EBO(エンプロイー・バイアウト)とは|ユニゾ2,000億円の教訓と従業員承継の実務

EBO(Employee Buyout・エンプロイー・バイアウト)は、企業の従業員が自社の株式を買い取り、経営権を取得する企業買収の手法です。経営陣が買い手となるMBO(マネジメント・バイアウト)と異なり、EBOでは現場を担ってきた従業員が経営の主体に変わる点が最大の特徴です。
中小企業庁の試算では、2025年までに70歳を超える中小企業経営者は約245万人にのぼり、うち約127万社が後継者未定とされています。廃業すれば約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる「大廃業時代」の危機のなかで、親族にも役員にも後継者がいない場合の選択肢として、EBOへの注目が高まっています。一方、上場企業の日本初のEBOとなったユニゾホールディングスは約2,000億円を投じた買収の3年後に経営破綻し、過大な借入れによるEBOの危険性も浮き彫りになりました。本記事では、EBOの仕組みから資金調達、成功・失敗事例、中小企業での活用法まで解説します。
この記事の内容(目次)
EBOの仕組み
EBOとは、企業の従業員(経営陣を除く)が株式を取得し、オーナーシップと経営権を引き継ぐバイアウト手法です。典型的には、オーナー経営者が引退する際に、長年事業を支えてきた従業員に株式を譲渡することで会社の存続を図ります。
EBOの基本的な流れ
後継者となる従業員の選定 — 事業理解・リーダーシップ・社内外の信頼を基準に候補を絞り込む
株主構成の把握 — 既存株主(オーナー・親族・取引先等)の持株比率と売却意向を確認する
企業価値の算定 — 第三者機関による客観的な株価算定を実施。非上場企業では純資産法・DCF法・類似会社比較法などが用いられる
資金調達 — 従業員個人の資力では買取額に足りないのが通常で、金融機関からの融資やファンドからの出資を組み合わせる
株式譲渡の実行 — 譲渡制限のある非上場企業では取締役会または株主総会の承認を経て株式を移転する。上場企業ではTOB(公開買付)を実施する
SPC(特別目的会社)を使うスキーム
買取額が大きい場合、従業員がSPC(Special Purpose Company・特別目的会社)を設立し、SPCが金融機関やファンドから資金を調達して株式を取得するのが一般的です。買収完了後にSPCと対象会社を合併させ、対象会社のキャッシュフローで借入金を返済していく構造はLBO(レバレッジド・バイアウト)と同じです。ユニゾホールディングスのEBOでは、従業員らが設立した「チトセア投資」がSPCとして機能しました。
MBO・LBO・MEBOとの違い
バイアウトの手法は「誰が買うか」「どう調達するか」で分類されます。EBOは「従業員が買い手」、MBOは「経営陣が買い手」、LBOは「借入比率の高い資金調達構造」という違いがあります。
項目 | EBO | MBO | LBO | MEBO |
|---|---|---|---|---|
買い手 | 従業員 | 経営陣(役員) | 外部の買収者(ファンド等) | 経営陣+従業員 |
主な目的 | 事業承継・従業員による経営継続 | 経営の独立・上場廃止 | 少ない自己資金での大型買収 | 経営陣と従業員の協働承継 |
資金調達 | 融資・ファンド出資 | 融資・ファンド出資 | 対象会社のCFを担保にした借入 | 融資・ファンド出資 |
経営の連続性 | 経営陣が交代する | 現経営陣が続投 | 買い手次第 | 経営陣が続投+従業員参画 |
融資審査の難易度 | 高い(経営実績が乏しい) | 比較的容易 | 対象会社のCF次第 | MBOよりやや容易 |
実務上は、EBOとMBOの境界は明確でないケースも多いことに注意が必要です。候補者が取締役に就任してからMBOを行うケースや、経営陣と従業員が共同で買収するMEBO(Management and Employee Buyout)の形態をとるケースもあります。シックス・アパートのEBOでは、代表取締役を含む経営陣と社員が共同で持株会社を設立しており、実質的にはMEBOに近い構造でした。

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EBOのメリット
企業文化・経営方針の継続
社内事情を熟知した従業員が後継者になるため、企業文化・取引先との関係・現場のノウハウがスムーズに引き継がれます。第三者へのM&Aでは買い手企業の方針転換や人員整理が行われるリスクがありますが、EBOではそうした摩擦が起きにくいのが特徴です。取引先や従業員の不安も小さく、事業の連続性が保たれやすい点は中小企業にとって大きなメリットです。
従業員のモチベーション向上
従業員がオーナーとなることで、「雇われる側」から「経営する側」へ意識が変わり、当事者意識と責任感が高まります。コスト意識の向上や業務改善への積極性も期待でき、組織全体の活性化につながるケースがあります。
迅速な意思決定(非公開化の場合)
上場企業がEBOで非公開化する場合、株主総会や情報開示の負担から解放され、中長期的な経営判断が迅速に行えるようになります。四半期決算の開示義務がなくなるため、短期的な市場評価に左右されず、事業の本質的な成長に集中できる環境が整います。
廃業の回避と雇用の維持
後継者不在で廃業に追い込まれれば、従業員は職を失い、地域経済にも打撃を与えます。EBOは会社の存続と雇用の維持を両立できる「最後の選択肢」として機能します。経営者にとっても、長年育てた会社を信頼できる従業員に託せることは廃業より望ましい結論です。
EBOのデメリットとリスク
資金調達の壁
EBO最大のハードルは資金調達です。従業員個人には経営者やPEファンドのような資力がありません。金融機関からの融資を受けるにも、経営の実績がない従業員に対する審査は厳しく、「融資が受けられないケースも少なくない」(M&Aキャピタルパートナーズ)のが実情です。
経営能力の不足リスク
優秀な現場の従業員が必ずしも優秀な経営者になれるとは限りません。財務管理・経営戦略・対外交渉など経営者に求められるスキルは現場業務と大きく異なります。承継前に十分な経営者教育の期間を設けられるかどうかがEBO成否の鍵を握ります。
ドラスティックな改革の難しさ
企業文化の継続というメリットの裏返しとして、従来の延長線上から脱却した大胆な構造改革は起きにくい傾向があります。同僚だった社員がオーナーになっても、組織慣行や人間関係のしがらみが改革のブレーキになる可能性があります。市場環境の変化に対応するための事業転換や不採算部門の撤退は、外部からの買収者のほうが決断しやすいのが現実です。
株式譲渡手続きの複雑さ
非上場の中小企業では、定款で株式譲渡制限が設けられていることがほとんどです。株式の譲渡には取締役会または株主総会の承認が必要であり、少数株主がいる場合には過半数以上の株式取得に向けた個別交渉も発生します。オーナー以外の株主(親族・取引先等)の理解を得られるかが実務上の重要なポイントです。
EBOの資金調達方法
EBOの資金調達は、従業員個人の資力だけでは足りないのが前提です。金融機関からの融資、PEファンドからの出資、売り手によるオーナーファイナンスの3つが主な手段です。
金融機関からの融資
最も一般的な調達手段ですが、融資審査では買い手(従業員)の経営能力と対象会社の返済能力の双方が問われます。日本政策金融公庫は「事業承継・集約・活性化支援資金」として事業承継目的の融資制度を用意しており、従業員承継にも利用可能です。金融機関は一般に、対象企業の安定したキャッシュフロー、過大でない負債水準、後継者の事業計画の妥当性を審査のポイントとします。
PEファンドからの出資
近年増加しているのが、PEファンドがEBOに資本参加するケースです。ファンドがSPCに出資し、従業員はファンドとともに株式を取得する形態をとります。ファンドは経営支援のノウハウを持ち込み、一定期間後にイグジット(株式売却)する前提で関与します。従業員にとっては資金面のハードルが下がる一方、ファンドの意向と自分たちの経営方針を調整する必要が生じます。
オーナーファイナンス(分割払い)
中小企業のEBOで現実的に多いのが、オーナー自身が売却代金の全額を一括で受け取らず、分割払いに応じる方法です。従業員は会社の利益から毎年一定額を支払い、数年〜十数年かけて株式を取得していきます。オーナーにとっては回収リスクがありますが、従業員の資金調達の壁を大幅に下げる効果があり、信頼関係のある社員への承継では有力な選択肢です。
日本のEBO事例
日本では上場企業のEBO事例は限られますが、中小企業の従業員承継まで含めると件数は増加傾向にあります。ここでは代表的な3つの事例を取り上げます。
ユニゾホールディングス(2020年) — 国内上場企業初のEBO
ユニゾHDのEBOは、日本の上場企業として初めてのEBO事例であり、その後の経営破綻という結末がEBOのリスクを鮮明にしたケースです。
旧日本興業銀行系の不動産会社であるユニゾHDは、2019年7月にエイチ・アイ・エス(HIS)から敵対的TOBを仕掛けられました。その後、フォートレス・インベストメント・グループによる友好的TOBも提案されましたが、最終的に従業員側はいずれも拒否。従業員らが設立したSPC「チトセア投資」が米投資ファンドのローンスターから借入・優先株あわせて約2,060億円を調達し、1株6,000円でTOBを実施、2020年4月にEBOを成立させました。
しかし、EBO成立直後にコロナ禍が直撃し、ホテル事業の収益が急減。約2,000億円の借入金返済に窮し、2023年4月に民事再生法の適用を申請しました(負債総額1,262億円)。「従業員ファースト」を掲げた買収防衛が、過大な借入れと外部環境の悪化により裏目に出た形です。
ラクオリア創薬(2008年) — 研究所の独立成功例
ラクオリア創薬は、ファイザー日本法人の中央研究所が閉鎖される際に、研究員らがEBOで研究所を独立させた成功事例です。
2008年、ファイザーが日本の中央研究所の閉鎖を決定した際、研究所長の長久厚氏が中心となり、研究員によるEBOを米国本社に提案。ファイザー側も雇用の混乱回避を考慮して独立を認め、同年7月にラクオリア創薬株式会社として事業を開始しました。その後、創薬ベンチャーとして事業を継続し、2011年7月に大阪証券取引所JASDAQ市場(グロース)に上場を果たしています(現・東証グロース市場)。
この事例では、親会社の事業撤退に伴い、特定の技術・人材を持つ部門が独立する「カーブアウト型」のEBOとして位置づけられます。買収規模が小さく、ファイザーの協力を得られたことが成功の要因でした。
シックス・アパート(2016年) — IT企業のMEBO型独立
CMS(コンテンツ管理システム)「Movable Type」を提供するシックス・アパートは、2016年6月に親会社インフォコムからEBOで全株式を取得して独立しました(シックス・アパート プレスリリース 2016年7月4日)。
経営陣と社員が共同で「シックス・アパート・ホールディングス」を設立し、インフォコムからシックス・アパートの全株式を取得する形態をとりました。実質的にはMEBO(経営陣+従業員による買収)に近い構造です。独立後は自社製品の開発スピードが向上し、Movable Typeのクラウド版強化やアジア展開を加速させています。
親会社の事業ポートフォリオの見直しに伴い、事業部門が独立するパターンのEBOとして、ラクオリア創薬と同様のカーブアウト型事例です。
中小企業の事業承継とEBO
EBOが最も身近に活用されるのは、中小企業の事業承継の場面です。
事業承継の3類型とEBOの位置づけ
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」では、事業承継を以下の3類型に整理しています。
親族内承継 — 子や親族に事業を引き継ぐ伝統的な方法
従業員承継(役員・従業員への承継) — EBOが該当。経営を任せたい従業員に株式を譲渡する
第三者承継(M&A) — 外部の企業や個人に事業を売却する
近年は親族内承継の割合が低下傾向にあり、従業員承継やM&Aによる第三者承継の比率が上昇しています。帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査」によれば、2023年の後継者不在率は53.9%と過去最低を記録しましたが、依然として半数以上の企業で後継者が決まっていません。
EBOで使える公的支援制度
従業員承継を支援する公的制度は整備が進んでいます。
事業承継・引継ぎ支援センター — 各都道府県に設置された無料の相談窓口。後継者探しから株価算定の助言まで対応する
事業承継・集約・活性化支援資金(日本政策金融公庫) — 事業承継を目的とした融資制度。従業員承継にも利用可能
事業承継補助金 — 事業承継後の新たな取り組み(設備投資・販路開拓等)に対する補助金
経営承継円滑化法 — 非上場株式の贈与税・相続税の納税猶予制度。従業員に贈与する場合にも適用される場合がある(要件あり)
ESOPとの違い
EBOと混同されやすい仕組みにESOP(Employee Stock Ownership Plan・従業員持株制度)があります。両者は「従業員が自社株を持つ」という点で共通しますが、目的と構造が根本的に異なります。
項目 | EBO | ESOP |
|---|---|---|
目的 | 経営権の取得・事業承継 | 従業員の福利厚生・インセンティブ |
株式取得の主体 | 従業員個人(またはSPC) | 信託または持株会 |
費用負担 | 従業員が自ら資金調達 | 企業が拠出(従業員負担なし) |
経営権 | 取得する(過半数以上が目標) | 取得しない(少数持分) |
株式の処分 | 自由(譲渡制限がなければ) | 退職時まで制限(J-ESOP) |
ESOPは従業員に株式を「与える」制度、EBOは従業員が株式を「買い取る」取引という根本的な違いがあります。日本版ESOP(J-ESOP)は株式給付型の信託制度として普及しており、退職時に在職中のポイントに応じた株式が給付されるのが一般的です。一方、従業員持株会は従業員が毎月の給与から天引きで自社株を購入する仕組みで、ESOPとは性質が異なりますが、いずれもEBOのような「経営権の取得」を目的としたものではありません。

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無理のない資金計画を立てる
買収後の借入返済が会社のキャッシュフローの範囲内に収まるかを最優先で検証すべきです。ユニゾHDは約2,000億円のLBOローンをコロナ禍で返済できず破綻しました。事業環境が悪化しても返済を続けられる余力(デット・サービス・カバレッジ・レシオ = DSCR)を保守的に見積もることが不可欠です。
後継者を早期に選定し、育成期間を確保する
EBOでは経営陣が交代するため、後継者の経営能力を育成する時間が必要です。現オーナーが在任中に財務管理・経営戦略・対外折衝などを後継候補に実地で経験させ、段階的に権限を移譲していくのが理想的です。中小企業庁は、後継者の育成に最低でも5〜10年の準備期間を推奨しています。
専門家を早い段階で巻き込む
株価算定・資金調達・株式譲渡手続き・税務処理など、EBOには専門的な論点が多くあります。M&Aアドバイザー・税理士・弁護士に加え、事業承継・引継ぎ支援センター(無料)への相談を早期に行うことで、手続きの抜け漏れや税務上の思わぬ負担を防げます。
従業員・取引先・金融機関への丁寧な説明
オーナー交代は会社にとって大きな転換点です。EBOの目的・今後の経営方針・雇用条件の継続について関係者に丁寧に説明し、合意を形成することが円滑な承継の鍵です。取引先や金融機関が新経営陣を信頼できなければ、取引条件の見直しや融資の引き揚げにつながるリスクがあります。
まとめ
EBOは、親族にも経営陣にも後継者がいない場合に、会社を知り尽くした従業員が事業を引き継ぐための有力な選択肢です。企業文化の継続、従業員のモチベーション向上、廃業の回避というメリットがある一方、資金調達の壁、経営能力の育成、過大な借入のリスクという課題もあります。
投資家にとっても、保有銘柄がEBOの対象になる可能性はゼロではありません。EBOの発表があった場合には、買収後のバランスシートと返済計画の健全性を確認することが、投資判断の重要なチェックポイントです。

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