KabuGraph

フィックスターズ(3687)の企業分析|「Speed up your AI」高速化技術で営業利益率26%を実現するプライム上場テック企業

Cover Photo

フィックスターズ(3687)は、「Speed up your AI」を掲げ、ソフトウェアの高速化技術を武器に半導体・自動車・金融など幅広い産業を支えるテクノロジー企業です。

FY2025/9は売上高96.2億円(前期比+20.3%)、営業利益25.8億円(同+11.9%)を達成し、直近4期は営業利益率25%超を維持。2026年5月に上方修正した2026年9月期の会社予想は売上高108億円(+12.3%)、営業利益31億円(+20.2%)で、さらなる成長を見込みます。

この記事では、フィックスターズのソリューション事業とSaaS事業の構造、業績推移、量子コンピューティング戦略、投資判断のポイントを、個人投資家の視点からわかりやすく解説します。

会社概要 — 「高速化のエキスパート集団」

フィックスターズは2002年に設立されたソフトウェア高速化の専門企業です。コンピュータの計算資源を最大限に引き出す「パフォーマンスエンジニアリング」を中核に、マルチコアCPU・GPU・FPGAなどの性能最適化で数倍〜数百倍の高速化を実現してきました。

項目

内容

会社名

株式会社フィックスターズ

証券コード

3687(東証プライム)

設立

2002年8月

代表取締役社長

三木 聡

本社

東京都港区芝浦(BLUE FRONT SHIBAURA TOWER S 31階)

従業員数

354名(連結、2026年6月末)

事業内容

ソフトウェア高速化、量子コンピューティングSaaS、セキュアAIアプライアンス

主要顧客

キオクシア、ソニー・ホンダモビリティ、ネクスティ エレクトロニクス、みずほ証券

主要顧客のうちソニー・ホンダモビリティは、2026年3月にEV「AFEELA」の開発中止を発表しました。フィックスターズは自動運転AIの開発を中心にこのプロジェクトに参画しており、2026年9月期の下期に見込んでいた受注は見通せなくなりました。会社は、担当していたエンジニアを他の案件へ順次移すことで、業績への影響は軽微と説明しています。

売上高の10%以上を占める顧客は、2025年9月期でキオクシア(売上高の17.1%)とネクスティ エレクトロニクス(同11.6%)の2社です。少数の大口顧客の方針で業績が動きうる点には注意が必要です。

2014年に東証マザーズに上場、2016年に東証一部(現プライム)へ市場変更。2025年3月にコーポレートスローガンを「Speed up your AI」に刷新し、AI時代における高速化技術の価値を前面に打ち出しています。

フィックスターズ公式サイト「Speed up your AI」
フィックスターズ公式サイト

2つの事業セグメントを理解する

フィックスターズの事業は「ソリューション事業」と「SaaS事業」の2セグメントで構成されています。ソリューション事業が売上の約94%(FY2026/9 Q3累計)を占める主力ですが、SaaS事業が前年同期比+59%と急成長しており、収益構造の転換が進みつつあります。

セグメント別売上構成比(FY2026/9 Q3累計)

出典:2026年9月期 第3四半期決算短信・決算補足説明資料よりKabuGraph作成

ソリューション事業 — 5つの産業領域で高速化を提供

ソリューション事業は、顧客のソフトウェアを受託で高速化する「パフォーマンスエンジニアリング」が中心です。コンサルティング(性能評価・ボトルネック特定)→ 高速化(アルゴリズム改良・ハードウェア最適化)→ サポート(実製品への組み込み支援)の一気通貫サービスを提供し、リピート率99%超の顧客基盤を持ちます。

産業別の構成は半導体が約35%、自動車が約40%を占め、以下の5領域で展開しています。

  • Semiconductor — NAND型フラッシュメモリ向けファームウェア開発、次世代AIチップ向け開発環境基盤

  • Mobility — 自動運転の高性能化・実用化(ネクスティ エレクトロニクスとの合弁会社 Fixstars Autonomous Technologies)、次世代パーソナルモビリティの研究開発支援

  • Life Science — ゲノム解析・医用画像処理の高速化

  • Finance — デリバティブシステム・HFT(高頻度取引)の高速化

  • Industrial — スマートファクトリー支援、マシンビジョンシステムの高速化

FY2026/9 Q3累計でソリューション事業の売上は74.1億円(前年同期比+9.7%)、セグメント利益は27.0億円(同+12.0%)、セグメント利益率は36.4%と高い水準を維持しています。

SaaS事業 — 量子×最適化からセキュアAIまで

SaaS事業は、ソリューション事業で培った高速化技術を自社プロダクトとして展開する成長セグメントです。主力は以下の4つの製品・サービスです。

Fixstars Amplify — 量子×最適化計算プラットフォーム

量子アニーリング・イジングマシン・数理最適化ソルバー・ゲート式量子コンピュータに対応したクラウドプラットフォームです。配送ルート最適化や金融ポートフォリオ最適化など、組合せ最適化問題をPythonのSDKから簡単に実行できます。登録組織数は1,300超、累計実行回数は1.5億回を突破しました。子会社の株式会社Fixstars Amplifyが運営しています。

Fixstars Amplify — 量子×最適化計算プラットフォーム
Fixstars Amplify公式サイト

Fixstars Vega — 組込み開発向けセキュアAIアプライアンス

オンプレミス環境で機密情報を保護しながら生成AIを活用できる、組込みソフトウェア開発向けのセキュアAIアプライアンスです。オープンウェイトLLMを搭載し、ソースコードや設計情報を外部に出さずにAI駆動開発を実現します。FY2026/9 Q4から提供を開始し、ソリューション事業の既存顧客へのクロスセルが進んでいます。

Fixstars Vega — 組込み向けセキュアAIアプライアンス
Fixstars Vega公式サイト

Fixstars AIBooster / AIStation

AIBoosterは、GPUを用いたAI開発・運用のボトルネックを可視化し、性能を引き出すプラットフォームです。2026年4月には学習の設定(ハイパーパラメータ)を自動で探す機能を強化し、探索にかかる時間を従来の約1/16に縮め、ベンチマークではAI学習のコストを最大43%減らしました。AIStationは、最新のLLM/AIモデルと高性能GPUを搭載した専用ワークステーションをレンタル提供するセキュアなプライベートAI環境で、機密性の高い情報を扱う企業向けに展開しています。

METIS Eye — 乳がんAI画像診断支援

子会社Smart Opinionが展開する、超音波画像にAIを用いた乳がん精密検査の要否判定を支援するサービスです。慶應義塾大学病院との共同研究をもとに開発し、2024年に医療機器の承認を取得しています。テレビニュースでも取り上げられ、複数の医療機関でテスト運用を進めています。現在は米Mayo Clinicの臨床データを使った、生成AIベースの次世代技術の開発も進めています。

FY2026/9 Q3累計のSaaS事業全体の売上は5.1億円(前年同期比+59.1%)。一方でセグメント損失は4.7億円と赤字が続いており、Amplifyの収益化と新製品の市場浸透が今後の焦点です。

業績推移と財務分析

通期業績推移

フィックスターズはFY2021/9を底に4期連続で増収増益を達成しています。FY2025/9は売上高96.2億円、営業利益25.8億円と過去最高を更新し、売上は4年で+74.8%成長しました。

FY2020/9〜2021/9の減収は、画像処理向けのストレージ・サーバなど一時的なハードウェア案件が減ったためです。主力のソフトウェア事業はFY2020/9も8%の増収で、FY2022/9以降は営業利益率25%超が続いています。

通期業績推移(売上高・営業利益・営業利益率)

出典:決算短信よりKabuGraph作成。FY2026/9は会社予想

FY2026/9の会社予想は売上高108億円(前期比+12.3%)、営業利益31億円(同+20.2%)、純利益19.5億円(同+0.2%)です。2026年5月に、上期の実績が予想を上回ったことを反映して、売上高を103億→108億円、営業利益を26億→31億円に上方修正しました。

ただし下期は、大口取引先(ソニー・ホンダモビリティ)の事業方針の転換による影響を考慮し、当初予想の水準に据え置いています。通期の上方修正(売上高+5億円)は、ほぼ上期の上振れ分(+4.9億円)にあたります。

純利益の伸びが小さいのは、前期に子会社(Sider)の清算で税金の負担が一時的に軽くなった反動と、今期に本社移転の費用(特別損失2.3億円、Q3累計)を計上したためです。本業のもうけを示す営業利益は+20.2%の見込みです。

セグメント別業績推移

セグメント別 四半期売上推移(百万円)

出典:2026年9月期 各四半期の決算短信・決算補足説明資料よりKabuGraph作成。外部顧客への売上高(3ヶ月ごと)

Q3(3ヶ月)のソリューション事業の売上はQ2から12%減りました。会社は季節的な要因に加え、自動車業界の大口取引先(ソニー・ホンダモビリティ)の開発プロジェクト中止を挙げ、半導体・産業機器向けの旺盛な需要で概ね吸収したと説明しています。前年のQ2→Q3は約6%減だったので、今年の落ち込みは例年より大きめです。

SaaS事業のQ3(3ヶ月)の売上は1.1億円と、Q2の2.2億円から減りました。研究用途が中心のAmplifyは毎年4月に利用が落ちる季節性があり、さらにAIBoosterで大口案件が終わったためです。それでもQ3累計では前年同期比+59.1%と高い成長を維持しています。

1株配当の推移

フィックスターズは2018年4月に1:5の株式分割を実施しており、以下の配当額は分割後の基準に調整済みです。配当方針は、中期的に連結配当性向30%とDOE(株主資本に対する配当の割合)7%以上を目標とするものです。DOEは2025年12月に導入し、2026年9月期から適用しています。

FY2024/9の19円には記念配当5円が含まれています。普通配当で見ると14円(FY2024/9)→18円(FY2025/9)→19円予想(FY2026/9、5月に18円から1円増額)と増配が続いています。

1株配当の推移(分割調整後)

出典:決算短信よりKabuGraph作成。2018年4月の1:5分割後基準。FY2024/9は記念配当5円を含む。FY2026/9は会社予想

財務の健全性

FY2026/9 Q3末時点の総資産108.8億円に対し自己資本は91.0億円で、自己資本比率83.6%と極めて健全な財務基盤を持ちます。有利子負債はほぼゼロで、成長投資をすべて自己資金で賄える体力があります。

投資家が注目すべきポイント

成長ドライバー:AI時代の高速化ニーズ

フィックスターズの中期ビジョンは「速くしてあげる+動かしてあげる」——つまり、従来のソリューション事業(高速化受託)に加え、SaaS事業で自社IP(知的財産)を活かしたプロダクト展開を拡大することです。

AI推論をエッジデバイスで高速に動かすニーズは自動車・半導体・医療で急拡大しており、これはフィックスターズの最も得意とする領域です。Fixstars Vegaは、ソリューション事業でこれまで高速化を支援してきた100社超の顧客にセキュアAI環境をクロスセルする戦略で、「AI駆動開発」セミナーを通じた新規リード獲得も進めています。

人材と研究開発

エンジニア数は、社員と協力会社(パートナー)のエンジニアを合わせて448名(2026年6月末)です。社員数(連結)は新卒採用で前四半期から18名増え、354名になりました。一方でエンジニア数は、大口取引先の開発プロジェクト中止に合わせてパートナーの体制を見直したため、前四半期の446名からほぼ横ばいでした。

研究開発費は四半期あたり1.4〜1.6億円規模で投下しており、量子コンピューティングやAIの基盤技術に継続投資しています。

バリュエーション

株価2,244円(2026年9月9日時点)に対し、PERは37.2倍、PBRは8.78倍、配当利回りは0.8%です。PERの元になる前期のEPSは子会社清算に伴う税負担の軽減で膨らんでいますが、今期の会社予想EPS(60.39円)で計算しても37.2倍で変わりません。成長テック企業としては許容範囲ですが、SaaS事業の黒字転換の見通しと、ソリューション事業の成長持続性が株価のカギを握ります。時価総額は約755億円で、プライム市場のIT企業としては中型株に位置します。

まとめ

フィックスターズは「ソフトウェアを速くする」という一貫した技術軸で20年以上事業を展開し、営業利益率26.8%・ROE 26.0%(いずれも2025年9月期。ROEは一時的な税負担の軽減を含む)・自己資本比率83.6%という強固な収益基盤を築いてきた企業です。

  • ソリューション事業は半導体・自動車を軸に安定成長。リピート率99%超の顧客基盤が収益の礎

  • SaaS事業はAmplify・Vegaを軸に前年比+59%成長。赤字フェーズだが収益化に向けた投資段階

  • AI時代の追い風で「速くしてあげる+動かしてあげる」の両輪戦略が加速する可能性

PER 37倍のバリュエーションは成長期待を織り込んだ水準であり、SaaS事業の黒字転換時期がバリュエーション妥当性の分水嶺となるでしょう。高速化技術という「代替されにくい」技術力に期待する中長期投資家にとって、注目に値する銘柄です。

KabuGraphで銘柄詳細を確認する
フ
3687情報通信・サービスその他

フィックスターズ

ソフトウェア高速化に特化した技術サービス企業。マルチコアCPU・GPU・FPGAなどハードウェアの性能を最大限に引き出すソフトウェア開発を強みとする。自動運転、FA(工場自動化)、ヘルスケア、金融など幅広い産業の顧客に対し、画像処理アルゴリ…

コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

関連記事