キヤノン(7751)の企業分析|プリンティング売上5割×ナノインプリント露光装置×イメージング急成長の4事業体制

キヤノン(7751)は、オフィス複合機・プリンターを主力とするプリンティング事業を軸に、メディカル(医療機器)、イメージング(カメラ・監視カメラ)、インダストリアル(半導体露光装置)の4事業を展開する精密機器メーカーです。
2025年12月期は売上高4兆6,247億円(前期比2.5%増、2期連続過去最高)、営業利益4,554億円(同62.8%増)。増益率が大きいのは2024年12月期にメディカル事業ののれん減損損失1,651億円を計上した反動で、減損を除いた実質ベースでは2.4%増です。
2026年12月期は上期(1〜6月累計)が売上高2兆2,745億円(前年同期比3.5%増)・営業利益2,306億円(同7.6%増)と増収増益で折り返し、通期は売上高4兆8,000億円・営業利益4,650億円を計画しています(期初計画の営業利益4,790億円を4月に4,560億円へ下方修正した後、7月に4,650億円へ再修正)。
この記事では、キヤノンの4事業の構造、ナノインプリント半導体露光装置の将来性、イメージング事業の成長、業績推移と投資判断のポイントを、個人投資家の視点から解説します。
この記事の内容(目次)
会社概要 — 光学技術から半導体・医療・映像まで広がる事業ポートフォリオ
キヤノンは1933年に精機光学研究所として発足し、1937年8月に精機光学工業株式会社として法人設立されました。カメラの光学技術を起点に事業を多角化してきました。現在は「プリンティング」「メディカル」「イメージング」「インダストリアル」の4つのビジネスユニットで構成され、プリンティング事業が売上高の過半を占めています。
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | キヤノン株式会社 |
証券コード | 7751(東証プライム) |
設立 | 1937年8月(精機光学工業株式会社) |
代表取締役 | 御手洗冨士夫(会長CEO)/小川一登(社長COO) |
従業員数 | 約16.6万人(連結、2025年12月末) |
本社 | 東京都大田区下丸子 |
決算期 | 12月期(米国基準) |

4事業の売上構成(2025年12月期)
ビジネスユニット別売上構成比(2025年12月期)
プリンティングが売上高の54%を占めるのがキヤノンの特徴です。ただし2026年12月期予想ではイメージングの構成比が23%→25%に拡大する一方、プリンティングは54%→53%、メディカルは13%→12%とシフトが進む見通しです。
4つの事業を理解する
① プリンティング — 売上2.5兆円の利益基盤
オフィス向け複合機(2025年下期から投入中の新シリーズ「imageFORCE」および従来のimageRUNNER ADVANCEシリーズ)、家庭用インクジェットプリンター(PIXUSシリーズ)、商業印刷機(imagePRESS)を展開するキヤノンの主力事業です。2025年12月期は売上高2兆4,944億円(構成比54%)を計上しました。
オフィス向けは欧米で投資先送り傾向が続きやや軟調ですが、トナーやインクなど消耗品のリカーリング収入が安定利益を支えています。商業印刷分野は2025年に欧米で顧客の投資先送りが続いたものの、2026年4〜6月期は印刷会社の投資再開で連帳機・高速カットシート機が伸びて増収に転じ、通期では7.3%増収を計画しています。
② イメージング — EOS Rとネットワークカメラで急成長
イメージング事業はカメラ・レンズとネットワークカメラ(映像監視)の2本柱で構成されます。2025年12月期は売上高1兆549億円(前期比12.5%増)と大幅成長を達成しました。
カメラはフルサイズミラーレス「EOS R」シリーズが牽引。2025年11月発売の「EOS R6 Mark III」を中心にフルサイズ機の平均単価が上昇し、若年層に人気のエントリー機やコンパクトカメラも急伸しています(2026年12月期上期のイメージング売上高は5,527億円、前年同期比16.9%増)。ネットワークカメラは、1996年に世界で初めてネットワークカメラを製品化したAxis Communications(2015年買収)を核に、欧米を中心とした販売ネットワークと製品ラインアップの広さを強みとしており、AIを活用した映像解析ソリューションへと進化しています。
③ メディカル — CT・MRIのキヤノンメディカルシステムズ
2016年に東芝メディカルシステムズを約6,655億円で買収し、キヤノンメディカルシステムズとして展開。CT(コンピュータ断層撮影)、MRI、超音波診断装置などを手がけます。2025年12月期は売上高5,806億円(構成比13%)でした。2026年4月に発売した国産初のフォトンカウンティングCT(光子計数型CT)「Ultimion」は、被ばく低減と高分解能を両立する次世代CTとして注目されています。
受注は米国・新興国で堅調ですが、2026年は4月に実施した生産システム切替の不具合と調達先の被災で部品が納期どおりに揃わず、製品供給に大幅な遅れが出ています。上期(1〜6月累計)は売上高2,774億円(前年同期比0.7%減)・営業利益83億円(同29.2%減)で、通期の会社計画も売上高5,682億円(2.1%減)・営業利益228億円(30.4%減)の減収減益。9月の生産正常化後、第4四半期からの売上回復が焦点です。
④ インダストリアル — 半導体露光装置とナノインプリントの挑戦

インダストリアル事業は半導体露光装置、FPD(フラットパネルディスプレイ)露光装置、有機ELディスプレイ製造装置を手がけます。2025年12月期は売上高3,611億円(構成比8%)でした。
半導体露光装置ではKrF(フッ化クリプトン)やi線ステッパーが主力で、後工程向け露光装置では業界標準の地位を確立。TSMCの「2025 Excellent Performance Awards」でExcellent Production Support(生産支援)部門を受賞するなど、品質面の評価は高い(キヤノン ニュースリリース 2025年12月24日)。
ビジネスユニット別売上高推移(2025年 → 2026年予想)
業績推移と財務分析
通期業績の推移
キヤノンの業績はコロナ禍の2020年を底に回復基調にあります。2025年12月期は売上高4兆6,247億円と2期連続で過去最高を更新しました。
営業利益4,554億円(前期比62.8%増)の増益率が大きいのは、2024年12月期にメディカル事業ののれん減損損失1,651億円を計上した反動が主因です。減損を除いた2024年12月期の営業利益は4,449億円で、実質ベースでは2.4%増(105億円増)にとどまります。イメージング事業の好調で米国関税の影響を吸収した形です。
通期業績推移(売上高・営業利益・営業利益率)
2026年12月期 上期の進捗 — 第1四半期の減益から第2四半期に急回復
2026年12月期は上期(1〜6月累計)で売上高2兆2,745億円(前年同期比3.5%増、上期として過去最高)、営業利益2,306億円(同7.6%増)、純利益1,712億円(同9.8%増)と増収増益で折り返しました。ただし四半期ごとの中身は対照的です。
期間 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|
第1四半期(1〜3月の3ヶ月) | 1兆937億円(+3.3%) | 714億円(△26.1%) | 483億円(△33.1%) |
第2四半期(4〜6月の3ヶ月) | 1兆1,809億円(+3.6%) | 1,592億円(+35.2%) | 1,229億円(+46.9%) |
上期累計(1〜6月) | 2兆2,745億円(+3.5%) | 2,306億円(+7.6%) | 1,712億円(+9.8%) |
2026/12 通期(会社計画) | 4兆8,000億円(+3.8%) | 4,650億円(+2.1%) | 3,400億円(+2.4%) |
第1四半期(3ヶ月)は営業利益26.1%減。メモリ価格の高騰と米国追加関税に加え、粗利率の低い製品・顧客の比率が上がりました。会社はこの時点で通期営業利益を期初計画の4,790億円から4,560億円へ230億円引き下げています(メモリのコストアップ約500億円を織り込み)
第2四半期(3ヶ月)は営業利益35.2%増。米国追加関税の還付580億円と円安(為替で289億円のプラス)が、メモリ・原材料のコスト増と中東情勢の影響を吸収しました。売上高は第2四半期として過去最高です
通期計画は7月に4,650億円へ90億円の再修正。関税還付を含む米国関税影響(+375億円)と円安(+341億円)が、中東情勢(△346億円)とメモリ価格の追加コストアップ(△60億円)をわずかに上回りました。期初計画の4,790億円には届いていません
上期累計の事業別では、イメージングが売上高5,527億円(前年同期比16.9%増)・営業利益976億円(同38.8%増)と牽引役です。プリンティングは売上高1兆2,399億円(同1.5%増)・営業利益1,575億円(同5.0%増)と堅調な一方、メディカルは営業利益83億円(同29.2%減)、インダストリアルは売上高1,452億円(同9.1%減)・営業利益174億円(同33.1%減)と足を引っ張っています。
純利益と配当の推移
キヤノンは2020年のコロナ禍で減配(160円→80円)しましたが、その後は着実に増配を続けています。2025年12月期は年間160円配当(前期比5円増)、配当性向42.9%(会社開示ベース)でした。
純利益と1株配当の推移
バリュエーション
指標 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
株価 | 4,425円 | 2026年9月15日終値 |
時価総額 | 約5.90兆円 | 発行済株式数13億3,376万株ベース |
PER(実績) | 12.0倍 | 2025/12期EPS 367.48円ベース |
配当利回り | 3.62% | 年間160円ベース |
自社株買い | 2,000億円枠を取得完了(2026年9月7日発表) | 2026年1月決議の枠(上限5,400万株・2,000億円)を9月4日までに4,533万株・1,999億9,971万円で取得終了。期中平均株式数は10年で約17%減少(自己株式は未消却) |
PER12.0倍(2026年9月15日終値4,425円、2025年12月期EPS367.48円ベース)は総合電機・精密機器セクターの中では割安水準です。キヤノンは積極的な自社株買いでも知られ、期中平均株式数は過去10年で約17%減少しました(2015年12月期10億9,202万株→2025年12月期9億360万株)。なお自己株式を消却していないため、発行済株式数自体は13億3,376万株で変わっていません。
2026年1月29日に決議した自己株式取得(上限5,400万株・2,000億円、期間は2027年1月29日まで)は、2026年9月7日に取得終了を発表しました。1月30日〜9月4日に4,533万1,900株を総額1,999億9,971万円で買い付け、枠をほぼ使い切った形です。年間配当160円(2026年9月15日終値ベースで利回り3.62%)と合わせ、配当と自社株買いを合わせた総還元利回りは高水準です。
投資家が注目すべきポイント
強み・成長ドライバー
イメージング事業の急成長がポートフォリオの質を変えつつあります。ミラーレスカメラEOS Rシリーズの平均単価上昇とコンパクトカメラの急伸、ネットワークカメラ(Axis)のAI映像解析ソリューション化により、イメージングの売上構成比は2026年12月期に25%へ拡大する見通しです(上期の売上高は前年同期比16.9%増)。成熟したプリンティング事業への依存度が徐々に低下するポジティブな構造変化です。
ナノインプリントは「当たれば大きい」長期テーマです。EUV露光装置のASML独占体制に風穴を開ける可能性を持つ技術で、量産採用が進めばインダストリアル事業の利益構造が大きく変わります。ただし現時点ではインダストリアル事業全体の売上構成比は8%と小さいため、過度な期待は禁物です。
株主還元は手厚い。配当利回り3.6%に加え、2026年は2,000億円の自社株買いを9月に取得完了。PER12.0倍(2026年9月15日終値ベース)とバリュエーションも割安で、総合電機セクターの中ではインカム投資に適した銘柄です。
注意すべきリスク
プリンティング事業のペーパーレス化リスクは構造的な課題です。オフィスの印刷量は長期的に減少傾向にあり、欧米では設備投資の先送りが続いています。消耗品のリカーリング収入で利益は維持できていますが、売上高の成長は限定的です。
ナノインプリントの技術課題は未解決です。パーティクル(異物付着)制御、スループット、マスク耐久性など量産に必要な課題は残っています。会社は2027年の量産適用を目標に掲げていますが(キヤノン 2026年12月期第2四半期決算説明会)、一方で業界メディアからは「EUVとの直接競合は当面困難」との慎重な見方も出ています(Bits&Chips報道)。
CEO後継のタイミングもガバナンス上の論点です。2026年3月に小川一登氏が代表取締役社長COOに就任し、御手洗冨士夫氏(1935年生まれ、会長CEO)との2トップ体制へ移行しました。ただしCEO職は御手洗氏が続投しており、CEO後継のタイミングは依然として明示されていません。長期投資を検討する際にはガバナンスリスクとして認識しておく必要があります。
まとめ
キヤノンは「プリンター会社」のイメージが強いですが、イメージング事業の急成長とナノインプリント技術という2つの変化の種を持つ企業です。投資判断のポイントをまとめます。
プリンティング(売上54%)は安定した利益基盤だが長期的なペーパーレス化リスクを内包
イメージング(売上23%→25%)がEOS R×ネットワークカメラで急成長中。ポートフォリオの質的転換を牽引
ナノインプリントはEUV代替の長期テーマ。会社は2027年の量産適用を目標に掲げるが、技術課題は残り達成は未確定
PER12.0倍・配当利回り3.6%(2026年9月15日終値ベース)と割安+高配当。2,000億円の自社株買いも完了し株主還元は手厚い
キヤノンの最新の株価・業績データは、以下の銘柄ページで確認できます。
キヤノン
デジタルカメラ・プリンタ・複合機・事務機などオフィス・映像機器を主力に展開。デジタル一眼レフ「EOS」シリーズ・コンパクトカメラ・ビデオカメラ、インクジェット・レーザープリンタ・複合機、医療・産業用機器、望遠鏡・双眼鏡等光学機器も製造販売。…










