損出しとは|クロス取引の手順・税金計算の具体例・「意味ない」ケースの見極め方

損出しとは、含み損を抱えた保有株をいったん売却して「税務上の損失」を確定させ、その年の売却益や配当と相殺(損益通算)することで税負担を軽くする手法です。売却後に同じ銘柄を買い戻すため、ポートフォリオを変えずに節税だけを実現できます。
年末が近づくと「損出し」「損出しクロス」というワードが検索される一方で、「損出しは意味がない」という声もあります。本記事では、クロス取引を使った具体的な手順・税金計算の実例に加え、損出しが意味を持つ条件と意味がないケースを整理します。
この記事の内容(目次)
損出しの仕組み
損出しの基本的な考え方
株式の売却益や配当には20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の税金がかかります。含み損はそのまま持っているだけでは課税上何も起きませんが、売却して「確定損失」にすると、同じ年の利益と相殺して課税対象額を減らせます。これが損出しの仕組みです。
損出しの対象になるのは、以下の両方の条件を満たす投資家です。
その年に譲渡益や配当などの利益が確定している(相殺相手がある)
含み損を抱えた銘柄を保有している(確定させる損失がある)
損益通算と3年間の繰越控除
損出しで確定した損失は、同じ年の以下の所得と相殺できます(国税庁:上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除)。
上場株式等の譲渡益
上場株式等の配当所得(申告分離課税を選択した場合)
損益通算しても損失が残る場合は、確定申告をすれば翌年以後3年間にわたって繰越控除が可能です。ただし繰越控除を受けるには、損失が生じた年から連続して確定申告書を提出する必要があります。
なお、損出しの対象は個別株に限りません。投資信託やETFの含み損も同様に売却して損益通算に使えます。特にインデックスファンドは同一指数に連動する別ファンドへ乗り換えれば、実質的なポジションを維持したまま損出しが可能です。
クロス取引を使った損出しの手順
損出しでは「売った銘柄をすぐ買い戻す」のがポイントですが、同一日に現物で売買すると、特定口座では「買いが先にあったもの」とみなされ、取得単価が平均化されてしまいます。これを避けるために、信用取引を組み合わせた「クロス取引」を使います。
STEP 1:含み損の現物株を成行で売却
損出ししたい銘柄の現物株を、成行注文で売却します。これで税務上の損失が確定します。
STEP 2:同日に同銘柄を信用買い(成行)
売却と同時に、同じ銘柄を同じ株数だけ信用買いの成行注文を出します。成行注文を同時に出すことで、同じ約定価格になり株価変動リスクをゼロにできます。
STEP 3:翌営業日に「現引き」で現物に戻す
翌営業日に信用買いポジションを「現引き」して現物株にします。これで保有状態に復帰し、損出し完了です。現引きは翌営業日に行うことで、取得単価の平均化を回避できます。
成行注文のタイミング
現物売りと信用買いの成行注文は、寄り前にまとめて発注するのが確実です。ザラ場中に片方ずつ出すと、約定価格がずれて差額が生じるリスクがあります。
税金計算の具体例
損出しの節税効果を、具体的な数字で見てみましょう。
前提条件
A株の売却で年間+50万円の利益が確定済み
B株を100万円で取得し、現在の時価が70万円(含み損−30万円)
損出しなし | 損出しあり | |
|---|---|---|
年間確定利益 | +50万円 | +50万円 |
損出しで確定した損失 | — | −30万円 |
課税対象額 | 50万円 | 20万円 |
税額(×20.315%) | 101,575円 | 40,630円 |
節税額 | — | 60,945円 |
損出しにより約6.1万円の税金を節約できます。B株はクロス取引で買い戻しているため、保有銘柄には影響しません。
取得単価のリセットに注意
損出し後、B株の取得単価は買い戻した価格(70万円)にリセットされます。将来B株を100万円で売却した場合、損出ししなければ利益ゼロ(取得100万→売却100万)ですが、損出し後は30万円の利益(取得70万→売却100万)が発生し、その分の税金(約6.1万円)がかかります。
つまり損出しは「税金の免除」ではなく「税金の支払いを将来に繰り延べる」効果です。ただし、手元のキャッシュを先に確保できるため、時間的な価値があります。
「損出しは意味ない」と言われる4つのケース
「損出しは意味がない」という声があるのは、以下のケースで本当に効果がないからです。自分が当てはまるかどうかを確認しましょう。
1. その年に利益が出ていない
損益通算は「その年の利益」と「その年の損失」を相殺する仕組みなので、相殺する利益がなければ節税効果はゼロです。確定申告をすれば損失を3年間繰り越せますが、翌年以降も利益が出なければ繰越控除も使い切れません。
2. NISA口座で保有している銘柄
NISA口座は非課税口座のため、そもそも損益通算の対象外です。NISA口座で発生した損失は、課税口座の利益と相殺することもできません。NISA口座の含み損銘柄を損出し目的で売却しても、損失は「なかったこと」になります。
3. 長期保有の株主優待を失う銘柄
株を一度売却すると、株主番号が変わり保有期間がリセットされる可能性があります。「3年以上保有で優待グレードアップ」などの長期保有特典がある銘柄では、節税額よりも優待の価値のほうが大きいことがあります。企業によっては同一名義の再取得で保有期間を引き継ぐ場合もありますが、確実ではありません。
4. 売買コストが節税額を上回る
信用取引の買建金利(年2〜3%程度)や手数料が発生します。含み損が小さい銘柄では、コストが節税額を上回り、実質的に損をするケースがあります。目安として、含み損が数万円以下の銘柄は手数料負けしやすいので事前に試算しましょう。
損出しの注意点とリスク
受渡日ベースで年内に確定させる
株式の譲渡損益は「約定日」ではなく「受渡日(約定日の2営業日後)」ベースで計算されます。年末に損出しする場合、受渡日が年内に収まるように逆算する必要があります。
年 | 大納会(年内最終取引日) | 年内受渡の最終約定日 | 備考 |
|---|---|---|---|
2025年 | 12月30日(火) | 12月26日(金) | 29日(月)約定分は受渡が1/5 |
2026年 | 12月30日(水) | 12月28日(月) | 29日(火)約定分は受渡が翌年 |
仮装売買とみなされるリスク
仮装売買とは、同一人物が同じ価格で売買をぶつけて相場が活発であるかのように見せかける行為で、金融商品取引法第159条で禁止されている相場操縦行為です。
大型株であれば通常の売買の範囲として問題になりにくいですが、出来高が極端に少ない小型株では、自分の注文が出来高の大部分を占めてしまい問題視される可能性があります。1日の出来高に対して注文数量が大きすぎないか、事前に確認しましょう。
信用取引口座の開設が必要
クロス取引による損出しには信用取引口座が必要です。信用口座の開設には審査があり、通常1〜3営業日かかります。また、信用取引の発注には最低30万円の委託保証金(現金または代用有価証券)が口座に必要です。少額の損出しでもこの条件を満たさないと発注できないため、事前に確認しましょう。年末に慌てないよう、早めに準備しておきましょう。なお、信用口座を持っていない場合でも、翌日に現物で買い戻す方法はありますが、株価変動リスクを負う点に注意が必要です。
配当の権利確定日に注意
損出しで一時的に株を手放す際、権利確定日(配当・優待の権利が付く日)をまたがないよう注意してください。権利付き最終日に現物を保有していないと、その期の配当や優待を受け取れません。損出しは権利確定月を避けるか、権利付き最終日の後に行うのが安全です。
貸株サービス利用中は早めに解除
含み損銘柄を貸株サービスに出している場合、貸株中の株式はそのまま売却できないことがあります。返還手続き(貸株の解除)から売却可能になるまで数営業日かかる証券会社もあるため、年末ギリギリに気づくと受渡日に間に合わないリスクがあります。損出しを予定している銘柄は、12月上旬までに貸株を解除しておきましょう。
損出しに適した証券会社の選び方
損出しのコストを左右するのは、主に信用取引の売買手数料と買建金利です。
証券会社 | 信用取引手数料 | 制度信用 買建金利 |
|---|---|---|
SBI証券 | 無料 | 年2.80% |
楽天証券 | 無料 | 年2.80% |
松井証券 | 無料 | 年3.10% |
損出しクロスでは信用ポジションを翌日に現引きするため、金利は1日分しかかかりません。たとえば100万円の信用買いを1日持った場合、年2.80%なら金利は約77円です。現物売買の手数料が無料の証券会社なら、損出しのコストはほぼこの金利のみです。なお、金利は各社の改定により変動します。最新の金利は各証券会社の公式サイトでご確認ください。
損出しと関連する制度
損出しと「益出し」の違い
損出しの逆が「益出し」です。益出しは含み益のある銘柄を売却して利益を確定させ、その年の損失と相殺する手法です。たとえば年内に大きな損失が出ている場合に、含み益のある銘柄を益出しすれば、利益に対する課税をゼロにできます。
新NISAと損出しの関係
2024年から始まった新NISA制度では、NISA口座内の損益は課税口座と完全に分離されています。以下の点を押さえておきましょう。
NISA口座の損失は損益通算できない——NISA口座で含み損の銘柄を売却しても、課税口座の利益と相殺できません
NISA口座の損失は繰越控除もできない——確定申告しても翌年以降に繰り越せません
損出しは課税口座(特定口座・一般口座)の銘柄が対象——NISAの非課税メリットと損出しの節税は両立しない設計です
ロスカット(損切り)との違い
損出しとロスカット(損切り)はどちらも損失を確定させる行為ですが、目的が異なります。
損出し | ロスカット(損切り) | |
|---|---|---|
目的 | 節税(税金の繰り延べ) | 損失拡大の防止 |
銘柄への評価 | 将来性を信じて保有継続 | 見切りをつけて手放す |
買い戻し | 同銘柄を即座に買い戻す | 買い戻さない |
時期 | 主に年末 | 随時(ルールに従う) |
損出しの実行チェックリスト
年末に損出しを実行する際の確認事項をまとめました。
年間の損益を確認——証券会社の「年間損益」画面で確定利益を確認。利益がなければ損出しの効果なし
含み損銘柄の洗い出し——課税口座(特定口座・一般口座)で含み損のある銘柄を確認。NISA口座は対象外
長期保有優待の有無を確認——損出し対象銘柄に長期保有条件の株主優待がないか確認
コストの試算——含み損×20.315%で節税額を計算し、信用金利(1日分)を差し引いてもプラスか確認
信用取引口座の確認——信用口座がなければ早めに開設手続き(審査に1〜3営業日)
最終約定日の確認——年内受渡の最終約定日を確認し、その前営業日までにクロス取引を完了させる
権利確定日をまたがないか確認——配当・優待の権利付き最終日を確認。権利確定月の損出しは権利落ち後に行う
翌営業日の現引きを忘れない——信用買いのまま放置すると金利が毎日かかる。翌営業日に必ず現引きを実行
まとめ
損出しは「税金の免除」ではなく「税金の繰り延べ」ですが、手元資金を先に確保できる実用的な節税手法です。クロス取引(信用買い→翌日現引き)を使えばポートフォリオを変えずに実行でき、大型株なら売買コストも最小限に抑えられます。
一方で、NISA口座の銘柄は対象外、利益のない年は効果なし、長期保有優待を失う可能性——といった「意味のないケース」もあります。年末の損出しを検討する際は、まず自分の年間損益と対象銘柄の条件を確認するところから始めましょう。

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