IHI(7013)の企業分析|航空・宇宙・防衛が営業利益の7割、PW1100G問題克服で3期連続最高益へ
2027年3月期 第1四半期決算まで反映

IHI(7013)は、航空エンジン事業を中核とする重工業メーカーで、営業利益の約7割を航空・宇宙・防衛セグメントで稼いでいます。2024年3月期にPW1100Gエンジンの品質問題で営業損失701億円を計上しましたが、わずか2年で驚異的なV字回復を遂げました。
2026年3月期は売上収益1兆6,434億円、営業利益1,655億円で過去最高益を更新。2027年3月期は売上収益1兆8,400億円(+12.0%)、営業利益2,500億円(+51.0%)と3期連続の最高益更新を見込んでいます。
2027年3月期第1四半期(3ヶ月、2026年8月5日開示)は売上収益3,745億円(前年同期比+10.9%)、営業利益732億円(同208億円)と好発進しました。不動産売却益400億円を除いても第1四半期として過去最高益で、会社は同日に通期予想を上方修正しています。
この記事では、IHIの航空エンジン事業の収益構造、PW1100G問題からの回復、防衛事業の成長、投資判断のポイントを解説します。
会社概要 — 航空エンジンが利益の柱の重工メーカー
IHI(旧・石川島播磨重工業)は1853年に水戸藩の石川島造船所として創業した、170年以上の歴史を持つ重工業メーカーです。社名の「IHI」は旧社名の頭文字(Ishikawajima-Harima Heavy Industries)に由来します。造船由来の社名ですが、現在の利益の柱は航空エンジンの整備・スペアパーツ事業です。
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | 株式会社IHI(IHI Corporation) |
証券コード | 7013(東証プライム) |
本社 | 東京都江東区豊洲三丁目1番1号 |
代表取締役社長 | 井手 博 |
従業員数 | 26,224人(連結、2026年3月末) |
業種 | 機械(重工業) |
決算期 | 3月 |
時価総額 | 約3.1兆円(2026年9月17日終値時点) |
セグメント別売上構成比(2026年3月期実績)
セグメント別売上収益推移
売上構成は4セグメントに分かれますが、利益面では構図が全く異なります。航空・宇宙・防衛セグメントが営業利益1,124億円と報告セグメント合計(1,529億円)の73.5%、連結営業利益(1,655億円)の約68%を稼ぐ一極集中型の利益構造です(出典:IHI 2026年3月期決算短信)。
セグメント別営業利益(2025年3月期・2026年3月期)
ただし、稼ぎ頭の航空・宇宙・防衛セグメントは2025年3月期の営業利益1,227億円が過去最高で、2026年3月期は1,124億円と▲8.4%の減益でした。増益をけん引したのは産業システム・汎用機械(108億円→307億円)で、減益の要因は次章で説明します。
航空エンジン事業の収益構造を理解する
民間航空エンジン — 整備・スペアパーツが利益の源泉
IHIの航空エンジン事業は、GE(ゼネラル・エレクトリック)やプラット&ホイットニーが設計する航空エンジンのリスク&レベニューシェアリング・パートナー(RRSP)として、主要部品(ファンケース、低圧タービンなど)の設計・製造を担当するビジネスモデルです。
IHIが参画する主要エンジンプログラムは以下の通りです。
エンジン | 搭載機体 | IHIの役割 |
|---|---|---|
GE9X | ボーイング777X | 低圧タービン |
GEnx | ボーイング787・747-8 | 低圧タービン |
CF34 | リージョナルジェット | 低圧タービン、高圧圧縮機後段、シャフト |
V2500 | エアバスA319/A320/A321 | ファンモジュール、低圧シャフト |
PW1100G | エアバスA320neo | ファンケース、低圧圧縮機 |
PW1100G問題と克服
2023〜2024年、エアバスA320neoに搭載されるPW1100Gエンジンで粉末冶金ディスクの品質問題が発覚し、世界中で大規模なエンジン検査・交換が必要となりました。IHIは同エンジンの部品を供給するRRSPとして、2024年3月期第2四半期(2023年11月)に出荷済みエンジンの追加検査プログラムに伴う費用約1,600億円を計上し、海外子会社(IHI E&C)の訴訟和解約150億円と合わせて営業損失701億円に転落しました(特別要因を除く営業利益は1,042億円)。
問題は収束に向かい、2025年3月期には航空・宇宙・防衛セグメントの営業利益が1,227億円と過去最高を記録しました。一方、2026年3月期は1,124億円と▲8.4%の減益です。会社が示す増減要因は次のとおりです。
民間エンジン +35億円:アフターマーケットの販売増+365億円を、前期に少なかった整備費用の反動増▲270億円と新製エンジンの台数差・単価差▲60億円が相殺
防衛 +75億円:防衛工事の売上増と採算改善
研究費・人件費等の先行投資 ▲187億円、為替 ▲96億円(PW1100G-JM追加検査プログラムの為替影響▲59億円を含む)、前期の米エアライン貸倒引当金の反動 +70億円
つまり、アフターマーケットの販売自体は伸びており、整備費用の反動と将来に向けた先行投資が利益を押し下げた構図です。会社は2027年3月期のセグメント営業利益を1,370億円(+22%、2026年8月修正後)と過去最高の更新を見込んでいます(出典:IHI 2025年度決算説明資料)。
防衛事業 — 航空エンジンとロケット
防衛分野では、航空自衛隊の戦闘機用エンジン(F110/F135)の整備や、固体ロケットモーター(イプシロンSロケット等)を手がけています。次期戦闘機(GCAP)のエンジン開発にも参画しており、防衛事業の拡大が中期的な成長ドライバーとなります(出典:IHI 航空・宇宙・防衛事業紹介)。
産業システム・汎用機械 / 資源・エネルギー
産業システム・汎用機械セグメント(売上4,389億円、営業利益307億円)は車両過給機(ターボチャージャー)や産業用機械が中心です。資源・エネルギー・環境セグメント(売上3,735億円、営業利益59億円)は原動機・カーボンソリューション(ボイラー等)・原子力を手がけます。
資源・エネルギー・環境は2026年3月期に海外エネルギー事業の構造改革費用(▲100億円)などで利益率1.6%にとどまりましたが、原子力は民間エンジン・防衛と並ぶ成長事業と位置づけられています。原子力の需要拡大を背景に、2027年3月期の同セグメント営業利益は330億円(利益率8.5%)を見込みます。
業績推移と財務分析
IHIの業績推移は、2024年3月期のPW1100G問題による赤字転落と、そこからの驚異的なV字回復が最大の特徴です。
通期業績推移(売上収益・営業利益・営業利益率)
2027年3月期第1四半期(3ヶ月)の進捗
2026年8月5日に開示された第1四半期(4〜6月、3ヶ月)は、売上収益3,745億円(前年同期比+10.9%)、営業利益732億円(同+523億円)でした。不動産売却益400億円を除いた営業利益331億円でも第1四半期として過去最高益で、民間エンジン・原子力の成長事業に加え、国内カーボンソリューション・原動機の伸長と車両過給機の採算改善が寄与しました。
項目 | 2026/3 Q1 | 2027/3 Q1 | 増減 |
|---|---|---|---|
受注高 | 4,243 | 3,607 | ▲636(▲15.0%) |
売上収益 | 3,377 | 3,745 | +367(+10.9%) |
不動産売却除く営業利益 | 208 | 331 | +123 |
不動産売却益 | − | 400 | +400 |
営業利益 | 208 | 732 | +523 |
親会社所有者帰属四半期利益 | 116 | 535 | +419 |
航空・宇宙・防衛 売上収益 | 1,279 | 1,547 | +268(+21.0%) |
航空・宇宙・防衛 営業利益 | 279 | 291 | +12(+4.4%) |
航空・宇宙・防衛は売上収益が+21.0%と伸びた一方、営業利益は+4.4%にとどまりました。為替の追い風(正味+29億円。PW1100G-JM追加検査プログラムの為替影響▲45億円を含む)とアフターマーケットの堅調な推移に対し、研究費・人件費等の先行投資(▲29億円)が利益を押し下げています。受注高の減少は前年同期にエネルギー分野の大型案件があった反動です。
会社はこの第1四半期の航空・宇宙・防衛の実績と不動産売却の進捗を踏まえ、同日に通期予想を営業利益2,400億円→2,500億円(航空・宇宙・防衛+70億円は為替、不動産売却益+30億円)、親会社所有者帰属当期利益1,650億円→1,720億円へ上方修正しました(出典:IHI 2027年3月期第1四半期 決算概要)。
EPS・配当金の推移
EPS・1株配当金の推移
EPSが急伸する一方で配当性向は2025年3月期16.1%、2026年3月期13.2%と低水準にとどまっています。これはIHIが2026年5月に発表した3フェーズの中長期ロードマップに基づく意図的な資本配分です。現在のフェーズ1(2026〜2028年度)では、航空エンジン・防衛・クリーンエネルギーなど成長領域への先行投資と自己資本の充実を優先し、配当は「安定配当を基本方針として1株当たり配当を持続的に成長させる」方針です。営業キャッシュフローが本格拡大するフェーズ2(2029年度〜)以降に株主還元の更なる拡大を目指すとしています(出典:IHI 2025年度決算説明会資料)。
投資家が注目すべきポイント
強み① 航空エンジン・アフターマーケットの構造的成長
IHIの最大の強みは、航空エンジンの整備・スペアパーツ事業が世界の航空旅客数の増加に連動する構造的な成長モデルである点です。世界の航空旅客数はコロナ前の水準を回復し、さらに拡大が見込まれています。既存エンジンの稼働率が上がるほどスペアパーツ需要が増え、高利益率のアフターマーケット収益が積み上がる「剃刀の刃」モデルが効いています。
2026年3月期の航空・宇宙・防衛セグメントは▲8.4%の減益でしたが、アフターマーケットの販売増(+365億円)自体は続いており、整備費用の反動増と先行投資が利益を圧迫した内容です。2027年3月期第1四半期(3ヶ月)もアフターマーケットは堅調で、会社は通期のセグメント営業利益1,370億円と過去最高の更新を見込んでいます。
強み② 驚異的なV字回復力
2024年3月期の営業損失701億円(PW1100G-JM追加検査プログラム約1,600億円と訴訟和解約150億円の特別要因を除けば1,042億円の黒字)から、わずか2年で2026年3月期に営業利益1,655億円への回復を実現しました。航空エンジン事業の基盤となるRRSPパートナーとしての技術力とインストールベースの大きさが、短期間での業績回復を可能にした背景です(出典:IHI 統合報告書2025)。
強み③ 防衛事業の安定成長
航空自衛隊向けのエンジン整備は安定的な受注が見込めるセグメントです。加えて、日英伊による次期戦闘機の国際共同開発プログラム(GCAP)にはすでに参画しており、量産段階に入れば中長期的に防衛事業の売上規模が拡大します。固体ロケットモーターの宇宙事業も成長分野です(出典:IHI 統合報告書2025)。
リスク① 航空エンジン一本足の依存リスク
営業利益の約7割を航空・宇宙・防衛セグメントに依存しているため、航空需要の急激な落ち込みが業績に壊滅的な影響を与えます。コロナ禍での航空需要急減や、2024年3月期のPW1100G問題がその実例です。この構造的な集中リスクは投資判断の重要なポイントです。
リスク② PW1100G問題の再発リスク
PW1100Gエンジンの品質問題は収束に向かっていますが、RRSPパートナーとして参画する以上、エンジン全体の品質問題がIHIの業績を直撃する構造は変わりません。新たなエンジンプログラムでの品質問題発生リスクは引き続き存在します。
リスク③ 不動産売却益の一時的押し上げ
2027年3月期の営業利益2,500億円には不動産売却益930億円が含まれています。会社が開示する「不動産売却除く営業利益」は1,570億円で、同じ基準の前期実績1,431億円に対して+9.7%の増益にとどまり、見かけの+51%成長ほど事業そのものが伸びているわけではありません。翌期以降の利益水準を見る際には、この点を考慮する必要があります(出典:IHI 2027年3月期第1四半期 決算概要)。
リスク④ IHIエアロスペースのJAXA競争参加資格停止処分
2026年6月2日、連結子会社のIHIエアロスペースがJAXAから5か月間の競争参加資格停止処分を受けました。JAXAとの機材装置の保全業務に関する契約等において、事実と異なる報告に基づく費用請求が確認されたことが理由です。会社は「本件により当社グループ業績への影響がある場合には、速やかに業績見通しへ反映していきます」としており、固体ロケットモーターを含む宇宙事業を成長分野として評価する場合は、処分の影響と再発防止策の進捗を確認する必要があります(出典:IHI 2027年3月期 第1四半期決算短信)。
まとめ
IHIは、航空エンジンの整備・スペアパーツ事業を軸に、営業利益の約7割を航空・宇宙・防衛セグメントで稼ぐ利益構造が明確な企業です。PW1100G問題からの驚異的なV字回復は、航空エンジン事業の基盤の強さを証明しました。ただし2026年3月期の同セグメントは整備費用の反動増と先行投資で▲8.4%の減益であり、2027年3月期の1,370億円という会社計画の達成が焦点です。
2027年3月期は営業利益2,500億円(+51%)を見込みますが、930億円の不動産売却益を含みます。これを除いた「不動産売却除く営業利益」は1,570億円で、同じ基準の前期実績1,431億円に対し+9.7%の増益と、見かけの+51%ほどの伸びではありません。PER18.7倍(2026年9月17日終値2,842.5円÷2026年3月期実績EPS151.88円)は三菱重工(39.3倍)を大きく下回り川崎重工(18.7倍)と同水準ですが、航空エンジン一本足の依存リスクを割り引く必要があります。
航空エンジンのアフターマーケット(整備・スペアパーツ)という構造的な成長ビジネスに加え、防衛費拡大の恩恵を受ける立場にあるIHIは、リスクを理解した上で中長期で保有する価値のある銘柄と言えます。ただし、不動産売却益を除いた翌期以降の利益水準と、航空エンジン需要の持続性を注視することが重要です。
IHI
IHIは原動機・カーボンソリューション・原子力などの資源・エネルギー・環境事業、橋梁・交通システム・シールドシステムなどの社会基盤事業、車両過給機・パーキング・回転機械などの産業システム事業、航空エンジン・ロケット・防衛機器の航空・宇宙・防…










