自然保護の「ナショナル・トラスト」を指すこともあります。

この記事では、政治・経済や日本史・世界史で習う企業合同としてのトラストを中心に、カルテル・コンツェルンとの違い、アメリカの「反トラスト法」の由来を整理します。そのうえで、いまの日本の独占禁止法で同業どうしの合併がどう審査されているか、M&Aのニュースを読むときに何を確かめればよいかを、条文や公正取引委員会の資料をもとに解説します。

トラストの意味を1分で整理

  • 定義:同じ業種の企業が市場支配のために結びつき、各社が独立性を失って一つの企業体になる形態(企業合同)

  • 語源:1882年のスタンダード・オイル・トラスト(前身の信託協定は1879年)。約40社の株式を9人の受託者に「信託(trust)」した仕組みから

  • つくり方:信託(受託者)方式・持株会社方式・合併方式の3つ

  • カルテルとの違い:カルテルは各社が独立したまま協定で手を組む。トラストは一体化する

  • コンツェルンとの違い:コンツェルンは持株会社などが異なる業種の企業を株式で支配する企業グループ

  • 法律:アメリカの独占禁止法を「反トラスト法」と呼ぶのはトラスト規制から始まったため。日本の独占禁止法は、合併そのものではなく、競争を実質的に制限することとなる合併などを禁止している

  • 投資家との関係:同業どうしの大型M&Aは、トラストに近い「水平型」の企業結合として公正取引委員会の審査を受ける。審査の期間や条件が統合計画を左右する

「トラスト」は文脈で意味が変わる

使われる場面ごとの意味と例は次のとおりです。

  • 経済・歴史:企業合同(この記事の中心)。例:スタンダード・オイル・トラスト、反トラスト法

  • 日常の英語:信頼・信用。例:「トラストミー(私を信じなさい)」

  • 法律・金融:信託(財産を受託者に託し、一定の目的に従って管理・処分してもらう仕組み)。例:信託銀行、三井住友トラストグループ

  • 環境保護:ナショナル・トラスト(寄付や買い取りで自然や歴史的環境を守る運動)。例:1895年設立の英国ナショナル・トラスト

  • IT・セキュリティ:ゼロトラスト(社内ネットワークも暗黙には信頼しない考え方)。例:政府情報システムの設計方針

出典:信託法 第2条(e-Gov法令検索)、日本ナショナル・トラスト協会「トラスト活動とは?」、デジタル庁「ゼロトラストアーキテクチャ適用方針」よりKabuGraph作成

「企業合同」と「信託」という2つの意味は、無関係ではありません。信頼できる相手に財産を託す「信託」の仕組みを使って独占企業がつくられたため、その独占体そのものが「トラスト」と呼ばれるようになったという関係です(米国立公文書館「Sherman Anti-Trust Act」)。

企業合同としてのトラストの3つの特徴

トラストの特徴は、次の3点にまとめられます。

  • 同じ業種の企業どうしの結合——競争相手どうしが横に結びつく「水平的」な結合です

  • 各社は独立性を失う——カルテルとの最大の違いです。各社は一つの意思決定のもとに入ります

  • 目的は市場の支配——価格を統制したり供給量を絞ったりして、独占的な利益を得ることがねらいです

いまの言葉でいえば、トラストに近いのは同業どうしのM&A(水平型企業結合)です。競争関係にある会社どうしの企業結合は、競争相手の数を減らすため競争への影響が最も直接的です。そのため、垂直型(メーカーと販売業者など取引段階の異なる会社どうし)や混合型(異業種どうしなど)の企業結合より、競争を実質的に制限することとなる可能性が高いとされています(公正取引委員会「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」)。

トラストをつくる3つの方法

つくり方は大きく次の3つです。

  • 信託(受託者)方式

    • 仕組み:各社の株主が株式を少数の受託者に預け、受託者が議決権をまとめて行使する

    • 代表例:スタンダード・オイル・トラスト(1882年)

  • 持株会社方式

    • 仕組み:持株会社が各社の株式を持ち、株主として支配する

    • 代表例:ニュージャージーのスタンダード・オイル(1899年〜)

  • 合併方式

    • 仕組み:複数の会社が合併して1社になる

    • 代表例:王子製紙・富士製紙・樺太工業の3社合併(1933年)

出典:Standard Oil Co. of New Jersey v. United States(1911、Cornell LII)、王子ホールディングス「沿革」よりKabuGraph作成

信託方式は1890年のシャーマン法で規制の対象となり、スタンダード・オイル自身も1899年に持株会社方式へ移りました(詳しくは後述)。持株会社が傘下企業の株式を持って束ねる形そのものは、いまの持株会社(ホールディングス)と同じで、それ自体が独占を意味するわけではありません。

また持株会社方式は、次の章で見るコンツェルンとも形が重なります。違いは束ねる相手で、トラストは同じ業種、コンツェルンは異なる業種の企業を傘下に収めます。

カルテル・コンツェルンとの違い

トラストは、カルテル・コンツェルンと並ぶ企業結合(企業集中)の代表的な形態です。3つの違いは「何で結びつくか」と「各社が独立を保つか」です。

出典:日本大百科全書「企業集中」(コトバンク)よりKabuGraph作成

カルテル(企業連合)・トラスト(企業合同)・コンツェルン(企業連携)を観点ごとに比べると、次のとおりです。

  • 結びつき方

    • カルテル:価格・生産量などの協定

    • トラスト:合併・信託・持株会社で一体化

    • コンツェルン:株式の保有による支配

  • 各社の独立性

    • カルテル:保ったまま

    • トラスト:失う

    • コンツェルン:法律上は別会社のまま

  • 業種

    • カルテル:同じ業種

    • トラスト:同じ業種

    • コンツェルン:異なる業種にまたがることが多い

  • 代表例

    • カルテル:段ボールメーカーのカルテル(2014年に排除措置命令)

    • トラスト:スタンダード・オイル

    • コンツェルン:戦前の財閥

  • いまの独占禁止法

    • カルテル:「不当な取引制限」として禁止(2条6項・3条)

    • トラスト:競争を実質的に制限することとなる合併などを禁止(15条など)

    • コンツェルン:競争を実質的に制限することとなる株式保有(10条)と、事業支配力が過度に集中する会社(9条)を禁止

出典:日本大百科全書「企業集中」(コトバンク)、独占禁止法(e-Gov法令検索)、公正取引委員会「独占禁止法の規制内容」「レンゴー株式会社ほか1名に対する審決について」(2021年2月10日)よりKabuGraph作成

比較の最後の項目のとおり、いまの独占禁止法(e-Gov法令検索)は3つを同じようには扱いません。公正取引委員会「独占禁止法の規制内容」によると、カルテルは「本来、各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為」で、不当な取引制限として禁止されています。これに対して合併や株式の保有は、競争を実質的に制限することとなる場合などに限って禁止されます。

代表例に挙げた段ボールのカルテルは、大口需要者向け段ボールケースの製造業者による価格カルテルで、公取委は2014年6月19日に排除措置命令と課徴金納付命令を出しています(公正取引委員会「レンゴー株式会社ほか1名に対する審決について」)。

投資家から見ると、カルテルは発覚すれば排除措置命令や課徴金につながる違法行為で、業績に直接響くリスクです。これに対してトラストに近い同業どうしの統合は、審査を経て認められれば実行できる経営判断で、焦点は審査の期間と条件になります。

覚え方は「協定・合体・株式」

  • カルテル=話し合い(協定)で手を組む。会社はそのまま

  • トラスト=合体して1つの企業体になる。同じ業種で市場を押さえる

  • コンツェルン=株式を持って傘下に収める。業種をまたいだグループになる

株式の保有で傘下企業を束ねる形は、いまも持株会社グループや、親会社と子会社がともに上場する親子上場として身近にあります。コンツェルンの仕組みや財閥の歴史は、次の記事で詳しく解説しています。

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コンツェルンとは、持株会社などが株式保有で異業種の企業を支配する企業グループのこと。カルテル・トラストとの違いを図と表で比べ、三井合名など財閥の仕組み、1947年の持株会社禁止と1997年の解禁、現在の独占禁止法9条の規制まで一次資料で解説します。

語源は「信託」——スタンダード・オイル・トラストの仕組み

トラストが企業合同の意味を持つようになったのは、19世紀のアメリカで、スタンダード・オイルが信託の仕組みを使って石油会社を一つにまとめたためです。

出典:米国立公文書館「Sherman Anti-Trust Act」、Standard Oil Co. of New Jersey v. United States(1911)よりKabuGraph作成

当時のトラストは、複数の会社の株主が株式を一組の受託者(trustees)に移し、その代わりに、共同で経営される会社の利益の一定の割合を受け取れる証書を受け取る仕組みでした。スタンダード・オイル・トラストは、次のように運営されました。

  • 1882年1月2日にスタンダード・オイル・トラストが結成された

  • 株主は、スタンダード・オイル株1株につき20枚の信託証書を受け取った

  • 9人の受託者が構成企業すべての取締役・役員を選び、各社の利益を集めて配当を決めた

出典:米国立公文書館「Sherman Anti-Trust Act」よりKabuGraph作成

連邦最高裁の1911年の判決(Standard Oil Co. of New Jersey v. United States)も、1882年1月の信託契約によって40社の株式が受託者に託され、スタンダード・オイル・トラスト証書が発行されたと認定しています。形のうえでは各社が別会社のまま残りながら、経営の意思決定は9人に集まったため、事実上1つの独占企業として動けたわけです。

なお、判決は1879年に結ばれた前身の信託協定にも触れています。1879年は前身の協定の年で、スタンダード・オイル・トラストの結成は1882年です。

信託方式から持株会社へ、そして解体

スタンダード・オイルの形態は、次のように移り変わりました。

  • 1882年:信託方式のスタンダード・オイル・トラストを結成

  • 1890年:シャーマン法が成立し、「トラストその他の形態による結合」による取引制限が違法に

  • 1892年:オハイオ州最高裁が、スタンダード・オイル・オブ・オハイオのトラスト参加を違法とする判決

  • 1899年:ニュージャージー州のスタンダード・オイルが持株会社として、各社の株式の過半を持つ形に移行

  • 1911年:連邦最高裁が、同社に傘下37社への支配を禁じた下級審の判決をおおむね支持し、解体へ

出典:Standard Oil Co. of New Jersey v. United States(1911、Cornell LII)、米国立公文書館「Sherman Anti-Trust Act」よりKabuGraph作成

こうして「トラスト」は信託という特定の法形式の名前から、独占的な企業合同一般を指す言葉へと広がりました。19世紀末のアメリカでは、石油や砂糖など多くの主要産業でトラストが競争を押さえ込みました(米国立公文書館)。

個々のトラストがなぜトラストに当たるのか、解体・分割のあとどうなったのか、現代アメリカの独占訴訟までをトラストの例でまとめています。

反トラスト法とは——トラスト規制から始まったアメリカの独占禁止法

アメリカで独占禁止法を「反トラスト法(antitrust law)」と呼ぶのは、19世紀末のトラストを規制するところから始まったためです。1890年のシャーマン法は、連邦議会がトラストを禁止するために初めて成立させた法律でした(米国立公文書館「Sherman Anti-Trust Act」)。

反トラスト法は単一の法律ではなく、いくつかの法律の総称です。中心となる3つの法律は次のとおりです。

  • シャーマン法(1890年制定)

    • 1条:「トラストその他の形態による結合」などによる取引制限を違法とする

    • 2条:独占化(monopolize)とその企てを禁止

  • クレイトン法(1914年制定)

    • 7条:競争を実質的に減殺し、または独占を形成するおそれのある株式・資産の取得(合併・買収)を禁止

    • 1976年のハート・スコット・ロディノ法による改正で、大型の合併・買収は事前に政府へ届け出る必要がある

  • 連邦取引委員会法(1914年制定)

    • 不公正な競争方法や、不公正・欺瞞的な行為・慣行を禁止

出典:15 U.S.C. §1・§2・§18(Cornell LII)、公正取引委員会「米国」、米連邦取引委員会(FTC)「The Antitrust Laws」よりKabuGraph作成

シャーマン法1条(15 U.S.C. §1)の条文には、いまも「combination in the form of trust or otherwise(トラストその他の形態による結合)」という言葉が残っています。独占化を禁じる2条は15 U.S.C. §2、合併・買収を規制するクレイトン法7条は15 U.S.C. §18です。執行するのは司法省反トラスト局と連邦取引委員会(FTC)です(公正取引委員会「米国」)。

トラストと反トラスト法の主な出来事

主な出来事を年順に並べると、次のとおりです。

  • 1882年:スタンダード・オイル・トラスト結成

  • 1890年:シャーマン法成立(7月2日にハリソン大統領が署名)

  • 1895年:E.C.ナイト社事件。精糖の約98%を握るアメリカン・シュガー・リファイニングについて、最高裁は「製造の支配は取引の支配ではない」として違反を認めなかった

  • 1904年:ノーザン・セキュリティーズ事件。最高裁が、鉄道会社の持株会社ノーザン・セキュリティーズの解散を求める政府の訴えを支持

  • 1911年:連邦最高裁が、スタンダード・オイル(1906年提訴)とアメリカン・タバコ(1907年提訴)の解体を命じる判決

  • 1914年:クレイトン法・連邦取引委員会法が成立

  • 1990年代後半:連邦政府がマイクロソフトにシャーマン法を適用

出典:米国立公文書館「Sherman Anti-Trust Act」、公正取引委員会「米国」、Standard Oil Co. of New Jersey v. United States・United States v. American Tobacco Co.(1911、Cornell LII)よりKabuGraph作成

出来事は米国立公文書館「Sherman Anti-Trust Act」の解説によります。シャーマン法は「トラスト」「結合」「独占」といった重要な言葉を定義しておらず、成立直後のE.C.ナイト社事件では骨抜きになりかけましたが、20世紀初めのセオドア・ルーズベルト大統領の「トラスト退治」以降、実際に巨大トラストの解散に使われるようになりました(同)。2つの1911年判決の提訴年は、判決文(スタンダード・オイル事件・アメリカン・タバコ事件)によります。

日本のトラストと独占禁止法

戦前の日本のトラスト

戦前の日本には独占禁止法がありませんでしたが、トラストはあまり多くは生まれませんでした。異業種にまたがる財閥(コンツェルン)が先に形成され、その資本系列に阻まれて、同業の大合同にまで至らなかったためと説明されています。代表的なのは次の合同です。

  • 1906年 大日本麦酒——札幌麦酒・日本麦酒・大阪麦酒の3社合同

  • 1907年 帝国製麻——近江製麻などの製麻会社を合併した製麻トラスト

  • 1933年 王子製紙——富士製紙・樺太工業との3社合併

  • 1934年 日本製鐵——官営八幡製鉄所と民間の製鉄会社の合同

出典:コトバンク「トラスト」、王子ホールディングス「沿革」、サッポロビール「ヒストリー」よりKabuGraph作成

1947年の独占禁止法と、いまの規制

戦後の1947年(昭和22年)、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律、昭和22年法律第54号)が制定されました。この法律には「トラスト」という言葉は出てきません。トラストに当たる行為は、主に次の規定で扱われます。

  • 私的独占(2条5項・3条):他の事業者の事業活動を排除・支配して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること

  • 企業結合規制(10条・15条・15条の2・15条の3・16条):株式の保有、合併、会社分割、共同株式移転、事業の譲受けなどによって、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合

  • 独占的状態(2条7項・8条の4):市場規模1,000億円超の分野で1社のシェアが2分の1超(2社で4分の3超)、参入が難しく価格が下がりにくいなどの弊害がある場合、事業の一部譲渡などを命じられる

  • 脱法行為(17条):名目を問わず、上の企業結合の禁止・制限を免れる行為

出典:独占禁止法(e-Gov法令検索、2026年5月21日施行版)、公正取引委員会「独占禁止法の規制内容」よりKabuGraph作成

戦前のトラストを分割したのは「過度経済力集中排除法」

戦前のトラストを実際に分割したのは、独占禁止法ではなく、1947年12月18日に公布・施行された過度経済力集中排除法(集排法)です。

持株会社整理委員会は1948年2月に325社を指定しましたが、その後指定の取り消しが相次ぎ、最終的に分割再編成を指令されたのは18社、実際に分割されたのは11社でした(国立公文書館「過度経済力集中排除法が公布される」)。戦前のトラストの代表例だった王子製紙・大日本麦酒・日本製鐵も、次のように分割されました。

分割された各社がいまの上場企業にどうつながっているかは、トラストの例で紹介しています。

なお、財閥のようなコンツェルンを防ぐための持株会社の規制は、トラストとは別の論点です。持株会社がどのように禁止され、1997年に解禁されたかは次の記事で解説しています。

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コンツェルンは今の日本では禁止されていません。GHQの財閥解体を受けて1947年の独占禁止法9条が持株会社を禁じた理由、1997年の解禁、今も残る9条の規制と報告義務、M&Aで焦点になる企業結合審査との違いを、条文と公取委の資料で解説します。

いまの合併審査——同業の大型統合はどう扱われるか

同じ業種どうしの大型統合は、いわば「トラストに近い」結合です。こうした統合については、公正取引委員会(公取委)が企業結合審査で「競争を実質的に制限することとならないか」を確かめます。

出典:公正取引委員会「令和7年度における企業結合関係届出等の状況」「合併の届出制度」、独占禁止法よりKabuGraph作成

届出の基準と審査の期間

  • 合併——当事会社のうち1社の国内売上高合計額が200億円超、かつ他の1社が50億円超なら、事前の届出が必要(公正取引委員会「合併の届出制度」)

  • 株式取得——同様の届出基準がある(公正取引委員会「株式取得の届出制度」)

  • 審査の期間——届出受理から30日間は合併などを実行できない(短縮されることもある)。追加の報告を求められると、届出受理から120日と、すべての報告を受理してから90日のいずれか遅い日までが審査期間になる(第2次審査)

審査の考え方は「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(最終改定は2019年12月17日)にまとめられています。2026年7月17日には、供給の安定性の改善・維持、環境性能の向上、投資拡大・イノベーション促進による新商品の創出などを競争促進効果として考慮すると明記する改定案が意見募集にかけられました(8月31日締切)。

令和7年度の実績:ほとんどの合併は問題なしで終わる

公正取引委員会「令和7年度における企業結合関係届出等の状況」(2026年6月24日公表)によると、令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の実績は上の図のとおりです。

  • 届出458件のうち、第1次審査で問題なしとして終了449件、取下げ8件、第2次審査への移行1件

  • 当事会社が申し出た措置を前提に問題なしとしたもの5件(令和7年度に審査を終えた案件の数で、届出458件の内訳ではない)

  • 排除措置命令0件(令和5〜7年度の3年間を通じて0件)

数字が示すとおり、届出のあった企業結合の大半は第1次審査で問題なしとなり、問題がある場合も「店舗や事業の一部を手放す」といった条件付きで認められるのが現在の運用です。

例:イオンとツルハHDの経営統合

ドラッグストアの統合では、公取委が店舗の競合する1,330商圏を調べ、このうち10商圏で競争を実質的に制限することとなると判断しました。そこで各商圏で当事会社の店舗を1店舗ずつ第三者に譲渡し、監視受託者(モニタリングトラスティ)に履行を監視させる措置を前提に、2025年4月30日に排除措置命令を行わない旨を通知しています(公正取引委員会の審査結果、令和7年度における主要な企業結合事例(概要))。

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よくある疑問

トラストとカルテルは、どちらが結びつきが強い?

トラストです。カルテルは各社が独立したまま協定を結ぶだけですが、トラストは各社が独立性を失って1つの企業体になります。

トラストは今も禁止されている?

合併そのものは禁止されていません。日本の独占禁止法が禁止しているのは、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる合併などです。届出のあった合併などの大半は、第1次審査で問題なしとされています(公正取引委員会「令和7年度における企業結合関係届出等の状況」)。

M&A(合併・買収)はトラスト?

同業どうしの合併・買収は形のうえではトラストと重なりますが、M&Aはもっと広い言葉です。M&Aには異業種の企業の買収も含まれ、目的も市場の支配に限りません。

  • トラスト——同じ業種の企業が、市場の支配を目的に一体化する結合

  • 同業どうしのM&A——結びつき方はトラストと同じ水平的な結合(水平型企業結合)。いまの日本では、競争を実質的に制限することとなる場合に限って禁止され、それ以外は認められる

  • 異業種のM&A——トラストではなく、関連の薄い事業を取り込むコングロマリットに近い形(混合型企業結合)。一定の場合を除き、通常は競争を実質的に制限することとなるとは考えられない

出典:独占禁止法 第10条・第15条(e-Gov法令検索)、公正取引委員会「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」よりKabuGraph作成

社名の「トラスト」は企業合同の意味?

多くは「信託」や「信頼」の意味です。たとえば三井住友トラストグループは、中央三井トラスト・ホールディングスと住友信託銀行の経営統合で生まれ、傘下に三井住友信託銀行を持つ信託銀行グループです。2024年10月に三井住友トラスト・ホールディングスから商号を変更しました(三井住友トラストグループ「沿革」)。この「トラスト」は信託(trust)を指し、企業合同とは関係ありません。

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三井住友トラストグループ

三井住友トラストグループは、三井住友信託銀行を中核に、信託業務、資産運用、資産管理、不動産業務など多角的な金融サービスを提供する持株会社グループです。個人・法人向け資産管理、年金信託、遺産信託などの多様な信託機能を展開し、高度な金融ニーズに…

反トラスト法と独占禁止法は違う法律?

国が違うだけで、同じ目的の法律です。アメリカではシャーマン法・クレイトン法・連邦取引委員会法などをまとめて反トラスト法と呼びます(公正取引委員会「米国」)。日本の独占禁止法の目的は、公正かつ自由な競争を促進し、一般消費者の利益を確保することです(独占禁止法 第1条)。

トラストとコンツェルン、どちらが「上」の形態?

比べる基準によって答えが変わります。多くの産業にまたがる支配力の大きさに着目すると、コンツェルンの方が上で、「独占の最高形態」とも呼ばれます(百科事典マイペディア「コンツェルン」)。

一方、会社が法人として一つにまとまるかどうかで比べると、1つの企業体になるトラストの方が結びつきは強く、コンツェルンの傘下企業は別の法人として残ります。詳しくはコンツェルンとはで解説しています。

まとめ——トラストは「同業・一体化・市場支配」

  • トラスト=同じ業種の企業が独立性を失って一体化する企業合同。目的は市場の支配

  • 語源は「信託」。1882年のスタンダード・オイル・トラストで、約40社の株式が9人の受託者に託された

  • カルテルは協定、コンツェルンは株式保有による支配。トラストは一つの企業体にまとまる

  • アメリカの独占禁止法が「反トラスト法」と呼ばれるのは、トラスト規制から始まったため(1890年シャーマン法)

  • 日本の独占禁止法は、競争を実質的に制限することとなる合併などを禁止。令和7年度は届出458件のうち449件が第1次審査で問題なし

  • 同業どうしの統合のニュースでは、審査の期間と問題解消措置を確認する。統合の時期や統合効果の前提が変わることがある

スタンダード・オイルや日本製鐵・王子製紙などの代表例と、解体・分割を経ていまの上場企業にどうつながっているかは、次の記事で紹介しています。

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コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

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