MRT(6034)の企業分析|東大病院発の医師ネットワーク「Gaikin」とオンライン診療「Door.」

MRT(6034)は、東京大学医学部附属病院の医師互助組織を母体に2000年に創業した医療人材プラットフォーム企業です。非常勤医師紹介「Gaikin」で累計紹介実績200万件超(日本一)を誇り、常勤医師紹介「career」、オンライン診療「Door.」など医療DXサービスを幅広く展開しています。
2022年12月期にはコロナ関連BPO(ワクチン接種会場運営等)の特需で売上87.4億円・営業利益29.8億円と急成長しましたが、特需の剥落により2024/12期は営業赤字に転落。2025/12期に黒字復帰を果たし、2026/12期Q2累計では営業利益171百万円と通期予想の88%に到達する回復基調にあります。
この記事では、MRTの東大病院由来の医師ネットワークの強み、BPO特需の実態と反動減の構造、本業の回復状況、PBR 0.75倍の投資判断ポイントを個人投資家の視点から解説します。
この記事の内容(目次)
会社概要 -- 東大病院の医師互助組織から生まれた医療プラットフォーム
MRT株式会社は、「医療を想い、社会に貢献する。」を企業理念に掲げる医療情報プラットフォーム企業です。2000年1月に東京大学医学部附属病院の医師の互助組織を母体として発足し、医師同士が代診医を紹介し合う仕組みにインターネット技術を組み合わせて事業化しました。
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | MRT株式会社 |
証券コード | 6034(東証グロース) |
設立 | 2000年1月26日 |
上場 | 2014年12月(東証マザーズ) |
代表取締役社長 | 小川 智也(医師) |
本社 | 東京都渋谷区神南 |
従業員数 | 237名(2024年12月時点) |
決算期 | 12月期 |
セクター | サービス業 |
主要株主 | 冨田家(合計約47%)、伊藤忠商事(約5%) |
医師の互助組織からプラットフォーム企業へ
MRTの成長は、医療業界の構造的課題と密接に結びついています。日本では非常勤医師が医師全体の約18%を占め、急患対応や地域偏在による医師不足から、非常勤医師への需要は恒常的に高い状態にあります。
2000年 -- 東大病院の医師互助組織を母体にスタート。医師同士の代診紹介をインターネットでシステム化
2014年 -- 東証マザーズに上場。医師紹介実績の積み上げで事業基盤を確立
2019年 -- 決算期を3月から12月に変更。オンライン診療「Door.」を本格展開
2021-2022年 -- コロナ関連BPO(ワクチン接種会場運営)で売上が急拡大し、過去最高益を達成
2023-2024年 -- BPO特需の終了で売上半減、2024/12期は営業赤字に転落
2025年- -- 黒字復帰。ASEAN展開としてMRT Vietnam設立、医療DXプラットフォーム「MRT HUB」を稼働
事業は「医療情報プラットフォーム事業」の単一セグメントですが、売上は「医療人材サービス」と「その他」に区分されています。2025年12月期の構成は、医療人材サービスが30.6億円(73%)、その他が11.3億円(27%)です。「その他」にはBPO、オンライン診療、医薬品プロモーション支援などが含まれます。
売上構成比(2025年12月期)
事業を理解する -- 医師紹介「Gaikin」からオンライン診療「Door.」まで
MRTの事業は、医師を中心とした医療人材ネットワークを基盤に、紹介・マッチング・オンライン診療・BPOと多角的に展開しています。主要サービスを順に見ていきます。

Gaikin -- 累計200万件超の非常勤医師紹介
MRTの主力サービスである「Gaikin」は、非常勤医師のマッチングプラットフォームです。大学病院の医師が外部の医療機関で勤務すること(外勤)に由来するサービス名で、MRTの創業事業にあたります。
医療機関が求人情報を掲載し、登録医師がサイトやアプリ「MRT WORK」から応募するマッチング型モデルです。累計紹介実績は200万件を超え、日本一(東京商工リサーチ調べ)を誇ります。料金は医療機関側のみから紹介手数料を受領し、医師側は無料です。
Gaikinの競争力の源泉は、25年以上にわたり蓄積された医師ネットワークにあります。医師免許証の提出を義務付け、過去の勤務先・診療科まで確認するなど、登録データを厳格に管理しています。大学医局の人事慣行や専門性の違いを理解した上でのマッチングは、新規参入者が短期間で再現することが難しい参入障壁です。
特徴 | 内容 |
|---|---|
紹介形態 | レギュラー(定期勤務)とスポット(単発勤務) |
累計実績 | 200万件超(日本一、TSR調べ) |
アプリ | MRT WORK(iOS/Android対応、2022年4月提供開始) |
料金体系 | 医療機関から手数料。医師は無料 |
インセンティブ | MRTポイント制度(現金交換・寄付に利用可) |
career -- 常勤医師の転職支援
「career」は常勤医師の転職を支援するサービスです。専任スタッフが医師と直接面談し、勤務条件の希望を聴取した上で医療機関とのマッチングを行います。Gaikinで蓄積した既存の医師会員をベースに紹介するため、候補者の質を担保しやすい構造です。料金は成功報酬型で医療機関から受領します。
Door. / Door.into -- オンライン診療・健康相談プラットフォーム
「Door.」は医師のネットワークにつながる「扉(Door)」と「Dr.(医師)」をかけたプラットフォームアプリです。医師はDoor.を通じて各種サービスにアクセスでき、MRTグループのネットワーク基盤として機能しています。

「Door.into健康医療相談」は、Door.を活用したオンライン健康相談・オンライン診療サービスです。「相談キー」を使って医師からアドバイスを受けられる健康相談と、「診察キー」を使った保険適用のオンライン再診を提供しています。2023年12月には小児科専門医による「オンラインこども診療」もリリースしました。
医療機関側の導入ハードルは低く、初期費用・月額費用ともに無料、1件あたり300円の従量課金(+決済手数料4%)という料金体系です。最短3営業日で導入できます。
また、オプティム社と共同開発した「Pocket Doctor」は日本初のスマートフォン遠隔診療アプリで、ビデオ通話での保険診療を実現しています。

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BPO -- コロナ特需を生んだ自治体向けサービス
MRTのBPO事業は、医療人材紹介のノウハウを活かした自治体・企業向けの登録・受付センター運営受託です。コロナ禍では、ワクチン接種会場の運営(1都道府県あたり医師100-200名+看護師300-400名の配置)やコールセンター運営を東京都をはじめ20以上の自治体から受託し、2022/12期にはBPOを含む「その他」売上が急膨張して全社売上87.4億円を記録しました。
しかしこの売上は明確な一過性需要であり、ワクチン接種の縮小に伴い2023/12期以降は急速に縮小しています。BPO依存から脱却し、本業の医療人材サービスの着実な成長に回帰できるかが今後の課題です。
その他の事業 -- Medikiki・Well-being・ASEAN展開
このほかにも、以下のサービスを展開しています。
Medikiki.com -- 医療機器の添付文書・カタログの検索プラットフォーム。クラウド型医療機器管理システム(MMS)も提供
ネット医局 -- 大学医局向けの無償グループウェア。スケジュール管理・緊急安否確認などを提供し、医師ネットワークの入口として機能
Well-beingサービス -- 医療従事者向けのストレスマネジメント研修・心理的安全性研修・ハラスメント防止プログラム
Re:ray -- 医療従事者の募集から採用までをワンストップで行う採用代行サービス
ASEAN展開 -- MRT Vietnam Co., Ltd.を設立し、ベトナム最大の民間医療グループHoan Myグループ(14病院・7クリニック)と提携。医療人材プラットフォーム「MRT HUB」を稼働
業績推移と財務分析 -- BPO特需の急騰と反動減
MRTの業績は、2022年のコロナ関連BPO特需を山頂として、その前後で大きく異なる風景を見せています。まずは全体像をグラフで確認しましょう。
通期業績推移(売上高・営業利益・営業利益率)
コロナBPO特需(2021-2022年)の実態
2020/12期時点で売上25.6億円だったMRTは、コロナ禍でのワクチン大規模接種会場・PCR検査センターの運営受託により、わずか2年で売上87.4億円(3.4倍)、営業利益29.8億円(11.3倍)まで急拡大しました。MRTが大規模BPOを迅速に立ち上げられた背景には、非常勤医師の人材紹介で培った「医師・看護師を大量に、短期間で現場に配置する」という独自のオペレーション力があります。
2022/12期は唯一の配当(1株30円)を実施しましたが、特需による一過性のものであり、翌期以降は無配に戻っています。
反動減と底打ち(2023-2025年)
BPO特需が終了した2023/12期以降、売上は急速に縮小しました。
2023/12期:売上54.1億円(前期比-38%)、営業利益8.3億円(同-72%)。まだBPO残余あり
2024/12期:売上41.7億円(同-23%)、営業利益-1.2億円。BPOの大半が剥落し赤字転落
2025/12期:売上41.9億円(同+0.6%)、営業利益0.95億円。売上は横ばいで底打ち、黒字に復帰。売上総利益率は67.9%(+2.2pt)と改善
注目すべきは、コア事業である医療人材サービスの売上は2025/12期に30.6億円(前期比+1.2%)と安定成長している点です。BPOの剥落で全社売上は縮小しましたが、本業は着実に伸びています。
2026/12期Q2の進捗 -- 利益面で大幅な前倒し
2026/12期Q2累計(2026年1-6月)の業績は以下のとおりです。
Q2累計実績 | 通期予想 | 進捗率 | |
|---|---|---|---|
売上高 | 21.3億円 | 39.5億円 | 53.8% |
営業利益 | 1.71億円 | 1.95億円 | 87.7% |
純利益 | 1.00億円 | 1.29億円 | 77.5% |
売上の進捗率54%に対し、営業利益の進捗率は88%と大幅に前倒しです。Q2で通期の会社予想を売上は4,300百万円から3,950百万円に8%下方修正した一方、営業利益は170百万円から195百万円に15%上方修正しています。
売上は減っても利益は増えるという修正内容は、低採算のBPO案件が減り、高粗利の医療人材紹介にミックスが改善している構造を示唆しています。なお、前年同期(2025/12期Q2累計)の売上23.3億円・営業利益1.32億円と比較すると、売上は-8.6%ですが営業利益は+29.5%と収益力は向上しています。
財務指標と投資指標
指標 | 値 | 備考 |
|---|---|---|
株価 | 632円 | |
時価総額 | 36億円 | |
PER | 63.8倍 | 2025/12期実績EPS 9.91円基準 |
PBR | 0.75倍 | BPS 839.49円 |
ROE | 1.2% | |
配当 | 無配 | 2026/12期も無配予想 |
EPS(会社予想) | 23.31円 | 2026/12期会社予想 |
PBR 0.75倍は純資産の4分の3の水準であり、市場はMRTの将来の収益力に懐疑的な評価を下しています。一方でPERは63.8倍と高い水準にありますが、これはEPSがわずか9.91円と利益水準が極めて低いことが原因です。会社予想ベースのEPS 23.31円で計算すると予想PERは約27倍に下がります。
ROE 1.2%は資本効率の低さを示しており、BPO特需期に積み上がった純資産(BPS 839円)に対して利益が追いついていない状態です。株主還元の面でも、2022/12期の特別配当30円を除き基本的に無配を続けています。
投資家が注目すべきポイント
強み・成長ドライバー
東大病院発の医師ネットワークは模倣困難な資産 -- 25年以上にわたり構築された医師との信頼関係は、単にデータベースを作るだけでは再現できません。大学医局の人事慣行・専門性・派閥構造を理解した上でのマッチング力は、競合の大手プラットフォーマーとは異なる独自の価値です。
BPO依存からの脱却が進行中 -- 2026/12期Q2で売上は前年同期比-8.6%ながら営業利益は+29.5%。低採算のBPO案件が減少し、高粗利の医療人材紹介に収益構造がシフトしています。売上総利益率の改善(2024/12期 65.7% → 2025/12期 67.9%)もこの構造変化を裏付けています。
ASEAN展開の種まき -- ベトナムにMRT Vietnam Co., Ltd.を設立し、同国最大の民間医療グループであるHoan Myグループ(14病院・7クリニック)と提携。医療人材プラットフォーム「MRT HUB」を立ち上げており、日本で培った医療人材マッチングのノウハウを東南アジアに展開する構想です。
PBR 0.75倍の割安水準 -- BPS 839円に対して株価632円。利益回復が本格化すれば、資産面からの株価見直し余地があります。
リスク・注意点
売上成長の見通しが不透明 -- 2026/12期の会社予想は売上39.5億円とBPOピーク時の55%減。本業の医療人材サービスは微増ながら、全社売上を押し上げるほどの成長ドライバーがまだ見えていません。Door.やMedikiki、ASEAN事業がいつ収益貢献するかは不確実です。
大手競合との規模格差 -- 医療人材・オンライン診療領域ではエムスリー(2413、時価総額約7,000億円)やメドレー(4480、同約3,000億円)が圧倒的な存在感を持っています。MRTの時価総額36億円は桁違いに小さく、営業力・開発投資・ブランド認知で劣後するリスクがあります。
PER 63.8倍のアンバランス -- PBRは割安ですが、PERは63.8倍と高水準。直近のEPS 9.91円は利益がほぼ出ていない状態を反映しており、ROE 1.2%と資本効率も低い。利益の持続的な回復がなければ、PBR 1倍への回帰は難しいでしょう。
無配の継続と流動性リスク -- 2022/12期の特別配当を除き基本的に無配です。時価総額36億円のグロース銘柄は売買高が薄く、大口の売買で株価が大きく動く可能性があります。冨田家が約47%を保有する安定株主構成は、経営の安定性とひきかえに浮動株の少なさにもつながっています。
競合比較 -- エムスリー・メドレーとの位置関係
医療人材・ヘルスケアDX領域の主要3社を比較すると、MRTの立ち位置が明確になります。
MRT(6034) | エムスリー(2413) | メドレー(4480) | |
|---|---|---|---|
市場 | グロース | プライム | プライム |
時価総額 | 36億円 | 約7,000億円 | 約3,000億円 |
主要サービス | 非常勤医師紹介 | MR君(医師プラットフォーム) | ジョブメドレー(医療人材) |
独自性 | 東大病院由来の医師ネットワーク | 30万人超の医師DB・製薬企業との関係 | CLINICSのオンライン診療基盤 |
PBR | 0.75倍 | 約4倍 | 約8倍 |
MRTの強みは大学病院の医局文化に根差した非常勤医師紹介というニッチですが深い領域です。エムスリーが製薬企業向けマーケティング、メドレーが電子カルテ・オンライン診療を軸としているのに対し、MRTは医師の「代診(外勤)」という大学医局特有の需要を押さえている点で差別化されています。

エムスリー(2413)の企業分析|医師35万人ネットワークの競争優位、コロナ後の回復とAI戦略
エムスリー(2413)の6事業セグメント(メディカルPF・エビデンスソリューション・キャリアソリューション・海外等)、コロナ後の業績回復、AI戦略、投資判断のポイントを個人投資家向けに解説します。

メドレー(4480)の企業分析|ジョブメドレー×CLINICSの二刀流、医療DXの成長戦略
メドレー(4480)の事業構造(ジョブメドレーの人材PF事業・CLINICSの医療PF事業)、セグメント別業績推移、医療DXの成長余地と先行投資による利益率変動、2026年12月期上期の利益回復と初配当を個人投資家向けに解説します。
まとめ
MRT(6034)の投資判断におけるポイントを整理します。
東大病院発の医師ネットワークを基盤に、非常勤医師紹介「Gaikin」で累計200万件超・日本一の実績。25年の蓄積は競合に対する明確な参入障壁
2022年のBPO特需(売上87.4億円)は一過性。その反動で2024/12期は営業赤字に陥ったが、2025/12期に黒字復帰。コア事業は安定成長
2026/12期Q2は利益進捗率88%と好調。売上減でも利益増の構造変化が進行中。ただし下半期は季節的に利益が薄くなる傾向
PBR 0.75倍は割安シグナルだが、PER 63.8倍・ROE 1.2%・無配と収益力は発展途上。Door.やASEAN展開が花開くかが中長期の鍵
エムスリー・メドレーと比べ規模は小さいが、大学医局文化に根差した独自のポジションを持つニッチプレイヤー。冨田家が約47%を保有する安定株主構成
BPO特需という「嵐」が過ぎ去った後のMRTは、改めて本業の価値を問われるフェーズにあります。PBR 0.75倍という水準は市場がまだ回復に懐疑的なことを示していますが、Q2の利益進捗や売上ミックスの改善は前向きな変化です。オンライン診療・ASEAN展開という成長の種がいつ芽吹くか、四半期ごとの業績を丁寧に追う価値のある銘柄と言えるでしょう。
MRT
MRTは、「医療を想い、社会に貢献する。」を企業理念に掲げ、医師の互助組織を母体として発足した医療情報プラットフォーム企業。医師向けの非常勤紹介「Gaikin」と常勤紹介「career」を中核に、看護師・薬剤師等のコメディカル人材紹介、オン…










