KabuGraph

Synspective(290A)の企業分析|防衛省961億円契約と小型SAR衛星StriX、補助金で最終黒字へ

Cover Photo

Synspective(290A)は、小型SAR(合成開口レーダー)衛星「StriX」の開発・製造・運用と衛星データ解析ソリューションを一貫して手がける宇宙ベンチャーです。

2026年2月に防衛省「衛星コンステレーション整備・運営等事業」で約961億円の大型契約を締結し、受注残高は2025年12月末の249.6億円から2026年6月末には1,217億円に急拡大。2026年12月期は会社予想で売上高63.5億円・純利益26.2億円と上場後初の最終黒字を見込んでいます(黒字の源泉は営業外の補助金収入で、営業損益は赤字の見込み)。

この記事では、SynspectiveのSAR衛星技術の仕組み、防衛省契約の構造、業績推移、投資判断のポイントを個人投資家の視点から解説します。

会社概要 — ImPACTから生まれた国産SAR衛星ベンチャー

Synspective(シンスペクティブ)は、政府の革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」の研究成果を応用し、2018年2月に新井元行氏(現CEO)と、当時ImPACTのプログラムマネージャーだった白坂成功氏が共同で創業しました。JAXA・東京大学・東京科学大学(旧東京工業大学)・慶應義塾大学との連携で培った小型SAR衛星技術を事業化した、大学発ベンチャーの系譜に連なる企業です。

項目

内容

会社名

株式会社Synspective

証券コード

290A(東証グロース)

設立

2018年2月

代表者

新井 元行(Founder & CEO)

本社所在地

東京都江東区三好3-10-3(2026年11月1日に中央区晴海へ移転予定)

衛星製造拠点

ヤマトテクノロジーセンター(神奈川県大和市)

資本金

171億43百万円(2026年6月末時点)

上場日

2024年12月(東証グロース)

決算期

12月

事業内容

小型SAR衛星の開発・製造・運用、衛星データ解析ソリューション

出典:Synspective公式サイト・有価証券報告書よりKabuGraph作成(2026年9月時点)

創業からの沿革を振り返ると、2020年12月に初号機「StriX-α」を打上げ、2024年6月のシリーズC(70億円調達、累計281.9億円)を経て、2024年12月に東証グロース市場へ上場しました。海外にはシンガポール・米国・ドイツ(2026年7月設立)に子会社を持ち、グローバル展開を進めています。

Synspective公式サイト — 小型SAR衛星StriXと「変化する世界をSARデータを軸に未来を見通す意思決定を」のミッション
出典:Synspective公式サイト

事業を理解する — SAR衛星×データ解析の垂直統合モデル

Synspectiveの事業は「衛星データ事業」の単一セグメントですが、その中身は大きく3つのレイヤーに分かれます。

小型SAR衛星「StriX」— 大型衛星の1/10の重量で同等性能

SAR(合成開口レーダー)衛星は、自ら電波を照射して地上からの反射波を捉えるため、天候(雲)や昼夜に関係なく地表データを取得できます。光学衛星(写真を撮るタイプ)が曇天や夜間に撮影できないのに対し、これがSAR衛星の最大の強みです。

SynspectiveのStriXは重量約100kg級で、JAXAの大型SAR衛星「だいち4号(ALOS-4)」(約3トン、総事業費320億円)と比べて重量は約1/10、製造・打上げコストは約1/20です。展開時に5mになる折り畳み式アンテナ(展開型スロットアレーアンテナ)と1kW級高出力アンプにより、小型ながら大型衛星に匹敵する撮像性能を実現しています。

2026年8月14日時点で累計10機を打上げ、うち7機が運用中でした。9月には11号機(2日)・12号機(19日)・13号機(26日)を相次いで打ち上げ、いずれも軌道投入とアンテナの展開に成功しています。ヤマトテクノロジーセンターでは20号機までの製造が進行中で、36号機分の部品を発注済み。生産能力は現在年間12機で、将来的には最大年間30機への拡張を計画しています。

コンステレーション — 30機以上で地球全域をリアルタイム監視

コンステレーションとは、複数の衛星を軌道上に配置して連携運用する仕組みです。衛星1機では同じ地点の上空を通過するまで数日〜数週間かかりますが、30機以上を配備すれば数時間おきの観測が可能になります。Synspectiveは2028年以降に30機超のコンステレーション構築を目指しており、これにより災害時のほぼリアルタイムの状況把握や、インフラの高頻度モニタリングが実現します。

打上げ機会は2026年6月末時点でRocket Lab 17機・SpaceX 7機の計24機分を確保済み(2026年12月期第2四半期決算説明資料より)です。9月には三菱重工業とも、H3ロケットで2機を打ち上げる契約を結びました(2027年、種子島宇宙センターから)。2026年は計画どおり6機(8〜13号機)を9月までに打ち上げ、2027年は12機の打上げを計画しています。

データ解析ソリューション — 6つの実用プロダクト

StriXで取得したSARデータを、データサイエンスと機械学習で解析し、クラウドベースのソリューションとして提供しています。自社衛星データだけでなく、他社衛星・地図・IoT・スマートフォン等のデータも組み合わせて解析します。

Synspectiveのソリューションラインアップ — LDM(地盤変動監視)、FDA(洪水被害評価)など6つのプロダクト
出典:Synspective公式サイト
  • LDM(Land Displacement Monitoring) — InSAR解析技術で広域の地盤変動をmm単位で検出。道路・トンネル・橋などのインフラ監視に活用

  • FDA(Flood Damage Assessment) — 洪水被害の浸水域・浸水深・道路や建物への被害を全天候で迅速に評価

  • DDA(Disaster Damage Assessment) — 地震・津波・土砂崩れなど災害全般の被害評価

  • OWW(Offshore Wind and Wave) — 洋上風力発電向けの風況・波浪モニタリング

  • FIM(Forest Inventory Management) — 森林資源の管理・炭素蓄積量の推定

  • ODC(Object Detection and Classification) — 船舶・車両・建造物などの検出・分類

Synspective SAR Data Gallery — StriXが撮影した地表のSAR画像。河川・農地・市街地の構造が鮮明に映し出されている
出典:Synspective Data Gallery

防衛省「衛星コンステレーション整備・運営等事業」

2026年2月、Synspectiveは防衛省の「衛星コンステレーション整備・運営等事業」の契約を締結しました。事業の全体像は以下のとおりです。

  • 事業総額:2,831億円(税込)、期間は5年間(2026年2月〜2031年3月)

  • 体制:三菱電機・スカパーJSAT・三井物産が設立した特別目的会社「TriSat Constellation」が幹事で計7社が参画。画像データ取得業務は衛星タイプ別に分担され、SAR衛星をSynspective(約961億円)とQPS研究所(QPSホールディングス〔464A〕の子会社、約697億円)の2社が、光学衛星をアクセルスペース(約436億円)が担当(各社の金額はいずれも税抜)。安全保障の冗長性確保のため、SAR衛星は1社独占ではなく2社体制が採られました

  • Synspectiveの契約金額:約961億円(税抜、税込では1,056億円、約5年間)で、SAR衛星2社のうち大きい方。2026年4月にサービス納入を始めており、会社は売上が運用機数に連動して増えていくと説明しています

この契約により、2026年6月末の受注残高のうち951.7億円が防衛省関連で占められています(2026年12月期第2四半期決算説明資料より)。

業績推移と財務分析

Synspectiveの決算期は12月で、上場は2024年12月です。収益構造は売上高(衛星データ販売・ソリューション提供・防衛省との事業契約等)と、宇宙戦略基金等の補助金収入(営業外収益に計上)に大別されます。

通期業績推移

通期業績推移(売上高・営業利益・純利益)

出典:決算短信よりKabuGraph作成。2026/12は会社予想(2026年8月14日時点)

2024年12月期・2025年12月期ともに営業赤字ですが、2025年12月期の純損失は3.7億円と前期の35.9億円から大幅に縮小しました。効いたのは営業外の補助金収入37.6億円(経産省SBIR・宇宙戦略基金)と、繰延税金資産の計上(将来の税負担の軽減分を利益に計上するもの、約7億円)です。2026年12月期の会社予想では、売上高63.5億円(前期比+167%)、純利益26.2億円の大幅黒字転換を見込んでいます。黒字の源泉は約97億円を見込む補助金収入です。

四半期業績推移(2026年12月期)

2026年12月期 四半期累計推移(売上高・営業利益)

出典:決算短信よりKabuGraph作成。通期予想は会社予想(2026年8月14日時点)

上期(1〜6月)累計の売上高は16.9億円(前年同期比+27.4%)ですが、補助金収入22.3億円を含む総収入は39.2億円(同+186.5%)です。会社定義のEBITDAは8.7億円の黒字ですが、これは経常利益に支払利息・減価償却費・株式報酬費用を足したもので、営業外の補助金収入を含みます。補助金を除けば大幅なマイナスで、本業の稼ぐ力が改善したことを示す数字ではありません。

受注残高の推移

受注残高の推移

出典:Synspective 決算短信・決算説明資料よりKabuGraph作成。受注残高は将来の売上高と補助金収入(支援上限額ベース)の見込み額の合計。2024/12末は2025/12末の残高と前期末比の増加額(196.0億円)から算出

2026年6月末の受注残高1,217.1億円のうち、防衛省コンステレーション事業が951.7億円(78%)を占めます。宇宙戦略基金の第一期(191.2億円)・第二期(37.6億円)を加えると1,180.5億円で、受注残高の97%が政府関連です。

  • 2025年12月末:249.6億円。防衛省の事業は落札済みでも契約前だったため含めていません

  • 2026年3月末:1,243.9億円。2月の防衛省契約で一気に積み上がりました

  • 2026年6月末:1,217.1億円。売上や補助金として計上したぶんが残高から減るため、新しい大型契約がなければ少しずつ減っていきます

なお、宇宙戦略基金の第一期は交付決定前の分(2027年4月以降)も支援上限額で受注残高に入っています。この分は2026年度中の中間審査(ステージゲート)の結果で変わる可能性があります。

売上構成 — 官公庁への高い依存度

売上高の内訳推移

出典:決算説明資料よりKabuGraph作成

売上高の約9割を官公庁(防衛省・内閣府等)が占めており、民間向けの商用売上は限定的です。2025年12月期のデータ販売14.7億円(前期比+58%)の増加は主に防衛省とのデータ販売契約によるもので、ソリューション(民間向けが中心)は5.0億円で横ばいにとどまっています。防衛省の大型契約が売上の大半を占める現状では、民間向け商用市場の開拓が中長期の課題です。会社は米国子会社を通じた海外民間需要の獲得を進めており、政府依存脱却の成否が中長期の評価を左右します。

財務状態

2026年6月末時点の現預金は162億円(前年12月末比△83億円)で、投資活動(衛星製造)に105.9億円を充てています。固定資産のうち運用・製造中衛星の簿価は289.8億円(前年末比+86.2億円)に達しており、衛星コンステレーションの構築が着実に進んでいることがバランスシートからも読み取れます。

上期の決算短信には、営業損失が続いていることから「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象又は状況」が記載されています。ただし会社は、現預金と防衛省の業務委託契約、補助金収入から少なくとも1年間の資金繰りに懸念はなく、重要な不確実性はないと判断しています。

2026年9月17日には、総額200億円のシンジケートローン(複数の銀行による協調融資)の契約を発表しました。概要は次のとおりです。

  • みずほ銀行がアレンジャーで、メガバンク・地方銀行など13の金融機関が参加。借入は9月30日の予定、期間5年3か月、無担保で、使途は衛星の製造・打上げ費用

  • 借入関連費用7.01億円を9月30日に営業外費用として計上する見込み。金利上昇による利息の増加と合わせ、費用は業績予想の想定を約1.9億円上回る見通し(9月末時点で業績予想は据え置き)

  • 純資産をプラスに保つことなどの財務制限条項(守れないと期限前の返済を求められうる条件)が付いている

出典:Synspective 2026年9月17日「財務上の特約が付されたシンジケートローン契約締結および営業外費用の計上に関するお知らせ」よりKabuGraph作成

投資家が注目すべきポイント

衛星10機体制が黒字化の分水嶺

会社側は運用衛星10機前後で収益化が見えてくるとの見解を示しています。2026年8月14日時点の運用機数は7機で、9月に11〜13号機の3機を打ち上げました。運用中の7機に単純に足すと10機となり、会社が2026年末に見込む運用機数(10機)に届く計算です(会社は9月末時点の運用機数をまだ公表していません)。新しい機体は数か月の機能検証を経てから本格的に使われます。防衛省事業の売上は運用機数に連動して増える見通しで、10機体制が稼働すれば収益計上が本格化します。

一方で、運用中の衛星には想定より早く寿命を迎える機体も出ています。打上げのリスク管理も変わりました。

  • 4号機・5号機の耐用年数短縮:4号機は発電部材の劣化で2027年1月まで、5号機は軌道高度を保てない可能性から2027年3月までに短縮。減価償却が前倒しになり、2026年12月期は4号機で8.2億円の費用増、5号機で6.0億円の償却費を見込みます(業績予想は据え置き)。2026年後半以降に打ち上げる機体は代替部材に替えるとしています

  • 打上げ保険の変更(2026年9月):13号機を含む9機をまとめて保険料率の低い「エクセス免責型」に切り替え。9機のうち1回目の打上げ失敗は保険が出ず、製造・打上げコストを自社で負います(2回目以降の失敗は補償)

出典:Synspective 2026年12月期第2四半期決算説明資料、2026年9月17日「打上げ保険契約の変更に関するお知らせ」よりKabuGraph作成

「国策」としての宇宙安全保障

防衛省の衛星コンステレーション事業は総額2,831億円・5年間の大型プロジェクトです。日本政府は「宇宙安全保障構想」のもと、衛星コンステレーションによる監視能力の強化を進めており、Synspectiveはその中核的な技術提供者の一つです。政策的な追い風は中長期で続くと見られますが、同時に政府予算への依存度が高いことはリスクでもあります。

競合との比較

小型SAR衛星市場での主な競合は以下のとおりです。

企業

国

衛星数

特徴

Synspective

日本

10機

X-band SAR、防衛省大型契約

ICEYE

フィンランド

76機

商用SAR最大手、保険・災害分野

Capella Space

米国

10機前後

高分解能(0.5m)、米国防総省向け、2025年にIonQが買収

QPSホールディングス(464A)

日本

11機

九州大学発、展開アンテナ技術

出典:各社の決算説明資料・プレスリリースよりKabuGraph作成(2026年9月末時点)。Synspective・QPSは軌道上の機数で、8〜9月に打ち上げて機能検証中の機体を含む。ICEYEは累計の打上げ数(2026年7月時点)

グローバルではICEYEが累計70機超を打ち上げて先行しています。一方、防衛省の衛星コンステレーション事業では、SAR衛星をSynspectiveとQPS研究所の国内2社が分担しています。軌道上の機数ではQPSがやや多く、国内でも2社が機数を競い合う構図です。

バリュエーションの考え方

2026年9月30日終値(1,402円)で時価総額は約1,884億円、PBRは4.9倍です。前期は赤字のため実績PERは算出できず、配当もありません。一方で、受注残高1,217億円は時価総額の約65%に相当し、防衛省分を中心に2031年3月までかけて計上される将来の収入をどう評価するかが投資判断の核心です。

会社予想の2026年12月期純利益26.2億円が実現すれば、予想ベースのPERは約71倍です。ただし、黒字の主因は営業外の補助金収入(約97億円の見込み)であり、本業の営業利益は依然として赤字です。「営業黒字化はいつか」が株価のカタリストになると考えられます。

まとめ

Synspective(290A)は、小型SAR衛星の開発から衛星データの解析・提供まで一気通貫で手がける、日本を代表する宇宙ベンチャーです。

投資判断のポイントを整理します。

  • 防衛省961億円の大型契約と受注残高1,217億円が、今後5年間の収益基盤を形成

  • 2026年12月期に初の最終黒字を会社予想。ただし営業利益は赤字で、黒字の主因は営業外の補助金収入

  • 衛星10機体制の確立が目先のマイルストーン。9月の3機を運用中の7機に足すと10機に届く計算で、機能検証を終えて稼働させられるかが、データ供給能力と収益性の両面で転換点となる

  • リスクは衛星打上げ・運用リスク(4・5号機の耐用年数短縮、打上げ保険の自己負担部分)、政府依存度の高さ、200億円の借入に付いた財務制限条項、高PBR・無配当のバリュエーション

宇宙安全保障が国策として推進される中、Synspectiveは国内SAR衛星市場の中核プレイヤーとしての地位を固めつつあります。足元の赤字体質を脱却し、コンステレーションの規模拡大とともに民間市場を開拓できるかが、中長期の投資評価を左右する鍵となるでしょう。

コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

関連記事