富士電機(6504)の企業分析|IGBT世界3位×SiC量産拡大で営業利益率12%へ

富士電機(6504)は、パワー半導体のIGBTモジュールで世界シェア第3位のポジションを持ち、発電・送変電・FAシステム・自動販売機まで幅広い製品を展開する重電メーカーです。
2026年3月期は売上高1兆2,276億円(前期比+9.3%)、営業利益1,366億円(同+16.1%)と5期連続の増収増益を達成しました。2027年3月期はGX需要・データセンター電源の追い風を受け、営業利益1,565億円(同+14.6%)・営業利益率12.0%を会社予想としています(1Q決算時に上方修正)。その第1四半期(2026年4〜6月の3ヶ月)は売上高2,733億円(前年同期比+10.2%)、営業利益250億円(同+38.3%)と、1Qとして過去最高の滑り出しでした。
この記事では、富士電機の4セグメントの事業構造、パワー半導体IGBT/SiCの競争力、業績推移と投資判断のポイントを、個人投資家の視点から解説します。
この記事の内容(目次)
会社概要 — 古河×シーメンスの合弁から100年、パワー半導体で世界を席巻
富士電機は1923年に古河電気工業とドイツ・シーメンスの合弁会社として設立されました。社名の「富士」は古河の「ふ」とシーメンス(Siemens)の「じ」に由来します。設立以来100年以上にわたり、電力インフラ・産業用機器・半導体を主力とする重電メーカーとして成長してきました。

現在の主力はパワー半導体事業で、IGBTモジュールで世界シェア第3位(会社調べ)のポジションを持ち、世界トップクラスの一角を占めます。次世代のSiC(炭化ケイ素)パワー半導体でも量産体制を構築中です。一方で、自動販売機は国内シェア首位を維持しており、「インフラ×半導体×食品流通」という独自のポートフォリオが特徴です。
項目 | 内容 |
|---|---|
設立 | 1923年(大正12年) |
代表者 | 北澤通宏(代表取締役会長CEO) |
従業員数 | 26,955名(連結、2026年3月末) |
上場市場 | 東証プライム(6504) |
主要製品 | パワー半導体(IGBT/SiC)、インバータ、発電・変電設備、自動販売機 |
4セグメントの事業構造
富士電機はエネルギー・インダストリー・半導体・食品流通の4つの報告セグメントで構成されています。インダストリーが売上の約4割を占める最大セグメントですが、利益面ではエネルギーが最大の稼ぎ頭です。
セグメント別売上構成比(2026年3月期)
セグメント別売上高と営業利益(2026年3月期)
① エネルギー — GX需要で営業利益率15%の高収益
発電設備(地熱・水力)、送変電・受変電設備、エネルギーマネジメントシステムを展開するセグメントです。2026年3月期は売上高3,942億円、営業利益595億円(営業利益率15.1%)と全セグメント中最高の利益率を達成しました。再生可能エネルギーの導入拡大やデータセンター向け大容量電源のGX投資需要が好調です。
② インダストリー — FA・インバータで最大売上
インバータ、モーター、FAシステム、計測機器を展開する売上最大のセグメントです。2026年3月期は売上高4,672億円、営業利益444億円(営業利益率9.5%)でした。文教向けなどITソリューションの大口案件と、計測機器を中心とするFAコンポーネントの需要増が牽引しました。
③ 半導体 — IGBTモジュール世界3位、SiC量産体制を構築

パワー半導体(IGBT、SiCモジュール、パワーIC)を製造するセグメントです。2026年3月期は売上高2,374億円、営業利益235億円(営業利益率9.9%)でした。半導体は電動車(xEV)向けパワー半導体の需要減と原材料価格の高騰により、前期の371億円から▲36.6%の減益となり、2027年3月期も営業利益165億円(▲30%)と2期連続の減益予想です。会社は第8世代IGBTの量産開始や、電装モジュールのSiC売上比率を2026年度に25%へ拡大する計画(産業モジュールは第7・8世代IGBTの売上比率を約60%へ)を掲げていますが、全社の営業利益率12%への改善はエネルギー・インダストリーが牽引する構図で、半導体の回復は中期的な課題です。
④ 食品流通 — 自販機国内首位の安定事業
自動販売機、ショーケース、自動釣銭機などを展開するセグメントです。2026年3月期は売上高1,080億円、営業利益131億円(営業利益率12.1%)でした。国内自販機シェア首位の安定事業ですが、国内市場の成熟で大幅な成長は見込みにくい状況です。
業績推移と財務分析
通期業績の推移
富士電機は2022年3月期以降5期連続で増収・営業増益を達成しています。売上高は9,102億円→1兆2,276億円へ+34.9%成長し、営業利益率は8.2%→11.1%へ改善。2027年3月期は売上高1兆3,000億円、営業利益1,565億円(営業利益率12.0%)を見込みます。
通期業績推移(売上高・営業利益・営業利益率)
2027年3月期 第1四半期 — 1Qとして過去最高、通期予想を上方修正
2026年7月30日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月の3ヶ月)は、売上高2,733億円(前年同期比+10.2%)、営業利益250億円(同+38.3%)と、売上高・各利益とも第1四半期として過去最高を更新しました。純利益207億円(同+89.4%)の伸びには、政策保有株式の売却益(特別利益)が寄与しています。
項目 | 2026/3期 1Q | 2027/3期 1Q | 前年同期比 | 通期予想への進捗率 |
|---|---|---|---|---|
売上高 | 2,479億円 | 2,733億円 | +10.2% | 21.0%(1兆3,000億円) |
営業利益 | 181億円 | 250億円 | +38.3% | 16.0%(1,565億円) |
経常利益 | 173億円 | 256億円 | +47.8% | 16.3%(1,570億円) |
純利益 | 109億円 | 207億円 | +89.4% | 18.6%(1,115億円) |
セグメント別では、エネルギーとインダストリーの増益が全体を押し上げ、半導体は電装分野の需要減と原材料高で減益が続いています。
セグメント | 売上高(前年同期) | 営業利益(前年同期) | 主な要因 |
|---|---|---|---|
エネルギー | 825億円(742億円) | 121億円(84億円) | 発電プラントの工事進捗、蓄電システム・変電機器の大口案件 |
インダストリー | 1,039億円(873億円) | 85億円(29億円) | FAコンポーネントの国内外需要増、ITソリューションの大口案件 |
半導体 | 544億円(548億円) | 31億円(49億円) | 電動車(xEV)向けの需要減、原材料価格の高騰 |
食品流通 | 261億円(263億円) | 27億円(31億円) | 国内自販機の需要減(コンビニ向けカウンター機材は増加) |
1Qの好調を受け、会社は同日に通期予想を上方修正しました。修正後の売上高1兆3,000億円・営業利益1,565億円は、中期経営計画「熱く、高く、そして優しく2026」の最終年度目標(売上高1兆2,500億円・営業利益1,400億円・営業利益率11%超)をいずれも上回る水準です。
項目 | 当初予想(4月28日) | 修正後(7月30日) | 増減 |
|---|---|---|---|
売上高 | 1兆2,750億円 | 1兆3,000億円 | +250億円 |
営業利益 | 1,425億円 | 1,565億円 | +140億円 |
純利益 | 1,050億円 | 1,115億円 | +65億円 |
営業利益(半導体) | 130億円 | 165億円 | +35億円 |
純利益と配当の推移
配当は2022年3月期の100円から4年で200円へ倍増しました。配当性向は24〜30%の範囲で推移しており、業績成長に連動した増配路線が続いています。
自社株買いも動き出しました。2026年4月28日に上限250万株・210億円の自己株式取得枠を設定し、5月1日〜25日に140万4,600株・約210億円で取得を終えています(2026年5月26日開示)。2027年3月期の配当は中間107円のみ開示で、期末は未定です。
純利益と1株配当の推移
バリュエーション
指標 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
株価 | 12,475円 | 2026年9月15日終値 |
時価総額 | 約1兆8,625億円 | 2026年9月15日終値ベース |
PER(実績) | 18.8倍 | 2026/3期EPS 665.18円ベース。2027/3期予想EPS 763.74円では16.3倍 |
PBR | 2.30倍 | 2026/3期末BPS 5,428.63円ベース |
配当利回り | 1.60% | 2026/3期 年間200円 |
ROE | 11.6% | 期末純資産ベースのKabuGraph算出。会社公表の自己資本利益率(期中平均自己資本)は13.1% |
株価は8月28日の13,815円から9月15日の12,475円へ約10%下落し、PER 18.8倍は電機セクターの中では標準的な水準です。2027年3月期の予想EPSベースでは約16倍まで低下し、5期連続増益の安定成長を考慮すれば過度に割高とは言えません。ROE 11.6%(会社公表ベースでは13.1%)は重電メーカーとしては良好な水準です。
成長戦略 — SiCパワー半導体とGX・データセンター需要
SiCパワー半導体の量産拡大
富士電機の成長戦略の柱は、次世代パワー半導体であるSiC(炭化ケイ素)の量産拡大です。SiCデバイスはシリコンIGBTと比較して電力損失を約50%低減でき、EV・再エネ・データセンター電源で採用が急拡大しています。
富士電機は2026年度に電装モジュールのSiC売上比率を25%へ拡大する計画を掲げ(産業モジュールは第7・8世代IGBTの売上比率を約60%へ)、松本工場での生産能力を増強しています。業界で初めてRC-IGBTを市場展開して国内外の電動車メーカーに採用されるなど、豊富な市場実績と高信頼性技術を強みとしています(2026年5月の半導体事業戦略説明会)。
GX投資 — 再エネ・送電インフラの追い風
日本政府のGX(グリーン・トランスフォーメーション)政策により、再生可能エネルギー導入や送電網の整備投資が拡大しています。富士電機のエネルギー事業は地熱発電設備で世界シェア1位(会社調べ)、水力発電設備でも国内400ヵ所以上の納入実績(国内シェア約3割、会社公表)を持ち、受変電設備・エネルギーマネジメントでもGX関連の受注が増加中です。エネルギー事業の営業利益率15.1%はGX需要の恩恵を反映しています。
データセンター電源 — AI需要で中長期の成長ドライバー
AI・クラウドの急速な普及に伴い、データセンター向け大容量UPS(無停電電源装置)や高効率電源ユニットの需要が拡大しています。富士電機はUPSで国内トップシェアを持ち、エネルギー事業とパワー半導体事業の両方でデータセンター需要の恩恵を受けるポジションにあります。
まとめと投資判断のポイント
富士電機はパワー半導体IGBTモジュール世界3位のポジションと、GX・データセンター需要による構造的な追い風を背景に、5期連続増収増益で営業利益率12%を目指す安定成長銘柄です。
投資家として注目すべきポイント:
電装モジュールのSiC売上比率が2026年度に25%へ到達するか(半導体事業の利益率改善の鍵)
中国パワー半導体メーカーの参入による価格圧力の影響
GX投資の継続性と受注パイプラインの推移
配当性向30%への引き上げ方針が今後の増配余地を広げるか
同セクターの比較対象としては、FA・制御機器で事業が重なるキーエンス(6861)や、パナソニックHD(6752)(電機大手)との比較が参考になります。










