TKC(9746)の企業分析|税理士1.1万人ネットワークと自治体DXの「二刀流」モデル

TKC(9746)は、全国1.1万名超の税理士・公認会計士で構成する「TKC全国会」と連携して会計事務所に情報サービスを提供するとともに、地方公共団体向けに行政クラウドシステムを展開する、創業60年の情報サービス企業です。
2025年9月期は売上高834.8億円(前期比+11.0%)、営業利益161.4億円(同+4.1%)と増収増益を達成。続く2026年9月期Q3(累計)では営業利益165.3億円(前年同期比+26.8%)と大幅増益を記録し、通期営業利益予想176.0億円に対する進捗率は93.9%に達しています(2026年9月期 第3四半期決算短信)。
この記事では、TKCの2つの事業の仕組みと競争優位、業績推移、AIエージェント戦略、投資判断のポイントを、個人投資家の視点からわかりやすく解説します。
この記事の内容(目次)
会社概要 — 会計事務所と地方自治体の「二刀流」情報サービス
TKCは、公認会計士・税理士の飯塚毅氏が1966年に栃木県宇都宮市で創業した情報サービス企業です。「会計事務所の職域防衛と運命打開」「地方公共団体の行政効率向上」という2つの事業目的を掲げ、創業以来一貫して会計事務所と地方公共団体の2分野に専門特化してきました(TKC 会社概要)。
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | 株式会社TKC |
証券コード | 9746(東証プライム) |
設立 | 1966年10月(創業者: 飯塚毅) |
代表取締役社長 | 飯塚真規 |
従業員数 | 2,964名(連結、2025年9月末時点) |
本社 | 栃木県宇都宮市 |
セクター | 情報・通信業 |
決算月 | 9月 |
60年間ブレない「二刀流」戦略
TKCの特徴は、創業以来60年にわたって会計事務所と地方公共団体という2つの専門市場に特化し続けている点にあります。情報サービス業界では多角化が一般的ですが、TKCは法律・会計の専門領域に絞り込むことで、深い業務知見とシステムの信頼性を築いてきました。
1966年 — 飯塚毅が栃木県計算センターとして設立。会計事務所向け計算サービスを開始
1971年 — 「TKC全国会」を結成。税理士・公認会計士の全国ネットワークを構築
1996年 — 東証一部に上場(現・東証プライム)
2020年 — 「FXクラウドシリーズ」の提供を開始。中小企業の経理DXを推進
2026年 — 164団体のガバメントクラウド移行を完了。AIエージェントの提供を予定
2025年9月期の売上構成比は、会計事務所事業が63.3%、地方公共団体事業が33.0%、印刷事業が3.7%。会計事務所向けが安定収益の柱、地方公共団体向けが成長エンジンという構図です(2025年9月期 決算短信)。
セグメント別売上構成比(2025年9月期)
通期業績推移(売上高・営業利益・営業利益率)
2つの事業を理解する
TKCの事業は「会計事務所事業」「地方公共団体事業」「印刷事業」の3セグメントで構成されますが、収益の柱は前者2つです。それぞれの仕組みを見ていきましょう。
会計事務所事業 — TKC全国会1.1万名が支えるストック型ビジネス

会計事務所事業は売上高528.3億円(2025年9月期)、営業利益率23.6%を稼ぐ収益の柱です。TKC独自のビジネスモデルは「TKC全国会」にあります。
会計事務所事業の核は、TKC会員事務所が関与先企業に毎月巡回監査を行い、月次決算を確定させる「TKCシステム」にあります。遡及的な訂正加除を禁止する仕組みにより、TKCが無償発行する「記帳適時性証明書」は税務申告の信頼性を第三者として証明します。この仕組みがスイッチングコストを高め、競合への乗り換えを起こりにくくしています。
関与先企業向けには「FXクラウドシリーズ」を33.5万社に提供しています(2026年3月末時点)。企業規模に応じて「FXまいスタークラウド」(小規模事業者向け)、「FX2クラウド」(中小企業向け)、「FX4クラウド」「FX5クラウド」(中堅・大企業向け)とラインアップを揃え、電子帳簿保存法への完全準拠やペポルインボイス対応など、制度対応の早さも競争力の源泉です。
大企業向けでは、連結会計・連結納税の「TKC連結グループソリューション」が約6,200企業グループに導入され、上場企業における市場シェアは44%に達しています。上場企業売上高トップ100社のうち94社(94%)がTKCシステムを利用しており、大企業の税務・会計インフラとして確固たるポジションを築いています(2026年9月期 第3四半期決算短信 p.6)。
また、2026年5月にはAIエージェント「OMSエージェント」「FXエージェント」の開発方針を公表し、2026年9月のサービス開始を予定しています。「Governance by Design」と「Human in the Loop」を設計原則に据え、データ保護と税理士法に準拠した安全なAI活用を目指す「Platform-Native AI」のアプローチが特徴です。
地方公共団体事業 — ガバメントクラウド移行完了と次なるスマート行政DX

地方公共団体事業は売上高275.7億円(2025年9月期、前期比+26.7%)と急成長中のセグメントです。主力は自治体向けクラウドサービス「TASKクラウド」で、「TKC行政クラウドサービス」全体では1,150を超える地方公共団体(都道府県・市区町村)に採用されています。
2026年9月期の最大のトピックは、顧客164団体(48市・99町・17村)すべてで標準仕様準拠システムへの切り替えとガバメントクラウドへの移行を完了したことです(2026年2月9日ニュースリリース)。国が定める移行期限(2026年3月末)より前に全団体の移行を完了しています。
TASKクラウドは住民記録、税務、福祉、国保、年金、公会計など自治体業務を幅広くカバーします。標準化完了後の成長ドライバーとして、TKCは以下の「スマート行政DX」を推進しています。
TASKクラウドかんたん窓口システム — 「行かない・待たない・書かない」窓口を実現。130団体に導入
TASKクラウドスマート申請システム — 行政手続きのオンライン化を支援。大阪市・横浜市など政令指定都市を含む70団体に導入
TASKクラウド証明書コンビニ交付 — マイナンバーカードを活用したコンビニでの各種証明書交付。280団体に導入
公金納付のデジタル化 — 2026年9月開始の新制度に対応。eLTAX連携と各種税務システムを統合
Q3累計では地方公共団体事業の売上高は253.3億円(前年同期比+36.1%)、営業利益は69.2億円(同+304.3%)と大幅増益を達成。標準化に伴うコンサルティング売上やソフトウェア利用料の増加が牽引しました。
印刷事業(TLP)
子会社の株式会社TLP(旧・TKCローム販売)が手がける印刷事業は、コンピュータ用連続伝票やデータプリントサービスを提供しています。売上高は30.8億円(2025年9月期)で全体の3.7%を占めます。デジタル化の進展に伴い紙の帳票需要は減少傾向ですが、選挙に係る通知業務や年末調整関連のアウトソーシング受託で底堅い需要があります。
業績推移と財務分析
通期業績の推移
TKCの通期業績は2021年9月期を底に5期連続で増収増益が続いています。営業利益率は19〜20%台で安定しており、2026年9月期会社予想では売上高868.0億円(前期比+4.0%)、営業利益176.0億円(同+9.0%)を見込んでいます。
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 | 純利益 | EPS |
|---|---|---|---|---|---|
2022/9 | 678.4億円 | 133.5億円 | 19.7% | 93.2億円 | 177.62円 |
2023/9 | 719.2億円 | 143.4億円 | 19.9% | 108.3億円 | 206.54円 |
2024/9 | 752.2億円 | 155.1億円 | 20.6% | 112.7億円 | 216.21円 |
2025/9 | 834.8億円 | 161.4億円 | 19.3% | 120.9億円 | 234.31円 |
2026/9(予) | 868.0億円 | 176.0億円 | 20.3% | 128.5億円 | 248.93円 |
投資指標
指標 | 値 |
|---|---|
株価 | 4,140円 |
時価総額 | 2,047億円 |
PER(実績) | 17.7倍 |
PBR | 1.96倍 |
配当利回り(実績) | 2.66% |
ROE | 11.5% |
自己資本比率 | 85.5%(2026年6月末時点) |
PER 17.7倍は情報・通信セクターの中では割安な水準にあります。自己資本比率85.5%と極めて健全な財務基盤を持ち、有利子負債も軽微。ROE 11.5%は高くはありませんが、自己株式取得(2025年9月期に33億円実施)を通じた資本効率改善の姿勢も見せています。
配当推移 — 12期連続増配を予定
1株配当の推移(分割調整後)
TKCは12期連続の増配を予定しています。2026年9月期の配当予想は1株あたり126円(中間55円+期末71円)で、前期の110円から16円の増配です(期末配当の内訳は普通配当55円+特別配当16円)。Q3決算発表と同日に配当予想の上方修正を発表しました。配当性向は46.9%(2025年9月期実績)と、利益の約半分を株主に還元するバランスの取れた方針です。
投資家が注目すべきポイント
成長ドライバー
1. スマート行政DXによる自治体事業の第2波
標準仕様対応の移行は完了しましたが、自治体のDXはここからが本番です。かんたん窓口システム(130団体)、スマート申請(70団体)、証明書コンビニ交付(280団体)はいずれも全国約1,700の市区町村に対してまだ浸透率が低く、サブスクリプション型のソフトウェア利用料が継続的な収益を生む構造です。2026年9月開始の公金納付デジタル化対応も新たな需要を創出します。
2. AIエージェントによる付加価値向上
2026年9月提供開始予定の「OMSエージェント」「FXエージェント」は、会計事務所と関与先企業の生産性を高めるAIサービスです。TKCのアプローチは、AIが参照するデータをTKCシステム内に限定する「Platform-Native AI」で、セキュリティと法令遵守を両立しています。これが既存の33.5万社に対する追加課金やアップセルにつながる可能性があります。
3. 高い解約障壁のストック型収益モデル
TKCシステムの特徴は、巡回監査と月次決算のプロセスがシステムに組み込まれている点です。記帳適時性証明書の発行、TKCモニタリング情報サービスによる金融機関との連携など、単なる会計ソフトではなく業務フロー全体を支えるインフラであるため、競合への乗り換えは容易ではありません。TKCシステム利用企業の黒字企業割合は58.1%で、全法人の黒字申告割合36.5%を大きく上回ります。
リスク・注意点
1. 標準化特需の一巡
地方公共団体事業のQ3累計コンサルティングサービス売上は前年同期比+810.3%という驚異的な伸びを記録しましたが、これは164団体の移行支援という一時的な特需が大きく寄与しています。2026年9月期Q4以降にこの特需が剥落した場合、地方公共団体事業の成長率は大幅に鈍化する可能性があります。ガバメントクラウド運用管理補助業務の受託やソフトウェア利用料の積み上がりでどこまでカバーできるかがポイントです。
2. 会計事務所事業の利益率低下
会計事務所事業のQ3累計営業利益は前年同期比-15.6%と減益でした。売上は+2.8%と堅調ですが、Q2における全社的な業績連動賞与の計上と採用強化が利益を圧迫しています。限界利益率は前年同期並みを維持しており一時的とされていますが、人件費上昇が続く環境下で利益率を維持できるか注視が必要です。
3. クラウド会計ソフトとの長期的な競合
freee、マネーフォワード、弥生といったクラウド会計ソフトは、税理士を介さずに中小企業が直接利用するモデルで急成長しています。TKCのビジネスモデルは「税理士を通じた導入」が前提であり、会計事務所を経由しないDXが広がれば中長期的に市場が侵食されるリスクがあります。ただし、TKCの強みは単なる会計ソフトではなく、巡回監査という「人のサポート」とセットになったサービスである点で、すぐに代替されるものではありません。
まとめ
TKC(9746)の投資判断のポイントをまとめます。
「二刀流」の安定成長モデル — 会計事務所事業(63%)と地方公共団体事業(33%)の2本柱で、営業利益率19%超を維持
TKC全国会1.1万名の独占的ネットワーク — 巡回監査を組み込んだ仕組みが高いスイッチングコストを生み、33.5万社のストック型収益基盤を形成
自治体DXが成長エンジン — 164団体のガバメントクラウド移行完了に続き、スマート行政DXや公金納付デジタル化で持続成長を狙う
12期連続増配+自己資本比率85.5% — 配当性向46.9%、PER 17.7倍と、安定配当と割安感を兼ね備える
注意点は標準化特需の一巡と会計事務所事業の利益率低下 — Q4以降のセグメント別利益動向を確認したい
TKC
TKCは会計事務所向けと地方公共団体向けの情報処理サービス、ソフトウェア・コンサルティングサービスを提供。TKC統合情報センター、インターネット・サービスセンター(TISC)によるコンピューターサービス、システムコンサルティング、TLP・ス…

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