【投資テーマ解説】オンライン診療|医療法改正で「例外」から「制度」へ・2026年市場1,248億円の成長構造と関連銘柄

2026年4月、改正医療法の施行によりオンライン診療が医療法に正式に位置づけられ、「例外的措置」から「制度」へと格上げされました。コロナ禍の時限措置として始まったオンライン診療は、2022年の診療報酬改定で初診が恒久化され、2024年改定で点数が引き上げられ、そして2026年の法改正で法的基盤が整いました。
矢野経済研究所の調査によると、2026年の国内オンライン診療市場は1,248億円(保険診療891億円+自由診療357億円)、2040年には2,591億円に達する見通しです(矢野経済研究所 2026年6月発表)。この記事では、規制動向・市場構造・ビジネスモデル・主要プレイヤーの業績を投資家の視点で整理します。
この記事の内容(目次)
規制の変遷 — コロナの時限措置から医療法への格上げまで
オンライン診療の規制は約30年をかけて段階的に緩和されてきました。投資判断の前提として、この流れを押さえておく必要があります。
年 | 出来事 | 投資家にとっての意味 |
|---|---|---|
1997年 | 厚労省通知で離島・へき地に限り遠隔診療を容認 | 対象が極めて限定的、市場としてはゼロ |
2018年 | 「オンライン診療料」新設(初診は対面必須) | 診療報酬に初めて組み込まれ、マネタイズの土台ができる |
2020年4月 | コロナ特例で初診からのオンライン診療を時限的に解禁 | メドレー・エムスリー等の株価が急騰した契機 |
2022年4月 | 初診からのオンライン診療を恒久化。初診料251点・再診料73点 | 「時限措置の巻き戻し」リスクが消滅 |
2024年6月 | 診療報酬改定で初診料253点・再診料75点に引上げ。看護師等遠隔診療補助加算を新設 | 医療機関の収益性が改善、導入インセンティブ増 |
2025年12月 | 改正医療法公布(令和7年法律第87号) | 法的根拠の確立で制度後退リスクが大幅低下 |
2026年4月 | 改正医療法施行。「オンライン診療受診施設」を制度化 | コンビニ・ドラッグストア等に受診施設を設置可能に → 市場拡大の起爆剤 |
2026年改正医療法の核心 — オンライン診療受診施設
2026年4月施行の改正医療法で最も投資家が注目すべきは「オンライン診療受診施設」の創設です。これは鉄道駅・コンビニ・ドラッグストア・ホテル・公民館・介護施設など多様な場所に設置でき、医師の常駐が不要な新しい医療提供施設カテゴリです(一般社団法人オンライン診療受診施設協会)。従来の診療所とは異なり、都道府県への届出だけで設置でき、設備基準5項目をクリアすればよいため、参入障壁が大幅に低下します。
市場規模と成長ドライバー
2026年1,248億円 → 2040年2,591億円の成長パス
矢野経済研究所の調査(2026年6月発表)によると、国内オンライン診療サービス市場は以下のように拡大が見込まれています。
国内オンライン診療サービス市場規模の推移と予測
市場の7割を保険診療が占めるが、成長率は自由診療が上回る構造です。自由診療ではAGA(男性型脱毛症)治療、低用量ピル処方、美容医療、GLP-1を用いた肥満治療など、対面の心理的ハードルが高い領域がオンライン診療と特に親和性が高く、市場拡大の牽引役となっています。
導入医療機関数の推移
厚生労働省の「届出医療機関リスト」(厚生労働省 医療施設動態調査)によると、情報通信機器を用いたオンライン診療の届出医療機関数は着実に増加しています。
オンライン診療 届出医療機関数の推移
2022年10月の6,289件から2024年10月には12,507件へ2年で約2倍に増加しました。ただし全医療機関約18万施設の約7%にとどまっており、裏を返せば93%が未導入で、普及余地は極めて大きいと言えます。
4つの成長ドライバー
規制の不可逆的緩和 — 医療法への位置づけにより、政権交代や厚労省の方針転換で制度が後退するリスクが大幅に低下しました
医師の働き方改革 — 2024年4月から医師の時間外労働上限規制が始まり、診療効率化のニーズが構造的に高まっています
自由診療市場の拡大 — AGA・ピル・美容・肥満治療など、対面受診の心理的ハードルが高い領域がオンライン診療の成長を牽引
受診施設の全国展開 — コンビニ・ドラッグストアに受診施設が設置可能になり、高齢者を含む幅広い層へのアクセスが拡大
ビジネスモデルの類型 — SaaS型・プラットフォーム型・垂直統合型
オンライン診療関連企業のビジネスモデルは大きく3つに分類できます。投資判断では、各社がどの型に軸足を置いているかを理解することが重要です。
ビジネスモデル | 収益構造 | 代表企業 | 特徴 |
|---|---|---|---|
SaaS型 | 月額利用料(ストック型) | メドレー(CLINICS)、カナミックネットワーク | 医療機関向けにクラウドシステムを提供。低解約率で安定収益 |
プラットフォーム型 | 製薬企業からの広告・MR支援(フロー型+ストック型) | エムスリー(m3.com) | 医師34万人のネットワークを基盤に多角化。直接的なオンライン診療売上は一部 |
垂直統合型 | 診療+処方+薬配送を一気通貫(手数料型) | ジェイフロンティア(SOKUYAKU) | 患者の利便性が最も高い一方、薬局・配送の連携コストが重い |
主要プレイヤーの分析
メドレー(4480) — オンライン診療の本命、CLINICSシェアNo.1
メドレー
医療ヘルスケア領域のインターネットプラットフォーム企業。医療・介護・歯科分野の人材採用プラットフォーム「ジョブメドレー」を中核事業とし、成功報酬型の求人サービスで業界最大級の求人数を持つ。もう一つの柱として、クラウド診療支援システム「CLI…
メドレーは「クラウド診療支援システムCLINICS」を中核に、全国2万を超える病院・診療所・薬局に導入、利用者1,000万人以上(2026年1月時点、メドレー公式サイト)を擁する国内最大級の医療プラットフォーム企業です。CLINICSはオンライン診療システムカテゴリでシェアNo.1を獲得しています(メドレー プレスリリース)。
事業は大きく「人材プラットフォーム事業」(ジョブメドレー等)と「医療プラットフォーム事業」(CLINICS等)の2セグメントで構成されています。売上の主力は人材プラットフォーム事業ですが、医療プラットフォーム事業の成長が今後の企業価値を左右します。2025年9月には医療機関向けと患者向けアプリを統合した次世代プラットフォーム「MEDLEY AI CLOUD」を開始し、AI活用による診療支援の高度化を推進しています(メドレー プレスリリース)。
メドレー(4480)通期業績推移
売上高は2019年12月期の47.6億円から2025年12月期の367.8億円へ6年で約7.7倍に急成長しています。2026年12月期は売上高464億円(前期比+26%)、営業利益29.5億円(同+37%)を会社が予想しており、成長投資と利益のバランスが改善に向かう局面です。
なお、メドレーは中期目標として「2029年に売上高1,000億円(うち人材PF事業が国内650億円+海外100億円)」を掲げています(2024年2月開示)。達成すれば3年でさらに2倍強の成長となります。
エムスリー(2413) — 医師34万人基盤の医療ITプラットフォーム
エムスリー
エムスリーは、日本の医師約34万人のうち約9割が登録する医療従事者専用プラットフォーム「m3.com」を基盤に、医療業界向けの多角的なサービスを展開するヘルスケアテック企業です。ソニーグループが約33%を出資する筆頭株主であり、2000年の…
エムスリーは日本の医師の約9割にあたる34万人以上が登録するポータル「m3.com」を基盤に、製薬企業向けマーケティング支援、治験・臨床研究支援、医療人材紹介、そしてオンライン医療事業まで幅広く展開する医療ITの巨人です。時価総額は約1.2兆円(2026年9月5日時点)と、医療IT関連では国内最大です。
オンライン診療との関わりでは、2019年にLINEと共同で設立した「LINEヘルスケア」を通じてサービスを提供したほか、海外では遠隔医療プラットフォームの運営実績を持ちます。ただし、エムスリーの売上の大半は製薬企業向けMR支援(メディカルプラットフォーム事業)であり、オンライン診療は全体の一部です。投資テーマとして「オンライン診療の純粋な受益者」を探すなら、メドレーの方が直接的です。
エムスリー(2413)通期業績推移
2026年3月期のセグメント別では、メディカルプラットフォーム事業が売上収益1,078億円(前期比+18%)・利益359億円で最大です。ペイシェントソリューション事業(オンライン医療を含む患者向けサービス)は売上収益568億円(同+159%)と大幅な増収でしたが、利益寄与は26億円と全体の一部にとどまっています(エムスリー 2026年3月期決算短信)。
ジェイフロンティア(2934) — 「SOKUYAKU」で診療・処方・薬配送を一気通貫
ジェイフロンティア
ジェイフロンティアグループは、医療プラットフォーム「SOKUYAKU」でオンライン診療・オンライン服薬指導・処方薬宅配をワンストップ提供。医薬品通販事業では「ホワイピュア」「生漢煎防風通聖散」などの自社ブランド医薬品・医薬部外品を展開。健康…
ジェイフロンティアが運営する「SOKUYAKU」は、オンライン診療 → 服薬指導 → 処方薬の自宅配送までをアプリ1つで完結できるサービスです(SOKUYAKU公式サイト)。2025年には電子処方箋との連携機能をリリースし、2026年には希望時間帯からクリニックを探せる新機能を追加するなど、UXの改善を継続しています。
ただし、財務面では2024年5月期および2026年5月期に最終赤字(2025年5月期は黒字転換)を計上しており、同社のメインの収益源はヘルスケアEC事業です。時価総額も約107億円(2026年9月5日時点)と小型で、投資にあたってはボラティリティの高さを認識しておく必要があります。
カナミックネットワーク(3939) — 介護・医療連携クラウドの高収益企業
カナミックネットワーク
カナミックネットワークは、超高齢社会の地域包括ケアを支援するICTプラットフォーム企業。医師、看護師、ケアマネジャー等多職種が連携するための情報共有システム「カナミッククラウドサービス」を開発・運営。ユーザーID数339万件、全国自治体・医…
カナミックネットワークは介護・医療・子育て分野の多職種連携クラウドプラットフォームを提供しています。オンライン診療のプラットフォーム企業ではありませんが、在宅医療・訪問診療の情報連携基盤を担う点で、遠隔医療の周辺銘柄として位置づけられます。
カナミックネットワーク(3939)通期業績推移
営業利益率は約29〜40%と極めて高い水準です。介護・医療の情報連携が義務化・標準化される流れの中で、クラウド型プラットフォームへの需要は構造的に拡大しており、時価総額238億円ながら安定した収益力を持つ注目銘柄です。
MRT(6034) — 医師紹介基盤を活かしたオンライン診療
MRT
MRTは、「医療を想い、社会に貢献する。」を企業理念に掲げ、医師の互助組織を母体として発足した医療情報プラットフォーム企業。医師向けの非常勤紹介「Gaikin」と常勤紹介「career」を中核に、看護師・薬剤師等のコメディカル人材紹介、オン…
MRTは東京大学医学部関連の医師ネットワークを基盤に、非常勤医師紹介(Gaikin)やオンライン診療サービス「Door.」「ポケットドクター」を提供しています。宮崎県の中山間地域でのオンライン診療実証実験の受託実績もあり、自治体向けの遠隔医療ソリューションにも展開しています(MRT公式サイト)。
ただし2024年12月期は売上高41.6億円・営業損失1.2億円と赤字転落しており、2025年12月期も売上高41.9億円・営業利益0.9億円とかろうじて黒字に復帰した段階です。時価総額は約36億円(2026年9月5日時点)の超小型株で、流動性リスクも高い点に注意が必要です。
その他の注目プレイヤー
KDDI(9433) — MICINと協業し「curon for KDDI」を提供。通信インフラ × 医療DXの大企業枠。時価総額約11.9兆円で、オンライン診療は全体のごく一部だが、通信キャリアの参入は市場拡大を後押し
オプティム(3694) — AI・IoTプラットフォーム企業で、佐賀大学等と連携した「オンライン診療ポケットドクター」を展開。オンライン診療は事業の一部(時価総額238億円、PER 21.5倍、2026年9月5日時点)
MICIN(未上場) — オンライン診療システム「curon」を開発。KDDIとの提携により「curon for KDDI」として展開中。IPO動向に注目
ファストドクター(未上場) — 夜間・休日の往診+オンライン診療を組み合わせた「時間外医療」に特化。2023年にシリーズEで70億円超の資金調達を実施
関連銘柄の投資指標比較
上場しているオンライン診療関連銘柄の投資指標を比較します。
銘柄 | 証券コード | 時価総額 | PER | PBR | 配当利回り | オンライン診療との関係 |
|---|---|---|---|---|---|---|
エムスリー | 2413 | 約1兆1,939億円 | 24.2倍 | 2.89倍 | 1.25% | 医師PF基盤 + 海外遠隔医療 |
メドレー | 4480 | 約838億円 | 83.6倍 | 5.34倍 | — | CLINICSシェアNo.1(本命) |
カナミックNW | 3939 | 約238億円 | 21.1倍 | 5.04倍 | 1.52% | 介護・医療連携クラウド |
ジェイフロンティア | 2934 | 約107億円 | —(赤字) | 8.70倍 | — | SOKUYAKU(診療〜薬配送) |
MRT | 6034 | 約36億円 | 63.8倍 | 0.75倍 | — | Door.・自治体向け遠隔医療 |
オプティム | 3694 | 約238億円 | 21.5倍 | 2.56倍 | — | AI×IoT・ポケットドクター |
リスクと投資判断のポイント
リスク要因
診療報酬の引き下げリスク — 2年ごとの改定で点数が引き下げられると、医療機関のオンライン診療導入インセンティブが低下します。2024年改定では引き上げでしたが、医療費抑制の政策的圧力は常に存在します
対面診療原則の根強さ — 日本医師会を中心に「オンライン診療は対面の補完」という考え方は根強く、急速な規制緩和に対する揺り戻しの可能性はゼロではありません。ただし医療法改正により、ガイドラインレベルの後退は容易でなくなりました
自由診療の不適切事例による規制強化 — GLP-1ダイエットやAGA治療のオンライン診療で不適切な処方事例が報告されており、改正医療法では不適切事例に対する指導・立入検査の根拠が設けられました。自由診療主体のプレイヤーには逆風になりえます
大手IT企業の参入 — KDDIに加え、NTTやGoogleなど大手IT・通信企業がヘルスケア領域への投資を加速しています。既存のオンライン診療スタートアップが価格競争に巻き込まれるリスクがあります
バリュエーションの高さ — メドレーのPER 83.6倍やPBR 5.34倍(2026年9月5日時点、KabuGraphデータ)は、高い成長期待が株価に織り込まれていることを示しています。成長が鈍化した場合のバリュエーション調整リスクは常に意識すべきです
投資判断のポイント
投資スタイル | 候補銘柄 | 理由 |
|---|---|---|
中長期の成長投資 | メドレー(4480) | CLINICSシェアNo.1、2029年売上1,000億円の成長目標。医療法改正の最大の受益者 |
分散投資のコア | エムスリー(2413) | 医療IT最大手。オンライン診療以外の収益源も厚く、テーマ一本足にならない安定感 |
高収益の小型株 | カナミックNW(3939) | 営業利益率約30%の高収益。在宅医療の制度拡大が追い風 |
オンライン診療は「規制産業のデジタル化」という構造的なテーマです。2026年の医療法改正で制度の不可逆性が高まったことで、中長期の投資テーマとしての確度は上がりました。ただし、市場規模1,248億円は日本の医療費(約47兆円)の0.3%にすぎず、まだ初期段階です。足元の業績よりも、導入医療機関数・利用者数・受診施設の設置数などの先行指標をウォッチすることが重要でしょう。

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