KabuGraph

アクセルスペースHD(402A)の企業分析|防衛省436億円受注とGRUS衛星群で挑む宇宙データビジネス

Cover Photo

アクセルスペースホールディングス(402A)は、光学地球観測衛星「GRUS」のコンステレーション(衛星群)運用と、顧客向け小型衛星の製造・運用を手がける宇宙ベンチャーです。

2025年12月に防衛省「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」の光学衛星画像納入を受注し、契約総額は436億円(税抜)に達しました。2026年7月には次世代衛星「GRUS-3」7機の打ち上げにも成功し、コンステレーションは10機以上の体制へ拡充しています。

この記事では、アクセルスペースHDの2つの事業の仕組み、防衛省案件の中身、GRUS衛星の技術、業績推移と投資判断のポイントを、個人投資家の視点からわかりやすく解説します。

会社概要 — 東大発・衛星ベンチャーの軌跡

アクセルスペースは、東京大学大学院で世界初の大学生手作り超小型衛星「CubeSat」の開発に携わった中村友哉氏が、2008年に設立した宇宙ベンチャーです。「Space within Your Reach(宇宙を普通の場所に)」を掲げ、衛星の小型化・低コスト化を追求してきました。

2024年7月に東証グロース市場に上場(証券コード: 402A)。上場によって調達した資金をGRUS衛星群の拡充と防衛省案件の設備投資に充てています。

項目

内容

社名

株式会社アクセルスペースホールディングス

証券コード

402A(東証グロース)

設立

2008年8月(上場: 2024年7月)

代表取締役

中村友哉(東京大学大学院航空宇宙工学専攻博士課程修了)

本社

東京都中央区

事業内容

小型衛星の開発・製造・運用、衛星画像データの販売・解析

決算期

5月

打ち上げ実績

累計18機の小型衛星を軌道上に投入(2026年7月時点)

出典:有価証券報告書・決算短信よりKabuGraph作成

中村社長は内閣府宇宙政策委員会の委員(2015年〜)も務めており、2022年には日本ベンチャー大賞「経済産業大臣賞」を受賞しています。

2つの事業を理解する

アクセルスペースHDは「AxelGlobe」(衛星データ事業)と「AxelLiner」(衛星製造・運用受託事業)の2つの事業で構成されています。2026年5月期の連結売上高25.0億円のうち、AxelLinerが15.2億円(61%)、AxelGlobeが9.8億円(39%)ですが、2027年5月期にはAxelGlobeが60.8億円へ急拡大し、売上構成が逆転する見込みです。

AxelGlobe — 衛星画像データプラットフォーム

AxelGlobeは、自社で開発・運用する光学地球観測衛星「GRUS(グルース)」が撮影した衛星画像データを、クラウドプラットフォーム経由で顧客に提供する事業です。農業(作物の生育監視)、環境モニタリング、インフラ管理、報道、金融・保険など幅広い産業で活用されています。

AxelGlobe衛星データプラットフォームのトップページ
出典:AxelGlobe公式サイト

GRUSは質量100kg級の光学小型衛星で、地上分解能2.5mの中分解能画像を撮影できます。2018年12月に初号機GRUS-1を打ち上げ、2021年3月にGRUS-1の追加4機を投入して5機体制のコンステレーションを構築。そして2026年7月7日、次世代機「GRUS-3」7機をSpaceXのFalcon 9ロケット(Transporter-17ミッション)で打ち上げ、全機の初期信号受信に成功しました。GRUS-3にはNikon製の望遠鏡が搭載されており、コンステレーションは計10機以上の体制へと拡充しています。

また、2026年9月2日にはAirbus Defence and Spaceと衛星画像販売のパートナーシップ契約を締結し、GRUSの中分解能光学衛星画像をAirbusの販売網を通じて世界市場に展開する体制を整えました。防衛省案件と並ぶ商用データ販売の拡大が期待されます。

AxelGlobe事業の顧客構成 — 商用はこれから

2026年5月期のAxelGlobe事業売上高9.9億円の内訳は、政府系機関向け8.7億円(前期比+585%)に対し、民間企業向けは1.2億円(同▲13%)でした。防衛省案件の本格化で政府系が急増した一方、民間商用売上はまだ小規模にとどまっています。2025年5月期は民間・政府がほぼ半々で合計2.6億円でしたが、防衛省契約開始で構成が大きく変わりました。

ただし、商用売上の本格拡大は「GRUS-3」の商用運用開始後です。2026年7月に打ち上げた7機は2026年中の運用開始を目指しており、LOI(購入意向書)を締結済みの企業は30社以上に達しています。Airbusとの販売提携も加われば、防衛省依存から脱却する足がかりになると期待されます。

AxelLiner — 顧客向け小型衛星の製造・運用

AxelLinerは、顧客の宇宙ミッションに必要な小型衛星をワンストップで提供する事業です。衛星の設計・製造・打ち上げ手配・運用までを一貫して担います。

主な収益源は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受けた「Kプログラム」(光衛星間通信技術の開発、2031年まで継続予定)と、2024年に発表した軌道上実証サービス「AxelLiner Laboratory(AL Lab)」です。AL Labは宇宙用コンポーネント(部品)の軌道上実証に特化したサービスで、第一号としてASPINA(シナノケンシ)と共同開発したリアクションホイールの実証が2026年中に実施予定です。

2026年5月期のAxelLiner事業売上高は15.2億円(前期比+14.8%)、2027年5月期は29.2億円(同+91.9%)を見込んでいます。

セグメント別売上構成比(2026年5月期実績)

出典:2026年5月期 決算短信よりKabuGraph作成

セグメント別売上推移と会社予想

出典:決算短信よりKabuGraph作成。2027/5は会社予想(2026年7月14日時点)

業績推移と財務分析

アクセルスペースHDは現在、先行投資フェーズの真っ只中にあり、売上は急成長する一方で赤字が続いています。投資家にとっては、売上成長率・赤字縮小のペース・資金繰りが最も重要な指標です。

通期業績推移(売上高・営業損益)

出典:決算短信よりKabuGraph作成。2027/5は会社予想(2026年7月14日時点)

売上高は急拡大、赤字幅は縮小へ

2026年5月期の売上高は25.0億円(前期比+58.1%)と大幅増収を達成しました。AxelGlobe事業で防衛省案件の一部が寄与し始めたことが主因です。しかし、営業損失は38.2億円(前期は24.9億円の損失)に拡大しました。GRUS-3打ち上げ費用やGRUS-3α(NEDO助成の実証衛星)の開発費、高分解能衛星の研究開発費が膨らんだためです。

なお、第3四半期(2026年4月14日開示)に通期業績予想を下方修正しており、売上高は当初計画の36.4億円から25.0億円へ引き下げられました。防衛省案件の売上計上タイミングの後ろ倒しが主因であり、受注自体がなくなったわけではありません。

2027年5月期は売上高90億円(前期比+258.8%)、営業損失8億円を見込んでいます。防衛省案件の通期寄与とGRUS-3の商用運用開始が牽引し、赤字幅は大きく縮小する計画です。

決算期

売上高

営業損益

経常損益

純損益

2025/5

15.8億円

▲24.9億円

▲24.0億円

▲24.0億円

2026/5

25.0億円

▲38.2億円

▲37.1億円

▲40.5億円

2027/5(予)

90.0億円

▲8.0億円

▲1.5億円

▲2.4億円

出典:決算短信よりKabuGraph作成。2027/5は会社予想(2026年7月14日時点)

受注残高533億円 — 将来の売上が「見える」構造

2026年5月期末の受注残高は533億円(前期比+366.3%)に達しました。このうちAxelGlobeが約431億円(防衛省案件が大半)、AxelLinerが約103億円(Kプログラム等)です。前期(2025年5月期)は防衛省契約前のため約114億円にとどまっていました。2031年3月まで安定的に売上計上が見込める構造は、赤字ベンチャーとしては極めて異例の安心材料です。

受注残高の推移(セグメント別)

出典:決算短信よりKabuGraph作成。2025/5のAxelGlobeは防衛省契約前のためほぼゼロ

資金繰り — 現預金58億円を確保

2026年5月期末の現預金残高は58.1億円です。年間の営業キャッシュ・フロー赤字が続いていますが、2024年の上場時の調達資金に加え、防衛省案件の売上が本格化する2027年5月期以降はキャッシュ・フローの改善が期待されます。ただし、衛星製造に伴う建設仮勘定が33.3億円増加しており、設備投資資金の需要は引き続き大きい点には注意が必要です。

投資家が注目すべきポイント

2031年に衛星30機体制を目指すロードマップ

アクセルスペースは2031年5月期までにコンステレーション運用機数を30機体制へ拡大する計画です。さらに高分解能衛星も5機の打ち上げを計画しており、2029年5月期に最初の2機を投入する予定です。高分解能衛星が加われば、中分解能のGRUSとの組み合わせで「広域を高頻度で監視しつつ、重要地点を高精細に撮る」という差別化されたサービスが可能になります。

宇宙防衛市場の拡大 — 2,831億円の国家プロジェクト

防衛省の「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」は総額2,831億円の大型事業で、SAR衛星(Synspective・QPS研究所が担当)と光学衛星(アクセルスペースが担当)を組み合わせた監視網を構築するものです。日本の宇宙防衛分野における民間企業の活用という歴史的な転換点であり、アクセルスペースはその中核を担う企業の1社です。

株価指標と投資判断のポイント

指標

備考

株価

522円

2026年9月時点

時価総額

約348億円

2026年9月時点

PER

—(赤字)

EPS ▲65.84円

PBR

4.99倍

2026年9月時点

配当利回り

0%(無配)

成長投資優先

受注残高

533億円

2026年5月期末

出典:東証株価・決算短信よりKabuGraph算出(2026年9月時点)

赤字ベンチャーの投資判断では、PERではなくPSR(株価売上高倍率)が参考になります。現在の時価総額348億円に対し、2027年5月期の会社予想売上高90億円で算出するとPSRは約3.9倍です。受注残高533億円という将来の売上可視性を考慮すると、宇宙ベンチャーとしては極端に割高とは言い切れませんが、黒字転換が実現するまでは不確実性が高い投資となります。

競合比較 — 宇宙データ企業3社

防衛省の衛星コンステレーション事業には、SAR衛星を手がけるSynspective(290A)とQPS研究所(464Aの中核子会社)も参画しています。アクセルスペースは唯一の光学衛星担当として差別化されていますが、3社ともに赤字ベンチャーである点は共通しています。一方、衛星通信の大手スカパーJSAT(9412)は同事業の中核パートナーであり、安定した収益基盤を持つ対照的な存在です。

まとめ

アクセルスペースHD(402A)は、防衛省436億円の大型受注、GRUS-3の打ち上げ成功、Airbusとの提携と、2026年に入って事業環境が大きく前進した宇宙ベンチャーです。

  • 強み: 光学衛星画像の国内リーディングカンパニー。防衛省案件で2031年まで安定売上、受注残高533億円。Airbus提携で海外販路を拡大

  • 課題: 営業赤字が継続中(2026/5期: ▲38.2億円)。PBR 4.99倍・無配当。下方修正の実績あり。黒字転換の時期は不透明

  • 注目点: 2027年5月期の売上高90億円・営業損失8億円の予想が達成できるか。GRUS-3の商用運用開始時期。高分解能衛星(2029年5月期打ち上げ予定)の開発進捗

宇宙データビジネスの成長性に賭ける投資であり、ハイリスク・ハイリターン型の銘柄です。四半期決算の進捗率、衛星打ち上げの成否、防衛省案件の検収タイミングを注視しながら投資判断を行うことが重要です。

コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

関連記事